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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
1章 セヴンスヘヴンズ
20/77

13

「…………」

 境世界に戻り、目を開ける。


 私が二人の胸から手を離すと、ナナとソラはゆっくりと上体を起こした。さっきより少し元気そうだ。

 ナナもソラも変身が解けて、上半身裸にスカート姿に戻っている。


「もう、大丈夫。妖玉の自爆は止めたよ」


 そう伝えるやいなや、ソラが思い切り抱き付いてきた。

 ――とても柔らかい。私より結構……いや、かなり……大きい。


「ありがとう、本当に、ありがとう……!」

 いい加減泣き疲れないのか、と心配になるくらい、ソラはわんわんと泣きじゃくる。


 ナナも涙目だったけど……ソラがあまりに泣くものだから、涙が引っ込んじゃったみたいだ。


 私とナナは目を合わせて、笑い合う。

 そしてソラをぎゅっ、と強く強く、抱きしめた。

 ……実際は、そんなに力が入れられなかったけれど。


「それと、聞いて! 二人の体から妖玉を取り出す方法も分かったの」

「ホントか!?」

「うん。そんなに難しくないから、今からでも……」


 と言いかけて、気付く。


 ――二人はついさっき、ホムラに裏切られて傷心のはず。

 そんなホムラとそっくりな二匹を見て、いやなことを思い出してしまわないだろうか……?


「ならさっさと取り出したいな。……正直、あんなもんがまだ入ってるの、気分悪いし」


 まあ、それもそうよね……。


「バカ! トアちゃん、こんなにボロボロなのよ! 私たちのことなんか後回しで良いでしょ!」


 ソラが私の頭を胸に抱える。

 私を庇うように、キッ、とナナを睨み上げた。

 ――暖かくて、気持ちいい。


「ご、ごめん……そうだな。悪い、トア」

「……私は平気よ。ピュアパラ状態なら、自然回復するから」

「そうなの……?」

「うん。だから、二人の妖玉出しちゃおう。

 ……でもその前に、二人の恰好なんとかしない?」


(いやまあ、私は役得なんだけど……)

 いつまでも裸のままじゃ可哀想だ。


「そうだな。制服、探してくるわ。焼けてなきゃ良いけど」

「ナナの体調は平気?」

「ああ、多少歩くくらいなら問題ない。この中じゃ一番体力戻ってると思う」


「なんで……、二人ともそんな、平然としてるのよぅ……」

 ぐすっ、とソラがさらに強く私を抱きしめながら抗議した。


 そんな風に駄々をこねるソラが、なんだかとても新鮮で、可愛らしくて。

 ソラの背中に腕を回して、抱き返した。



   †



 すぐにナナが戻ってくる。多少焦げていたものの、セーラー服は二着とも原形を留めていた。


 ナナがソラを私から引き離して、セーラー服を渡す。そのまま二人が服を着る。


 ソラから離された私は、支えを失って地面に座り込み両手を付いた。


 ――さっきまで魂状態だったから、余計に体が重く感じる。

 今すぐベッドに跳び込んで、泥のように眠ってしまいたい……

 ……今の状態だと、痛み止め飲まないと寝られなさそうだけど。


(……申し訳ございません。私も損傷多く、回復速度が追いついておらず……)

(先にあなたを回復させましょう)

(いえ、その間、主様が回復できなくなります。私の方が遥かに軽傷ですから、今は主様を優先させてください)

(……本当? 嘘は無しよ)

(はい。誓って本当です)

(そう。分かった。じゃあ、お言葉に甘えて)

(無論でございます)


「……大丈夫、トアちゃん?」

「ええ。ソラのおっぱいに癒やしてもらったし」

「……もう、なに言ってるのよ……」


 服を着て冷静さを取り戻したのか、頬を染めて体を隠すソラ。


「ふふ、ソラ、可愛い」

「か、からかわないで! いいから、妖玉取り出す方法教えて!」

「私らのことなんかどうでも良いんじゃなかったのか?」

「大丈夫って言ってるんだから、大丈夫でしょ!」


 いつものソラが少し戻ってきたみたい。

 良かった……本当に。


「……ごめんごめん。それで、えっと……」

 アバター顕現のやり方を教えようとして……そういえば私も良く分かってないことに気付いた。


 最初はスォーの方から出てきたし、以降は「顕現して」って心内会話してたし。

 二人はまだあの二匹を認識してないだろうから、二人の方から呼び出すことも出来なさそうだ。


 ――支配者の私が呼びかけてみたら、出てくるかな?

「……1号、2号。アバター顕現」


 二人の胸の中心に向けてそう声を掛けてみた。


 すると、二人の制服の下が光り出し。

 次の瞬間、さっき見たネコミミネコシッポの童女が二人、現れた。


「見参にゃ!」

「トア様お呼びですかにゃ!」


 二人は私を見、次にナナとソラに目を向ける。


「にゃ? 誰にゃお前ら?」

「いや、近くに居るってことは所有者なんじゃにゃいか?」

「ああ、お前らがそうにゃのか。てか見た目そっくりにゃ」


(……二人は、大丈夫かな……)


 ホムラとそっくりなアバターを、果たして受け入れられるか……。


 ソラは一歩下がって、両手で口を覆う。

(ダメそうなら、さっさと妖玉に……)


「かっわいい……!」


 目をキラキラさせて、そう呟いていた。


「……そこ?」

 ナナが至極まっとうな疑問を口にする。


 ――まあ、二人が受け入れられるなら、それはそれでいいや。


「これは二人の妖玉のアバター。タマハガネもそうだけど、こうして人間のような姿で顕現できるの。

 見た目がホムラなのは、ホムラがそう作ったからでしょう。

 名前も適当だから。二人が決めてあげて」


「……そうか。あの時走ってきた子供は、トアのタマハガネだったのか」

 私が変身した時のことを言ってるのだろう。

「うん、そういうこと」


「トアちゃん、この子達、だっこしてもいい?」

 私とナナのやりとりを聞いてるのか聞いてないのか。ソラが興奮した様子で私に尋ねてくる。


「いいけど……回復しきってないんだから、あんまりはしゃがないでね」

「うん♪」


 膝立ちになって二人を抱きしめるソラ。


「しょうがないにゃ。この見た目に魅了されるのも無理ないにゃ」

「トア様が言うなら抱かせてやるにゃ。こーえーに思うにゃ」

「あはは、生意気ー♪ 体温高ーい♪」


 ……もうなんでも可愛いモードみたいだった。


「……ナナは、平気?」

「え?」

「ホムラのことなんか、しばらく思い出したくもなかっただろうから」


 一瞬、沈黙。

 私と合わせていた目を逸らして、ソラたちに向けた。

 

「……驚きはしたけど。ソラが笑ってるなら、それでいい」

「かっこいい」

「そんなんじゃないよ……」

「まあ、あの二匹は見た目が似てるだけで、中身は別物だから。心配しないで」


 唯一、前世の私に関する記憶は共有してるみたいだけど……それ以外の記憶を共有してる様子はない。

 ホムラの魂に私の存在が刻み込まれたから、その妖力から作られたあの二匹にも記憶が移った……といったところだろう。


「……んで、あれがそのまま妖玉に戻る、ってこと?」

 ナナが話を戻す。

「そういうこと。二人が言えば戻ると思う。多分」

「ふーん……」

「妖玉状態の時は、身に付けてれば声を出さなくてもあの二匹と会話できると思うよ。私がそうだから」

「妖玉状態……に、ソラがさせてくれればいいけどな」

「あはは、確かに」


 ナナと私は、小さく声を出して笑い合った。


 それからしばらく、私とナナは幸せそうなソラと二匹を眺めていた。



   †



 私がそろそろ自力で立てそうなくらい回復した頃。


「春日野さ……ブレイド!」

 そんな声が土手の上から聞こえた。


 声のした方を見ると、ピュアパラの集団が居た。中にはカリンさんの姿も見える。

 プルや離脱した子から連絡を受けて来てくれたんだろう。


 カリンさんの横にはペロも浮かんでいた。

 こちらを見て、その眉間を引き締める。


「あの二人ペロ! ブレイドを攫った犯人ペロ! 髪とかは違うけど、顔は一緒ペロ」

「……外見の特徴もスカーレットが言ってた通りね」

 先頭に立つピュアパラが二人を睨む。


 他のピュアパラも構えたり、武器を取り出す。


 色めき立つ彼女達に、二匹もシッポを立てて威嚇し返した。


「皆、待って! 戦いは終わったの! 二人はもう敵じゃない!」

 私は大きな声で伝える。


「……そうなのか?」

 先頭に立つ、リーダー格の少女――確かスノウ――が意外そうに私たちを見渡す。


「ええ、経緯を話すと長いんだけど……」


「スノウ、ブレイドは脅迫かなにかされてるかもしれません」

 また別の子が私を遮って言う。

「スカーレットの足首を切り落としてでも、情報を聞き出そうとする奴らです。油断を誘う罠かも……」


「ええ、分かってる。……ブレイドの友人を人質に取るような連中だしね」


「いや、違うの。それは……」

 ……言おうとして、悟る。


 これが、戦場だ。

 敵の思惑が分からない以上、言葉で分かり合えることなど無い。


 ピュアパラたちにとっては、200体のガーゴイルの溢れを引き起こし、七人のタマハガネを破壊し、さらに大規模な溢れを企図した大罪人。


 心変わりしたと言って、はいそうですか、となるわけない。

 私一人が言ったって、今みたいに脅されてるか洗脳されてるかも、という可能性が残ってしまう。


「なあ、ピュアパラさんたち」

 そこでナナが土手の上に向かって言った。

「私らは抵抗しない。拘束でもなんでもしてくれて構わないよ」


「右に同じです。私たちはもう、争う意思はありません」

 ソラもナナに続いて言う。


 その言葉を受けて、スノウを中心にピュアパラたちが小声で会議する。


「……分かった。近くのお店からロープかなにかを持ってくる。それまでそこを動かず、ブレイドをこちらに引き渡しなさい」

 スノウがそう高らかに指示を出した。


「だってさ。歩けるか? トア」

「……試してみる」


 立ち上がって歩き出す。

 思ってた以上に歩けた。まだふらふらするけど。


 土手まで歩くと、カリンさんが斜面を滑って降りてきた。

 両手を開いて、出迎えてくれる。


「……カリンさん」

「八人がかりでダメだったのに、一人で無力化しちゃうなんて……やっぱり凄いね。なにはともあれ、お疲れ様」


 カリンさんに抱きかかえられた。

 そのまま支えられながら、土手を昇る。


「ブレイド。ありがとう。君のお陰で助かったわ」

 スノウが労ってくれた。

「いえ、どういたしまして……」


 ナナとソラを見下ろす。

 二人とも、どこか諦観したように、こちらを見上げていた。


「……なんにゃ? なんで二人はあっちにいかないにゃ?」

「……あっちは、良い子の側で、私たちは悪いことした側だからよ」

 ソラに抱えられてる二匹は、私と二人をキョロキョロと見比べて、首を捻っていた。


 そんな二匹を、ソラがぎゅっ、と抱きしめる。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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