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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
1章 セヴンスヘヴンズ
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11

 次から次へと出てくる邪魔な涙を、雑に拭う。


 ――考えろ、二人を助けるんだ……!

(……ホムラは、妖玉を処分、と言っていた。妖玉が、タネやタマハガネを参考にした物質なら……)


 破壊する方法はただ一つ。大量の魔力か妖力を流し込んで飽和させること。


(ということは、二人の妖力を、妖玉が吸ってる?)

 そうして自爆しようとしている、と考えるのが自然だろう。


 二人の体に埋め込まれた、大量の妖力を蓄えた物質……それが自爆した結果なんて、もはや考えたくもない。


 とにかく、妖玉をなんとかしなきゃいけない。

 が、その間にも、刻一刻と自爆の時が近づいてくる。


(まず自爆を防ぐのを優先すべきかと存じます。妖玉を止めるための時間を稼ぎましょう)

(……そうね。まず、二人の妖力を妖玉以外に移す)


 飽和値を超える前に妖力が枯渇してしまえば、自爆できなくなるハズ。


(……妖玉以外、と申しますと?)

(私)


 魔力や妖力を別の者に移し替えるのは、妖魔や妖怪も緊急措置として行うことがある。

 妖魔の教育機関で定期訓練が行われる程度には、一般知識だ。


 それは、体液を交換すること。

 ナナとソラが変身した時と、原理は同じ。


 が、妖魔達は傷口という部位は用いない。上手く血を交換するのが難しいし、わざわざ無用な傷を付ける意味もない。


 妖魔や妖怪にとって、最も一般的な、体液を交換する部位……


 すなわち、口だ。


(お待ちください主様、妖力は人間の体にとって劇毒に等しいです)

(分かってるけど、他に移せる先もない)

(ですが……)


 スォーを説得する時間は無い。

 まずはナナより重体そうなソラに近づいて、しゃがみ込んだ。


「ソラ」

 

 息も絶え絶えに胸を押さえるソラ。

 その顎に右手の親指を添えて、左頬を四指で包むようにして少し上を向かせた。


「……?」

「文句は後で聞くから」


 そのまま、ソラの唇に口を付ける。


「!?!?!?!?」

「と、トア?」


 ソラはパタパタと手を動かして、ナナは目を丸くして、それぞれ驚いていた。


 ソラの妖力を吸い取って、それをそのまま私の体に注ぎ込むイメージで……

(……よし、いける!)


 少しずつ、ソラの妖力が口腔を通じて私の中へ移動してくる。


 ――そして移ってきた妖力は、スォーの言うとおり、私の体に害を与えはじめた。

 流れ込んでくるたび全身がズキズキと痛みだし、脇腹の傷が広がる。血がドクドクと勢い良く飛び出してきた。


(……主様)

(止めろ、って言うなら聞かないよ)

(……はい、存じております。ですので、私の方で妖力を魔力に変換させてください。その後、刀身に移して放出させます)

(そんなことしたら、あなたの負担凄いんじゃない?)

(このまま主様の体に留める方が危険です。どうか……)

(……分かった。お願い)

(御意に)


 一瞬口を離して、横に置いた薙刀を左手で持つ。


「はあ、はあ、……と、トアちゃん、今の……」

「……ああ、ごめん。ちゃんと、息継ぎ、入れるようにするね」

「え? いや、そうじゃなくて……んんっ!?」


 再び唇を奪う。


 ――段々、妖力を吸い取る速度が上がってきた。慣れてきたのだ。

 その影響で小さな傷も大きく裂け始め、視界も明転し、段々力も入らなくなってくる。


 喉奥から込み上げるものがあって、一度口を離した。

 激しい咳と共に、血が口から零れ落ちる。


「はあ、はあ……」

「……トア、ちゃん、なに、してるの?」

「だい、じょぶよ。あと少しで、終わる、から……」


 三度、口づけ。

 ――しようとして、ソラが弱々しく両手で抵抗してきた。


「トアちゃん、助けようとしてくれてるのよね?

 なら私はもう良いから。だから……」


「あとでナナにもするよ。先に、ソラが落ち着くまで……」

「ち、違くて。トアちゃん、苦しそうだから、もう……」

「めちゃくちゃ、しんどいよ。でも、二人を、助けるためだもの」

「トアちゃん、もういい。もう、私たちなんかのために無理しないで……」


「無理なんかいくらだってしてやる!」

 思わず、叫んでしまった。

 あまりにも、頭にきてしまって。


「二人は、私が初めての友達、って言ってたけど。

 私にとっても、中学で出来た初めての友達なのよ!

 イズミとホウセンの次に仲良しな、大親友よ!

 二人とまた遊べるようになるなら、なんだってするに決まってる!」


 勝手に涙が溢れてくる。

 ……この二人には、帰ったら罰として、お昼でも奢ってもらわなきゃ割に合わない。


「……っ、トア、ちゃん……」

 またソラが泣き始める。


 もう今日何度目か分からない、ソラの泣き顔。

 リディオの泣き虫と良い勝負だ。二人は気が合うかもしれない。



 それから何度も息継ぎを挟んで、ソラから妖力を吸い出しては、スォーに放出してもらう、を繰り返した。



   †



 何度か繰り返して、ソラの全身が脱力し始めた。


 魔力や妖力は、体力と似ている。枯渇すると、酷い倦怠感と疲労感に襲われる。


 ソラが自力で座れなくなるくらいになったところで、一度彼女を離した。

 かなり呼吸も安定して見える。


「……どう? 痛みは」

「……今は、全然無い」

「良かった。痛みが増してきたら、すぐ言ってね。絶対よ」


 そう言い残して、ナナを見る。

 ナナの方も痛みが限界近い様子で、呼吸する音も酷く濁っている。


「ナナ、一応謝っとく。ごめんね!」

「ちょ、まっ……」


 ナナに何も言わせず、キスをする。


 一吸いした、瞬間――

 ドクンッ、と心臓が締め付けられるような激痛。


 一瞬意識を失っていたようで、目が覚めたらナナにのしかかる体勢になっていた。


「トア、もうやめとけ、私はいいか……」


 何度も同じことを答えるのも面倒になって、無理矢理唇を奪った。


 この体勢、楽だしなかなか都合が良い。

 地面とナナの頭を挟むようにして、小さな唇をついばんだ。


 吐血する時だけ顔を逸らして、一心不乱にナナとのキスを繰り返す。


(……なんかもう、気持ちいいんだか、苦しいんだか、痛いんだか、わけ分かんなくなってきた……)

(……主様……)

(スォー、分かるようなら、教えてね。充分吸い取れたかどうか……)

(……は、はい……御意に、ございます……)


 スォーも苦しいのか……それとも、泣いているのか。


(後もう少しのハズよ。一緒に頑張りましょう)

(はい。最後までお手伝い、させていただきます)


 一瞬気絶しては、また起きてキスをして。

 止めようとするナナを無視して、唾液を混ぜ合わせ。

 地面に血を吐いては、余りを飲み込む。


 ナナが一段落したら、もう一度ソラを。

 そちらも落ち着いたら、またナナへ。


 スォーに体を支えてもらいたいけれど、変身状態じゃ無いと薙刀が持てない。


 重く、鉛のようになった体を引きずって。

 ひたすら、二人の痛みが無くなるまで交互に繰り返していった。



   †



(……主様。お二人とも、かなり安定してきました。しばらくは不要かと。これ以上吸ってしまうと、逆にお二人が衰弱しすぎてしまいます)


 スォーの声で、ナナから顔を離した。


 二人とも妖力を吸われすぎてぐったりと脱力している。どちらも穏やかな表情で、痛みはほとんどなさそうだ。

 これならしばらく、妖玉が自爆する恐れも無いだろう。


「……よし」


 全身の痛みを無視して、上体を起こす。


(……次、でございますね。妖玉の無力化……)

(そうね)


 体が傾ぐ。

 地面に顔を突っ込む直前、なんとか意識を取り戻した。


(……ごめん、寝ちゃったら、起こして)

(っ、……はい、お任せ、ください……っ)


 上を見て、大きく呼吸をする。

 少しだけ、気が紛れた気がした。気だけに。


「……さて」

 ふたたび二人を見下ろす。


 ナナとソラが、胡乱な目でこちらを見ている。


「……妖玉って、二人の傷の近くにあるのよね」

 二人に確認する。ホムラが言ってたけど、一応。

「ああ、心臓に近い……ってか心臓の中かも」


 ならばやはり、傷口から血液を媒介にして接触するのが近そうだ。


 魂魔法『メンシースの渡り舟』。

 他者に自分の魂を一時的に移す魔法である。


 主体が魂だから、人間の肉体でも発動自体はできる。

 基本的には魂干渉用の魔法と併用して使うが、体液を媒介にすれば『メンシースの渡り舟』単体で効果を発揮できる。


(私も補佐できると存じます。肉体と魂の交通は、我々の基本性能の一つですから)

(分かった、お願い)

(御意に)


 右親指の腹を薙刀の刃で小さく切った。次に、左手の親指も同様に小さい傷を作る。

 そして、寝そべる二人の間に座った。


「二人とも、あと少しよ」


「トア、ちゃん……」

 弱々しい声でソラが私を呼ぶ。

「うん、どした?」

「……私たち、思って、良いのかな……」

 ソラはまた、相変わらずの涙をこぼしながら言う。


「助かりたい、って……。またトアちゃんと、学校、行きたい、って……」


「ソラ……」

 ナナの目からも、一筋の涙が落ちた。


「なに言ってるの、当たり前、でしょ」

 私は努めて、笑って見せる。

「イズミとホウセンと仲良くなって……、五人でどこかに遊び行くまで、死なせてなんかあげないんだから……!」


「うん、うんっ……!」


 声にならない声で言いながら、何度も頷くソラだった。

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