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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
1章 セヴンスヘヴンズ
16/77

9

 ゆっくり10秒は滞空して、ナナの体が地面に落ちる。

 衝撃で服はボロボロ。胸の傷が開いて、血を噴き出しながら。


「ナナァ!」

 ソラの絶叫。


 私には目もくれず、ナナに向かって走り出す。

 戦闘中に相手から目を逸らしてナナを心配する姿が、年相応の少女らしくて。


 ――とてもじゃないけど、その背中を攻撃する気になれない。


「ナナ、ナナ!」

 ソラがナナの体に触れる。揺さぶって良いものか、悩んでいる様子。


「……バカ、私より、トアを……」

 息も絶え絶えにナナが言う。


「喋らないで! ジッとしてれば、妖玉の力で回復するはずだから……」

「分かってんなら、ほっとけ……」

「でも、あんな攻撃受けて、あんなに上に吹き飛んで……」

「大丈夫。大丈夫、だから……」


 そこで痛みに呻くナナ。

 そんなナナに、ソラはますます冷静さを失っていく。


「ナナ、しんじゃやだ、一人にしないで……」


「しっ、かりしろ!」

 ナナが弱々しくソラの肩を掴む。

「平気、だから! 人間支配して、トアとシチビの四人で、遊ぶんだろ! やるべきことを思い出せ!」


 その叱咤で、ソラの目に光が戻っていく。


「……お前なら、勝てる。勝てなくても、シチビが来るまで持ちこたえられる。ソラは私より、ずっとずっと、凄いんだから……」


 ナナが車輪をソラに渡す。


「頼んだぜ。私の……私たちの夢。叶えて、くれよ……」


 そこでまた痛みに顔をしかめて、ソラから手が離れる。

 ぜー、ぜー、と苦しそうに呼吸をしていた。


「……そう、だね。ごめん。ちょっと取り乱してた」

 ソラがそう言うと、ナナはただ微笑みを返す。もう声を出せないようだ。

「いつも先陣切ってくれて……私を引っ張ってくれて、ありがとう。後は任せて。

 ……一緒に、幸せになろうね」


(……スォー。準備して)

(えっ?)

「早く!」


 ……冷や汗が出始める。

 こんな経験、前世含めても、数えるくらいだ。


 右手に斧、左手に車輪、それぞれ長柄武器を持って、ゆっくりとソラが立ち上がった。


「……トアちゃん、おイタが過ぎるよ」

 ゆっくりとソラが振り返る。


 立ち上る妖気は、禍々しくて……けれどどこか、美しい。


 私の体を――これでも百年以上、戦争に身を置いていた魂すら――射竦める、強大で、無垢で、無邪気で、純粋なその感情。


 それはきっと憎悪であり、殺意であり、愛であり友情だった。



「その悪い手足全部斬り落として、良い子にしてあげるからね」



 ソラの体から漏れ出る妖力で、周囲の炎がさらに勢いを増す。

 炎は周囲の草木を燃やし尽くしてもなお燃え盛り、川縁と土手は炎の海と化した。

 ――それは奇しくも、話に聞くホムラの誕生時と同じ光景だっただろうか。


 私より身長一センチだけ高いソラ。

 不相応に巨大な武器を両手に持つ姿は、けれど、この地獄のような光景にあって神々しい。


 回る車輪の刃先に炎が宿り、斧は熱されて赤白(せきはく)に変色する。



(あや)(きよ)めよ。――血啜りの輪斧(りんふ)――」

 車輪が回り始める。斧が暗い妖力を纏い始める。



「砕け。――再来の撃滅(セカンド・ブレット)――」

 二つ目の核羽が砕ける。刀身を黒い光が覆う。



 全く同時に、私とソラは走り出した。



   †



 両上段に振りかぶるソラ。完全に防御を捨てた、威力特化の構え。

 私は正眼に構え、攻防どちらにも対処できるように備える。


 接敵、ソラが輪斧両方を振り下ろしてきた。


 右に飛ぶようにして回避。


 それを追うように、斧の軌道がほぼ直角に曲がってきた。


(読まれたっ!?)


 薙刀で受け止める。

 瞬間、斧に触れた黒光の一部が、焼けて溶けて蒸発した。


 もう一歩地面を蹴ってバックステップ。ソラから距離を取る。


「……ナナと戦ってた時から、逃げてばっかり。

 さっさと負けてよ。これ以上私たちの邪魔しないで。イライラするな」

「イライラしてくれるなら、むしろもっと逃げ回ろうかな」


 ソラの眉がピクッと釣り上がる。


「……保護してあげようようとしたのに、無碍にしたのはトアちゃんだから」

「別に頼んだわけじゃないもん」

「そう。じゃあ、まず逃げ足斬り落として、泣いて懇願させてあげるね」


 ソラの怒りに呼応するように、周囲の火事はさらに勢いを増す。

 火柱は最早私たちの身長を超えるくらい、激しくなってきた。


 ソラに言われたからじゃないけど、今度はこちらから仕掛ける。

 片手でも長柄を自由に扱えるのなら、後手に回ると防戦せざるを得ない。


 まるで発泡スチロールの棒を振るうような気楽さで、空気を斬り裂く車輪に迎え撃たれる。

 右足を軸に、横回転で回避。掠っただけでお腹の服が簡単に裂けて、脇腹から血が噴き出した。


 回転の勢いそのまま、左足を一歩踏み込んで、胴撃ち。

 下から振り上げられた斧に食い止められる。


(固!? 一応必殺技載せてるんですけど!?)


「くぅっ……」

 とはいえ流石に苦しそうなソラ。

 

 二回目の必殺技を放ったため、刀身の黒光が少しずつ消えていく。

 さっき受け止めた時から推測するに、黒光が消えきったら刀身ごと焼き溶かされる……


(だったら……!)


 体勢を少し引く。


 再び右足を軸に体を捻って。

 同時に左膝を上げ。

 回し蹴りをソラの右手の甲にぶつけた。


「なっ!?」


 斧がソラの手から離れる。

 刀身を斧に引っかけて、蹴りの勢いを利用して放り捨てた。


 その一瞬で刀身の先端、四分の一ほどが溶けてひしゃげてしまう。

 

「このっ!」

 ソラはすぐに切り替えて、両手で車輪を握る。


 私は脚を下ろして、ソラに背中を向ける形で薙刀を構えた。


(スォー平気!?)

(は、はい! 戦闘に支障ありません!)

(行くよ!)

(はい!)


「これで、終わりよ!」

 ソラの車輪が、これまでで一番速く回転し始めた。


 車輪は周囲の炎と妖力を巻き込んで、見る見る燃え盛る。

 元の大きさの優に三倍はその体積を増して、車輪が私の視界全てを覆い尽くした。



「「(さんざめ)け。――轟参の滅却(サード・ブレット)――!!!」」



 最後の核羽が砕け散る。

 ぐるりと体を半回転。炎の車輪に真っ向から斬りかかった。


 接触。

 甲高い金属音。

 爆炎と轟雷。

 どちらのものか分からない、裂帛の咆哮。


 なんとか押し込んで押し込んで……

 ほんの少しだけ、車輪を動かすことに成功。


 その瞬間、私は両手を薙刀から離す。


 ――撃ち合う時から決めていた、この作戦。


 いきなり抵抗がなくなって、ソラの体が押し合ってた体勢のままつんのめる。


 車輪の纏う炎を掻い潜るように一歩を踏み出す。

 拳を握り込もうとして……けれど、ソラをグーで殴るのに気が引けて。



 私は掌底を、そのみぞおちに打ち込んだ。



 肩を入れて、肘も伸びた、完璧な一撃。


「がっ!?」


 ソラはその場から動かず。……掌底の衝撃を全く逃がせず。

 ゆっくりと、(くずお)れた。

 ガラン、と大きな音を立てて車輪が落ちる。




 ――蹴りがあっさり決まった時から、思っていた。

 この二人と私の一番の差は、戦闘の経験値。

 扱える魔力と妖力の量は、多分私の方が上。

 単純な武器の攻撃力だったら、二人の方が上。


 この勝敗は、体術が出来るか否か――つまり、前世の経験の有無の差が、そのまま出たと言えるだろう。



   †



「……(いた)、い……うぅ……」


 仰向けになって、ソラがみぞおちを押さえて小さく呻く。


 ソラが倒れてから周囲の炎は消えて、周囲はただの焦土となっていった。


「ソ、ラ……」


 ナナがなんとか起き上がろうとする。

 けれどその腕に力が入りきらず、また地面に突っ伏してしまう。


 ――あれだけの炎の中、ナナの周りだけは全く燃えていないのは、ソラが常に彼女のことを(おもんぱか)っていたからだろう。


「なんで……なんで、邪魔するのよ……」

 ソラの声に、涙が混じり始めた。

「トアちゃんなんて、大嫌い……。人間なんて、皆、大嫌いよ……。私たちのこと、いじめて……。なにがそんなに、楽しいの……」


 ソラはみぞおちから目に腕を持ち上げ、静かに泣き出した。

 ……その声と姿があまりに悲痛で、こっちの胸まで痛い。


「ソラを……、ソラを、泣かすな……! くそ、くそっ……」

 ナナが震える両腕で、それでも上体を持ち上げて私を睨む。


「ナナ……、ソラ……」

 何か声を掛けたくて。

 ……でも、何も思い浮かばなくて。

 

 と、そこで不意に、膝から力が抜けた。

 なんとか右手を付いて、左膝で膝立ちになって体を支える。


 今更になって脇腹の傷がズキズキと痛みを主張し始めた。


(主様、お体が……)


 ――そりゃ無理も無い。


 あれだけの妖力を浴びながら、あれだけの魔力を扱って。

 周囲はずっと燃えて酸素も少なかった。

 浅くない傷を負ったし、最後は炎の中に跳び込むような真似もして……


 つい六日前まで普通の13歳として生きてきた体は、この10分足らずの戦いが、酷い負担だったみたいだ。

 魂の方はまだ余力があるんだけど……そればっかりは言ってても仕方ない。


(変身を解きましょう。私がお支えいたしま……)


 スォーがそう言ってくれた、直後。

 突然背後に現れた、馬鹿馬鹿しいほど膨大な妖力に思わず振り返る。



   †



「……あらら? これはどういうこと? なんで、ピュアパラごときに負けてるにゃ?」


 雪のような髪と獣耳に、鮮血のような瞳。

 瞳孔は縦長で、僅かに金色を宿している。

 ナナソラと似た服で、フリルは無く色味もおとなしい。胸元は――若干だらしないものの――閉じてはいる。

 おしりに付いているのは一本の大きなシッポのように見えて、実は七本の細いシッポが束になっていた。


 正体は、猫の妖怪。

 普段は努めて普通の言葉遣いを心がけているが、イラついたり楽しかったり、感情が揺さぶられると、すぐ猫の語尾が出る……



 そこに現れたのは間違いなく、私の知ってる焔陸星(ホムラノロクジョウ)――ホムラ本人だった。



 ほとんど消えていた火事が、再びその勢いを増していく。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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