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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
1章 セヴンスヘヴンズ
13/77

6

「それからは、ギルドの職員とか他人が来る日を避けて、シチビさんを内緒で招き入れた。

 母親というより、友達に近かった気もするけど……最近は友達親子も増えてるっていうし。もしかしたら、そういう人達と似たような……」


 と言いかけて、ソラは口ごもる。

「……いや、シチビさんが一番ワガママだったことも良くあったし、それはちょっと違うかも……」


 いずれにしろ、二人にとってその妖魔――正確には妖怪――は『不幸の元凶』ではなく、『かけがえのない存在』になった、と……

『シチビさん』を語るソラの表情を見ていれば、それが良く伝わってくる。




「ダメだこれ、壊せそうにないわ」

 川縁に立つナナが、タマハガネを手にソラへ振り返る。


 先ほどから妖力を注ぎ込んで砕こうとしていたが、タマハガネを自爆させるのは簡単じゃないみたい。


「壊すことにこだわらなくてもいいんじゃない?」

「んー、まあ、それもそうか……」

「この川に流されていけば、すぐ結界の外だし」

「これは砕ける、って情報が得られれば良かったんだけどな」

「しょうがないわ。砕けない、ってことが分かっただけ良しとしましょう」

 

 ナナが振りかぶって、川に向かってタマハガネを投げ捨てる。

 ポチャン、と飛沫を立てて川面に消えた。

 

「ごめんねトアちゃん。流石にこれがあるままじゃ、トアちゃんの保護は許してくれないだろうから」


「……保護?」


「ああ。あともう少しで大規模な『溢れ』が起きる……てか、起こす」

 こちらに振り返って、ナナは無表情でそう答えた。


「……シチビさんと出会って、三ヶ月くらい経ったくらいの頃よ。

 妖魔――というかシチビさんが、人間に妖力を宿す技術を確立した。

 ピュアパラの変身技術をあの女から得て14年。

 これでついに、妖魔側も人間を戦力に変えることが出来るようになった。その力で、私たちは外から『溢れ』を起こすの」


 言って、ソラはそっと自分の胸の中心に触れる。


「シチビは、私たちにその一号と二号にならないか、って誘ってきたんだ。

 嫌なら強制しない、って。……本当は、妖魔のリーダーに『洗脳してでも実験体にしてこい』って言われてたみたいだけどな」


 ナナが言いながら、私の正面に戻ってきた。


「『これを埋めたら、人類の敵になる。未練があるなら、正直に断ってくれて良い』って。

 でも、私もナナも、迷いなんて無かった。

 元々、人間なんて、大っ嫌いだもの。

 少しでもシチビさんの力になれるなら、それでいい、って思った」


「『埋める』……?」

 なんだかすごく、嫌な単語だ。


「ああ。私とソラの胸には、丁度トアが持ってたタネと同じくらいの大きさの玉が埋まってる。シチビは『妖玉(ようぎょく)』って呼んでたな。

 ピュアパラがなんで弱くてザコなのかっていうと、外部に変身装置を用意してるからだ、って。だから、埋め込み式にしたんだと」


(胸に埋めれば、強くなる……?)

 妖玉の術式が分からない以上、断言は出来ないけど……あまり関係ないと思う。

 奪われて川に捨てられることが無いのは利点だろうけど。


「……でも、それを埋めて貰ってから、ふと思ったの。

 私たちは、『絆』とか『情』みたいなものに触れられなかったから、人間を嫌ってるだけなんじゃないか、って。


 私たちを産んだ女がクズだったから、そのトラウマでこうなってるだけなんじゃないか、って。

 だって、物語の中の悪役やモンスターも、そういうものに触れて改心したり人間を好きになったりするじゃない?」


「ソラがそう言うから、じゃあ検証してみるか? って提案したんだよ。丁度、中学入学時期だったからな。

 私たちが『これまで学校に来てなかった』って知ってる人間は一人も居ない。そこで人間関係を始めてみれば良い、って」


「最初は大変だったよ……。何十人も人間が居ること自体、衝撃的だったし。なんとか映画とかドラマの真似して、馴染もうとしたわ」

 

 そこで、二人の視線が同時に私に向く。


「そこで、トアに出会った。覚えてるか? 最初に声を掛けてくれたのが、トアだった。それからも仲良くしてくれたよな。

 こないだも宿題見せて貰ったし。マジで助けられた」


「ほとんど話し合いもせず、決めたの。トアちゃんだけは、私たちで保護しよう、って」


「……それはありがたいけど、人間を好きになるかの検証は?」

 

 二人とも似たような苦笑いをして、小さく首を横に振った。


「変わらなかった。トアちゃんが例外なだけ」

「それはおかしい。イズミやホウセンも、友達だったでしょ」

「あの二人は、トアが仲良くしてるから、仕方なく付き合ってるだけじゃん」


 ナナは冷徹に言い捨てる。


「トアちゃんが居ないところではよそよそしいし。あんまり目も合わせてくれない。もちろん嫌いってほどじゃないけど」

「一緒に居たい人か、死んでもいい人かで言えば、死んでもいい人達だよ」


 ――そうか。

 内心ではそんな風に思っていたのか。

 ここまでの話の中で、それが一番、悲しかった。


「バカ! 言い方考えなさい!

 トアちゃん、大丈夫。今頃二人は家に帰って、目が覚めた頃には『うたた寝しちゃった』って思ってる。私たちと勉強会のところからの記憶は消したけど、それ以外はなんともないから」


 ――記憶操作と肉体操作を同時に掛けた、ということか。


 簡単に言ってるけど、変身もせずにそんなこと出来るのなら、ソラは妖術の天才と言っていい。

 本物の妖怪だって、そんなことできる者は相当限られる。


「そうそう、誤解しないでくれ。私たちから二人を殺すつもりは無い。……まあ、侵略が本格的になったら、どうなるかは分からないけど」


 イズミとホウセンの安否を説く二人は、確かに私を大事に思ってくれているのだろう。

 ……ただ、それで私から二人への好感度が上がると思っているなら、決定的にズレている。


「あと一時間もすればシチビさんがここに来るから。一度話してみて。きっと、トアちゃんと気が合うと思う」

「ああ、確かに! そんで皆で一緒にウマブラしよう!」

「アクション以外もやろうよ!」

「わーってるって」


 これからの未来を想像して、ナナとソラは楽しそうに笑い合う。


 ――この子達の笑顔は、かけがえ無いこの世界の、宝だ。

 なんとしても、それを守りたい。

 その考えに変わりは無い。


 ただそれは……どうしようもない悪意の渦中になければ、の話。



「そんな未来は来ないよ」



 私の言葉に、二人の笑顔が消える。


 少しだけの、罪悪感。

 それより少し多めな、正義感。


「その妖怪は母性なんて欠片も持ち合わせてない。

 今すぐ手を引いた方が良い」


「……おい」

 ナナが私に近づいてくる。

「『その妖怪』ってのは、シチビのことか? いくらトアでも、シチビの悪口は許せない」


「……同意。言って良いことと、悪いことがある」


「その妖怪の真名は、『焔陸星(ホムラノロクジョウ)』。

 ……話を聞いて確信した。

 獣耳に七本の尾。他者に自分の妖力を注ぎ込んで、洗脳したがる狂学者。

 妖怪の名前は覚えづらかったけど、流石にあの問題児は覚えてる」


「……? なに言ってるの……?」


 焔陸星――前世はホムラと呼んでた――は、純粋な妖力の所有量ダントツの一位。

 この世に発生した時、その膨大な妖力の摩擦で起きた炎が一国を焼き尽くしたという。魔力は多すぎると雷を産むが、妖力は炎を産む。

 それを遠くから見た者が、陸に落ちた星が燃えていると勘違いしたのが名前の由来。


 私が妖怪を傘下に加えた時、まず最初に頭を悩ませたのがコイツだった。

 自分の欲望に忠実で、捕らえた人間も妖魔も見境無しに攫う困った妖怪で。口で言っても聞かないから、仕方なく痛みと恐怖心で言うこと聞かせてた。


 妖怪の中でも上澄み中の上澄みの一体である。


「……自主的に解放されるまで弄られ尽くして、人間社会に復帰できた二人の母親は、とんでもなく優秀よ。そうなる前は、さぞ心の強い御方だったんでしょうね」


 二人は戸惑い半分で私を見てくる。

 ――この境遇で頭おかしくなった、とでも思われてそうだ。


 まあ私の評価なんて別にどうでも良い。なんと思われても、言わなければならないことがある。

 未来に生きる、この子達のために。


「イズミはね、美少女好きなの。二人の前だと未だに緊張する、って半年経った今でも言ってる。もっと仲良くなりたいのにー、って。

 ホウセンは人見知りでね。基本的に誰に対しても素っ気ないから、半年そこらで気にしないで。あの子の好感度上げるには、根気強く年月を掛けるしか無いから」


 ナナもソラも、黙って私のことを見下ろしていた。


「孤独だったところに自分と同じ姿の疑似母に出会えて、嬉しかったんでしょう。

 初めて人前に出て緊張してたところに、私という友達が出来て安心しちゃったんでしょう。


 だから、その疑似母への疑念を捨ててしまった。『愛してくれてる』と信じた方が楽だから。

 だから、私以外の他の子を見ようともしなかった。次も上手く友達になってくれる確証が無いから。


 ……二人は悪くない。人を見る目なんて養える環境じゃなかったんだもの。

 だからこそ、あなたたちの人を見る目は、まごうことなく節穴よ。まずはそれを自覚しなさい」


 少しの間変わらない二人だったが、徐々にナナは拳を握る力を強め、ソラの眉間のシワが増えていく。


「……確かに、今の話聞いたら、イズミちゃんとホウセンちゃんには悪いことしたかもしれないけど……」

「……でも、だからって私たちの何が分かるんだよ。知った風な言い方しやがって……」


「そりゃ分からないよ。まだたったの半年だもの」


 そこで私は微笑んで見せる。

 敵じゃないよ、と言い聞かせるように。


「だから、これからもっと仲良く余地があるってことじゃない?

 あなたたちの、人間を好きになれるか検証、こんな中途半端なところで終わりになんてさせないから」


 二人とも何を言って良いか分からない。そんな視線。


 少しして、ソラが口を開こうとした……

 瞬間。


 キィィン、と間延びする甲高い音が、どこからともなく木霊し始めた。

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