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女魔王、転生先で魔法少女になる  作者: ツツミ キョウ
1章 セヴンスヘヴンズ
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4

 私がピュアパラになって、七日。

 和装少女の捜索が始まって、早五日。


 手がかりは一切掴めず、たまに自然発生する『(こぼ)れ』(溢れの小規模、少数版)を処理するだけの日々が続いていた。


 そんな中、ついに昨日、塔の結界の一部にほつれが発見されたらしい。

 今日はそのほつれから結界の解除、侵入を試みる手筈になっていた。


 ちなみに、今のところ『幹部クラスの妖魔』とやらが姿を見せたことは無い。こちらが大人数だから、警戒して姿を隠しているのだろうか……?

 塔の周辺と一言で言っても、実際はとんでもない広さだから、あるいはまだテリトリー外なのかもしれない。


 まあペロも『予想されている』としか言ってないし、出て来るとも限らないけど。 




 そんな放課後。


「皆ー! テスト対策やろうぜー!」

 ホームルームが終わるや否や、ナナがこちらにやってくる。


 来週は中間テストだ。たった今、先生から時間割が発表された。

 いつもテストの前は、五人で集まって勉強会するのだが……


「ごめん、今日はちょっと外せない用事があって……」

「えっ……?」


 見捨てられた子犬のようになるナナ。


「でも代わりに、対策用のノート作ってきたから」

 一昨日から皆……というかほぼナナ専用に、今回のテスト範囲をまとめて来たのである。


「十分くらいで中身解説するから、後は四人でお願い」

「そんなあ……。トアと一緒が良かったのにぃ……」


「ワガママ言わないの。むしろわざわざ作ってくれて感謝でしょ。ありがと、トアちゃん」

 ソラが私からノートを受け取って、パラパラとめくる。

「おお、すごいね、これ……」


 見せて見せてー、と言うイズミにソラがノートを渡す。


「まあイズミとホウセンとソラは要らないかなと思ったけど、一応」

「……いやいや! イズミは私とあんま変わらんでしょ!」

「んだこら! じゃあ今度のテストで決着付けようじゃんか!」

「そんなことは言ってない!」

「全力で逃げた……」


「ほらほら。仲良しはそのくらいにして。トアちゃんの時間無いんだから!」


 手を叩いてソラがまとめる。

 私はじゃれあう皆をずっと見ていたくて止められないから、助かる限りだ。



   †



 それから各教科の今回のポイントや、躓きそうなところを説明し始めて、丁度十分が経過した頃。


 教卓の上が光って、ペロが出てきた。

「迎えに来たペロー」


 私だけに見える姿と声。

 一瞬そちらを見てから、私はゆっくり立ち上がる。


「……って感じだから。私はそろそろ行くね。あと頑張って!」


「ありがとトア! いやこれホントすごい……」

 しみじみとノートを見て言うイズミ。

 イズミは確かにあんまり勉強できる方では無いけど、やる気はあるのでナナより大分救いがある。


 問題は勉強にやる気が全くと言って良いほど無いナナだが……



「あれ、なんでこの教室、結界が張ってあるペロ?」

「へぇ、精霊ってこんな見た目してるんだ」



 そんな二つの声で、私の思考が一瞬、止まる。



 見ると、ナナとソラは、明らかにペロを見上げていた。

「……ペ? この子達、ボクのこと……」


 精霊は、普通の人間には見えない。

 精霊自身の意思で姿を見せようとした相手と、ピュアパラ以外には……


「ん? なんの話?」

 イズミとホウセンが、ナナに不思議そうに聞き返す。


「……ごめんね」

 ソラが二人に向けて手をかざした。


 次の瞬間、二人は意識を失って、机に突っ伏す。


 ソラは立ち上がり、そんな二人の後ろに回ると、左右の手でそれぞれの頭を掴んだ。


「……何の真似?」

「動かないでくれトア。そっちの精霊も」

 そう命令してきたのは、ナナ。


「ピュアのタネ、だっけ? 変身するヤツ。こっちに渡して」

 ナナが右掌を上にして、私に差し出してきた。


 ――屈辱と共に、後悔する。

 全く二人を疑えなかった、平和ボケした自分に。


「まあ、そういうこと。こないだ見た時は驚いたよ。トア、ピュアパラだったんだね」

「この前の溢れは、あなたたちの……」

「話をしたいなら、その前にタネを渡して。渡さないなら、この二人は良くて廃人コースだ」


「…………」

 私は黙って、スカートのポケットからタマハガネを取り出した。

 そのままナナの掌の上に載せる。


「甘ちゃんだな。見捨てて変身しちゃえば勝てたかもなのに」

「二人を離して」

「まだダメ」


 ナナは立ち上がって、私の前に来る。

「両手を前に、手首を交差させるように……そうそう」


 言われたとおりに両手を前に出す。

 ナナが手首の部分に手をかざした。


 次の瞬間、黒いモヤのようなものが、私の手首を接着して固定させる。

 ――イズミとホウセンを昏睡させた時もだが、この二人、変身しなくても魔法が使えるらしい。


 いや、正確にはこれは……

「……妖術」

 文字通り、妖力を用いた術。

 ――けれど普通、妖力は人間には宿らないはずだ。


「へえ? ピュアパラでも知ってるんだ。てっきり魔法と妖術の区別なんて付いてないと思ってた」


 多分私以外は知らないと思うけど、わざわざ言ってあげる義理も無い。


 そのタイミングでソラが二人から手を離す。

 人質は解放されたが、妖力を扱う二人相手に今の私が(かな)うわけもない。


「んじゃ、行こっか」

 ナナが空間に手をかざすと、黒い渦が生まれる。

 ペロが作るゲートと同じ物だ。


「この精霊はどうする?」

 ソラが尋ねた。


「別にどうでも良いけど、まあ、情報広げるの遅らせるか」

「オーケー」

 ソラがペロに手をかざす。


「ペギュッ! ……」

 ペロが目を閉じて、ポトリと床に落ちた。


 ソラが次に私を見る。

「……昨日までは、罪悪感の方が勝るかも、って思ってたけど……トアちゃんにそんな目で睨まれるの、ちょっと興奮してきちゃうね」


「出たよ変態が。トア、コイツ普段は自分の方がマトモってツラしてるけど、本当は私の方がよっぽど普通だからな?」

「しょーがないじゃん。素なんか出してたら日常に溶け込めないんだから」

「それは分かってるけど、トアに誤解されたままも癪だから」

「ホント、ナナはトアちゃん好きだねえ」

「それはお互い様だろ」

「まあ、それはそうだけどさ」


 こんな時でも、どこか私の知ってる神恵姉妹のやりとり。

 それが悲しいのか虚しいのか……胸中に渦巻く感情の正体が、自分でも良く分からなくなってくる。



   †



 それからゲートを通って、境世界にやってきた。

 目の前の川を挟んで反対側、すぐ目の前に塔がある。いつも見るより遙かに大きくて近い。


 明らかに、結界の中だった。


 私は土手に寝かされて、両手を頭上で固定される。ご丁寧にシートを敷かれて。


「ふう……」


 私を固定し終えると、ナナとソラがほぼ同時に自分の髪を掴んだ。

 一気に引き剥がすと、普段の黒髪の下から銀髪が現れる。


 その天辺には、左右に二つの獣耳。カツラから解放されて、ピョコン、と上を向く。


 次にナナは右目、ソラは左目のコンタクトレンズを外した。

 そこには茜色の瞳。


 白い髪と赤の瞳は、妖怪の特徴だ。

 個体ごとに姿形が異なる妖怪だが、その二点だけは必ず共通している。


「あー、これも今日でやっと最後か」

 言いながらカツラを放り捨てるナナ。

「そうとも限らないでしょ。雑に扱わないの」

 レンズケースにコンタクトをしまうソラは、いつものようにナナを窘める。


 次にナナがレンズケースを差し出した。


「しまう必要あるか?」

「まだ終わったわけじゃ無いし。偽装の道具って考えたら、まだ使い道はあるかもしれない」

「……分かったよ」


 ナナがコンタクトをしまって、ソラがその蓋を閉じる。


「……あなたたちは、なんなの?」


 それは、心の底からの質問。


 さっきまでは、擬態した妖怪だと思っていた。

 確かにカツラとコンタクトを取った二人の妖力は、人間にしては強大だ。


 が、妖怪だとしたら弱すぎる。


 本物の妖怪なら髪の色はもっと真っ白だし、目の色ももっと真紅だ。

 茜色の目は、二人とも片目ずつみたいだし。


 こんな存在、私も知らない。

 少なくとも、自然に発生する生物とは考えられない。


「ん? 知りたい知りたい? もー、しょーがないなートアは」


 ――まだなにも答えてないけど。

 どうも緊張感に欠けるな……


「ソラ、よろしく」

「丸投げ……」

「私はこれ壊せないか色々試してみるわ」

 ナナがタマハガネを見せて言う。


 タネもタマハガネも、物理的に壊れることはないそうだ。

 唯一例外は、膨大な魔力を注ぎ込んで自爆させること。私がタネにやったみたいに。

 

 ただし、それはタマハガネ状態のみの話。

 変身状態だと普通に傷付くし、アバターも見た目通りの防御力らしい。


(なんとか、取り戻さないと……)

 が、この状態でアバター顕現させても、私に触れる前に倒されてしまうだろう。


 今はタマハガネ状態で耐えてもらうしか無い。


「まあいいけど……」

「私だと上手く説明できるかわかんねーし。頼むわ」

「分かったよ」


 ソラが私に近づいてくる。


(……くっ、銀髪ケモミミ可愛いな……)


 私を見下ろすソラがシンプルに可愛い。

 敵意が揺らぎそうで困る。スォーが壊されるかもしれないって時なのに……

 事前の好感度が邪魔をする。


「そんな楽しい話でも無いから。かいつまんで喋るね」


 そうして、ソラは淡々と、その涼やかな声で朗読するように語り出した。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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