第9話 銭湯を護らねば!前編 ハゲてる人は頭もボディソープで洗うって聞いたことあるわ
「好きです付き合ってください」
「……ふッ……ふぐッ……!」
お客さんのいちご大福パンの注文に、しくしくするマコちゃん。急に湧き出る涙を必死に拭っているわ。
「お姉さんどうしたの? 泣かないで? 別に告白した訳じゃ」
「違うんですッ……もうわたしがキッチンカー営業するのが最後だと思うと……」
「……なるほどぉ」
マコちゃんとのキッチンカー営業最終日。と言っても昨日と今日の二日限定なのだけれども、マコちゃんは思い入れがあるようで嬉しくなっちゃうわ!
「お姉さん、昨日はちょっと落ち込んでたけど大丈夫だったの?」
「ええ、大丈夫ですよ! ごめんね心配かけちゃいました?」
「全然微塵も」
「え?」
昨日のマコちゃんは初めての営業だったから失敗しても至極当然のこと。お客さんの笑顔が元気付けてくれましたと言って頑張っているわ。
すっかり馴染んだ店員マコちゃんは、いちご大福パンを袋に入れて手渡し。
「こちら、"好きです付き合ってください"です」
袋を受け取った少女は、パンを取り出していちご大福をひとつ摘むわ。
「いちご大福ひとつあげる」
「ええ!? いいんですか? へへっありがとうございます」
「……お姉さんのそのあっさりした笑顔、私好きよ。じゃ、じゃあね!」
女の子はいちご大福パンを抱えて走って行っちゃったわ。ふふっマコちゃんに告白してるみたいで可愛いかったわね。顔赤くしてたし。乙女ちゃんね。
「マコーこれで終わりなの、ちゃっちゃと片ずけるなの」
「待ってください、この余韻をまだ味わっていたいんです!」
涙目で訴えているマコちゃんは小動物みたいで可愛いわね。そうね、ミーヤキャットってところかしら。
「急がないと閉店しちゃうなの~」
「まだまだ時間はあるから大丈夫よランちゃん、大晦日で早く終わるとは言え夜八時までは空いてるそうよ」
今日は大晦日、一日営業した疲れと一年のあれやこれやを流すため訪れた場所。
「私、ここ銭湯にババっと参上よ!」
「人が居ないからって大声出すななの」
銭湯で綺麗さっぱりする、これに限るわ!
この日の為にマイタオル、マイ石鹸、マイ黄色いアヒルを準備しておいたのよ。黄色いアヒルは三つ子だったからランちゃんとマコちゃんにお裾分けしたわ。
「いや二人ほど来てるみたいですよ、ほらバスケットに着替えが」
「人の着替えジロジロ見ないなの、変態なの」
「なな、ジロジロしてませんよぉ……ってそうでした! わたし達も脱ぐんでした!」
変態呼ばわりなミーヤマコちゃんは、一人で盛り上がっているわね。今日という日を楽しみにしていたに違いないわ。
「マコちゃん脱ぐの嫌なの?」
「そう言う訳では無いのですが……」
マコちゃんはまだ私達と会って間もないから恥ずかしいのかしら?
私はマコちゃんなら恥ずかしくないし、それに。
「大丈夫よマコちゃん、昨日のお風呂みたくぎゅうぎゅうにならないわ」
「ああああれを思い出したら余計に……」
ポータブルバスタブは狭い代わりに持ち運びや収納に適した折り畳み式お風呂。
普段はランちゃんと一緒に入ってお湯の節約をしているのだけれど、流石にマコちゃんと一緒に入った時は狭すぎて身動きが取れなくなっちゃったわ。
「マコがリンとお風呂でイチャイチャしてたのは許してないなの」
鬼の形相で攻め入るすっぽんぽんランちゃん。鬼になっても可愛いわね。まだ早いけど節分気分になれるわ。福とランちゃん内よ。
「わっランさんタオル巻いてくださいよ!」
「何でなの、別に混浴じゃなくて女湯だから寧ろ堂々と出来るなの。リンもマコもその大事そうに巻き付けてるタオルを取っ払うなの」
「ランさんタオル引っ張らないで、私はそんな男気なるもの微塵も持ち合わせていないんです!」
そんなこんなで私達は浴場へ。
今すぐお風呂に浸かりたいところだけど、ここはグッと我慢、私達には身体を洗うという任務があるのよ!
「痒いところはありませんか~」
「背中が痒いなの~」
私がランちゃんの髪をアワアワしながら洗い、背中の下あたりをくすぐってキャッキャする私達に、隣から熱い視線が注がれる……!
「わ、わたしも頭が痒いなーって……はは」
「ふふっランちゃんが終わったら私が」
「ワタシがマコを洗うなの」
珍しく積極的なランちゃんの発言に、マコちゃんはとても嬉しそうに笑っているわ。
「へへっ」
「……そこは"へへっ"じゃなくて"え?"って言うところなの」
ランちゃんの髪のアワアワを洗い流し。
「マコの頭に馬をかけるなの~」
即座に横に移動し馬油シャンプーをマコちゃんの頭に付けアワアワしだすランちゃん。ふふっランちゃんが誰かの頭を洗うのは初めてだろうな、少し羨ましいわ。
「ランさん、指の爪を立てずに洗うんですよ? ちょっと痛いです」
「ごめんなの」
「泡がなんか顔にめちゃ来ます……! 目、目が染みる……!」
「ごめんなの」
「ああ冷たッ! シャワーがまだ冷たい時にかけちゃダメです!」
「ごめんなの」
「洗い流しても泡が消えない……!?」
「ふふなの」
「これランさん追加シャンプーしてますね? ……てかこの泡、シャンプーじゃなくてボディソープですよ!? 追加ソープしないでください!」
みるみるうちに泡だらけになってる……楽しそうだな~。
「大丈夫よマコちゃん、ハゲてる人は頭もボディソープで洗うって聞いたことあるわ」
「わたしはハゲてませんよッ!」
「シャンプーとボディソープは追加しちゃっダメなの? 分かったなの」
「わわッまだ追加してますよ! これはあれだ、追加トリートメントだあああ!」
ランちゃんに髪を洗ってもらうトリートメントマコちゃんは、元気そうでなによりね。それにかっこいいショートヘアがピッカピカよ。
身体まで洗った私達は綺麗さっぱり。
さあ、これで待ちに待ったお風呂タイムよ!
「飛び込もうとするななの」
「わ、分かってるわランちゃん、分かったからタオルを引っ張らないで……!」
私達はゆっくりとお風呂に浸かり、ふぅと息を吐く。ぷかぷか浮かぶアヒルをつつきながらのんびり喋って過ごすこの時間、とても安らぐわ。
ランちゃんがマコちゃんの顔面に水鉄板ならぬお湯鉄砲をひたすらに放っているわ。器用にマコちゃんの目元に直撃させて……ちょっと可哀想ね。
「顔はブァ、ちょっとやめて頂きビァ」
「じゃあマコのホクロを的にするなの」
そう言ってホクロ撃ちゲームを楽しみだすランちゃん。満更でもなさそうなマコちゃんと一緒にキャッキャしてるわ。
むう、マコちゃんばかりじゃなくて私にもお湯鉄砲していいのよ?
ほらホクロだって……
あ、暇でアヒルをつついてたら遠くに流れて行っちゃったわ。
マコちゃんの傍を通り過ぎ、マコちゃんが続いてはぐれたアヒルを取りに向かう。
「すみません、アヒルがここまで流れて来ちゃって……あれ、あなたは大福の乙女ちゃん」
「わわ、バレ……そうよ。いや乙女ちゃんじゃないわ。ふぅ、お姉さんも来てたのねぇ~びっくりしたわ」
銭湯に来てたのはあの告白赤面ちゃんだったのね。その隣にいる方は背丈から察するにお姉ちゃんかしら。
そのお姉ちゃんらしき人と私の目が合い。
「ハッキミはペンギンピチピチクラッシャーの生みのマザーッ! 出会えてピクシー感謝感激豪雨ひな祭り!」
「「……え?」」
ランマコちゃんが二人揃って硬直してる中。
「ふふっピチピチじゃなくてペンギンザクザクラッシュよ……ふふふッ」
私は小刻みに震えていたわ。
ペンギンザクザクラッシュは、私達のキッチンカーで出している、バニラアイスとチョコミントにコーンフレークをふんだんに入れたパフェの事ね。
「銀座クザクラシュシュ手裏剣ッ! 来年それをタニシにマテリアルガール!」
「「ええ?」」
「お姉ちゃんは黙っててぇ! 黙ってるだけでいいの! もうやめて!」
あ、野生の変人が突然現れた!
この時三人はそれぞれ。
「ふ、ふふふふッ……お腹ッよじれる……!」
「この人日本語なのに未知の言語みたいなの、もしかして宇宙人なの!?」
「ひぃぃ何なんですかこの人、大晦日なのに何故こんな激寒な思いを……ってリンさんランさん!?」
全く違う受け取り方をしていた!