第9話 元ヤンとJK
ラブホ街と呼ばれる道を進んでいき目的のホテルに到着する。今回は俺がお世話になりきたわけじゃない。咲に頼んでいたミッションの1つが無事達成できたと聞き駆けつけてきた。
今更だが、俺が最近手に入れたアレとは現役女子高生の斎藤咲のことだ。先に注意しておくが、俺は抱いていない。普通に犯罪である。
そんな咲が兄と慕ってくれるまで懐いたのは2週間前にとある事件があったからだ。
2週間前、俺は野暮用で母校の高校に行く予定があった。人に合うだけの用事は10分もかからず終わったので、何となく懐かしの場をまわることにした。
家が近いという理由だけで選んだこの高校は、偏差値40ちょっとしかない底辺高と呼ばれていた。
そんな高校から日本トップの大学に俺とアキの2人を輩出したことで、教師陣は理事長からボーナスをもらったらしい。当時は嫌われていた俺も、そのおかげか物凄く歓迎され校内を自由に使う許可ももらった。
最近運動もしてなかったしボールでも蹴ろうかと所属していたサッカー部の部室へ足を運ぶと中から騒ぎ声が聞こえた。
部員がいようが興味ないのでそのまま入ろうとするも鍵がかかっていて開かない。教師に隠れてタバコでも吸ってんのかと耳を澄ますと騒ぎ声の中に一つ女子の悲鳴が聞こえてくる。
正直関わりたくはないが、俺自身が昔アキの母に助けられたこともあったし、それ以上に俺の都合を妨げたガキどもに苛立っていた。
鍵を借りてきても良かったが、何となく中の奴らをビビらせたかったのでドアを壊すために助走を取る。
余談だが地震などの災害で開かなくっても救助できるように、学校のドアなんかは成人男性が本気で力を込めれば比較的壊しやすくなっている。
ヤンキー漫画のワンシーンかのように両手をポケットに入れ右足で鍵のかかったドアを蹴り飛ばすと、10人ほどの男女が1人の女子をひん剥いている光景があった。
「あーあ。こりゃ退学は確定だな。良かったな未成年で。豚箱行きはないんじゃね?」
スマホを取り出し動画撮影をしながらアホどもを脅す。
「お、お前誰だよ!俺が誰か知ってんのか?!」
リーダーらしき男性生徒が吠えてくる。
「知らねぇよお前みたいな能無し」
「調子に乗んのも良い加減にしろよ?!俺の親はここの教師だぞ。お前なんか俺の親に頼めば退学にだってできるんだからな?!」
アホは無視だ。
「おい、そこのひん剥かれている子。俺の上着貸してやるから教師にでも報告しにいけ」
アホどもの中まで歩いて行き、上着を着させてやる。俺は身長高いし向こうはチビなので一枚で膝下まで隠せた。
「あ、あの… ありがとうございます」
「おい!勝手なことするな!そいつは俺の女だぞ!」
「礼はいいから早く出ていけ」
「その、すみません… 震えて足が動かなくて…」
「はぁ… じゃあそこの角で待ってろ。このスマホで動画撮影は続けろよ」
「えっ?!」
お姫様抱っこで持ち上げ隅へと運ぶ。
「で、どうするんだ?かかってこないならこのまま背負って教師の元まで行かせてもらうが」
「そんなことさせるわけないだろ!ってか1人で10人に勝てると思ってんのか?バカがよ!」
まぁ普通にやれば負けるだろう。半分女子が混ざっているのとはいえ、1対10は勝てない。数の暴力は絶対だ。
でも相手はバカでこちらは豊富な知識がある。
「犬みたいに吠えてないで早くこいよ。臆病者がよ」
「後悔させてやる!」
リーダーらしき男がそう叫び、大振りで殴ってくるところをわざと一発受ける。
「はっ、口だけじゃねぇか!このまま無事に帰ると思うなよ!」
よし先に殴られる様子は動画に撮れただろうし力の差をわからせてやることにする。
二発目を喰らわせようとする隙を狙い顔面に肘鉄を入れそのまま鼻を折る。さらに地面に転がったところを足で顔面を踏みつけると、見事血だらけになったアホが出来上がった。
「あと9人だな。ほら、残りもかかってこいよ」
「お、お前いけよ!」
「はぁ?!あいつやべぇだろ!」
皆ビビってついには内輪揉めを始める。全て計算通りだ。
戦いにおいて力や数や重要だ。だが、それ以上に士気と戦略が勝敗を分けることを歴史から学ばないあいつらは知らない。
何故織田軍は今川軍に勝てたのか、厳島の戦いで毛利が陶に勝てたのは何故か、たとえ日本だけでも歴史から十分に学べる。
こいつらはリーダー以外の奴ら全員で同時にかかってくるべきだったのだ。頭の出来が差に出たな。
「誰も挑んでこないみたいだし俺らは去らせてもらう」
隅で放心している女子生徒をまたお姫様抱っこし、部室を出る。
「私を助けてくれてありがとうございました。その、すっごくかっこよかったです。学校で見かけたことないですが、3年生の先輩ですか?」
恐怖から解放された反動か元気よく腕の中から話しかけてくる。よく見ると可愛らしい顔つきをしており襲われたのも少し分かる。
「たまたま用事があってきただけの卒業生だ」
「そうだったんですね!あ、遅れましたが私1年の斎藤咲です」
「俺は滝沢秀だ」
「え、もしかしてあの滝沢秀先輩ですか?!」
「どの滝沢秀だ」
「教師でも手をつけられないほどの問題児だったのに、なんとあの帝大に受かった伝説のヤンキーです!」
「確かに俺はそこに通っているが人違いであることを願いたい…」
そんなイタい呼ばれ方されてるなんて知らなかった。後で教師たちにクレームを入れておこう。
「私伝説のヤンキーにすっごい憧れてて、この高校に受かったのもギリギリのバカですけど塾に通って勉強頑張ってるんです!」
「そうか。まぁこんな底辺高来るやつは大抵中学時代一切勉強してこなかっただろうし、本気で取り組んだ時の伸び代は進学校の奴らよりあるかもしれないぞ。あと普通に名前で呼べ」
これはお世辞でもなく本気でそう思っている。もちろん中学レベルで挫折し諦めるような奴は、大半が高校生になっても努力できず底辺のまま終わる。だが、中には悔い改め覚醒する奴もいる。これは実際にアキというモデルを見てきたから言えることだ。
「わわわわっ!ありがとうございます!秀先輩のおかげで私もっと頑張れます!」
「話は変わるが、なんでお前は襲われてたんだ?話したくなければいいが…」
「それは…」
先ほどまでの元気は嘘かのように萎れてしまった。
「踏み込みすぎたな。悪い、忘れてくれ」
「いえ!先輩は悪くないんです。悪いのは私なんです。その…聞いても失望しないで欲しいです」
「するわけないだろ。俺がどれだけクズかは伝説のヤンキーとやらが好きなお前なら知ってるだろ?」
「そう言ってくださって少し気が楽になりました。ちょっと長くなっちゃうので、そこのベンチに座ってお話ししてもいいですか?」
「今日は暇だったから構わない」
抱き抱えていた彼女を椅子に座らせ、近くの自販機にお茶を2本買いに行く。
「ほら、これ飲んで落ち着いてから話せ」
「秀先輩はお優しいんですね。ありがとうございます。いただきます」
そう言いお茶を飲む彼女が落ち着くまで待つ。
次に発せられる彼女の一言に度肝を抜かされることをまだ知らない…
6月3日以前にここまで読んでくださった皆様へのご報告です。一部作品の番外編表示を辞め、通常通りの話数に変更したため、その後の作品の話数が変わっています。作品の内容自体には全く関係ないので、今後も読んでくださると嬉しいです!