第1話 親友からの電話
いつものようにナンパした相手を置き去りにホテルを出ると、珍しく親友の清水アキから電話がかかってきた。
「アキか、お前からかけてくるなんて珍しいな。何の用だ?」
「秀、僕の彼女が、彼女がさぁ…」
「ちょっと落ち着けって。時間はあるからゆっくり話せよ」
いつも明るく元気なアキのあんな悲壮な声を初めて聴いた俺は、内心何事かと驚いていた。
「僕さ、彼女できたって伝えたじゃん?」
「あぁ、1ヶ月ほど前だったか。半年近くアプローチし続けてようやく付き合えたんだってな」
幼稚園からの付き合いがある親友の初めての彼女なので覚えている。確かアキと下が同じ名前で、古宮秋とかいう名前だったはず。
「そうなんだけどね。もうだめだ…」
「彼女となんかあったのか?」
「実はね、今池袋いるんだけど、僕、さっき彼女と知らない男がラブホから一緒のでてくる姿見ちゃったんだ…」
「はぁ?マジか?一度しか話したことないが、王道のお嬢様って感じで清楚そうな子だったと思うが」
「ほんとだよ。ほら、急いでたからブレてるけど証拠の写真も撮ったし」
送られた写真を見ると確かにアキの彼女らしき人物が、髪を茶髪に染めセンター分けにしたいかにも大学デビューみたいな男と腕を組んで歩いてる姿が映っていた。
「これは黒だな… アキの彼女にこんなこと言うのもなんだけど、見る目ねぇなぁ。俺が認めるイケメンのアキ捨ててあんなん選ぶなんて」
「でも僕はそいつに負けたんだよ…」
「悪かったって」
「この先どうやって生きていこう。もう無理だ」
「まぁお前の気持ちはわかるけどよ…」
クズな俺だがアキの相談に何度も乗ってきたから、どれだけ好きだったのかは知っている。
1年生ながら大学のミスコンで1位を取るほどのルックスを備え、実家は明治時代からの名家で知られる古宮家。一般人では立ち入れないお嬢様オーラを醸し出す彼女に、唯一アプローチをかけ続けたのがアキだった。
最初は無視されるだけだったが、アキの人柄の良さと辛抱強さに負け半年後には晴れて付き合うことになったらしい。
普段は俺の女遊びを注意するアキが、彼女に不満を持たせたくないからと、俺に頭を下げてまで女性の扱い方を尋ねにきた時は心底驚いた。
俺もそんな親友の漢気にやられ、頻繁にサポートしてきたはずだったのだが…
「でもなんでお前の彼女はあんな奴を選んだんだ?アキに勝てる要素なんもなさそうなのに。顔も悪けりゃ頭も悪そうだし」
古宮家が選ぶような大学なだけあって、俺らは1流と呼ばれる大学へ通っている。
「僕にもわからないよ…」
「そもそもあの人にお前以外の男との交流あったか? 親友の俺でさえ一回しか会ってないし、その時でさえ半分以上無視されただろ」
「僕が知る限りないんだよね。あと秀はうちの大学でもクズ男で有名だから仕方ないよ」
「うるせぇよ。だからこそおかしいと思わないか?そんな女が突然股開くとは思えねぇんだ。一度彼女に事情を聞いた方がいいんじゃねぇの?嫌な話、脅されて無理矢理なんてパターンもありえるだろ」
「そうだよね… ごめんパニックになってた。一度彼女に会って話してみる。いつもありがとう、秀」
「おう。達者でな」
知らない方が幸せだった事実が世の中にあることを、この時のアキはまだ知らない。