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未来からロボットが



 僕の机の引き出しはタイムマシーンの出入口になっている。


 数ヶ月前に、未来からロボットが来て、その時にたまたま僕の机の引き出しがタイムマシーンの出口になってしまったらしい。

 この状況だけ聞くと、そのロボットが僕を助けるために未来から来てくれたような、大変おいしいシチュエーションのようだが、実際にはそんなことはない。

 そのロボットが未来から今のこの時代に来たのは観光目的なので、べつに僕を助けてくれたりはしないのだ。

 にもかかわらず、そのロボットは僕の家に居着いてしまった。外を観光してる時以外は、タイムマシーンの出入口から、あまり離れたくないと言うのである。

 僕にとっては迷惑な話なのだが、もしかしたらそのうちに少しぐらいは未来の便利な道具で僕のことを助けてくれたりするかも、というヤラシイ気持ちもあって、そのロボットが居着くことを認めたのだった。


 そのロボットは西暦2100年から来たそうだ。

 と言っても2100年の最新型ロボットではなく、かなりの旧型らしいので、現在の最新型ロボットとそれほど大差はないような気がする。


 もちろん、見た目がほぼ人間に近かったり、人間と普通の会話が成り立つというような現代のロボットの性能をはるかに凌ぐ部分もある。

 しかし、動きのカクカク具合なんかは現代のものとほぼ変わらないし、計算能力などはむしろ劣っている感じさえする。


 足し算や引き算、かけ算ぐらいはなんとかこなすが、わり算がおぼつかないのである。


 こないだ無理に難しい計算をやらせてみたら、ケムリが出てきたので、慌てて止めた。

 そのくせ僕が新しいパソコンを買って喜んでいると、そんな古い機械ではしゃいじゃって、みたいな感じで鼻で笑うのだ。これには僕もカチンときて、口論になってしまった。


「おまえなんて、わり算もロクにできないじゃんかよ」


「ワタシは計算能力よりも、人間とのコミュニケーション能力に特化したタイプだからです」


「簡単な計算ぐらいできたっていいだろ」


「簡単な計算ぐらい人間がやればいいんです」


 話がどこまでも平行線のまま進みそうなので、それ以上は言わなかった。しかし、その後もイライラさせられることは度々あった。


 それでも、滞在期間が長くなるにつれて、ロボットもある程度のことはしてくれるようになった。例えば、忘れ物をした時に届けてくれたりとか。


 しかし、そのこと自体はいいのだが、やることがどうも鈍くさい。


 こないだ出先で忘れ物をしたことに気づいて、慌てて家に電話をかけ、「~~にいるから急いで持って来てくれないか」と言ったら、持って来てくれるまでに二時間ぐらいかかった。

 家から電車で三十分ぐらいの場所なのに、だ。


 話を聞くと、乗り換えがよくわからなかったそうだ。


 確かに東京の地下鉄は入り組んでいるので、一度や二度はそんなこともあるだろう、と思っていたが、こいつは何回教えても迷子になるのだ。

 しかも、すべての道順を新宿駅から覚えているので、迷子になるたびに一旦新宿駅まで戻るのだそうだ。そりゃ時間もかかるはずだ。


 そんな感じでこのロボットがあまり使えないということがわかると、僕は早く未来に帰って欲しいなぁと思うようになった。


 しかし、ロボットの方はまったく帰るそぶりすらない。まだまだ、この時代を観光したいようだ。

 一度、強制的に未来に帰らせようと、力ずくでタイムマシーンに乗せようとしたが、ものすごい力で返り討ちにあってしまった。気の済むまでウチに居座るつもりのようだ。僕も渋々認めざるを得なかった。


 共同生活が長く続くと段々うっとうしさが増してくる。


 一番しんどいのは、このロボットが人間とのコミュニケーション能力に特化したタイプだと自分では言いながら、かなり無口だということだ。

 同じ部屋に二人でいて、何の会話もない状態が何時間も続くと結構気まずい。

 話しかければ返事はしてくれるのだが、むこうから話しかけてくれることはほとんどない。

 しかも、こっちががんばって色々話しかけても、「いや、別に」みたいな返事がすごく多い。


「そろそろ未来に帰りたいんじゃない?」


「いやー、別に」


「……」


「……」


「未来に帰ったら、何するの?」


「いや、特に予定はないですけど」


「……」


「……」


 こんな感じで会話がすぐ途切れてしまうため、話題がなくなってしまうのだ。後に漂うのは気まずい空気だけである。


 もうすぐこのロボットが来て半年になる。まだまだ帰る気配は全然ない。


 本当、早く帰って欲しい。




       -終わり-

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