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地球防衛軍でのバイト



 学生時代に地球防衛軍でアルバイトをしていたことがある。


 地球防衛軍とは、宇宙怪獣から地球を守るための軍事組織である。


 と言っても、僕自身は怪獣と戦ったりはしていない。そういうのは隊員の仕事で、僕らバイトは事務的な仕事をしていたのだ。


 具体的には、データ入力や書類のファイリング、郵便物の仕分け等だ。それほど楽な仕事でもなかったが、わりと雰囲気の良い職場だったので、長くやっていた記憶がある。


 バイトを始めた動機は単純で、小遣い稼ぎのためだった。地球防衛軍に対して特に思い入れがあったわけではなく、どうせバイトするなら家から近い所がいいなぁ、と思いつつ探していたら、たまたま地球防衛軍にたどりついたのである。


 でもまあ、面接ではそういうことはあまり言わなかった。


 考え過ぎかもしれないが、志望動機としては、少し不真面目な感じがしたのだ。


 なので、履歴書の志望動機の欄には、社風に惹かれた、とか、スキルアップできそうだと思ったから、とか書いておいた。


 今思えば、バイトの面接でそんな志望動機を書いて来る奴の方が胡散臭いと思うが、当時の僕はそれがベストだと思っていたのだ。


 しかし、面接では志望動機については話題にも上らなかった。言われたことと言えば、交通費が出ない事の念押しと、日曜出勤の可能性がある事の念押しぐらいだ。


 面接は驚くほどあっさりと終わり、ほとんど即決のようなかたちで採用された。


 そんな感じで地球防衛軍で働くことになったわけだが、僕が働いていた期間に怪獣が来ることはそんなになかった。それでも何回か、中二日ぐらいで立て続けに来たことがあって、その時はバイトの僕らもかなり忙しかった。


 しかし、実際に怪獣と戦う隊員の人達はもっときつかったと思う。怪獣と戦った後、隊員の中に無傷の人間は一人もいなかった。みんなどこかしら擦りむいていたり、突き指をしたりしていた。ひどい人になると、頭におっきなたんこぶができている人もいた。事務所では常に絆創膏が不足しているという有様だった。


 スーパーヒーローがどこからともなくやって来て怪獣をやっつけてくれる。所詮、そんなことは夢物語で、現実には人間が自力でなんとかするしかないのだ。


 そういう意味では、隊員の人達に対しては頭が下がる思いだし、バイトとは言え、そんな人達をサポートしている自分にも誇りが持てた。


 そうして仕事をしているうちに、僕は隊員の人達に対して、少し憧れを抱くようになった。


 仕事中は、あまり話しかけることもできないが、昼休みなどに話しかけると、みんな気さくにこたえてくれた。


 隊員の人達の話は、どれもすごく興味深いものばかりだった。地球防衛軍の社食はメニューのバリエーションがイマイチなので、僕は最初あまり利用していなかったのだが、隊員の人達の話を聞きたいがために、毎日利用するようになった。



「今まで、どんな怪獣と戦いました?」


「色んな怪獣と戦ったよ。一口に怪獣と言ってもね、みんなそれぞれ個性があるんだよ。空飛ぶ奴がいたり、火を吹く奴がいたりね」


「それは退治するの大変でしょう」


「でもね、これは不思議なんだけど、みんなどこかに弱点があるんだよ。それを見つけるのがゲームみたいで、ちょっと楽しいんだ」


「へー。弱点って、どんなのがあるんですか?」


「すごい痛がりの奴とかね」


「痛がり?」


「ちょっと攻撃されただけで、痛タタタ、ってすぐ言うんだよ」


「それって、ただ単に弱いだけなんじゃないですか?」


「いや。ものすごく痛がるけど、なかなか死なないし、こっちがスキを見せたら反撃だってしてきたよ」


「それは厄介ですね」


「でもまぁ、こっちが攻撃してる間は、ずっと痛がってるから、粘り強く攻撃してれば大丈夫なんだけどね」


「他には、どんな弱点を持った奴がいたんですか?」


「そうだな…すごい寒がりの奴がいたな」


「寒がり?」


「そう。なのに、なぜか冬に来たんだよ。だから、ものすごい楽に倒せた」


「へー。他には?」


「すごい暑がりの奴もいた」


「そいつも夏に来たりとかしたんですか?」


「いや、そいつは秋に来たんだけど、隊員総動員でドライヤーでブォーってやったら、溶けてなくなった」


「ふーん。色々いるんですねぇ」


「他にも、虫が苦手な奴とか、人間の口臭がダメな奴とか、昔の日本人みたいに英語で話しかけると逃げる奴とかもいたな」


「英語が苦手だったんですかね?」


「英語の発音がダメだったみたい。人間がガラスをひっかくような音が苦手なのと同じで」


「おもしろいですねぇ。今までに弱点がない奴って、いなかったんですか?」


「いたよ。でも、これも不思議なんだけど、特に弱点がない奴って、だいたい特に強い所もないから楽に倒せるんだよ」


「へぇー」


「不思議だろ?」


「不思議ですねえ」


「怪獣みたいな未知の生物を相手にしてると、不思議な事が山ほどあるんだよ」


「僕、ずっと疑問に思ってた事が一つあるんですけど、聞いていいですか?」


「ん、何?」


「怪獣の名前って、いつ付けてるんですか?初めて見る怪獣なのに、なんか出てきてすぐ名前が付いてるような感じがするんですけど」


「あー、あれはね、ちゃんと決まりがあるんだよ」


「どんな決まりですか?」


「怪獣の名前はね、星とかと同じで、第一発見者が付けるんだよ」


「あ、そうなんですか」


「うん。だから第一発見者が、あっ!怪獣ボボンゴだ!とか言ったら、もうそいつは怪獣ボボンゴなんだよ」


「ああー。なるほど。そうだったんですか」


「うん。そうなんだよ」


「でも、怪獣って大きいから、複数の人間が同時に発見することもあるじゃないですか。その時はどうなるんですか?」


「その時は、先に宣言した人の勝ち」


「へぇー」


「面白いだろ」


「はい。勉強になりました」


「まぁ、わからないことがあったら何でも聞いてよ。怪獣の事なら、だいたい答えられるからさ」



 こんなふうに、隊員の人達との会話はとても楽しく、昼休みはいつもあっという間に終わった。


 僕はこの仕事が大好きだった。いつまでもやっていたい、という気持ちも少し持っていた。


 隊員の人達からも、大学卒業したら地球防衛軍に就職しなよ、と言ってもらったりもした。


 しかし、学校を卒業する際、就職先に地球防衛軍を選ぶことはなかった。


 理由はいくつかあるが、一番大きいのは、隊員になってしまうと、宇宙怪獣と直接戦わなくてはならない、ということだろうか。怪獣と戦う隊員の人達の大変さを間近で見ていて、僕は自分にはとてもできないと常々思っていたのだ。


 あともう一つ理由をあげるとすれば、地球防衛軍は政府の組織ではなく民間企業であり、しかも有限会社であることだ。当然、隊員は公務員ではない。


 僕は就職するなら、やっぱり公務員か大企業が良いと思っていた。幸い僕は超一流企業から内定をもらうことができたので、迷わずそちらを選ぶことにした。


 すごくドライな選択をしたようにも思うが、それが現実を生きるということだと思う。現実は夢物語ではないのだ。


 学生時代に地球防衛軍でアルバイトをしたことがある。そんな思い出があるだけでも、自分は幸せな方だと思う。



       -終わり-

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