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愛と平和



 こないだ街を歩いていたら、口ゲンカをしている二人の男がいた。



「お前がぶつかってきたんだろ」


「いや、お前がぶつかってきたんだろ」


「俺がこっちによけたら、お前もこっちに来たからぶつかったんだろ」


「いや、俺がこっちによけたら、お前もこっちに来たからぶつかったんだろ」


「お前が謝るべきだろ」


「いや、お前が謝るべきだろ」



 二人はすごく激しい口調で言い合いをしていて、道行く人達もちらちら見たりしていた。でも、とばっちりを喰うのがイヤなのか、立ち止まって見る人はあまりいなかった。


 僕はしばらく彼らの口論を聞いていたが、どうやら彼らのケンカの原因は、すれ違う時に肩がぶつかったということにあるらしい。途中から聞いたので、もしかしたら間違っているかもしれないが、だいたいそんな感じのことで言い争っているようだった。


 二人はお互いに、自分が正しくて相手が悪いと言っていた。


 しかし、お互いのその主張はどこまでも平行線をたどり、真相を知らない僕には水掛け論のようにしか聞こえなかった。


 ぶつかった瞬間を映像にとらえたビデオカメラがあるわけでもなく、その瞬間を目撃していた人の証言があるわけでもない状況では真相は闇の中である。


 二人がお互いに譲らず、間に入って止める人間もいない以上、ケンカはいつまでも続くと思われた。



 するとそこへ一人の男がバイクに乗ってやって来た。


 首に赤いスカーフをした、とても精悍な感じの男だった。



「やめるんだ!」


 男はバイクから降りると、ケンカしている二人の間に入って、そう言った。



「何だよ、お前。あっち行けよ」


「そうだよ。あっち行けよ」



 二人は相手にしようとしない。それでもバイク男は引かなかった。なんとか二人のケンカをやめさせようと必死に説得をしていた。


 だが、二人はケンカをやめないばかりか、止めに入ったバイク男を攻撃し始めた。


「あっち行けって言ってんだろ」


「そうだよ。あっち行けって言ってんだろ」


 そう言って、二人がかりでバイク男を突き飛ばした。そして、その後はまた二人でケンカを始めてしまった。


 突き飛ばされたバイク男は尻もちをついていたが、立ちあがると不敵な笑みを浮かべた。


「こうなっては仕方ない」


 そう言いながら、円を描くようにゆっくりと腕を回し始めた。



「へーんしん!」



 すると一瞬のうちにバイク男の姿が変化した。服装もかなりタイトな感じに変わったが、一番変化したのは頭の部分であろう。バイク男は昆虫のバッタの頭を模したような不気味な仮面を付けていたのだ。


「私が来たからにはもう好きにはさせないぞ!」


 仮面バイク男はそう言って再びケンカしている二人の間に入っていった。そして、またケンカをやめるよう説得を始めたのだが、素っ頓狂な姿に変わってしまったせいで、むしろ説得力は落ちているように思われた。


 案の定、二人はまったく耳を貸さなかった。


 仮面バイク男は業を煮やしたのか、

「こうなったら実力行使だ。さあ悪者はどっちだ?私が退治してやる!」と言った。


 もちろん二人はお互いに相手が悪いと言った。


 この答えに仮面バイク男は困った。


「嘘をつくな!どちらかが悪いに決まっている。さあ、悪者はどっちだ!」


 それでも二人はお互いに相手が悪いと言うだけだった。


 いよいよ困ってしまった仮面バイク男は突然、二人に対して変な要求をし始めた。



「ちょっと、イーッ、って言ってみてくれないか?」



 この奇妙な要求に、言われた二人も困惑顔だった。


「なんだよ、それ。意味わかんねぇよ」


「そうだよ。意味わかんねぇよ」


「いいから、イーッ、って言ってみてくれよ。発音の仕方でどっちが悪者かわかるんだよ」


「嘘つけよ。わかるわけねぇだろ」


「そうだよ。わかるわけねぇだろ」


「いや、私にはわかるんだよ。さあ、イーッ、って言いたまえ!」



 しかし、この言葉は二人の怒りに火をつけてしまったようだ。


「うるせぇよ!なに命令してんだよ!」


「そうだよ!なに命令してんだよ!」


「いや…、命令じゃなくて……」


「もういいから引っ込んでろよ!」


「そうだよ。引っ込んでろよ!」



 結局、二人は仮面バイク男を無視して、再びケンカを始めてしまった。


 その後もしばらく仮面バイク男は説得を試みていたが、二人に完全シカトされ、やむなく引きさがるしかなかった。


 そして、説得をあきらめた仮面バイク男は、バイクに乗って、すごすごとどこかへ行ってしまった。


 僕はその様子を見ながら、この二人のケンカを止めることはやっぱりできないのかなぁ、と思っていた。



 するとそこへとてつもなく巨大な男が空を飛んでやって来た。


 それはもう本当に大きくて、ウルトラ巨大な男と呼んでもいいほどだった。


 そいつは周囲のビルよりも背が高く、銀色ベースで赤いまだら模様の皮膚をしていた。顔はおよそ人間のそれとは違い、目が大きく無表情だった。頭にはトサカらしきものもあった。


 空を飛んでやって来たところを見ると、宇宙人かもしれない。


 ウルトラ巨大な男は、二人から少し離れた所に着陸した。その時、衝撃でビルを二つほど破壊してしまったが、そんなことはおかまいなしにウルトラ巨大な男は二人のそばに寄って来た。


 そして、このウルトラ巨大な男も二人にケンカをやめるよう説得を始めた。……と、いうよりも、説得をしようとしているように見えた、といったほうが正解かもしれない。


 なぜかというと、このウルトラ巨大な男の発する言葉は「ジョワッ」とか「シュワッチ」とか変な叫び声ばかりなので、何を言っているのかまったくわからなかったのだ。


 当然、二人はケンカをやめなかった。


 するとウルトラ巨大な男はオロオロし始めた。ちょっと焦っているようでもあった。そして、さっきよりもさらに大きな奇声を発してケンカをやめさせようとした。


 その時、ウルトラ巨大な男の胸のあたりから、ピコーンピコーンと大きな音が鳴った。本当にけたたましい音で、僕も思わず耳を塞いだ。


 ケンカしていた二人も、さすがにこの時ばかりはケンカを中断して耳を塞いでいた。


 それを見た僕は、「あっ、もしかしてこれはケンカをやめさせるために、このウルトラ巨大な男が流した音なのかな?」と思ったが、ウルトラ巨大な男は、それからすぐに空へ飛び立ってどこかへ行ってしまった。


 ちなみに、空へ飛び立つ際も、足を引っ掛けてビルを三つほど破壊して行った。


 結局、ウルトラ巨大な男は、ここへ来てから三分たらずで帰ってしまったのだった。


 僕はその様子を見ながら、あいつ…ビルを破壊するためだけに来たようなもんじゃないか…、と思っていた。



 するとそこへ色とりどりの全身タイツを着た五人組がやって来た。


 その五人組も二人にケンカをやめるよう説得を始めた。


 まず五人組は和解の証しとして、二人に握手をするように勧めた。


 和解などする気のない二人は当然のごとく拒否した。


 すると五人組は

「じゃあ、とりあえず僕と握手しよう!」

と言い出した。


 これにも二人は当然のごとく反発した。



「なんでテメエなんかと握手しなきゃいけないんだよ!」


「そうだよ。なんでテメエなんかと握手しなきゃいけないんだよ!」



 すると五人組は、二人をほったらかしにして、周りにいた人達と握手をし始めた。僕の所にも握手をしに来たので、一応してあげた。


 一通り握手が終わると、五人組はそのままぞろぞろ帰って行った。


 僕はその様子を見ながら、あいつらただの握手好きじゃないか、と思っていた。



 その後も、二人のケンカをやめさせようとする人が次から次に現れた。


 虎のマスクをかぶったレスラー風の男。


 頭が菓子パンで出来ている人達。


 キノコを食べると巨大化する兄弟。


 などなど……



 本当にいろんな人達がやって来た。しかし、二人のケンカをやめさせることは誰にもできなかった。


 僕はその様子を見ながら、どっちが悪いのかわからない争いを仲裁することのできるヒーローっていないもんなんだなぁ…、と思ったのだった。




       -終わり-

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