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真夜中の出来事



 ある晩、真夜中に目が覚めた。


 ハッキリしない意識の中で、こんな時間に目が覚めるなんてめずらしいな、などとぼんやり考えていた。枕もとの時計を見ると三時二分だった。


 そのまま寝直してもいいが、トイレに行きたい気持ちも少しあった。僕はしばらくまどろみながら考えて、やっぱり寝ることにした。


 そのまま何事もなければ、僕は寝ていたと思う。しかし、僕が再び眠りに落ちる直前に隣の部屋から物音がした。


 それほど大きな音ではなかったが、その音はなんとなく人の話し声のような感じがした。

 さすがに僕も気になり、隣の部屋の様子を見に行くことにした。寝室を出てみると、隣の部屋のドアがほんの少し開いており、明かりがもれていた。話し声のような音も、やはりかすかに聞こえた。


 僕はそーっとドアに近づき、中の様子をうかがった。


 僕はギョッとした。我が目を疑った。

 その部屋に飾っていた人形やぬいぐるみが楽しそうにダンスをしていたのだ。


 僕が聞いたのは人形達の笑い声や歌声だったのだ。


 僕はしばし我を忘れて、その光景を夢中で見ていたが、夢中になり過ぎ、手がドアに当たって、「コツ」という音を立ててしまった。


 その瞬間、人形達の声はピタと止まった。


 しまった、と思い、すぐにドアを開けて部屋に入ってみたが、人形もぬいぐるみも、いつも置いてある場所に戻っていた。もちろん人形はピクリとも動かず、歌ったり踊ったりした形跡は何も残っていなかった。


 次の日、僕は朝から昨夜の事が気になってしょうがなかった。


 きのうのアレはなんだったのだろう?


 夜になっても気持ちは晴れないままだった。ベッドに入って寝ようとしたが、なかなか寝付くことができなかった。何度か寝返りをうっていたが眠れず、僕はこの際だから起きていようと思った。そして、ピッタリと壁に張り付き、隣の部屋から話し声がしないか聞き耳をたてていた。


 しかし、隣の部屋からは話し声どころか物音一つしなかった。


 ずっと耳をそばだてていたが、いつまでたっても何の音もしないので、僕はだんだん眠くなってきた。時計は三時を過ぎていた。きのうのアレはやっぱり気のせいだったのかな、と僕は思い始めていた。


 しかし、ウトウトしかけていたその時、ついに隣の部屋から音が聞こえてきた。


 僕は目をパッと開き、すぐに隣の部屋のドアの前まで行った。そして、物音をたてないように慎重に中の様子をうかがった。


 きのうはダンスをしていた人形達が、今日は輪になって何やらヒソヒソ話していた。


 きのうの笑い声や歌声はドアの所からでも、聞き取ることができたが、今日のヒソヒソ話はあまり聞き取ることができなかった。

 しかし、かろうじて聞き取れた範囲で話の内容を推測すると、どうやら昨夜の事を話しているようだった。「もう少しで御主人様に見つかるところだった」というような言葉がしきりに話の中に出てきた。この場合の御主人様とは僕のことだと思われる。


 彼らは、今まで僕に内緒で、毎夜あのように楽しく動きまわっていたのだろうか?


 きのうは不注意で僕の存在を彼らに知られてしまったが、今日はまだ部屋の外にいて話を聞いているのを感づかれてはいない。もしばれたら、彼らはまた普通の人形やぬいぐるみに戻ってしまうだろう。


 だが、僕はなんとか彼らとコンタクトをとりたかった。そのためにはどうしたらいいだろうかと思案したが良いアイデアは出てこなかった。


 一つ思い浮かんだのは、きのうは彼らをビックリさせてしまったのがいけなかったのではないか、ということだった。ビックリさせずに自然な感じで部屋に入ることができれば、わりと簡単に彼らと仲良くなることができるかもしれない。


 確証はないが、試してみる価値はあるように思われた。どっちにしろ、部屋の外でいつまでも突っ立っていてもしょうがないのだ。僕は、自然に自然に、と自分に言い聞かせながら「どうも。失礼します」と言って、部屋に入った。


 またしても部屋はいつもと同じ状態に戻っていた。


 次の日、僕は昼頃に目が覚めた。二日続けての夜更かしのせいで目が腫れぼったくなっていた。


 とりあえず僕はきのうの反省から始めた。自分では、すごく自然な感じを装うことができたと思っている。しかし、結果は思ったようにいかなかった。何がいけなかったのだろう?部屋に入る時に「失礼します」と言って入るのは、人形達にしてみると不自然なんだろうか?どうしたら彼らと仲良くなることができるのだろう?


 なかなか考えがまとまらないので、僕は気分転換に散歩することにした。


 散歩途中、おもちゃ屋の前を通った時、怪獣の置物を見かけた。なかなかリアルにできている。

 その時、この怪獣をあの部屋に置いたらどうなるかな、という考えが僕に浮かんだ。


 もしかしたら、人形達はものすごく怖がるかもしれない。そこへ颯爽と僕があらわれて退治すれば、彼らと仲良くなれるんではなかろうか。


 これはすごく良いアイデアだと思い、早速実行に移すことにした。


 怪獣の置物を買い、家に帰って例の部屋の中の目立つ場所に置いた。

 僕はその日の夜を楽しみに待った。


 過去二日の統計からして、人形達が動き出すのは夜中の三時過ぎからだと思われる。僕はその時間までゆっくりと待ち、頃合いを見計らって部屋の様子をのぞきに行った。


 すると、僕の予想通りドアの隙間から人形達の動く姿が見えた。僕が今日買って来た怪獣の置物も動いていた。


 これでその怪獣が人形達に襲いかかってくれればバッチリだったのだが、いつまでたっても、そんなことをしそうな感じがない。和気あいあいなムードすら漂ってくる。

 僕はなんとなく嫌な予感がした。そこへ、こんな言葉が聞こえてきた。


「どうもはじめまして、怪獣と言います。これから一生懸命がんばりますので、よろしくお願いします」


 怪獣の自己紹介のようだ。その言葉が終わると、人形達みんなからの拍手が聞こえてきた。


 どうやら、僕の目論見は完全に失敗に終わったようである。


 しかし、僕はあきらめなかった。


 次の日は怪獣を脇にどけて、木彫りの熊を置いてみた。怪獣はあくまでも想像上の生き物で、熊の方がリアルな感じがして怖いんじゃないか、と思ったからだ。


 しかし、夜になって部屋をのぞいて見ると、熊は人形達に怖がられるどころか、むしろちょっとからかわれていた。熊は持っていた鮭を人形達に取り上げられ、泣きそうになっていた。「返して、返して」と必死に頼むのだが、人形達は一向に聞き入れない。

 熊が半ベソをかきながら実力行使で取り返そうとしたが、人形達は鮭をバスケットボールの要領でみんなでパスを回して、熊に取られないようにした。

 熊は泣きながら右往左往していた。僕は熊に対して、すごく申し訳ないような気持ちになった。「すまん、熊」と心の中でつぶやいた。次の日、僕は熊をその部屋から寝室に移した。


 その後も僕はいろんな物を部屋に置いて、人形達と仲良くなるきっかけをつかもうとした。ざっと紹介すると、こんな感じである。



「お土産でもらったこけし」


 これを置いてみようと思ったのは、人形とかとは違って、こけしには手足がないから動きまわったりしないだろう、と思ったからだ。種類の違う物を置けば不協和音が生まれ、僕の入り込む隙間もできるのではないか、と思ったのだ。しかし、こけしは最初こそ遠慮がちだったものの、すぐにみんなと仲良くなってしまった。



「土偶の置物」


 変わった物を扱う雑貨屋さんで買った。見た目が不気味なので人形達も怖がるかな、と思った。でも、全然怖がらなかった。人形達みんなから時代遅れと馬鹿にされていた。



「スティックのり」


 趣向を変えて、こんな物を置いてみたらどうなるだろうか、と実験的に置いてみたのだが、ただ単に無視されただけだった。



「ペットボトル」


 猫のぬいぐるみがちょっと嫌がった。



「サイコロ」


 人形達みんなでサイコロトークを始めた。と言っても、サイコロはあくまでも普通のサイコロである。サイコロの目にトークテーマが書いてあるわけではない。一の目が出たら数字の一にまつわる話を、二の目が出たら数字の二にまつわる話をするという感じでやっていた。個人的には、リスのぬいぐるみの四の話が面白かった。インディアン人形の三の話は少し泣けた。



「携帯電話」


 スティックのりと一緒で無視されていたが、たまたまメールが来て、携帯がブルルルとなった時は、みんなビクッとなっていた。



「テレビ」


 そう言えばこの部屋にテレビ置いたことなかったなぁ、と思って置いてみた。夜中の三時過ぎ、人形達が動き出すとともに、このテレビも独りでにプチンと電源が点いた。その時、ふと思ったのだが、人形とかが勝手に動き出すのはメルヘンな感じがするのに、テレビの電源が触ってもいないのに勝手に点くと、急にオカルトっぽくなるのはなぜなんだろうか?ちなみに、この時やっていた番組は通販番組で、人形達は何の興味も示さなかった。完全にテレビを無視してみんなでダンスをしていたが、ポーンポーンと音がしてニュース速報が流れた時は、みんなビクッとなっていた。



 ……と、まぁこんな感じで色々試したのだが、彼らと仲良くなるきっかけをつかむことはできなかった。


 僕はこのまま人形達と仲良くなることはできないのかもしれないなぁ、なんて思ったりもするが、もしかしたらという思いも捨て切れずにいる。


 とりあえず僕は今日も散歩をする。今晩、例の部屋に何を置くかを考えながら。


 ああ、そうだ。今日はクリスマスイブだから、クリスマスツリーでも置いてみようかな……。




     -終わり-

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