お化け屋敷
僕の友人にお化け屋敷を経営している人間がいる。
お化け屋敷好きが高じて、半年前に脱サラし、たった一人で都内にお化け屋敷をオープンしてしまったのだ。
遊園地の中などではなく、普通の住宅街のど真ん中でお化け屋敷を経営しようとは、なかなか大胆な男である。
しかし、と言うかやっぱりと言うか、あまり繁盛はしていないそうだ。
その友人から、おまえの意見も参考にしたいから一度遊びに来てくれ、と会うたびに言われていたので、行ってあげることにした。
「おお。来てくれたか」
「ああ。来たよ」
「さっそく入ってくれよ」
「うん。入るよ」
僕は挨拶もそこそこに、お化け屋敷の中に入った。
そして、中をじっくり見てまわってから出てきた。
お化け屋敷の外に出ると、すぐにその友人が話しかけてきた。
「どうだった?」
「人形を使っておどかすよりも、本物の人間がお化けの格好をしておどかした方が怖いんじゃないかな」
「そうかな」
「そう思うよ」
「じゃあ、バイト雇わないといけないな」
「そうだね」
「わかった。考えてみるよ」
「うん。考えてみてよ」
「また来いよ」
「また来るよ」
一ヶ月後、僕はまたお化け屋敷に行った。
「おお、来たか」
「ああ、来たよ」
「まあ、入れよ」
「うん。入るよ」
僕はお化け屋敷の中に入った。そして出てきた。
「どうだった?」
「何でおどかす役の人間がインド人なんだよ」
「バイトに応募してきた人の中に、日本人がいなかったんだよ」
「カタコトでウラメシヤーって言われても、怖くないだろ」
「かえって不気味な感じするだろ」
「しないよ」
「しないか」
「せめて頭には三角の布をつけろよ」
「ターバンじゃだめかな」
「だめだよ」
「わかった。なんとかするよ」
「うん。なんとかしろよ」
「また来いよ」
「また来るよ」
一ヶ月後、僕はまたお化け屋敷に行った。
「おお、来たか。入れよ」
「ああ、来たよ。入るよ」
僕はお化け屋敷の中に入って、出てきた。
「どうだった?」
「どうもこうもないよ」
「ちゃんとみんな日本人だっただろ」
「何で全員、子泣きジジイの格好なんだよ」
「俺、子泣きジジイ好きなんだよ」
「最初から最後まで、子泣きジジイしか出てこないじゃんかよ」
「だめかな、やっぱり」
「だめだよ、もちろん」
「じゃ、変えるよ」
「うん。変えろよ」
「また来いよ」
「また来るよ」
一ヶ月後、僕はまたお化け屋敷に行った。
「来たか。入れよ」
「来たよ。入るよ」
僕は中に入って、出た。
「良かっただろ?」
「良くないよ」
「もう、直すとこないだろ」
「BGMがおかしいよ」
「何がおかしいんだよ」
「何でロッキーのテーマなんだよ」
「好きなんだよ」
「もっとおどろおどろしくて、先に進むのが怖くなるようなBGMにしろよ」
「ロッキーのテーマじゃ、進むのが怖くならないかな?」
「勇気が湧いてきて、どんどん進めるよ」
「そうかな」
「そうだよ」
「直すよ」
「直せよ」
「また来いよ」
「また来るよ」
一ヶ月後、僕はまたお化け屋敷に行った。
「来たよ。入るよ」
入って、出た。
「今度こそ完璧だろ?」
「最初より悪くなってるよ」
「どこがだよ」
「何でお化けの格好をせずに、普通の格好をした人間しか出てこないんだよ」
「それが狙いだよ」
「どんな狙いだよ」
「結局、世の中で一番怖いのは人間だ、っていうことだよ」
「そんな屁理屈言ってないで、お化け屋敷だったらお化け出せよ」
「お化けの格好をして、ウラメシヤーって言うのだけがお化け屋敷じゃないと思うんだよ」
「普通の人間の格好をして、幸運を招く石を買いませんか?絶対儲かるから一口のりませんか?とか言うのもお化け屋敷じゃないだろ」
「でも、そういうのって、実際怖いだろ?」
「そういう怖さは求めてないんだよ」
「世間の常識よりも、一歩先を行きたいんだよ」
「あさっての方に行ってるよ」
「そうかな」
「そうだよ」
「だめかな」
「だめだよ」
「直すよ」
「直せよ」
「また来いよ」
「もういいよ」
僕はそれきりそのお化け屋敷に二度と行かなかった。
-終わりー