蓋は閉じられる〈2〉
物語は、曖昧模糊な史。
奇奇怪怪な現象、異質な場所を経たてた作蔵は、ひとつの“象り”に遭遇した。
じっとして、じろりと。呼びかけて反応がない“象り”に、作蔵は掌を翳して“鑑定の術”を発動させた。
“象り”は“器”だ。しかも“芯”が切り離されての。何故、此処に。いや、経緯を探るより、先ずはーー。
肩に掛ける襷の結び目を解き、端を握りしめながら宙を仰ぐ
ーーひっ、ひっ、ひっ……。
“声”が、不気味な笑みを溢している。作蔵は襷の端を強く掴んで振り上げ、布を真っ直ぐに張る。
ーーひっ、ひっ、ひっ。感づかれた、しかし避けたぞい。
「……。あんたは“幻”だった。この“器”で、あんたは何をしていたっ」
ーーひっ、ひっ、ひっ。野暮なことを訊くのう……。
右に、左に。前方、後方と、作蔵は襷を振りかざしていた。
「おまえのように“幻”は“器”を持たない。……。って、訊かれたことに応じろっ」
ーー往生際悪いのう。その“器”に蓋をされてしまってのう、入り込めなくなった。では、手段を、と、おまえを此処に誘き寄せることにした。おまえなら、蓋を開けると、な。だが、のう。それをしなくても、手っ取り早く“器”を獲られるのがわかったのだよ……。作蔵、おまえの“器”を、わしが貰えばいいと、な。
「は。俺のを、か。思い付きにも、反吐がでるっ」
作蔵は、眉を吊り上げた。
“幻”は“芯”が抜かれた“器”に寄生する。この話しを聞く限り、何かしらの状況によって“器”から弾かれた。
“器”に蓋をされた……。妙に引っ掛かる、それだと“器”の監視が存在しているのだと、言っているようなものだ。
ーーどうした、どうした。さあ、どうする。
「わかった。あんたの言う通りにしよう」と、作蔵は防御の動きを止めて、襷を腰に巻き付けた。そして、ぎゅっと、端を結ぶ。
ーーそうか、そうだろう。疲れたのだろう、疲れた、だよな。
作蔵によって感知された“幻”は、勝ち誇っているかのように嘲笑った。
「ああ、そうだ。さっさと、入ってこい」
ーーひっ、ひっ、ひっ。随分と、急かしているのう。どれ、どれ……。疲れている“芯”は、どうってことない。入り込んでから、追い出しをすればいいだけだ。
作蔵は、身体に衝撃を覚える。この身体に、この“器”に“幻”が入り込んだのだと、作蔵は自覚した。
『ふう、被り具合は窮屈で重いが“器”に慣れるまで辛抱するしかない。……。は、はあ。なんだ、腰に布がきつく絞めて……。おや、さらにきつくなったぞ』
作蔵の中で“幻”は苦しがっていた。
それは、このことによるものであった。
“幻”は、作蔵の“芯”が“器”に留まっていた状態であったにも関わらず行動を起こした。事の後先を軽く判断しての行動をとった。また、作蔵が段取りをしていたことに、気付いていなかった。そう、作蔵は腰に襷を絞めていた。作蔵は、襷に“通力”の効力を混ませていた。
象りがない“幻”を、抑え込む為に。無謀ともいえる決断だったが、決行に至った。そして、結果を証明させた。
“器”ごと“幻”を取り押さえる。作蔵は、自身である“芯”で襷に移り“封じ”の通力を発動させた。
「けっ、ざまあみろ」
“芯”は、作蔵は“器”に戻った。襷を腰から解き、野次を突いた。
『ぐぬぬ、小癪な。小細工を、施しやがっていた。あの瞬間で、何故だ』
“幻”は象っていた。作蔵の襷に封じられて、象りをしていた。
「どうした、念願だった“器”を得たのだぞ。ちっとは喜べっ」
『大馬鹿者っ。この質感は……。うぎゃあ、絞るなっ』
作蔵は“襷”を折り畳み、ぎゅっと、捻じった。すると“襷”は、痛がった。
「そうか、切り刻まれたい、か。え、燃やされたい」
『どっちも、望んでないっ』
「とっとと、言えっ。おまえが“器”にしていた、其処で寝ている『婆ちゃん』を、何処でかっさらったかを、だっ」
作蔵は、前掛けのポケットからマッチ箱を抜きとって、片手でぶら下げる“襷”に突き付けるをした。
『おまえが経由した【夢幻集落】で、だ。その“芯”は……。どうしていたかは、おまえがよく、知っていただろう』
作蔵は「はっ」と、した。
「……。どっちみち、おまえが俺を此処に誘き寄せたのには変わらない」
『気をすり替えるな。おまえには、事実を受け入れるという、選択をするしかないーー』
“襷”は、張りを失う。襷に“幻”は同化したと、作蔵は布をだらりと、掌の上で、していた。
「伊和奈……。」
作蔵は、静かに呟いたーー。




