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史、蓋は開かれる   作者: 鈴藤美咲
走る袢纏
22/23

蓋は閉じられる〈2〉

 物語は、曖昧模糊な史。


 奇奇怪怪な現象、異質な場所を経たてた作蔵は、ひとつの“象り”に遭遇した。

 じっとして、じろりと。呼びかけて反応がない“象り”に、作蔵は掌を翳して“鑑定の術”を発動させた。


 “象り”は“器”だ。しかも“芯”が切り離されての。何故、此処に。いや、経緯を探るより、先ずはーー。


 肩に掛ける襷の結び目を解き、端を握りしめながら宙を仰ぐ


 ーーひっ、ひっ、ひっ……。


 “声”が、不気味な笑みを溢している。作蔵は襷の端を強く掴んで振り上げ、布を真っ直ぐに張る。


 ーーひっ、ひっ、ひっ。感づかれた、しかし避けたぞい。


「……。あんたは“幻”だった。この“器”で、あんたは何をしていたっ」


 ーーひっ、ひっ、ひっ。野暮なことを訊くのう……。


 右に、左に。前方、後方と、作蔵は襷を振りかざしていた。

「おまえのように“幻”は“器”を持たない。……。って、訊かれたことに応じろっ」


 ーー往生際悪いのう。その“器”に蓋をされてしまってのう、入り込めなくなった。では、手段を、と、おまえを此処に誘き寄せることにした。おまえなら、蓋を開けると、な。だが、のう。それをしなくても、手っ取り早く“器”を獲られるのがわかったのだよ……。作蔵、おまえの“器”を、わしが貰えばいいと、な。


「は。()()を、か。思い付きにも、反吐がでるっ」

 作蔵は、眉を吊り上げた。


 “幻”は“芯”が抜かれた“器”に寄生する。この話しを聞く限り、何かしらの状況によって“器”から弾かれた。

 “器”に蓋をされた……。妙に引っ掛かる、それだと“器”の監視が存在しているのだと、言っているようなものだ。


 ーーどうした、どうした。さあ、どうする。


「わかった。あんたの言う通りにしよう」と、作蔵は防御の動きを止めて、襷を腰に巻き付けた。そして、ぎゅっと、端を結ぶ。


 ーーそうか、そうだろう。疲れたのだろう、疲れた、だよな。


 作蔵によって感知された“幻”は、勝ち誇っているかのように嘲笑った。


「ああ、そうだ。さっさと、入ってこい」


 ーーひっ、ひっ、ひっ。随分と、急かしているのう。どれ、どれ……。疲れている“芯”は、どうってことない。入り込んでから、追い出しをすればいいだけだ。


 作蔵は、身体に衝撃を覚える。この身体に、この“器”に“幻”が入り込んだのだと、作蔵は自覚した。


『ふう、被り具合は窮屈で重いが“器”に慣れるまで辛抱するしかない。……。は、はあ。なんだ、腰に布がきつく絞めて……。おや、さらにきつくなったぞ』

 作蔵の中で“幻”は苦しがっていた。


 それは、このことによるものであった。


 “幻”は、作蔵の“芯”が“器”に留まっていた状態であったにも関わらず行動を起こした。事の後先を軽く判断しての行動をとった。また、作蔵が段取りをしていたことに、気付いていなかった。そう、作蔵は腰に襷を絞めていた。作蔵は、襷に“通力”の効力を混ませていた。

 象りがない“幻”を、抑え込む為に。無謀ともいえる決断だったが、決行に至った。そして、結果を証明させた。


 “器”ごと“幻”を取り押さえる。作蔵は、自身である“芯”で襷に移り“封じ”の通力を発動させた。


「けっ、ざまあみろ」

 “芯”は、作蔵は“器”に戻った。襷を腰から解き、野次を突いた。


『ぐぬぬ、小癪な。小細工を、施しやがっていた。あの瞬間で、何故だ』

 “幻”は象っていた。作蔵の襷に封じられて、象りをしていた。


「どうした、念願だった“器”を得たのだぞ。ちっとは喜べっ」

『大馬鹿者っ。この質感は……。うぎゃあ、絞るなっ』

 作蔵は“襷”を折り畳み、ぎゅっと、捻じった。すると“襷”は、痛がった。


「そうか、切り刻まれたい、か。え、燃やされたい」

『どっちも、望んでないっ』

「とっとと、言えっ。おまえが“器”にしていた、其処で寝ている『婆ちゃん』を、何処でかっさらったかを、だっ」

 作蔵は、前掛けのポケットからマッチ箱を抜きとって、片手でぶら下げる“襷”に突き付けるをした。


『おまえが経由した【夢幻集落】で、だ。その“芯”は……。どうしていたかは、おまえがよく、知っていただろう』


 作蔵は「はっ」と、した。


「……。どっちみち、おまえが俺を此処に誘き寄せたのには変わらない」

『気をすり替えるな。おまえには、事実を受け入れるという、選択をするしかないーー』


 “襷”は、張りを失う。襷に“幻”は同化したと、作蔵は布をだらりと、掌の上で、していた。



「伊和奈……。」


 作蔵は、静かに呟いたーー。



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