コント「よく喋るタクシー運転手」
コント「よく喋るタクシー運転手」
ボケ……運転手 ツッコミ……お客
以下、ボケを運、ツッコミを客と略させていただきます。
客「あー、急がないと次の仕事間に合わないな。早く来ないかなタクシー。あ、来た来た! ヘイ! タクシー!」
運「(口でブレーキ音)キキィーーッ! おい! どこ見て歩いてんだよ!」
客「えぇっ!? 普通に道にいただけですけど?」
運「ガンつてくるから、てっきり喧嘩かと」
客「いやいや、タクシー止めてただけですから」
運「なんだ、もしかしてお客さん?」
客「そうですけど……それ以外あります?」
運「あぁ、なんだお客さんか! すみません! お客には優しいんですよ、私。どうぞどうぞ」
客「すげぇ裏の顔がある運転手だな。でも早く行かないと間に合わないからな……次のタクシーなんて待ってられないし、乗るか」
運「あれっ、もしかしてお客さん、急いでるんですか?」
客「やだな、聞こえちゃってましたか。そうなんです、だいぶ急いでるんですよ」
運「分かりました! 飛ばしましょう! 前の車を追えばいいんですね?」
客「全然違いますけど!?」
運「一度やってみたかったんだよなー。運転手の憧れですからね!」
客「あの、聞いてます? 普通に新宿に行って欲しいんですけど?」
運「チッ……なんだよ、新宿か。その距離なら歩けや」
客「えっ!? 今なんか言いました!?」
運「いえいえ、何でもないです。そっちの話ですよ」
客「そっちじゃ僕の方になりますけど? それを言うなら、こっちでしょ!」
運「まぁまぁ。そっちとか、こっちとか、これ以上は水掛け論ですから。この辺でやめときましょう!」
客「なんなんだ……この人……」
運「とにかく、私に任せてください! これでも私、優良ドライバーなんですよ? いっつも大会で一位なんですから」
客「へぇー意外ですね。大会って、運転手同士で競うコンテストみたいなのがあるんですか?」
運「いや、ゲーセンのレーシングゲームなんですけどね」
客「ゲームの話かい!」
運「だいたい私、二周目まで最下位なんですよ。それでね、ラスト一周で一気に逆転するんですよ!」
客「それ絶対有利なアイテムのおかげじゃないですか! ちゃんとドライビングテクニックで勝ってくださいよ!」
運「まぁ見ててくださいよ! 確実に前の車に命中させてやりますからね!」
客「何の話してます? ゲームの話ですよね? 今は変なことやめてくださいね! ったく……本当に大丈夫かな、この運転手……」
少しの間、沈黙。
運「お客さん、何か音楽でも聴きます?」
客「あぁ……そうですね。何の曲があるんですか?」
運「色々用意してはいますけど、洋楽は勘弁してくださいよ。私、英語喋れないんで」
客「えっ? 英語喋れるかどうかって関係あります、それ?」
運「ありますよー。英語だと私が歌えないじゃないですか! レパートリーにないですもん!」
客「運転手さんが歌う予定だったの? それなら元々いらないです!」
運「えー、もったいないなぁ。私、あれですよ。昔、のど自慢の予選出たことあるんですよ!?」
客「予選って、落ちてるじゃないですか! そんなの自慢しないでくださいよ」
客、目を瞑り小声で話す。
客「だめだ……この人の相手すると疲れる……寝よう。もう関わるのやめとこう」
運「そういえばお客さん、何のお仕事されてるんですか?」
客「…………」
運「お客さん? ねえ、お客さん! しっかりしてください!(イスを叩きながら大声で) お客さん!!」
客「うるさいな! 寝ようとしてるんですよ!」
運「あーびっくりした!」
客「びっくりしたのはこっちだよ!」
運「えっ? そっち? こっち?」
客「どっちでもいいよ! 何で寝ようとしてるのに起こすんですか!」
運「あぁ、そうだったんですね。お客さんてっきり、後ろでポックリ逝っちゃったのかと思っちゃいまして」
客「そんなわけないでしょ!」
運「ほら、死体の後始末とかって大変そうじゃないですか。幽霊とかも出そうだし」
客「まず客の容態の心配してくださいよ! あとの話なんかより大事なことあるでしょ!」
運「それに、寝るなら言ってくれればよかったのに。ちゃんとありますよ。寝かしつけ用のレパートリーは!」
客「それがいらないんです! あなたのカラオケはいいですから! もう……イライラする運転手だな……」
運「そうカッカしないでください。お客さん、まだ気づいてないみたいですね。まんまと私のペースに乗せられてることを」
客「えっ? どういう意味です?」
運「私、タクシー内での沈黙が嫌いでね。ついつい話し込んじゃうんですよ。でも、そうやって話してれば、目的地なんてあっという間でしょ?」
客「あぁ……確かに。正直イラつきはしましたけど、退屈ではなかったかも」
運「でしょー? ってことで、はい、着きましたよ。目的地」
客「もう着いたんですか? これはやられましたね! 運転手さんの話術にやられて……あれっ……ここ本当に新宿ですか?」
運「新宿? 前の車がここで降りたんですけど。追ってたんでしょ?」
客「ずっと前の車追ってたんかい! もうやめてーー」