第2話「ニ月前のこと」〜突然の婚約破棄〜
私、リーゼラはカストランド公爵の一人娘だった。
実の母は私が6歳の頃に亡くなり、7歳の時に義母であるマクダと義姉のマヌエラがやってきた。
亡き母によく似ていた私は、義母に事あるごとに辛く当たられ、それに倣って、義姉や使用人たちも私を雑に扱うようになった。
頼みの父も義母には逆らえず、まるで私がそこに存在していないかのように振る舞っていた。
義姉のマヌエラが行った失敗はすべて私のせいにされ、その度に鞭で打たれた。
口答えは許されず、私が助けを求められる相手は誰もいなかった。
そんな私にも幼い頃に両家で取り決められた婚約者がいたのだが、なんとその男がよりにもよって、義姉のマヌエラと只ならぬ仲になってしまい、ついニ月前にマヌエラを伴って婚約破棄を申し出てきたのだった。
相手は伯爵家の嫡男、ラッツである。
ーードンッ!!
「ハッキリ言って、僕と君とでは釣り合わない!!」
それは、とある夜会でのこと。
公衆の面前で近くのテーブルを叩き、周りに聞こえるような大声で話し始めたのだ。
「公爵家だからとずっと我慢していたが、君の見た目はあまりに酷すぎる!!身体は痩せこけ、色は浅黒く、髪は白髪で艶のカケラもない!まるで老婆のようだ!その上ドレスはいつも同じ物を着回しているし、長く伸びた前髪は不潔この上ない!そんな公爵令嬢がどこにいるというのだ!!」
「その点マヌエラは、同じ姉妹でも、いつも身綺麗にしていて、肌も髪も美しく、公爵令嬢として申し分ない相手だ」
そう言って隣にいるマヌエラの肩を抱く。
「あら、そんな本当のことを言っては、リーゼラが可哀想だわ〜!」
手入れされた綺麗なブロンズの髪に胸の開いた真っ赤なドレスを着たマヌエラは、憐れみの言葉とは裏腹に意地の悪い笑みを隠そうともせずに高笑いしていた。
「これ以上、君と婚約関係を続けていれば、僕まで何を言われるか分かったものではない!よって、今日限りで君との婚約を破棄させてもらう!!!」
昨日から考えていたのか、スラスラと決め台詞を吐き、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
ーー正直言ってリーゼラはショックだった。
マヌエラとラッツが只ならぬ関係だというのは、薄々感じていたし、いつかこういう日が来るのではないかと予想してはいた。
美しい金色の髪をサラサラとなびかせ、緑色の目をしたラッツは、妖艶な美しさをもつマヌエラと二人で並ぶと、絵のように美しかった。
でも、こんな貴族が多く集う夜会の場で、自分の容姿を全否定され、挙げ句に婚約破棄を叩きつけられるなんて、なけなしのプライドが傷付き、ない胸が痛んだ。
ただでさえ、婚約解消ならぬ婚約破棄では、傷物令嬢として、その後の嫁ぎ先がなくなると言われているのに、こうまでされては、永久的に社交界を追放されたと言っても過言ではない。
ラッツはそこまで分かって、このような言動をしているのだろうか。
ーーきっと、マヌエラは分かっているだろう。
そう考えたら、静かな怒りが込み上げてきた。
「……分かりました。今までお世話になりました。」
私はあまり冷静ではない状態で、婚約破棄を受け入れ、その場を後にした。
ーーー薄暗い地下牢の中で、まだ古くない記憶を思い出しながら、1人で苦笑いした。
「その後、まさかニ月もしないで公爵家に嫁ぐことになるなんて…」
おまけに、いきなり地下牢に放り込まれるとは…
人生とは何があるか分からないものである。
ローデリヒ次回登場は12話になります、それまで少々お待ちください。




