第13話「地下牢での生活 4日目〜最大の危機その②〜」
ーーー翌日、リーゼラは一睡もすることなく朝を迎えた。
地下牢に入れられてから、4日目が経とうとしていた。
眠いのに眠れない頭の重さと、昨日の心身の疲れで、全身が泥を被ったように重い…
なんとか身支度を済ませるも、豪華な朝食を前にいつもの食欲が湧かず、一人掛けのソファにもたれかかってしばらく呆けていた。
ーーー
しばらくすると、聞き慣れた足音を聞きつけ、リーゼラはソファから飛び上がって鉄格子に駆け寄った。
「フォルカー様!!」
無事だったのね…!
本当によかった……!!
リーゼラは彼の姿を見て、心の底から安堵するも、すぐに近付いてくる彼の異変に気付いた。
「フォルカー様…そのお顔は一体……!」
「やあ!リーゼラ嬢!今日もご機嫌いかがかな?」
いつもと変わらない口調で、片手を上げて爽やかに挨拶してくるフォルカーだが、左側の顔が異常に腫れ上がっている。
「…もしかして…ローデリヒ閣下でしょうか…?」
もしかしなくても、十中八九そうだろう。
その問いに、フォルカーは嬉しくて仕方がないという様子で答える。
「もちろんそうさ!義兄上の熱い拳を受けた後に、君を連れ出したことを叱られてしまったよ!もうそんな自分を危険に晒すような真似はしてくれるなってねっ!!」
…驚いた。
昨日の様子から、ローデリヒは、人を人とは思わぬタイプのサディストなのかと思ったのだが、こと身内に対しては違うようだ。
もちろん、フォルカーが言葉を歪曲して話していなければの話だが…
「それにしても、君も昨日は相当危ない状況だったみたいだね。」
そう言って、リーゼラの首元に視線を寄せる。
昨日ローデリヒに絞められた手の跡が、ドレスの首襟の上からでも分かるくらい赤い痣となっている…。
昨日のそれを思い出そうとするだけでも、身体がぶるっと震えて拒否反応を示した。
改めてとんでもない相手の元に嫁いできてしまったと心が項垂れる。
「…でもとにかく、フォルカー様がご無事で何よりでしたわ…」
「君こそね!逆上した義兄上は何をするか分からなかったから、生きていて本当によかったよ!」
えぇ、本当に…
「さて、今日はそろそろ帰るね!昨日義兄上にも、二度とここには近寄らないようにって、釘を刺されたばかりだからさ!」
……えぇっ!?
それって見つかったら大変なのでは…!?
昨日どころの騒ぎでは済まないのでは…!!!?
驚いて開いた口が塞がらない…
あまりの衝撃発言に、表情管理もままならない。
このフォルカーという男、見かけに寄らずかなり肝が据わっているようだ…
伊達にローデリヒの義兄弟ではない。
リーゼラは、そんなフォルカーのいつもと変わらない笑顔に、心の底で恐れ慄いた。
ーーー
1人になった後は、顔を洗うのに使った桶と水を片付けずに取っておいてもらい、そこでシーツを手洗いした。
日が当たらないので、寝るまでに乾くかは分からなかったが、ずっと埃っぽいままなのも嫌だった。
それに、手を動かしていた方が、余計なことを思い出さずに済む…
昼食の後には、本を読みながら、ようやく訪れた眠気にうつらうつらしていると、
今日はいつもと違い、15時の頃にいつもの見張りが「フォルカー様の差し入れです」とカップケーキと紅茶を持ってきた。
フォルカー様が…?
先ほどは何もおっしゃっていなかったけど、地下牢に近付かないというローデリヒ閣下とのお約束を守られてのことなのかしら…
この差し入れは、地下牢でもティータイムをというフォルカー様のお心遣いなのかしら…、それならば有り難くいただきましょう。
眠い頭を起こして、ティーセットをテーブルに置き、蜂蜜がたっぷりと塗られたカップケーキを一口、口に入れた瞬間、全身に衝撃が走る。
「……っ!!!」
ーーこれは毒だ……っ!!!!
そう気付いて、反射的に口の中のものをすべて吐き出す。
すぐに、口の中に痺れが広がり、目がチカチカし出して視界が霞む。
私は水桶があった方角を目指して走り出し、手で桶の場所を確かめながら勢いよくそこに顔を突っ込み、口の中を濯いだ。
そして大声で見張りを呼んだ!!
見張りらしき男の足音が近付いてくるのを確認し、ホッと息をつく。
段々周りの物音が遠くなり、リーゼラはそのまま意識を失った…
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