第10話「地下牢での生活 3日目②」
「こっ…ここを出っ!?」
「しっ!!!」
思わず動揺して、大きな声を出してしまった。
だって、三日前には「逃すことはできない」っておっしゃっていたじゃないですか…
私自身、実際にローデリヒと対面して、ここから逃げたら命がないであろうことは瞬時に理解できた。
フォルカーは私の意を汲むように頷き、鉄格子越しに小声で囁く。
「でも明日もし、うちの領の裁判所に連れて行かれることになったとしたら、その後は拘置所に監禁されて、もう逃げる事は不可能だと思うよ?」
「それはそうですが…例え私一人で逃げおおせたとしても、フォルカー様にもあらぬ疑いがかかり、責任が及ぶ可能性があります。」
「そうだろうねぇ。現にこうやって君を唆しているのは僕の方だし?」
くつくつと小さな声で笑う。
自分の命がかかっているというのに、どこか他人事のように笑っているフォルカーは少し不気味に見えた。
「まあ、僕のことなんてどうだっていいんだよ。義兄上の視界にいつだって僕は入っていないんだから。」
いつもの笑顔に影が差す。
…ローデリヒ閣下の自分への愛情を試しているのだわ…
義兄への愛情が、悲惨な幼少期の中で
歪に歪んでしまったに違いない。
それが与えられなければ死んでもいいと思うくらいに…
フォルカーの目は本気だった。
それを見て、リーゼラも覚悟を決めた。
「…分かりました。でもお世話になったフォルカー様にご迷惑はおかけしたくありませんので、あくまで、これは私が独断で行ったこととさせてください。」
決意を固めた思いを汲み取って、フォルカーはあっさりそれを受け入れてくれた。
彼のこちらの意図を汲む能力はさすがと言える。
「そうと決まれば、早速この牢の鍵を借りてくるね!」
どうやってだろうという疑問は浮かんだが、そこは敢えて聞き流し、代わりに優雅に微笑んで答えた。
「その心配には及びません。」
リーゼラは立ち上がると、本から細長い針金を取り出し、それを使ってあっという間に鉄格子の鍵を開けてしまった。
その様子に、さすがのフォルカーも言葉が出て来なかったようだ。
「………え、何そのワザ?まさか君、いつでもここ出られたってこと?」
「ええ、まあ…」
リーゼラは少し照れたような笑みを浮かべて答える。
と言っても隠れた前髪で、相手に表情は見えないのだが。
「っていうか、その針金どこから出てきたの!?」
この針金は元々本を製本する際に使われていた物だ。
リーゼラが見つけた時には、既に本から抜き取られていた状態になっていたのだが。
恐らく「前の人物」もこの針金を使ったか、使おうとしたかしたのだろう。
その存在に気付いた時、尚の事この前の住人への興味が膨らんだ。
呆気にとられて呆然としているフォルカーをよそに、リーゼラはそそくさと置き手紙を用意して、テーブルに置いておく。
『このまま死ぬのは嫌なので、失踪した使用人を探しに行って参ります。夕方には戻ります。リーゼラ』
「バカなの!?君は!!」
思わず盛大に罵倒される。
おほほ、フォルカー様、言葉が崩れておりますわよ。
例え逃げ出したとしても、ちゃんと戻ってくるなら、フォルカーに責任が及ぶこともないだろうと考えたのだ。
及ばないわよね…?
及びませんように…
まあ、後は天に任せましょう…
そう願って、私はフォルカーと共に地下牢を出た…
お読みいただきありがとうございます!




