表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超絶勇者ブレイブマン  作者: タチバナ
捨て猫編
9/57

9.交番にて

 こういうときの勇気くんは理路整然として饒舌だ。理屈っぽいと言われることもあるみたいだけど、彼は曲がったことが許せないだけなのだ。

 小学校のクラスでいじめが発覚したとき、言葉だけで上手く責め立てていじめっ子に謝罪させたこともあったっけ。

 やっぱり彼は私にとってはそんなヒーローなのだ。そして、考えるより前に行動してしまう私は彼と同じようにはなれないなと思う。

 私は可恋ちゃんとオセロのように勇気くんを挟む形で交番の椅子に座り、勇気くんを横目に見ながらそんな風にかっこいいなと思っていた。

 こんなこと、本人に言うのはさすがに照れ臭いけれど、私は彼のそういうところが好きなのだ。


「つまりその猫を怪我させた犯人を見つけたい、……ということですか?」

 勇気くんの話を聞き終えると、若いお巡りさんは苦慮するかのような声色でそう言った。それは私たちに不審感を抱いたと言うよりも、どうするのがいいのか分からず困っているといった様子だった。

「はい、何か心当たりはありませんか?」と勇気くんが訊ねる。私はここまでただその様子を眺めているだけだったが初めて口を挟んだ。

「私からもお願いします。別にその犯人に何か悪いことをしようってわけじゃないんです」

 そして可恋ちゃんが付け加えるように言う。

「お願いします」

「うーん……」

 お巡りさんは難しい顔をしながら腕組みをする。そして天井を見上げて考え込んだあと、こう言った。

「話は分かりました。確かに警察官として見過ごすわけにはいかない事件ではあります。

 しかし、我々はなんの証拠もなく市民を疑うようなことを言うわけにはいきません。

 情報提供には感謝します。この付近を警戒しパトロールして、怪しい人物がいれば聞き込みをしましょう。あとは我々にお任せください」

 お巡りさんはそんな風に話を切り上げて、私たちを帰らせようとしたが、勇気くんはなおも食い下がった。

「心当たりがあるかないかだけでも教えていただくわけにはいきませんか?

 そうこうしているうちに次の被害が出るかもしれません。

 それを未然に防ぐのも警察の役目なんじゃないですか? もしかしたら次は猫じゃなくて人間が狙われるかも……」

 最後はもはや脅迫だ。『もしそうなったとき警察として責任を取れるんですか?』と。

 勇気くんはただ無言で、そう目で訴えかけていた。……実際のところはどうだろう。

 もしも犯人が勇気くんの想像する通り子供だったなら、きっと自分がしでかしてしまったことに後悔をしたはずだ。

 もちろん罪悪感も何もない子供だったなら分からない。だけど、彼(あるいは彼女?)は怪我をさせてしまった子猫のために間接的にでも「たすけてください」と訴えることができる子なんだ。

 だから、きっともう二度と同じことは繰り返さない。そう思う。でも、そうとは言い切れなかった。

 しばらくしてほとぼりが冷めれば、また同じようなことが起きるかもしれない。今度は取り返しがつかないことになるかも。だから勇気くんの言うことにも一理あった。


「ですから、そうはならないように我々が、」

「あの!」

 そこで可恋ちゃんが大声で割り込む。そして、少し語気を強めて言った。

「私たち、お巡りさんが何を言おうと言わなかろうと、その犯人を捜します。たった今、そう決めました。

 だから、その、私は勇気くんみたいに上手く言えないけど、知ってることがあるなら教えて欲しいです。お願いします……」

 彼女はそう言って深く頭を下げた。……私はそんな可恋ちゃんを初めて見たかもしれない。普段は大人しい可恋ちゃんにそんな強さがあったなんて、正直驚いた。

 そして何故か悔しかった。私は可恋ちゃんの一番の親友で、誰よりも彼女のことを分かっているつもりでいた。だけど、本当は全然何も分かってないのかもしれない。

 誰よりも大好きで誰よりも大切な可恋ちゃんの中に、私の知らない可恋ちゃんがいるんだ。そう思ったら、急に胸の奥がきゅっと締め付けられるような感じがした。

 どうしてこんな気持ちになるのか自分でもよく分からなかった。――あるいは私は、私の知らない可恋ちゃんを知っている可恋ちゃん自身に嫉妬しているのかもしれなかった。


 それからお巡りさんはしばらく黙っていたけれど、やがて小さく息を吐いて言った。

「……分かりました。ただし、私はただ知っていることを話すだけです。いいですね?」

「はい! ありがとうございます!」

 私たち3人はそろって頭を下げた。そしてお巡りさんはもう一度ため息をつくと、語り始めた。

「まず最初に断っておきたいのですが、私は先ほど君たちが言ったような猫を傷つけた犯人を知っているわけではありません。

 ……ただパトロール中に、3人組の子供を何度か見かけたことがあります。君たちよりももっと小さい小学校高学年くらいの男の子たちです。

 そして、あるときその中のひとりの、中心となっている男の子がふたりに囲まれてエアガンで空き缶を撃って遊んでいるのを見て、私は声を掛けました。

 『エアガンは絶対に生き物には向けないようにして、気を付けて遊ぶんだよ』と。そのとき、その男の子は『分かってるって』と元気よく応えてくれたので、その子が犯人だとは思いたくはありませんが……。

 しかし、もしかしたら、たまたま狙いが外れて、近くにいた猫にエアガンの弾が当たってしまったということも、あり得ない話ではないでしょう……」

「その子供たちは一体どこで遊んでいたんですか?」

 お巡りさんはそこで口を噤みかけたが、間髪入れずに勇気くんは追及を続けた。

 曖昧な言い方でぼやかすことを一切許さないつもりらしかった。まるで犯人を問い詰めてるかのようだ。私は正直これじゃどちらが警察なのか分からないなと心の中で苦笑した。

「この近くの公園です。ここから10分ほど南に歩いた先の、ブランコや滑り台がある児童公園です。

 ご存じですか? 必要であれば地図を用意しましょう」

「いえ、大丈夫です。そこなら僕も知っています。愛ちゃんや可恋ちゃんともよく小さい頃遊びに行ってたよね?」

「あ、うん。さすがにもう最近は公園で遊ぶことってあんまりないけど……」


 私はそう言ったけれど、昔はよくその公園で3人で一緒にヒーローごっこをして遊んでたっけ。

 あの公園なら結構広いから、思いっ切り身体を動かすには最適なのだ。エアガンで遊ぶにしてもいい場所だろう。

 それに確かにあそこなら多くの子供が集まるだろうし、その3人組がいなかったとしても行ってみる価値はありそうだった。

「……それでもし何かわかったことがあれば、伝えに来てください。

 場合によっては我々も何か対応をしなくてはいけませんから」

「はい、分かりました」

 勇気くんがそう応えると、私たちはもう一度お巡りさんにお礼を言って交番を出た。ずいぶんと話し込んでしまったような気もするけれど、時間にすれば10分程度のことだった。

 今ならまだ子供たちも外で遊んでいる時間だ。それにちょうど雨が上がったばかりで、遊びたい盛りの子供たちは家から飛び出して公園に集まっているかもしれない。

「それじゃあ早速行こうか」と勇気くんが決意を込めて言った。

 どこへ? なんてとぼけた返事はもちろん言わない。私と可恋ちゃんは同時に頷いた。

 そうでなければ、わざわざ交番まで出向いてお巡りさんに話を聞いた意味がない。私たち3人は、そろって南のほうへと歩き出した。――行こう、公園へ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ