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超絶勇者ブレイブマン  作者: タチバナ
捨て猫編
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6.河合可恋の驚愕

「はいよっと。これでよし!」

 しばらくして機嫌を直した愛は猫をタオルできれいに拭いてドライヤーで乾かした。

 その際にも猫は嫌がる素振りも見せず実に素直であった。

 まだ子猫だからこそ大人しいのだろうか。しかし、人間に怪我をさせられたのであれば、人間を恐れていても不思議ではなさそうなものだ。

 いや、あるいは人間に怪我をさせられたということすら認識していないのかもしれない。この子猫はまだ恐れや怯えといった感情を知らないのだ。


「ほら、勇気くんもこっちおいで。髪の毛拭いてあげるからさ」

「いや、いいよ……。別に自分で拭けるしさ」

「もー、まだ怒ってんの? 謝ってるじゃん」

「そういうわけじゃないけど、……あれ、謝ったっけ!? 謝られてないよ!?」

「そうだっけ? それじゃあ、ごめんなさい」

「そっちこそまだなんか怒ってんの……? よくわかんないけど、だったら俺も謝るけど」

「別に怒ってないですー」


 そんな言い合いもただのじゃれ合いだ。別に喧嘩をしているわけではない。

 幼馴染で気心が知れているからこそのじゃれ合いなのだ。その証拠にふたりは顔を見合わせるとお互いにくすりと笑い合った。

 そんなとき居間から勇気の母、真実の声がしてきた。

「ふたりともー、そろそろご飯にする? もう冷めちゃってるから温め直しておいたわよー」

「……だってさ。じゃあほら、これタオル。というか、着替えなくて大丈夫?」

「まあ、いいよ。実際のところ、そんなに濡れてないし、ご飯食べて愛ちゃんが帰ったらすぐお風呂に入るからさ」

「そっか」

 そうして勇気は髪を拭き終わると猫を抱いて、愛とともに真実の待つ居間へ向かった。

「はいどうぞ。今、お茶を入れるわね」

「ありがとうございます、おばさま」

「いただきます」


 いつものようにふたり揃って手を合わせて食事を始める。真実はその横で腰を落として猫の様子を見ながら、お椀に盛り付けられたねこまんまを与えているようだった。

 猫は少しずつだがその空腹を満たしている様子だった。そこで愛は目線を落として猫のほうを見ながら思い出したかのように言う。

「そうだ、食べながらでお行儀悪いんだけどさ、ちょっと電話していい? 可恋ちゃんに」

「可恋ちゃん? 別にいいけど」

「やっぱりさ、この子の飼い主を探すなら可恋ちゃんに相談したほうがいいと思うんだよね。

 ほら、可恋ちゃんのうちって前にも猫飼ってたじゃん? 押し付けるみたいで悪いけど、それが一番いいんじゃないかな」

「うーん、まあなんにしても一度話だけはしておいたほうがいいかもね」

 勇気がそう返すと、愛は一旦食事をやめて可恋に電話をかける。猫のことはとりあえず伏せて勇気の家に来てくれないかと話をしているようだ。

 可恋の家も夕食の準備をしているのだろうか。「勇気くんの家に? 今から?」などとほんの少し渋った反応をしている様子だったが、愛が「話はすぐに終わるから」と言うと納得して来ることになったようだ。愛はやがて電話を切ると「可恋ちゃん、すぐに来てくれるって」と微笑んだ。


「あらあら、可恋ちゃんも来るのね? でも猫のことなら心配いらないわよ。別にうちで飼ったっていいんだから」

「でもさ、母さん。うちは道場もあるでしょ? 変ないたずらとかされたら困るかなって」

「道場も普段は施錠してあるでしょう? 施錠を忘れたとしたらおじいちゃんが悪いんだし。

 鍵が開いてるときには誰かしらは道場の中にいるし、私がこの子の面倒を見ておくから大丈夫よ。勇気が心配することは何もないわ」

「うーん、それは確かにそうかもしれないけど……」

 もしも真実が目を離しているときに、猫が稽古中に道場に入り込んだ場合、強は真実の管理不足だと怒るのではないだろうか。

 俺の責任になるならまだいい。しかし、母さんにそこまでの責任を負わせることには不安があった。

 いや、そこまで心配するのはさすがに心配性過ぎるだろうか……?

 勇気がそんな風に思いながら食事を終えて、しばらくすると玄関のチャイムが鳴った。可恋が来たのだろう。

「あ、それじゃ迎えに行くね」

 そう言って立ち上がったのは愛のほうだった。一旦はそのまま玄関に向かおうとしたが、何を思ったのか突然猫を抱き抱えてから可恋を迎えに行った。


 一方、そのとき可恋は「こんな時間に突然なんの用だろう? そもそも今の時間ってまだ道場やってるはずじゃ……?」と思いながら玄関の先で待っていた。

 やがて玄関の扉がゆっくりと開くが、そこで待ち受けていたのは友人の顔ではなく、バンザイをする猫だった。

 正確に言うなら愛が自分の顔の前に猫を突き出すような態勢で猫を抱えていた。

「こんばんニャー!」

「こ、こんばんニャー……? 愛ちゃん、どうしたの、その子」

「そこの道端で拾った!!」

「えっ!!???」

 可恋は驚いて思わず声を上げてしまった。まさかどこかから猫をさらってきたとでも言うのだろうか。

「愛ちゃん、その説明は語弊があるよ! 可恋ちゃん、こんばんは。

 そんな変な話じゃなくって、学校の帰り道で捨て猫を拾ったってだけだよ」

 勇気は呆れながら居間から出てきて愛の説明に補足した。

「こんばんは。ああ、なんだ、びっくりした……」

「とりあえずもう少しちゃんと説明するからあがってよ」

「あ、自転車はそこでいい?」

 可恋が玄関の横に勇気と愛の自転車に並べて停めた自分の自転車を見ながら訊ねる。どうやら可恋はここまで自転車で来たらしい。

 可恋の家はそう遠くない距離にあるが、あまり帰りが遅くなっても困るのだろう。

 そして勇気は「ああ、いいよ」と言いながら、可恋を家へと招き入れるのだった。

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