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超絶勇者ブレイブマン  作者: タチバナ
激闘!愛羅武勇編
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48.BL談義

「――このことから、BL文化はもはや日本だけのものではなく、国外にも通用するポピュラー文化と言えるわけだけど、その一方で同性愛を厳しく禁じている国などではBL関連書籍の取り扱いが禁じられているの。

 ただ、こうした表現規制にも疑問が残るわよね。そもそもBLとは必ずしも性愛を意味するものではなく――」

 知恵のBL談義は延々と続き、とどまるところを知らなかった。

 愛は目線を逸らしてそれを聞き流し、可恋はぽかんと口を開けたままよく理解できずにいるのだが、そうした様子も気にしていないらしい。


「あ、もうコーヒー空だ」

 銀のコップにストローをさしてコーヒーを吸っていた愛がそう呟いた。

 知恵の話に興味がないと言うよりは、繊細な話題に触れているのでなんともコメントし難いというのが正直なところであった。

 加えて言えば、無理に止めようとしたところで、一旦スイッチの入った知恵の口が回るのを止めるのは容易なことではないだろう。

 愛には経験上、それが分かっていた。だが、知恵との付き合いが浅い可恋は不用意な疑問を口にした。


「そもそも攻めとか受けってよく分からないんだけど――」

 その瞬間、眼鏡の向こうの知恵の瞳がさらに熱を増した。それを見て愛はストローの端を強く噛んだ。

「攻めっていうのはつまり能動的な役割を持つ側、受けは受動的な役割を持つ側のことね。

 これを男性側、女性側とする考え方もあるけど、私はこれも反対だわ。

 第一、男女カップリングにだって攻めと受けはあるのだから、この説明は破綻しているわ。

 令和の世にはもう古臭いジェンダー感だしね。女性のほうが積極的にアプローチすることだってあるでしょ」

「ええっと、つまり攻めが誘う側で、受けが誘われる側?

 そしてそれは同性同士でも、男女でも持ち得る役割だと……」

「まあ、そういうことね」

 そこまで聞いて可恋は考え込むような仕草をしたあと、こう訊ねた。


「じゃあ、たとえば勇気くんと希望くんだったら、どっちがどっち?」

「ぶっ!!???」

 思わず吹き出してしまったのは愛だった。

「い、い、いきなり何を言い出すのさ、可恋ちゃん!!」

「そうよ、河合さん。そういうのはナマモノと言って、あんまり妄想するものではないわ」

「あ、そうなんだ……。ごめんなさ――」

「希望くんのほうが受けね」

「そうそう、知恵の言うとお……、知恵さん!?」

 眼鏡をくいっと上げて、したり顔で言い放った知恵に愛は素っ頓狂な声を上げた。


「勇気くんが受けっていうのも捨てがたいけれどね。彼、かわいい顔しているし。

 でも希望くんみたいに女好きでチャラチャラしてるタイプがメス堕ちするほうがそそられるわね。

 あ、ここで言うメス堕ちはあくまで受動的役割を果たすという意味であって、女性的役割を果たすという意味ではないわ。

 彼のような陽キャが涙目で屈服する姿……、ふむ、これはもしかしたら次の新作のネタに使えるかもしれないわね」

「おーい、知恵さん? 遠い目しちゃってるよ」

 愛は知恵の目の前で手をぶんぶんと振るが、一切の反応はない。

 一度自分の世界に入り込んだ知恵を止める術は何もないようだった。

 愛は溜息をついて、席から立ち上がって言った。


「はあ……、もうついていけないや。

 私、しばらく外の空気吸ってくるから、ふたりで話してなよ。

 30分くらいしたら戻るから」

「えっ」

 驚きの声を上げたのは可恋だった。可恋にとって知恵はいわば友達の友達で、ふたりきりにされても何を話していいか困ってしまう。

 しかし、愛はそんな可恋の様子も気にせず、そのまま店の外へ出ていってしまった。

 取り残されたふたりを沈黙の空間が包み込む。……と思いきや、知恵はあっけらかんと口を開いた。


「河合さん、コーヒー空ね。もう一杯頼む?」

「あ、うん、ありがとう、知恵ちゃ――」

「ん? あなた、私のこと"ちゃん"付けで呼んでたかしら?」

「え、あ、いや、間違――」

 不慣れな雰囲気についうっかり普段と違う呼び方をしてしまった可恋は慌てて口を右手で覆った。

 そうだった、普段は『小宅さん』と呼んでいるのに、つい『愛ちゃん』の呼び方と混ざって――。

「まあ別にいいけど。私もこれから可恋ちゃんって呼ぶわ」

「えっ」

「いいでしょ。私たち、もう友達なんだから。

 ……友達じゃないって言われたら泣くわよ?

 こうやって休みの日にまで一緒に遊んでいるんだし」

 知恵の表情は優しげな微笑みだった。そこでようやく可恋は気付いた。

 どうやら先程までの知恵のオタクモードは、愛と一緒にいたからであり、根っこの部分は心優しい女の子だということに。


「……うん、そうだね、知恵ちゃん」

「ふふっ。と言っても、あなたと愛の仲には敵わないけれどね。

 あなたたち、いつ見ても一緒にいるものね。ホント、お互いのことが大好きなのね」

「お互いのことが……」

「違うの?」

 伏し目がちに言う可恋に、知恵は優しく問いかけた。その瞳はまるですべてを見透かしているようだった。

 私は……、愛ちゃんのことが好きだ。いや大好きだ。

 それはきっと、嬉しいことに愛ちゃんも同じなのだ。だから、「お互いのことが大好き」という知恵ちゃんの言葉は間違っていない。

 だけど、私の「大好き」と愛ちゃんの「大好き」はおそらく、……いやほとんど確実に、同じ意味ではないのだ。

 だから、その言葉に素直に相槌を打つことはできなかった……。


「……はあ。まったくあんたら見てるとイライラするわ。一組も両想いがいないものね。

 しかも、進展があるんだかないんだか分からないし……」

「あんたらって?」

「いつも昼休みに屋上で弁当食ってるグループ丸ごとね。

 ……いや、これは喋り過ぎかしら。問題なのは愛があなたのことをどう思ってるか、よね」

 その問いは可恋の中ではすでに答えが出ている。

 愛が可恋に好意を寄せているのはあくまで友達としてだ。それは絶対に恋愛的な意味での「好き」ではない。

 だから、可恋の「好き」と愛の「好き」には大きな違いがあって――。

 そんなことを考えていた可恋に、知恵はぴしゃりと言い切った。


「あなたがどう思ってるかは知らないけれど、愛はあなたが思っている以上に、ちゃんとあなたのこと大好きよ?

 私とふたりで話してるときだって、いつもすぐあなたの話になるし、とても大事に思っていることは普段の様子からもよく伝わってくるわ。

 まあ、私がどうこう口出しすることじゃないけれど、それだけは分かっていてあげて。これは愛の友人としてのお願いよ」

「………………知恵ちゃん」

 彼女はどこまで分かっていて、その言葉を口にしているのだろうか。

 それははっきりとしなかったけれど、可恋のことを気遣い、励ましの言葉をかけてくれているのは分かった。


「その代わり、何か悩みがあったら聞いてあげるわ。

 私はあんたらのいざこざに無関係だから、むしろ話しやすいでしょう?」

「……うん、ありがとう」

 それからしばらくして、外の空気を吸っていた愛が戻ってきた。

 その頃には、可恋と知恵は穏やかに話をしていた。しかし、そこにはどこかしんみりしたような雰囲気もあった。

 愛はその違和感に気付いて小首を傾げたが、やがてその会話に加わった。

 そして、そのあと日が落ち始める頃、3人は帰路に就いたのだった。

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