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超絶勇者ブレイブマン  作者: タチバナ
ひと夏の想い出編
45/57

40.永遠に続く物語

 ――しばらくして、次に待ち合わせ場所にやってきたのは勇気だった。

 今日は金曜日だが、道場の活動を休むことは予め祖父であり師匠でもある強に伝えてある。

 そのため学校から帰ってきてすぐ着替え、菓子パンを腹の中に詰めると、自転車で駅まで向かったのだが、すでに待ち合わせ場所には3人がいた。

「あれ、愛ちゃん早いね。……正義くんも」

「それさっき可恋ちゃんも言った台詞ー!

 というか、そこは『みんな早いね』でしょ! 私が早いとおかしいの!?」

 愛は怒ったように頬を膨らませ、その隣では可恋がくすりと笑った。

 一方正義は愛の大声に顔をしかめている。愛はしばらくの間、勇気の胸をぽかぽかと叩いた。


「ごめんごめん、こういうときいつも愛ちゃんが最後だから」

「私だって遅れたくて遅れてるわけじゃないんだからね。

 遊びのときはいろいろ準備も必要だし……。それに最近はそこまで遅くはないでしょ!」

「それで結局準備した道具も使わず終いってことない?」

「うぐっ、それは備えあれば憂いなしというか……」

 やはり理詰めで来られると愛は勇気には勝てない。

 そんなときはノリとテンションで誤魔化すこともあるが、今日はせっかくのお祭りだ。

 体力を残しておきたい愛はそれ以上反論することはなかった。それから数分後、新しくふたりの人影がやってきた。


「こんばんはー、先輩方ー!

 お兄ちゃんがグダグダしてるから無理矢理引っ張ってきた夢でーす!」

「うるせえな、髪型がいまいち決まらなかったんだから仕方ねえだろ」

「そんな乙女みたいなこと言われても。

 ……ってあれ? 愛先輩も可恋先輩も浴衣……?」

 見れば愛は青色を基調とした朝顔柄の浴衣、可恋は紺色の生地に白い百合の花が描かれた清楚な雰囲気の浴衣を着ていた。

 ふたりともこうして見ると、いいところのお嬢様のようだ。尤も可恋は元々そういう雰囲気があるのだが。

「あ、いいでしょ、これ!

 やっぱり祭りに行くなら浴衣のほうがいいかなって」

「うん、それで私はおばあちゃんに着せてもらって」

「……え、夢思いっ切り私服なんですけど、もしかして空気読めてませんでした???

 あ、あたし、夜までレンタルやってる浴衣屋さんないか探してきます!!」

 夢のギャルっぽい見た目に反した真面目さがここで露見した。

 そう言うや否や駆け出そうとする夢の背中を、愛は慌てて引き留める。

「いや大丈夫だから! 私が可恋ちゃんの浴衣姿見たくて駄々こねた結果がこれだから!!

 ね、可恋ちゃん、そうだよね!!?」

「うん……、私も本当はどちらでもよかったけど……」

「そ、そうですか……? ならいいですけど……」


 勇気はそんな様子を見てからからと笑ったあと、可恋の浴衣姿を眺めた。

 派手過ぎず大人しめのデザインなのはきっと可恋の雰囲気に合わせたものだろう。

 彼女が持つ涼しげなイメージによく似合っていると思う。いや、似合っているなんてものじゃない。

 まるで最初から彼女のためにデザインされたかのように感じられるほど、その格好はよく彼女に馴染んでいた。

 だから勇気は率直にその感想を彼女に伝えてみた。

「可恋ちゃん、浴衣よく似合っているよ。

 まるで君のためにデザインされたんじゃないかって思うくらいに」

「う、うん……、ありがとう……」

 可恋は照れ臭そうに頬を染めながら、右手の人差し指で自分の髪をくるくると回していた。

 そして上目遣いで勇気の表情を窺ったかと思うと、俯いて目を逸らしてしまった。

 なんだかふたりだけの世界に入り込んでいる様子だったので、愛はむくれて抗議した。


「ちょっと勇気くん? 私も浴衣なんだけど!

 何か言うことはないの、この姿を見て!!」

「え、まあ愛ちゃんも似合ってるよ」

「まあ?」

「お父さんに縁日に連れてきてもらった子供みたいで」

「そうそう、お父さんの手を引いて『パパー、綿菓子買ってー!』って、こらー!

 舐めてんのかお前ー!?」

 愛は勇気の顔面目掛けて鉄拳制裁を食らわせようとしたが、ひらりと躱されてしまう。

 いや、愛も本気で当てるつもりはなかったのだろうが、――それにしては腰が入っていたような。

 からかうように笑う勇気を見れば、先程のはただの冗談であったことが分かる。


「おいおい、お前ら。いつまで遊んでんだよ。

 そろそろ祭りが始まる時間なんだろ? 駅からもちょっと歩くみたいだしな。

 喧嘩はあとにして、さっさと行こうぜ」

 呆れた希望がそう窘めると、みんな神社へと歩き出した。

 愛も別に本気で怒ってるわけではなく、これもただのじゃれ合いだ。

 すぐに笑顔になって楽しそうに談笑していた。ただ夢はそんな愛の表情を見て、何やら思うところがあるようだった。

 そして、それは正義も同じだった。何も変わらないはずの日常の中に潜む違和感をふたりはなんとなく感じ取っていた。


 ――いずれ終わる。きっと終わる。永遠に続く物語など、どこにもないのだから。

 だからこそ、人々は限りある今を精一杯楽しんで生きようとするのだ。

 それはもちろん、ここにいる全員がそうだった。しかし、これから起こるであろうことに、完全に気付いている者はまだいない。

 彼らはこの物語がどんな結末を迎えることになるかも知らず、ただ無邪気に笑い合うばかりであった。


 ……しかしまあ、今のこの様子もあのお方に知らせるべきか。

 特に正義くんが愛ちゃんを見るときの様子……、あれはどうにも引っかかる。

 もしかしたら彼はもうすでに彼女のことを――。いや推測は要らない。どんな些細なことでも漏らさず報告しなければ……。

 そして決して見つかってはならない。このまま慎重に尾行を続けよう。もし見つかったら……、そのときは――。

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