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超絶勇者ブレイブマン  作者: タチバナ
ひと夏の想い出編
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39.せーぎくん

 手筒花火、それは愛知県豊橋市の吉田神社が発祥の地とされる吹き上げ式の花火だ。

 その名の通り、人が手で抱えた火薬を詰めた竹筒から天高く火柱が噴き上がる、迫力満点の花火なのだ。

 歴史を遡れば、江戸幕府を開いた徳川家康が三河衆に火薬の製造を任せたことで、東三河では花火が盛んになったと言われている。

 そして、手筒花火の奉納は現代でも毎年7月に行われる歴史ある神事なのだ。


「そんな素晴らしい花火、――見に行かないわけがないよね、せーぎくん!?」

「いや、だから俺はサッカーの練習が……。

 って、ちょっと待て。せーぎくんってなんだよ」

「え、正義くんだからせーぎくん。

 "まさよし"って言いにくくない?」

「言いにくくはねえし、せめて"せいぎくん"だろ。

 ……まあ、なんでもいいけどよ」

「やったー! みんなー、せーぎくんも手筒花火見に行くって!!」

「そうは言ってねえだろ、そうは!!」


 ――なんて、今日の昼休みに愛とかいうデカ女と話をしたが、本当は俺だってあいつらと花火を見に行きたい気持ちはある。

 でも、そんなこと正直に言うのはなんだか照れ臭い。サッカーの練習をしないといけないのは事実だが、どうせ今回の夏大会では俺は補欠だ。

 部活でも別に練習を強制されてるわけではない。だから1日くらいは休んで遊びに行ってもいいのだ。

「ふぅ、どうしたもんかな」

 帰宅した俺は玄関に入るなり、溜息をついた。そのとき俺はうっかり忘れていたのだ。

 いつも俺の帰宅を待ち構えているメイドのババアがいるということを。

「お帰りなさい、正義坊ちゃま。

 どうされました? 溜息などつかれて。

 ……何か悩み事ですか?」

「ちっ、なんでもねえよ」

 俺は思わず舌打ちをした。そいつに弁当箱と着替えを押し付けて、すぐに自分の部屋へ戻ろうと思った。

 だが、そいつはそんな俺の背中に問いかけた。


「大方、友人関係のお悩みでしょう?

 遊びに誘われたはいいものの、素直に行きたいとは言えずに悩んでいる、――そんなところですか?」

「……なんでそう思うんだ?」

「ふふ、今の一言で確信致しました。

 わたくしの指摘が的外れであるならば、正義坊ちゃまは即座に否定なされることでしょう」

「ちっ」

 俺は再び舌打ちをする。どうにもこのババア、――幸子には俺の心が見透かされているようだ。


「それでどうなさるおつもりですか?

 誘いをお断りになられるのですか? それならば上手い断り方を伝授して差し上げますが」

「余計なお世話だよ、放っておいてくれ」

「放っておくわけには参りません。

 わたくしは正義坊ちゃまのお世話を旦那様に任されているのですから」

 背中を向けたままでも分かる。こいつはきっと今微笑みを浮かべていることだろう。

 そして、その笑みのままこう続けるはずだ。

 『それとも素直に行きたいと言える方法を伝授しましょうか?』と。

 ああ、鬱陶しい。だが、こいつの言うことを聞いて悪い結果になったことはほとんどない。

 俺も少しは素直になったほうがいいのかもしれないと思った。


「分かったよ、じゃあ今度の金曜日の夜、学校から帰ってきてから遊びに行くから、駅までの送り迎えを頼めるか?」

「おや、誘いを受ける理由作りはよろしいので?」

「必要ねえだろ」

 ……あいつらとはもう友達なんだからな。いちいち理由なんて考えるほうがおかしいんだ。

「ふふ、それでは金曜日の夜ですね。送迎はお任せください。

 他に何か必要なものは?」

「ねぇよ」

 俺は短くそう伝えると再び歩き出した。背後からは「かしこまりました」という返事が聞こえたが、無視することにした。


 ――さて、せーぎくん来てくれるかなあ。最後まで「行くかどうかは分からねえぞ」なんて言ってたけど。

 でも集合場所も時間も伝えたし、やれることはやったよね。あとは天命のみぞ知るってやつかな。

 祈りながら集合場所へ向かおう。きっと来てくれる、きっと来てくれる……。

 よし、大丈夫! ちょっと心配で早めに家を出たから私が一番乗りだろうけど、きっとせーぎくんもあとから来てくれる!

 愛はそう思いながら、集合場所へと到着すると、すぐに見覚えのある人影を発見して驚いた。


「……よう」

「もういるじゃん!! 早いよ!!」

「うるせえな、声デカクソ女。

 初めて来る場所だから余裕持って来てやったんだろうが」

 ――そう、正義は誰よりも早くそこにいた。

 早く来て浮かれてると思われるのも癪だったが、大勢で待ち構えられるのも嫌だったので急いで来たのだった。

 だが、そんなことはどうでもいい。愛にとっては正義が遊びに来てくれたことが何よりも嬉しく、思わず抱きつきそうになるくらいだった。

 とは言え、そんなわけにもいかないので、満面の笑みのまま飛び上がり、その喜びを表現していた。

 そんなところにやや遅れて可恋がやってきた。


「あれ、愛ちゃん早いね。……正義くんも」

 よく見れば、――というか、よく見なくても愛も可恋も浴衣に着替えていた。

 それでこれだけ到着が早いのだから、このふたりも急いで来たことが分かる。

 ただ可恋は普段から時間に余裕を持って行動しているが、こういうときに愛が早いのは珍しい。

「あはは、せーぎくんが来るかどうか不安になって早めに来たんだ!

 今回一番気がかりだったのは、せーぎくんのことだからね。

 だからこうして来てくれて本当に嬉しい! 飛び上がっちゃうくらい!」

「……俺はお前のその素直さが羨ましいよ」

 よくもまあ、そんなことを恥ずかしげもなく言えるものだ。正義にはとても真似できない芸当だった。

 だが、やはりと言うか、意外と言うか、正義はそんな愛のことを本当に可愛い奴だと思った。

 そんな自分の想いに気付いてかぶりを振ったが、愛を意識し始めていることをただ自覚するばかりだった。


 ――ここにもまたひとつの蕾。それが花開くのは遠い未来のことではないだろう。

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