35.服装って大事
私の家に迎えに来てくれた愛ちゃんの服装は紺色のTシャツにジーンズという格好だった。
Tシャツはオーガニックコットンだろうか。ジーンズはちゃんと(?)足首まで隠れるほどの長さになっている。
相変わらずラフではあるけれど、先程のタンクトップに半ズボンという格好よりは遥かに女子らしい恰好だろう。
あの姿のまま来られていたら、ちょっと並んで歩きたくはなかった。私はほっと安堵した。
「あれ? 可恋ちゃん、さっきは帽子被ってなかったよね?
ますますお姫様って言うか、お嬢様って感じでかわいいね」
そんな私はと言うと、先程の白いワンピースにベージュのクロッシェ帽子を被っていた。
時刻はお昼を過ぎて、照り付ける日差しはますますに強まっていた。
「うん、日よけのために被っておいたほうがいいかなって。
愛ちゃんも着替えてきたんだね」
「そりゃあ汗かいたし、あれは虫取り用の格好だからね。
一応シャワーも浴びてきたから、臭ってはないと思うけど……、どうかな?」
彼女はそう言って、身をかがめたまま私に近づいてくる。
確かに臭いなんて全く感じなかった。むしろシャンプーのいい香りが漂ってきて、ドキドキしてしまう。
たまに誘惑されているのかとすら感じてしまうが、それは100%私の勘違いだ。自制しよう。
……いや、ちょっと待って。虫取り用の服を持ってる女子中学生って何……? まあ、それはいいか……。
「ううん、全然。むしろいい匂いだよ」
「そう? よかった。それじゃあ、行こうか」
そうして私たちは自転車で走り出した。目的地はすぐ近くの市の図書館だ。
私もよく利用している図書館だが、その規模はかなり大きい。蔵書数も多く、読書感想文のための本をピックアップするには都合がいいだろう。
それに夏休みの間、暇な時間をつぶすための本もいくつか探してみてもいいかもしれない。
貸出期間は2週間で夏休みはまだ先だが、そのときになったらまた借りに来ればいいだろう。家のすぐ近くなのだし。
ただし、愛ちゃんは読書感想文のための本は夏休み前に読み切ってしまうつもりのようだった。
愛ちゃんが夏休みの宿題を早めに終わらせるタイプなのは意外に思われるかもしれないが、どうやら彼女は面倒事を後回しにするのが苦手らしい。
その分余った時間は思いっ切り遊びに費やしてしまうので、学校の成績はあまり上がらないのだけど……。でも焦ってやるよりは余程いい。
「可恋ちゃん、何か面白い本あった?」
「うーん……。今のところはまだ……」
目的の図書館についた私たちは、そんな会話を交わしながら中を見て回る。
古典文学はなんとなく目に入るが、その時代の風景というのはなんとも想像しづらい。
だからこそ読書感想文を書く意味があるのだと言われればそれまでかもしれないが、歴史や文化の理解が必要となると、それは文学的な感想とは違うような気がする。
「まあ、おすすめの本は先生がいくつかあげてくれてるから、別にそれでもいいと思うんだけどね」
「でも、それって新しいのでも昭和の文学でしょ?
その頃の人々の暮らしを想像するのって結構難しいと思うな。
あくまで読書感想文なんだから、読みやすそうな現代の本でも……」
「かと言って、エンタメに寄り過ぎてるのも選びにくいからなあ。
ライトノベルでよければいくらでも感想書けるけど、先生に怒られないかな」
「本は自由に選んでいいってなってるんだから、大丈夫じゃない?」
とは言え、愛ちゃんの言うこともなんとなく分かる。いくら自由と言っても限りはある。
ある程度は厳格な雰囲気でありつつも、歴史的知識はあまり必要とされず、ほどほどのエンタメ性で楽しめる本が理想なのだ。
……そんな本、市の図書館にあるのかな? そう考えてみると、読書感想文というのは読む本を選ぶのが一番難しいようだ。
私たちは気になった本を手に取り、ぱらぱらとめくってはため息をつきつつ戻すということを何度も繰り返していた。
普通に読む分には楽しい本なのだろうけど、いい読書感想文を書けるかは自信が持てない、――そんな本ばかりだった。
「うーん、あるいは本屋で話題の図書を探してみるってのもありなのかな。
お金はかかっちゃうけど、なんとかって賞を取った本って言えば、読書感想文としても箔がつくんじゃない?」
「さっきは大丈夫って言ったけど、評価の固まってない最近の本ってのはどうかな……。
もしかしたら学校に提出するにはふさわしくない表現とかもあるかも……」
「あー……、まあ、それは読んでみないと分かんないしな……。
やっぱりよく読まれてる古典文学が安牌なのか……」
などと愛ちゃんと話してみたものの、太宰治の『人間失格』といった作品がセーフな理屈は分からない。
あれって社会的に問題のある描写がいくつもあるような……。知名度とブランドの問題かな……。
そんなこんなで私たちはもう”読書感想文にふさわしい本”とはなんなのか分からなくなってきた。
いや、素直に古典を読めばいい話なのだけど、愛ちゃんは他の生徒とは違う個性を出したいのだろう。
読書感想文にはあまり選ばれず、なおかつ先生が納得し、感想の書きやすい本を探すという難題を前に、私も愛ちゃんも頭を悩ませ続けた。
「お困りのようね、お嬢様方」
「「え?」」
突然かけられた声に、私と愛ちゃんは本棚を見回していた視線をそちらに向ける。
そこには雪を欺くような美しい白い肌で、透き通るような白い髪をなびかせた大学生くらいの女性がいた。
赤みがかった瞳は神秘的で、こういう人をアルビノと呼ぶのだと前に愛ちゃんが教えてくれた。
そして黒地に白いフリルの付いたゴスロリの服がとてもよく似合う、本当に美しい人だった。
外は蒸し暑いのに手首や膝下まで隠れる服装をしているなんて、よほどのこだわりがあるのだろう。
――それは以前本屋で出会った女性、白石あかねさんだった。




