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超絶勇者ブレイブマン  作者: タチバナ
捨て猫編
4/57

4.猫と捨て猫

 さらに二日後。今日は金曜日で、勇気の剣道部の活動はないが、代わりに緋色道場の活動はある。

 緋色道場の活動曜日は火・金、剣道部の活動曜日は月・水・木だ。つまり勇気は毎日学校のあとで道場か剣道部の活動をしていることになる。

 さらに剣道部は大会が近付けば土曜日にも活動を行うことがある。そうなれば勇気は休む暇もないはずだが、そこは若さゆえだろうか、全く問題はなかった。体力には自信があるのだ。

 余談だが、空手部は剣道部と同じ武道場を活動場所としており、その活動曜日は火・水・金である。剣道部と曜日の被る水曜日はどうするのかと言えば、武道場を半分ずつに仕切って活動することになる。

 少し窮屈ではあるが、限られた時間と場所を有効活用するには仕方のないことだ。学校の土地もそれほど広くはないのだ。


 終業のベルが鳴り響く。今日の授業はこれで終わりだ。勇気や可恋と途中まで帰り道は同じだが、道場へ行く前に一旦自宅へと帰る愛はすぐに帰り支度をして足早に駆けていく。

 胴着を緋色道場に置いておけば直接道場に向かってもいいのだろうが、毎回洗濯しようと思えば持って帰るしかない。無論替えの胴着も持っているので、交換しながら使えば済む話だが、家ではシャワーも浴びたい。

 さすがに緋色家のお風呂を借りるというのも気が引けるので、愛は一旦自宅へ帰ってシャワーを浴びるのだ。ただし、そうなると凝った料理をする余裕はないため、緋色家の食卓で夕食を済ませることになるのだが……。

 加えて言えば、帰りの夜道に女子がひとりで歩くのは危ないので(愛なら不審者が現れても空手で倒せそうだが)、父親か母親に車で迎えに来てもらっている。そうなると行きは自転車などではなく徒歩で道場に向かうしかない。それも愛が慌てて帰る理由のひとつであった。

「じゃあねー、可恋ちゃん! 勇気くんはあとで道場でね!」

「うん、気を付けて帰りなよー」

 愛の背中を手を振りながら見送る勇気と可恋。可恋は少し寂しいような、羨ましいような顔をしている。勇気と愛はこのあと道場で一緒に過ごすが、帰宅部の可恋(愛も部活には所属していないが――)はただ家に帰って、お父さんとお母さん、おばあちゃん(母方の祖母である)という家族と過ごすだけだ。

 幼馴染でいつも3人一緒だからこそ、勇気と愛がふたりでいる時間に自分だけがいないということに一抹の寂しさを感じるのだ。とは言え、道場に応援に行ったところで邪魔になるだけだからと、可恋はそんな寂しさを吞み込んだ。

 第一、夜になれば愛とふたりで通話をすることだってあるのだ。道場の時間だけを羨ましいだなんて思ったら罰が当たるだろう。可恋はいつもそんな風に思っていた。

 それを知っている勇気は目いっぱい明るく可恋に別れの挨拶をしながら駆けていく。

「じゃあ、俺も行くよ。また月曜日ね、可恋ちゃん!」

「うん、またね」

 可恋もまた精一杯の微笑みで手を振りながら、それに応える。時計は15時30分を少し回っている。道場の時間は17時ちょうどからである。勇気の背中はすぐに見えなくなった。


 学校の門を出た勇気は帰り道の十字路の角を曲がる。その時ふと聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 そちらに目をやると電柱の影に誰かが座り込み、目線を下にやって何かに話しかけているところだった。

「にゃー? お腹空いてるのかニャ? ごめんね、今は何も持ってないのニャ。うちに帰れば、乾パンと牛乳くらいはあるけど……。うちでは飼ってあげられないけど、一旦うちに来るかニャ?」

 そこでようやく、猫語で話す少女の背中が見慣れたものであることに勇気は気付いた。さらによく見れば、彼女の目の前には上辺が開いているダンボール箱があった。捨て猫でもいるのだろうかと思いつつ、勇気は声をかけた。

「愛ちゃん?」

「ニャッ!? ……じゃなくて、勇気くん!? あはははは、今の、見てた……?」と驚きながら振り返りつつ照れ笑いを浮かべる愛。いつもあれだけにゃーにゃー言ってるのに、猫語で話しかけてる姿を見られるのは恥ずかしかったらしい。

 ダンボール箱の中にはやはり捨て猫らしき猫がいた。しかし、そのダンボール箱の前面にマジックペンで書かれたらしき文言は少々異様であった。

 拙い文字で『たすけてください』と書かれてあったのだ。こういうときは普通『ひろってください』なのではないだろうか。


「その子、捨て猫?」

「多分ね。けど、見て。うしろの右足……」

 愛が指差した小さい子猫の小さな足には血が流れたような傷跡があった。ひょっとすると虐待でもされていたのだろうか。しかし、そうなると『たすけてください』という文言はさらに奇異に感じられた。

 混乱していればあり得ないことではないだろうが、自分で故意に怪我をさせて自分で助けを求めるというのは不思議な状況のように思う。かと言って錯乱して殴ってしまったか何かの事故ならば、せめて自分で動物病院に連れていくのではないか。

 飼い続けられない理由があったとしても、良心が欠片でもあるなら、捨てるのは怪我を治療させてからでいいはずだ。何か特別な事情があったのだろうか。


「勇気くん。私、今日道場休むね。お爺様に伝えて。この子のこと動物病院に連れて行ってあげたいから」

「いや、そういうことなら俺も行くよ。放っておけないもんね。

 ただ、一旦愛ちゃんも着替えてきなよ。この子は一旦俺の家に連れて帰るから、着替えて準備できたらすぐに来て」

「分かった。そういうことで、貴様の息の根を止めるのはまた今度にするニャ。

 ひとまずこの子のことをよろしくね、勇気くん」

 一瞬地獄のミャーコをログインさせて微笑んだあと、愛はひとまず自宅へ駆ける。勇気もそのダンボール箱を抱えて家路につく。動物病院へ行くのは強に欠席を伝え、一旦着替えてからのことだ。

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