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超絶勇者ブレイブマン  作者: タチバナ
ひと夏の想い出編
37/57

32.今年の夏は

 照りつける太陽。眩くなるほどの日差し。

 この時期だけは屋上でお弁当というのもつらい。

 だが、ランチルームにはスクールランチを食べる生徒たちが集まっており、弁当組の生徒が座れる席は限られていた。

 教室は騒がしく、お喋りをしながらお弁当を食べるならば、やはり屋上が一番なのだ。

 勇気たちはせめて日陰に集まろうということで、塔屋の裏に陣取っていた。

 塔屋の上からはかすかに貯水槽のモーター音がするが、気になるほどの騒音ではなかった。


「にしても、暑いよねー。夏の間の体育はプールの授業だからまだマシだけど」

「そうだね、愛ちゃん。泳ぎ終わったあとはさすがにへとへとになるけどね。

 可恋ちゃんも泳ぎは大変でしょ?」

「うん……、水泳に限ったことじゃないけど……」

「でもまあ、女子の水着が見れるのは最高だな」

「うわ、お兄ちゃん。女子の前でそういうこと言う?

 せめて男子だけでしてよ、そういう話は」

「うるせえな! ってか、なんでお前もいるんだよ、夢!」

「別にいいじゃん、勇気先輩も愛先輩もいいって言ってるし」

「兄妹喧嘩は家でしてくれねえかな。……あ、チビ女。そのミートボール一個もらってもいい?」

「うん。あなたも小さいけど」

「ありがとよ。それ毎回言い返さないといけないのかよ。

 代わりにハンバーグ半分やるからでかくなれよ」

「あはは、希望と夢ちゃんも、正義くんと可恋ちゃんも仲がいいね」

「「「「よくない!!」」」」


 勇気の一言に4人は声をハモらせて否定する。可恋だけは少し小声だったが。

 しかし、なんだかんだ言って、この6人は徐々に打ち解け合ってきているようだ。

 そんな様子を見ながら、愛はぽつりと呟いた。

「今年の夏休み、どうしよっかなー。みんな何か予定ある?」

「俺は街でかわいい女の子と」

「希望くんはどうでもいいとして」

「おい!!」

「まあ俺は道場の活動や手伝いがあるから、それだけでも忙しいよ。

 愛ちゃんも夏休み中も来るでしょ? あとは剣道部の活動と試合もあるね」

「俺もサッカー部の活動と試合がメインだな。

 試合が終わったら、どこか旅行にでも行くかもしれないけど」

「ふーん、試合の応援には行くね、ふたりとも」

 正義は「来なくていい!」と言ったが、半分照れ隠しなのがバレているのでスルーされた。

「可恋ちゃんは? 夏休みの予定」

「私は……」


 ――正直なところ、予定なんてない。本を読んだり映画を観たり、あるいはピアノやバイオリンの練習をしたり。

 そういったことはするかもしれないけど、基本的には家で引きこもり生活だ。

 それなら私も勇気くんの道場のお掃除でも手伝うべきなのかもしれないけど、門下生でもないのにあまり出入りするのも迷惑だろう。

 そうなると、学校がない間は、愛ちゃんにもたまにしか会えないだろう。それは寂しいけど、愛ちゃんは夏の間も忙しそうだし……。

「特に予定がないんだったらさ、一緒に水泳教室にでも通わない?

 あと夏休みの宿題も可恋ちゃんの家に行ってやっていい? 一緒にやってさっさと終わらせちゃおう!

 他にも去年みたいにお祭り行ったり買い物に行ったり映画を観たり。やりたいこといっぱいあるよねえ。

 そうそう、白石さんも今度一緒に食事でもどうかって言ってたよ。

 可恋ちゃんがよければでいいんだけどさ、暇だったらいろいろ付き合ってよ!」

「……うん、いいよ」

 夏休みの予定が……、夏休みの予定が一瞬で埋まっていく……!!

 ああ、そう言えば、愛ちゃんはずっとこんな感じだった。去年もいっぱい一緒に遊んで楽しかったなあ。

 引きこもりがちな私を、いろんなところに連れ出してくれる愛ちゃんは、やっぱり私にとっての太陽だ。

 これだから私は彼女のことが大好きなのだ。


「去年のお祭りって手筒花火てづつはなび見に行ったんだっけ。夏休みよりちょっと前だったけど。

 あれはド派手で見ていて迫力があったなあ」

 勇気はその光景を思い出しながら、しみじみとした口調で呟いた。

 それを聞いた夢は目を丸くして訊ねた。

「え、手筒花火ってなんですか?

 手で持つ花火? 線香花火じゃなくて?」

「夢ちゃん知らない? 手筒花火って言ったら東三河伝統の花火だよ。

 あとは静岡県のほうでもやってるんだっけ?」

「そうそう、それで文字通り竹筒に火薬詰めて、人が手で持った状態で火柱が吹き上がるんだよな」

 愛と勇気の解説に夢は目を爛々とさせて、羨ましそうに大きな声で叫んだ。


「えー、なんですか、それ! 滅茶苦茶面白そうじゃないですか!?

 夢も行きたーい! 行きたい行きたい行きたい!!」

「飯食ってる途中で暴れんな、夢。まあでも、それは俺も気になるぜ」

「そうだね、それじゃあ今年は夢ちゃんと希望も一緒に手筒花火見に行くか?

 よかったら正義くんもどうだい?」

「俺はサッカーの試合があるっての。直前には練習もたくさんしないといけないし」

「えー、どうせならみんなで行こうよ。正義くん、そんなに忙しい?」

 愛は目をうるうるさせながら正義を見つめ訴えかけた。

 そんな瞳で見られてはさすがの正義もたじたじになってしまう。


「うっ……、まあ予定が空いてたら行ってやっても構わないけどよ」

「やったー! じゃあ、あとでLINEグループ作るからさ。

 集合場所と時間はそこでみんなで相談して決めよう。

 あ、夢ちゃんはまずLINEのアカウント教えてもらってもいい?」

「はい、いいですよ。いやー、楽しみだなー」

「……言っとくけど、まだ行くとは言ってねえからな、俺は」

「うんうん、分かってるって、正義くん。楽しみにしてるからね!」

「分かってねえだろ」

 そんな風に言いながらも正義の口元は少しだけ緩んでいるように見えた。


 そうこうしているうちにお昼休みも終わりの時間に近付いていた。

 お弁当を食べ終わった6人は弁当箱に蓋をして包みに入れると立ち上がった。

 そのとき勇気は伸びをして、塔屋の上の貯水槽のほうを見上げた。

 ――貯水槽の裏で何か黒い影が動いたような気がした。なんだ、あれ……?

「どうかした、勇気くん? もう次の授業始まっちゃうよ?」

「あ、うん。なんでもないよ、愛ちゃん。それじゃ行こうか」

 気のせい、だろうか。もう一度見上げると、そんな影はどこにもなかった。

 あるいはカラスか何かだったのだろう。勇気はそう思い、楽しくなりそうな夏に想いを馳せた。


 ――――危ない、危ない。少し隠れるのが遅れた。

 だが、姿までは見られていないだろう。それにしても、いろいろと予定を聞き出すことができた。

 このことは早くあのお方に知らせなくては……。それが与えられた役目なのだから……。

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