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超絶勇者ブレイブマン  作者: タチバナ
ひと夏の想い出編
36/57

31.席替え

 ――夏が来る。むせ返るような草いきれに蝉の声。

 アスファルトも焦げるくらいに暑い日々がもうそこまで迫っていた。

 それは同時に学生にとっては一ヶ月以上の長期休暇の訪れを意味する。

 だが、その前に、この滝登中学校2年B組には、もうひとつ大きなイベントが待ち構えていた。

 それは小さな出会いと別れ、――そう、席替えである。


「えー、前のほうの席を希望する人はもういませんか?

 それでは、えー、皆さんくじを引いてください」

 担任の松永先生が教壇の上にくじ引き箱を用意しながら、生徒たちに呼びかけた。

 知恵のように視力の悪い生徒は希望して、すでに前のほうの席に決まっているが、そうではない生徒にとってはどの席になるかは運頼みだ。

 尤もこっそりくじを交換するような生徒もいるので、実のところ公平性に欠ける仕組みではあるのだが、そういう細かいことは言いっこなしだ。

 くじを引く順番は出席番号順だ。くじの番号は1から32まで割り振られているが、前のほうの席を希望した生徒たちの分はすでに抜かれている。

 そこからひとりひとりくじを1枚ずつ引いていき、可恋がくじを引く番になった。なお可恋は近くのものが見えにくく、本を読むときに眼鏡をかけることはあるが、遠くから黒板を見る分には問題がなかった。

 そんな彼女が引いた番号は15番、ほとんど教室のど真ん中と言える場所だった。


 ――問題なのは場所じゃない。愛ちゃんと隣同士になれるかだ。

 ううん、隣同士じゃなくたって構わない。たとえば愛ちゃんのうしろ。

 愛ちゃんがすぐ話せる距離にいられれば嬉しいし、授業中はずっと愛ちゃんの背中を見ていることができる。

 普段はじっくりと見られない愛ちゃんのうなじ、ほんの少しだけがっしりとした肩、そしてすらりと引き締められた背中。

 それを毎日数時間堪能できたのなら、どれだけ幸せだろうか。もしも私が菱川師宣なら、愛ちゃんをモデルにした見返り美人図を後世に残すだろう。

 いやいや、だけど、やっぱり隣同士で見つめ合ってお話しできるほうがいい。吸い込まれるように美しい彼女の瞳を見られないというのも残念だ。

 そんな風に思っていると、ひとりの女子生徒がくじを引いて呟く声が聞こえた。


「9番だったかぁ~。だるーん、ちょい前過ぎてビミョー」

 その声の主は倉木くらきらきという女子生徒で、知恵の友達のひとりだ。

 可恋にとっては友達の友達の友達という縁遠い存在だが、9番ということは可恋のひとつ前の席だった。

 らきは可恋の視線に気付くと、気だるげに話しかけてきた。

「おおん? もしかして近くの席だった?」

「あ、私15番だからうしろの席……」

「そっか~、じゃあ、よろっぽー」

「う、うん。よろしくね」


 ……まだだ。まだ前の席が埋まっただけだ。

 左右でもいい。あるいはうしろでもいい。愛ちゃんと近くがいい。

 1学期の席替えのとき、愛ちゃんの左隣になれたのは幸運だった。

 ちなみにその左隣はたまたま余りの席になって、そこには正義くんが座ることになったのだ。

 まあ他の生徒がどこの席になるのかもどうでもいい。正義くんの隣は少し嫌だったけれど。

 とにかく愛ちゃんと近くにさえなれたなら……。


 そんなことを思っていると愛ちゃんがくじを引く番になった。

 神様、どうかお願いします……。もう一度奇跡を……!

 そんな私の祈りはきっと、3分の1くらい伝わった。

「3番だー! 知恵の右隣だね。よろしく!」

「あんた喜ぶのはいいけど、教壇の真ん前だから居眠りできないわよ?」

「う……、それは困る。寝てたら起こしてください……」

「嫌ですけど?」

 愛ちゃんと小宅さんがそんなやり取りをしていた。

 3番……、つまりそれは倉木さんを挟んで私のふたつ前の席……。び、微妙……。

 まあ、そんなに何度も上手くはいかないか……。倉木さん越しに愛ちゃんを見れるだけでもいいとしよう。


 そうして全員がくじを引き終えると、みんなそれぞれ自分が使っていた机と椅子を書かれた番号の通りに運んでいく。

 他のみんなは一体何番になったんだろう。そう思っていると私の右隣に勇気くんが机を運んできた。

「お、可恋ちゃんが左隣かな。よろしくね」

「うん、勇気くん、よろしく」

 よかった、彼なら気心は知れている。余計な気を遣う必要はなさそうだった。

 たまに勉強を教え合ったりするのもいいだろう。勇気くんのことは好きだ。友人として。


「げっ! お前が前の席かよ!」

「ああ……? チャラ男がうしろか……。

 まあ、前の席ででかいいびきかかれないだけマシか」

「まあ、こっちもチビが前で黒板が見やすいだけマシだけどよ。

 せっかく端っこでいい席取れたと思ったのによ」

「お前いつも黒板見てねえだろ……」

 ……大きな声がしたと思ったら窓側の最後方で希望くんと正義くんが喧嘩していた。

 喧嘩、なのかな……。なんだか仲がよさそうにも見えるけれど。男の子同士はそんなものか。


 1学期は残りわずか。でも2学期の中間テストくらいまでは、このままの席になるはずだ。

 一応テストとテストの間くらいに席替えをするのが慣例になっているらしいから。

 ……うん、悪くはないよね。勇気くんは優しいし、愛ちゃんとは休み時間にだって話せるんだしね。

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