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超絶勇者ブレイブマン  作者: タチバナ
別に謎ではない転校生編
31/57

29.2年B組の密室(解決編)

 ミャーコは笑いながらまるで先生が授業をするかのように教壇に立った。

 いや、もちろん教壇の上に立ったという意味ではなく、教壇のうしろに立ったのだ。

 だが、その異様なテンションの彼女なら、本当に教壇の上に立っていても不思議ではなかった。

 そして、彼女は「異議あり」とでも言いたげに、ビシッと希望を指差した。


「まず最初にこの『2年B組の密室』には大きな欠陥があるのニャ。

 それはそこのカレン姫の施錠時から、授業終了後の私の開錠時までの間に、"密室が破られなかった"という保証がないという点なのニャ」

「ああ? 教室の鍵はお前が持っていたはずだろ。

 他にどうやってこの密室を破るって言うんだ?」

「実のところ職員室にはスペアキーが置かれているのニャ。

 もし誰かがそれを持ち出していれば、犯行は可能だったのニャ。

 あるいは、先生が見回りでスペアキーを持ち出して、この教室に入ったという可能性も考えられるのニャ」

「それは……」

 確かにその通りだ。特に教室の鍵は日直が管理することもあり、紛失トラブルがたびたび発生する。

 そんなときのために職員室にはスペアキーが置かれているのだ。それは周知の事実だったが、ミャーコの指摘まで希望はそのことを忘れていた。


「だが、職員室にある鍵を持ち出すためには、当然先生の許可が必要なはずだろ。

 先生の見回りの場合でも、わざわざ生徒の鞄の中身までチェックするわけがねえぜ」

 希望は反論したが、ミャーコはその反論も想定済みだと言わんばかりに余裕たっぷりに笑った。

「そんなの『忘れ物をしたから教室に取りに戻りたいが、日直の姿が見当たらない』と先生に言って借りればいいだけの話なのニャ。

 それから今朝お前は大声で学校にプラモデルを持ってきていることを宣言していたのニャ。

 そのことが時間を置いて先生に伝わって、教室に誰もいないタイミングで没収されたという可能性もあるのニャ」

「そ、それなら先公に確認してみりゃいい!」

「じゃあ、お前自身が確認しに行けばいいのニャ。

 ただし、その場合、いずれにせよお前が学校にプラモデルを持ってきた不良だということは先生にバレて叱られることになるのニャ。

 それでもよければどうぞご自由に。にゃっはっは」

「ぐっ……」

 おそらくミャーコの推論は"先生への確認"という一点であっさりと破られるだろう。

 だが、その確認をする際にはどうしても学校に持ってきたプラモデルの話をせざるを得ない。

 そんなことをすれば希望が先生に叱られるのは火を見るよりも明らかであり、希望は躊躇するほかなかった。


「では、続けるニャ。もうひとつ考えられるのは"鞄のすり替えトリック"なのニャ」

「す、すり替えトリックぅ……?」

 希望は思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。それくらい突飛な発想なように感じられた。

 しかし、ミャーコはそれを鼻で笑うと、得意気に説明を始めた。

「お前のその鞄は一般的な男女兼用の学生鞄なのニャ。このクラスにも同じ鞄を使っている奴が何人かいたはずだニャ。

 確かにこの教室に誰かがいる状況で、他人の鞄をごそごそ漁っていれば目立つだろうが、ほんの一瞬の隙を突いて"自分の鞄とお前の鞄をすり替える"ことは不可能ではないはずだニャ。

 もしかしたら犯人は、お前がいつも置き勉をしていて昼休みまで鞄を開けることがないと知っていたのかもしれないニャ。

 ならば、一度鞄をすり替えたあと、そのままお前の鞄を持って教室を出て、ガンターのプラモデルをどこかへやったあと、何食わぬ顔で戻ってくればいい。

 そして、再び一瞬の隙を突いて"鞄をすり替え直す"。

 そうすると、あら不思議! お前の鞄から忽然とガンターのプラモデルが消え失せてしまうのニャ。

 これならば、音楽の授業とその前後の休み時間以外にも犯行は可能だったことになるのニャ。

 貴重品の管理を徹底している奴もいるから、鞄を持って教室を出ることに関してはそれほど不審な行為ではないのニャ」

「待て待て、さすがに俺が気付く!

 確かに俺もずっと鞄を見ていたわけじゃないが、傷の付き方や汚れ具合だって違うはずだ。

 それに二度も鞄のすり替えなんてしてたらさすがに……」

「でも、絶対にそうだとは言い切れないはずだニャ。

 それともお前の主観が絶対に正しいとする証拠でもあるのかニャ?」

「…………むぅ」


 自慢じゃないが、希望はせっかちでそそっかしい面がある。

 その主観が信用できないと言われれば、確かに反論の余地はない。

 ミャーコの推理も突拍子もなく現実味は薄いが、絶対にあり得ないとは言い切れなかった。

「まあ、ここまでは可能性の話なのニャ。今から話すことこそが本題であり、この事件の真相なのニャ。

 さあさ、心して聞くがいいのニャ。この密室を真正面からぶち破る方法を!!」

「こ、この密室を真正面からぶち破るぅ……?」

 ミャーコは腕組みをしながら自信ありげに喉を鳴らしている。

 その不敵な表情はまるで推理小説に出てくる名探偵のようであると同時に、探偵を嘲笑う真犯人のようでもあった。

 ――いや、と言うよりも、彼女はすでにこの事件の真相を"知っている"かのようだった。

 まるで一部始終を目撃していた神様が、愚かな人間に真実を告げるかのような態度と言うのがより正確だろうか。


「まず第一に、お前は一体いつから"この教室の鍵が施錠と解錠を2回ずつしかしていない"と錯覚していたニャ?」

「ど、どういう意味だよ……。その鍵はお前が音楽の授業中ずっと持っていた鍵だろ?

 音楽室へ移動する前に1回施錠し、そのあと河合がリコーダーを取りに戻って解錠と施錠を1回ずつ、音楽室から戻ってきて解錠を1回。

 合計で施錠と解錠は2回ずつのはずだろ。それ以外にお前は鍵を貸してもいないし、奪われてもいないはず。

 他の奴らにはその鍵を使用するチャンスはなかったはずだ!」

「もちろん! その通りだニャ!

 私とカレン姫以外はこの鍵を使用できなかった! そしてプラモデルのことを知らなかったカレン姫は犯人ではない!

 正義少年がひとりで教室に戻ったときに、窓が開いていたのは偶然のことだった!

 突発的犯行の可能性は疑えるが、それは極めて不自然な可能性なのニャ!

 つまり、残る可能性はたったひとつなのニャ!!」

「ま、まさか、お前……!!」

 希望は戦慄した。ミャーコの宣言の意味するところはたったひとつしかない。

 そして確かにそれは希望が見落としていた可能性のひとつだ。

 しかし、そんなことはあり得ない。何故ならその人物にははっきりとしたアリバイがあるはずだからだ。

 だが、もしも"そのアリバイが完璧ではない"としたら……? ――ああ、そうだ、確かに完璧などではない。

 希望はすでにその"真相"に気が付いている。あまりに無茶苦茶だが、あり得るかもしれないその"真相"とは……、

「そう、何を隠そう、ガンターのプラモデルを盗んだ犯人は、この地獄のミャーコ様なのニャ!!

 にゃーはっはははっ!! どうだ、驚いたかニャ!?」


 その高笑いが教室中の空気を支配する。その勢いに希望は、――いや教室の誰もが唖然とせざるを得なかった。

 まさか自分自身で犯人に名乗りを上げるなんてどういうつもりなのだろうか。本気でそう主張しようというわけでもあるまい。

 いや、そもそもそれ以前に、その新たな犯人説には大きな問題があった。

「おいおい、佐藤。まさかお前、自分の行動を忘れたわけじゃないよな?

 お前は教室を出たあと、忘れ物を教室に取りに行った河合を廊下で待ってから、そのまま音楽室に向かったんだろ?

 それからずっとお前は音楽室で授業を受けていて、お前が教室の鍵を解錠するときにはすでに俺たちが教室の前で待っていたんだ。

 だから、お前がひとりで教室に戻って俺のガンターを盗み出すような時間はなかった。

 もしも河合が共犯者だって言うなら話は別だが、お前は河合は犯人ではないとも言っている。

 一体どこにお前が犯人であるという可能性があるんだよ……!!」

「ふっふっふ……、お前こそちゃんと私の行動を見ていたのかニャ?

 私は一度音楽室に入ったあと、先生の頼みで音楽準備室に向かっているのニャ。

 この間に私の姿を目撃をした者はいない……。つまり私のアリバイには空白の時間があったということになるのニャ。

 この空白の時間を利用し、教室へ戻り、ガンターのプラモデルを盗んでから何食わぬ顔で戻ってくる……。

 教室の施錠は他ならぬ私が鍵の管理をしていたのだから問題ない。これなら私にも犯行は可能だったのニャ!」

「ば、馬鹿を言うな! 空白の時間たって1分足らずのことだっただろ!?

 その間に教室に戻り、ガンターを盗み、音楽準備室から先生のリコーダーを取ってきたってのか!?

 そんなことは不可能だ! 絶対にあり得ない!!」

「あり得ないかどうかは実際に試してみればいいのニャ」


 ミャーコは不敵に笑うと、懐からスマホを取り出し、ビデオ機能を起動させた。

 右手の親指は録画開始ボタンに触れかけている。一体何をするつもりなんだ……!?

「よーく見ておくといいのニャ。これが不可能を可能にする瞬間なのニャ!!」

 そう言って録画開始ボタンを押すと同時にミャーコは全速力で教室を抜け出していった。

 「廊下を走るな」なんて言葉は今のミャーコの耳には届かないのだろう。

 あっという間にその姿は見えなくなった。……と思ったのも束の間、すぐに再び廊下を全速力で駆け抜ける慌ただしい足音が聞こえてきた。

 そしてミャーコは勢いよく教室へ戻ってきた。わっとどよめきが起こる。――それはまるで弾丸のようだった。


「どうニャ!?」

 その叫びとともにミャーコは手にしていたスマホを操作し、録画を終了させた。

 そして、その画面を確認すると、ドヤ顔でスマホの画面を希望の目の前に突き付けた。

「な、なんのつもりだよ……」

「いいか、よく観てみるニャ。このスマホの録画時間は45秒ほど。

 このまま再生すれば途中で音楽準備室の表札が映っているはずだニャ。

 ……ほら、再生して該当箇所まで飛ばしてっと、どうだ、この通りだニャ」

 確かにその画面には音楽準備室の表札が映っていた。

 ミャーコは録画をしながら音楽準備室まで全速力で行って戻ってきたらしい。

 それは確かに疑いようのない証拠だ。教室から音楽準備室まで、行って戻ってくるのに45秒。

 1分経つには残り15秒ほどの余裕がある。つまりミャーコの主張はこういうことだ。


「鍵と扉を開ける、プラモデルをどこかに放り投げる、再び扉と鍵を閉める。

 音楽準備室から先生のリコーダーを取ってくる。この動作を残り15秒以内に収めれば、1分足らず。

 つまり、これで私のアリバイは崩れるのニャ。ふっふっふ、にゃーはははっは!!」

「…………いや、お前の足が速いのは分かったが、やっぱりそれは無理がないか?

 あまりにも時間的猶予がなさ過ぎるだろう、それは……」

 ミャーコのドヤ顔とは裏腹に希望は呆れ顔だった。

 確かに不可能とは言い切れないかもしれないが、現実的に考えるとやはりそれはあり得ない。

 第一ミャーコがそこまでしてプラモデルを盗む必要性もなければ、動機もないだろう。

 ミャーコの俊足は認めても、やはり彼女が犯人だというのは無茶苦茶な可能性だと言わざるを得なかった。

 だが、ここまで様子を見ていた勇気は右手を自分の胸のほうにやりながら希望に言った。


「あー、つまりさ……、愛ちゃん、――ミャーコが言いたいのはこういうことだろ?

 ミャーコが犯人であるという説と同様に、正義くんが犯人であるという説もまた、無茶苦茶な論理で構成されてるってことさ。

 ミャーコ犯人説を否定するのであれば、正義くん犯人説にはそれ以上の蓋然性があるということを証明しなくてはならない。

 なあ希望、お前にはその証明ができるのか……?」

「それは……」

 ミャーコはうんうんと頷きながら勇気と希望のやり取りを見守っているが、彼女がどこまで考えてこの行動を起こしたのかは分からない。

 だが、少なくとも彼女の行動によって、希望は自らが主張する正義犯人説もまた不確かな論拠で成り立っていることを理解した。

 どうやら希望は自らの前言を撤回しなければならないようだった……。


「あー、分かった分かった! 俺の負けだよ!

 悪かったな、正義。別にお前の疑いが晴れたわけじゃないが、どうやら俺の早とちりだったらしい。

 この通りだ。どうか許してくれ」

 そう言って希望は正義に頭を下げた。しかし、そこまで畏まられては逆に困惑してしまう。

 正義はどう返答すればいいものかと、探るように言葉を紡いでいった。

「まあ別に、分かってくれればいいんだけどよ……。

 なんつーか、そういう勘違いだってあるだろ。だから気にしてねえよ」

 そうは言っても、ここまでくると事件の真相が気になってくる。

 正義はもちろん、可恋も犯人ではない。一仕事終えたかのような顔で猫耳と尻尾を外すミャーコこと愛も同様だ。

 他の生徒や先生もおそらく犯人ではないだろう。無論希望の自作自演でもない。そうなると一体どういうことなのか……、


「すみません、失礼しまーす!」

 そのとき、教室の扉がガラリと開けられ、礼儀正しい声が響いた。

 扉の向こうにはその声からは想像がつかないようなギャルっぽい女子生徒がいた。

 見ればセーラー服の胸のリボンは黄色であり、その色から1年生であろうことが分かった。

 本年度では1年生が黄色のリボン、2年生が赤色のリボン、3年生が青色のリボンということになっているのだ。

 女子生徒は教室中の視線を集めて緊張しながらも周囲を見回した。

「ええっと、夢、――あたし1年生で、お兄ちゃんを探しに来たんですけど……」

 その声と姿に驚愕したのは希望であった。


「お前、夢っ……! 何しに来たんだよ!」

「あ、お兄ちゃん! もー、何しにじゃないよ!

 わざわざかわいい妹が忙しい合間を縫って届け物に来てあげたって言うのにさ!

 ……あ、先輩方。そんなわけでちょっとお邪魔しますね」

「「い、妹……?」」

 勇気と愛は声をハモらせながら、希望の妹らしい女子生徒の顔をまじまじと見つめる。

 兄妹と言われれば、確かに顔立ちは似ているかもしれない。目元などはどことなく希望に似ている。

 とは言え、そのかわいらしさは希望とは似ても似つかないし、ギャルっぽく見えてもどこか育ちのいい感じは隠し切れていなかった。

 勇気と愛がそんな風に観察する一方で、可恋と正義は呆気に取られて言葉にもならない様子だった。

 女子生徒は、――希望の妹である星野夢ほしのゆめは片手に持っていた学生鞄の中からひとつの箱を取り出して言った。


「ねえ、このおもちゃ、間違って夢の鞄に入れてたでしょ!

 確かに朝御飯のときお兄ちゃんの鞄のとなりに置いてたけど、なんで間違うの?

 いくら同じ種類の鞄って言っても夢の鞄にはチャームだってついてるんだし。

 もー、道理でなんか重いなって思った!」

 その箱にはプラモデルの写真とともに「ガンタープラモデル」と書いてあった。それを見た瞬間、希望の顔が青白くなった。

「あ、そう言えば同じ鞄が食卓の脇にふたつ並んでいたような……?

 先に鞄を置いたあと、ガンターの箱を部屋に取りに戻って、帰ってきたらなんか鞄が増えてるような気はしたんだが……。

 た、たははははは……」

「なんかじゃないでしょー!?

 なんでいっつもちゃんと確認しないの!?

 夢も気付くべきだったかもしれないけどさー」

 夢はふくれっ面でぷりぷり怒っていた。しかし、こういうことは日常茶飯事なのだろう。

 彼女はすぐに表情を切り替え、勇気のほうに向き直りツインテールの髪を揺らしながらぺこりと頭を下げた。


「お兄ちゃんのお友達ですよね? あたし、希望お兄ちゃんの妹で1年A組の星野夢です。騒がしくして申し訳ありません。

 それに加えて、いつもうちの兄はそそっかしくてご迷惑をおかけしているかと思いますが……、何卒ご容赦ください」

「あ、ああ……。いや気にしなくていいよ。

 俺は緋色勇気。まあ希望のことは最初からそういう奴だってわかってるからさ」

「本当ですか? それにしても教室に入るとき変な空気だったような……。

 あの、何かうちの兄がとんでもないことを……?」

 夢が不安そうに希望の顔をじっと見つめると、みんなの視線もそろって希望の顔に集中した。

 希望にとってはあまりにも気まずい。まさか自分の鞄と間違えて妹の鞄に、学校に持ってきてはいけないプラモデルを入れたうえに、それが盗まれたとひとりで騒いでいただなんて……。


「そ、それについてはだな。

 お前は気にするな! お前には関係ない!」

「どうせお兄ちゃん、勝手にひとりで『プラモデルがなくなったー。盗まれたー』とか喚き散らしてたんでしょ。

 他人のせいにする前にまず自分のミスじゃないか考えたほうがいいって、いつも言ってるでしょ?

 いっつもそそっかしいんだから、お兄ちゃんってば」

「う。うぐぐぐぐ……。ぐうの音も出ねえ……」

「えー、図星なの? ホント申し訳ないです、うちの兄が」

 夢は辺りを見回しながら、またぺこりぺこりと頭を下げた。

 まだ初夏だと言うのにほのかに日焼けしていて、よく遊んでいそうな見た目とは裏腹にしっかり者の妹らしい。

 いや、兄がちゃらんぽらんな分、妹のほうが周囲に気を遣う癖ができてしまったのだろうか。

 まだ妙な空気は拭えないが、妹がそこまで畏まっていたので、犯人と疑われた正義も怒る気はなくしてしまっていた。

 それどころか真相がはっきりして、胸のつかえが取れたような気分であった。


「あ、夢まだお昼食べてないんで、急いで戻ります! こう見えてもいろいろ忙しくって。

 先輩方もお時間取らせちゃってごめんなさい! このお詫びはまた今度させてください! また来ますね!」

「いや、とっとと帰れ! もう二度と来るな!」

 夢はプラモデルの箱を希望に押し付けて渡すと、慌てた様子でぱたぱたと自分の教室へ戻っていった。

 まるで嵐のような出来事だったが、これでようやく事態は収拾したようだ。


「ま、これにて一件落着ってことで。

 俺ももう怒ってないしよ。その代わり、こういう面倒事はこれっきりにしてくれよ」

 正義は苦笑しながらも、今までで一番穏やかな声色でそう言った。

 本当に怒ってはいないらしい。ただもうこんな騒ぎは勘弁だという様子だった。

「……悪かった。全部俺の早とちり、勘違いのせいだ」

「別にいいって。それじゃあな」

 改めて頭を下げる希望に振り返りもせず、手をひらつかせながら正義は教室をあとにしようとする。

 お昼の時間もかなり過ぎてしまったが、校舎裏でお弁当を食べて戻ってくるくらいの時間はあるだろう。

 希望だけではなく愛もその背中を追いかけようとはしなかった。これでもうすべて終わりなのだ。

 無理に追いかけても、かける言葉などない。そのほうがお互いのためなのだから。

 ――だが、勇気だけはそうは思わなかった。彼は最後にこう言った。


「正義くん、もしよかったらだけど、俺と勝負をしてくれないか?」

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