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超絶勇者ブレイブマン  作者: タチバナ
別に謎ではない転校生編
30/57

28.2年B組の密室(出題編)

「ないって……、何がないんだよ?」

 ――口火を切ったのは勇気だった。

 どうせくだらないことだろうとは思いつつも、教室中に響き渡るその叫びに我関せずというわけにもいかなかった。

 呆れ顔で見つめる勇気に、希望は癇癪を起こしたかのように答えた。

「だから、あれだよあれ! あれに決まってんだろ!」

「あれじゃ分かんねえよ。箸でも忘れたか?

 割り箸買ってこいよ。確か購買にあっただろ」

「ちがーう! ガンターだよ、ディスティニーガンター!!」

「ガンター……? ああ、プラモデルか。どうせ家に忘れてきたんだろ」


 勇気も年頃の男子だ。プラモデルに興味がないわけではない。

 だが、それほど大騒ぎするほどのものだろうかとは思うし、そもそも学校に玩具を持ってくるのは校則違反だ。

 軽くあしらってこの話はもう終わりにしようと思った。

 昼休みの時間はそうこうしているうちに過ぎていく。いつまでも希望に構っている暇はない。

 だが、希望もここで引き下がるような男ではなかった。

「いや、そんなはずねえよ。昨夜のうちに間違いなく鞄にしまっておいたんだからな」

「じゃあ、誰か先生が偶然見つけて没収していったとか」

「それもない」

「なんでだよ」

「何故なら俺は今日初めて鞄を開けたんだからな!

 横からプラモデルの箱がはみ出してたなんてこともなかったぞ!

 先公に見つかるはずはねえ!」

「いや、もうお昼休みだぞ。なんで今まで鞄を開けてないんだよ」

「授業に必要なものは机とロッカーにしまってあるからいいんだよ!

 つーか、そんなことよりどこいっちまったんだ、俺のガンターは!!」


 希望の声には悲壮感すら漂っていた。

 だが、いくら叫んだところでプラモデルがその呼びかけに反応して、ひょっこり顔を出すというわけでもない。

 単なる体力の無駄遣いだ。

「ま、考えたってないものはないんだから仕方ないだろ。もう屋上行こうぜ。もたもたしてると置いてくぞ。

 ほら、可恋ちゃん、愛ちゃん。お弁当の準備はもういいでしょ?」

 勇気はふたりに声をかけると、さっさと教室を出ようと歩き始めた。

 そして、その反対側のうしろのほうの扉からは今まさに正義が出ていこうとしているところだった。

 希望は歯軋りをすると、その背中を睨みつけながら咎めた。

「待てよ、転校生!!」

「……あ? なんだよ、長髪チャラ男」

 正義は顔だけ希望のほうを向いて背を向けたままだったが、希望はその肩をがしりと掴んで強引に振り向かせた。

「っ……! いてぇな! なんのつもりだよ!!」

「なんのつもりはこっちの台詞だぜ。お前以外には考えられねえんだよ」

「…………何がだよ」

「決まってんだろ! 俺のガンターを盗んだ犯人だよ!!」


 教室中がしんとなった。みんなは一体何事かと一斉に希望を見つめたが、しばし沈黙が続くとランチルームへ行く生徒はそのままいそいそと教室から出ていった。

 残されたのは勇気たちと、教室でお弁当を食べる数人の生徒たちだけだった。可恋と愛も少し驚いて目を丸くしていたが、すぐに表情を引き締めて希望を取り囲むような形となった。

 勇気は希望のうしろから、その怒号を嗜めた。

「おいおい、なんの証拠があってそんなこと言ってんだよ。

 悪いな、正義くん。こいつのことは気にしないで行っていいから」

「証拠はないってか? いいか、勇気。冷静に考えてみろ。

 状況証拠で考えれば、他の連中には犯行は難しかったことが分かるはずだぜ」

「……確たる証拠があるわけじゃないだろ。ほら、正義くん。もう行って」

 勇気は手をひらひらと振って正義を逃がそうとするが、正義も黙ってはいられないようだった。


「いいや、変な因縁つけられたまま、納得して立ち去るほど俺は人間ができちゃいないんでね。

 やるってんならとことんやり合おうぜ。ほら、説明してみろよ。なんで俺が犯人だと思ったんだ?」

 正義は希望の手を振り払いながら後退りをしたが、ここから逃れるつもりはないようだった。

 むしろ徹底的に論戦を繰り広げなければ気が済まないようだった。そして、そこには希望の主張を退けることができるという自信もあった。

 そんな態度が余計に希望を苛立たせたが、希望は一呼吸置くと持論を展開させた。

「まず第一にだ。このガンターを入れた鞄はずっと俺の机の横にぶら下げてあった。

 俺は3限の音楽の授業のとき以外、この教室から出ていないし、この教室には常に誰かがいた。

 もしもそのとき俺の鞄を開けてごそごそやってる奴がいたら、絶対に誰かに目撃されているはずだ。

 なあ、勇気。それから佐藤に河合も。誰か俺の鞄に触れた奴を見たか?」

「……常に視界に入ってたわけじゃないから分からないけど、少なくとも俺は見てないよ。

 それに、そんな堂々と他人の鞄に触れる奴なんていなかっただろうね」

 勇気がそう応えると、愛と可恋も「自分も何も見てない」と言うかのように首を横に振った。

 希望は納得したかのように頷くと、さらに論理展開を続けた。


「つまりだ。誰かが俺の鞄に手を触れられたのは、音楽の授業のとき、あるいはその前後の休み時間の間しかないってわけだ。

 そして、俺は勇気と一緒に音楽室に行き、それから1分もしないうちに20人程度の生徒が集まるのを確認している。

 遅れてきたのはお前と、それから佐藤と河合に、あとは数人の生徒だけだ。

 佐藤は今日の日直だから、全員が教室から出ていくのを確認してから音楽室に来たんだよな?」

「……うん、可恋ちゃんと一緒にね」と愛は頷いた。

「――ということだ。そして正確に言えば、音楽の授業のあと俺は教室が開錠されてすぐ自分の席に戻った。

 音楽の授業のあとの犯行は不可能に近いだろう。ここまではいいか、正義?」

「……続けろよ。いちいちこっちに確認を求めなくていいぜ」

「いや、確認が必要だ。他の遅れてきた連中はみんな2人以上で音楽室に入ってきたから、おそらくアリバイが証明できるだろう。

 俺が音楽室についたあと、ひとりでやってきたのはお前だけなんだよ。

 そのとき何をしてたのかはお前の口から説明してもらわねえとな」

「なんだ、そんな程度のことで因縁つけてきたのかよ。

 ちょっとトイレに行ってて遅れただけだよ。それ以上でも以下でもねえ」

 正義は面倒臭そうな口調で言うと、希望の追及から逃れようとした。

 だが、希望はそれだけでは納得できず、続けて口を開きかけたが、「嘘」という小さな呟きがそれを制止した。

 その呟きの主は、――可恋であった。


「あ? なんだ、チビ女。お前今なんか言ったか?」

「……あなただって小さいじゃない」

「面倒臭いところで突っかかってくんなよ! いいから先を言え!」

 可恋は怪訝そうに顔を歪め、不機嫌そうな声色で続けた。

「私見たよ。みんながいなくなってから、あなたが教室の窓から出てくるところ。

 だからトイレに行ってただけなんてのは嘘。なんでそんな嘘をつくの?」

「――いや、それは嘘って言うか」

「よーし、もう決まりだな。目撃証言まであって言い訳できると思うなよ」

 見れば、希望は拳をぽきぽきと鳴らしていた。まさに一触即発だ。

 勇気はいくらなんでも殴り掛かるなんてことはないだろうと思いつつも、念のためいつでも希望を取り押さえられるように距離を詰めた。


「だから! それは、トイレから出たら他のうちのクラスの奴らがリコーダーを持って音楽室に向かうのが見えたからよ。

 『そうか、今日はリコーダーがいるのか』と思って教室に取りに戻っただけだぜ。

 俺はてっきり教科書だけでいいと思ってたからな。扉は施錠されていたから仕方なく窓をガタガタしたら一ヶ所開いて、そこから出入りしたんだ」

 本来なら移動教室の際に必要なものは日直の愛が正義に伝えなければいけなかった。

 ――ということに気付いて愛は「あ」と呟いた。どちらにせよ、もう関わるなと言われていた以上、言い出しにくかっただろうが、うっかり忘れていたのだ。

 愛は心の中で、鍵の施錠チェック漏れと加えて、日直としての仕事が疎かになってしまっていたことを反省した。

 可恋はそんな愛の表情に気付き、なんとなく申し訳なさを感じたが、正義に対する追及の手を緩めようとはしなかった。


「でもリコーダーを取りに行ったとき、ふと魔が差して希望くんの鞄に悪戯しようとしたのかもしれないじゃない?

 ――いいえ、むしろ計画的な犯行と考えるより、そのほうが自然だわ。あなたはたまたま教室にひとりになったのだから。

 ちなみにだけど、そのあと教室は私がしっかりと施錠し直して、私が借りた鍵はそのあとすぐ愛ちゃんに返してからずっと愛ちゃんが管理していたから、そのあとの犯行は不可能よ。

 希望くんはさっき犯行可能時刻は音楽の授業のとき、あるいはその前後の休み時間の間しかないと言ったけれど、実際は愛ちゃんが教室の扉を施錠し、私が窓まで施錠し直すまでの数分間しかないことになる。

 ――そのわずか数分間に教室にいたあなたは極めて怪しいわ」

「ちょっと待ってよ。可恋ちゃんまで正義くんのことを疑ってるのかい?」

 勇気は信じられないといった表情で、可恋の顔を見つめた。

 その視線に後ろめたさを感じたのか、可恋はさらに俯いて言い訳するかのように付け加えた。

「……私は自分が見たことから推測される可能性を指摘してるだけ」

 可恋としては正義がガンターのプラモデルを盗んだという希望の主張を本気で鵜呑みにしているわけではない。

 ただ同時に正義ならやりかねないのではないかという疑念も拭えなかった。


「ああ、そうかい。だったら言わせてもらうが、お前はなんで教室に戻ってきたんだ?」

「私もリコーダーを忘れてることに気付いて……」

「じゃあ、お前は俺のあとに教室に入ったんだな。それならお前も容疑者だ。

 お前がそのプラモデルだかなんだかをどこかに隠してしまったって可能性も捨て切れないはずだぜ」

「…………」

「いや、可恋ちゃんは希望が学校にプラモデルを持ってきたことを知らなかったはずだ。

 希望がその話をしたのは今朝のことで、可恋ちゃんが教室に入ってくるよりも前のことだった。

 そのことを知らなかったのならば、何か悪戯をしてやろうなんて気持ちが沸くことはないんじゃないかな。

 可恋ちゃんは別に希望と何か喧嘩をしたわけでもないしね」

「……どうだかな。俺を貶めるための思い付きかもしれねえだろ」

 沈黙する可恋の代わりに勇気が反論したが、その主張も決して強い論拠があるわけではなく、正義も負けじと言い返した。

 このままでは平行線かと思われたが、正義にはさらに他にも言いたいことがあるようだった。


「大体俺の姿を目撃したのなら、俺が不審なものを持ってなかったことも見てるはずだろ。

 そのプラモデルって、多分制服のポケットに入るような小さいやつじゃないんだろ?

 ああいうのって大体十数センチくらいはするだろ。

 直接手に持ってりゃすぐ分かるし、ポケットの中じゃどうしたってはみ出しちまうぜ。

 リコーダーの袋に入れたってぎちぎちになって目立つだろうしな」

「何か脇に抱えてるのは見えたけど、はっきりとは……」

「だからそれはリコーダーの袋と教科書だろ! なんでちゃんと見てないんだよ!」

 そんな可恋の曖昧な証言に愛が付け加える。

「私は廊下でうしろから正義くんが来たとき見たけど、変なものは持ってなかったよ」

 それを聞いて正義はそれ見たことかと勝ち誇ったように鼻を鳴らした。


「駄目だな。まだお前への疑いは晴れちゃいねえ。

 俺の鞄からガンターのプラモデルを取り出し、校庭のほうの窓を開けて外に放り投げたのかもしれねえ。

 それなら河合や佐藤がはっきりと不審なものを目撃してないことには説明がつく。

 その窓はあとから施錠し直せばいいだけのことだ。

 そして音楽の授業の帰り道にでもプラモデルを回収し、どこかに隠し直せばいい」

「そんな訳の分からないことするほどは捻くれてねえよ!」

 希望はもはやどんな反論があっても、正義を犯人と決め付けるつもりらしかった。

 こうなってはもう水掛け論にしかならない。あとはお互いに罵り合いの喧嘩になるだけだ。

 今度こそはもうふたりの言い争いを止めることは難しい。――勇気でさえもそう思った。

 教室中に緊迫感が漂い始める。ああ、一体どうすればこの論争を止めることができるのか――、


「これでもう討論タイムは終わりかニャ?」


 ちっちっちと指を振る少女の頭には猫耳が生えており、お尻からは尻尾がぐねりと伸びていた。

 その少女の名は佐藤愛、――いや違う。この獣人の少女こそが超絶勇者ブレイブマンの最大のライバルにして宿敵の悪の女幹部その人だ。

「お前は、――地獄のミャーコ!!」

「にゃーはっはっは、甘い甘い、甘過ぎるのニャ! ふわっふわのショートケーキよりも甘いのニャ!

 この私がそこの少年の主張がレンコンみたいに穴だらけなことを証明してやるのニャー!!

 にゃははははははははははははッ!!!」

 ――正義だけはそのテンションについていけず首を傾げていた。

 急に訳の分からないコスプレをして訳の分からないことを言い出すなんて……。一体これから何が始まるんだ……?

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