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超絶勇者ブレイブマン  作者: タチバナ
別に謎ではない転校生編
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26.密室構築

 それから2限の授業の終わりまで気まずい空気が漂い続けていた。

 愛はなんとか可恋に話しかけようとタイミングを窺っていたが、なんとなく話しかけられずそのまま時間が流れていった。

 この日の3限の授業は音楽だった。日直の愛は黒板の脇にある鍵を取って教室の戸締りをしないといけない。授業中はそのまま日直が鍵を管理する。

 そのため、教室から生徒全員が出ていくところを見届ける必要があった。そして、ほとんどの生徒が教室から出ていったが、可恋はまだ自分の席にいた。

 それは机から音楽の教科書を取り出しているところであり、愛にとって絶好のチャンスだった。


「あ、あのさ、可恋ちゃん……」

「……何?」

「ええっと、もう少しこのまま待っててくれない?

 私日直だから、みんな出ていったあと鍵閉めるから、そのあと一緒に音楽室に行こうよ」

 可恋はその問いかけに答えず、じっと愛の顔を見つめた。深い意図があって言ってるのかどうか確かめようとしたのだ。

「あ、ご、ごめんね……! 昨日の今日で何言ってんだって話だよね……!

 まだちゃんと仲直りできてないのに、そんなの厚かましいよね……! ごめんね……!!」

 愛は可恋の沈黙と視線に耐えかねて、謝りながら目を逸らした。だが、可恋はそんな愛の反応に慌てて言った。

「う、ううん……! そんなことないよ!

 私もちゃんと愛と仲直りしたいから、ここで待ってるよ……」

「ほ、ほんと!? よかったあ。断られたらどうしようかと」

「断るわけないよ。愛ちゃんは私の大事な親友だから」

 可恋のその言葉を聞くや否や、愛はぱっと明るい表情になった。

 それからクラスが空っぽになると、愛は教室の鍵を閉めて可恋とともに音楽室へと向かった。


「それでさ、昨日はホントにごめんね。私がどうかしてた」

「いいよ、もう。私も言い過ぎたから。ごめんなさい」

 ふたりは廊下を歩きながら改めて互いに謝り合った。それからふたりとも気が楽になって自然と笑顔になった。

 そこからはもう普段通りの仲良しなふたりへと戻っていた。


「それにしても久しぶりだよね。最近はずっと合唱の練習だったから。

 家でもあんまり練習してないけど、ちゃんと上手く吹けるかなあ」

「……え? 何が?」

「何がって、……あれ? 可恋ちゃん、リコーダー持ってないの? 今日リコーダーだよ?」

「え、嘘!? 合唱の練習の続きじゃ……」

「忘れてきちゃったの? 前回の授業で次はリコーダーだって先生言ってたけど……」

 これもまた可恋にしては珍しい失敗だ。愛は教科書を片手に、反対の手でリコーダーを入れた袋をぶら下げていたが、可恋は教科書しか持っていなかった。

 それだけ愛と喧嘩をしてしまったことが心に引っかかっていたのだろう。

 可恋は慌てて教室にリコーダーを取りに戻ろうと踵を返した。


「待ってて、愛ちゃん! 教室にリコーダー置いてあるから取ってくる!」

「え、待って、可恋ちゃん! 鍵閉まってるよ!?」

「……あ、そっか。ああもう今日は私、全然駄目だね!」

「ほら、これ教室の鍵! ここで待ってるから慌てないで取りに行って」

 珍しく慌てふためく可恋は愛から教室の鍵を受け取ると、走らない程度に早歩きで教室へと戻っていった。


 教室の近くまで戻るのには一分もかからなかった。それほど離れていない場所で忘れ物に気付いたのが幸いだった。

 これなら十分授業開始の時間までには間に合うだろう。そう安堵しながら教室へ目を向けると、廊下に面した窓からにゅっと出てくる人影が見えた。

 人影は廊下に飛び降りると何かを脇に抱えながら、こちらに向かってくる。可恋はなんとなく怖くなって曲がり角まで戻って隠れた。

 そのまま人影は可恋に気付くことなく通り過ぎていった。――その正体は正義だった。

「……正義くん?」

 誰もいない教室で一体何をしていたのだろうか。そんな疑問が頭をよぎったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 急いで音楽室へ向かわないと。そう思い、可恋は教室の扉の鍵を開けると、自分のロッカーからリコーダーを取り出した。

 先程正義が出てきた窓を見ると、開きっ放しになっていた。どうやら戸締りの際に内鍵を閉め忘れていたようだ。

 可恋は念のため他の窓や扉の施錠もすべて確認し、内鍵の施錠をすると、最後に廊下に出て外から扉の鍵を閉めた。

 それから愛の待つ廊下へ再び早歩きで戻っていった。


「お待たせ、愛ちゃん」

「あ、おかえり、可恋ちゃん。……さっき正義くんとすれ違った?

 私のうしろから音楽室のほうへ向かっていったみたいだけど」

「え? うん、なんか教室の窓が開いてたみたいで、そこから出てきたよ。

 あ、今はちゃんと施錠の確認をしたから大丈夫!」

「そうなんだ。ごめんね、鍵の確認は日直の仕事なのに、私が閉め忘れてたんだね」

「気にしないで。それより早く行かないと授業が始まっちゃう」

「そうだね、行こう!」

 可恋が教室の鍵を愛に返すと、ふたりは駆け足で音楽室へと向かった。ふたりが音楽室についたのは授業開始5分前だった。

 教室から音楽室まではそれほど離れていなかったので駆け足で2分ほどの時間だった。思いの外余裕があり、ふたりは安堵した。


 音楽室にはすでに他の生徒たちが揃っていた。いや、正確には何人かはトイレにでも行っているのだろう。全員ではなかった。

 だが、そこには勇気も希望も、そして正義もいた。そこに音楽の峰岸先生がやってきて言った。

「ああ、佐藤さん。今日の日直はあなただったわね?

 悪いんだけど、音楽準備室から先生のリコーダーを取ってきてもらえないかしら?

 先生は皆さんに配るプリントの準備があって、手が離せないのよ」

「え? はーい」

 愛は素直に先生の頼みに応えると、音楽準備室へ向かった。可恋はその間にリコーダーを袋から取り出して椅子に座った。

 すると、1分もしないうちに愛はリコーダーを片手に戻ってきた。

「えっと、これですよね? 先生のリコーダーって」

「ええ、ありがとう。佐藤さん。そこの机の上に置いておいてちょうだい」

 愛は言われた通りにリコーダーを教壇の上に置き、可恋の隣の椅子に座った。

 音楽室には生徒の机はなく、椅子だけが4列横に並べられている。

 また、教室の席とは違い、どこに座るのかは生徒の自由なので、仲良しグループで固まることが多いのだ。

 そうして愛と可恋は仲良く隣通りで音楽の授業を受けるのだった。

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