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超絶勇者ブレイブマン  作者: タチバナ
別に謎ではない転校生編
19/57

17.おもしれー女

 花道正義はその不遜なふるまいに見合うほど、優秀だった。その後の数学、国語、理科の授業でも、転校生ということもあってそれぞれ先生からの指名を受けて問題を解答したが、すべて完璧な正解であった。

 だが、完璧であればあるほど、その他人を見下しているかのような態度が鼻につく、……と感じているのはどうやら希望だけではないようだった。

 他の生徒たちも何やら怪訝そうな顔でひそひそと話をしているが、当の正義はどこ吹く風で、それが一層彼の孤立を際立たせているのだった。

 そして4限が終わり昼休みにもなると、もう誰も彼に話しかけようとする者はいなかった。ただひとり、――佐藤愛を除いては。


「ねえ、正義くん!」

 愛は昼休み開始のチャイムが鳴り終わるよりも前に元気よく正義に話しかけた。

「何? まだなんか用?」と正義は不機嫌そうに返す。

「用って言うか、もうお昼休みだからさ。お弁当の準備とかしてあるのかなーって。

 うちは、……って言うか、日入中でも同じだと思うけど、給食はスクールランチ制で事前予約が必要だからね。

 転校初日でも入学手続きのときとかに予約できるのかな? それならいいんだけど。

 あともしもランチルームの場所が分からないんだったら案内を、」

「弁当持ってきてるからいいよ。だからもう俺のことは放っておいてくれ」

 愛は捲し立てるように早口で言ったが、やはり正義はここでもつっけんどんな返事をし、弁当箱の包みを持って席から立ち上がり教室を出ようとする。

 そんな投げやりな態度とは裏腹に、不思議とその弁当箱の包みは丁寧な結び方がされているように見えた。


 余談だが、愛の言う「スクールランチ」とは主に名古屋市や新潟市などの地域で導入されている制度で、

 実施日より前の日付で校内に設置してある予約機でメニューを選択し、当日は発行された食券と引き換えに給食を受け取るというものだ。

 そして、受け取った給食は教室あるいはランチルームに運んで食べるのだ。なお、この給食の調理に関しては外部の調理業者に委託されている。

 また、この制度とは別に、各自弁当を持ってきて昼食をとってもいいので、愛たちのグループは全員毎日お弁当を持ってきているのだ。


 ――閑話休題。正義はどこか静かな場所でひとりになりたいのだろう。愛に背中を向けてすたすたと早歩きをしていった。

「あ、待ってよ、正義くん! せっかくだから一緒に、……ってもうあんな遠くに。

 次の授業、男子は校庭で体育だから遅れないようにねー! ……うーん、なかなか難しいなあ」とさすがに愛も困り顔だった。

 「体育」というワードに反応して右手を軽く上げてくれたような気もするが、愛の言葉がどこまで伝わっているのかは分からなかった。

 なお体育の授業は基本的には男女別で、今日の5限は男子は校庭で女子は体育館で授業を受けることになっている。


「おい、何やってんだ、佐藤。あんな奴もう放っておけよ。

 それより早く屋上行って飯にしようぜ」と希望。

 先程一瞬喧嘩になりかけたが、愛は希望に対して普段から馬鹿にしてる感じなので、それについてはあまり気にしていないようだった。

 あるいはそれよりも転校生の失礼な態度に腹を立てているのだろう。続けて勇気も愛を諭す。

「愛ちゃん、本人が嫌がってることを無理に誘ったって仕方ないよ。もうひとりにさせてあげようよ」

「んー……、正義くんが本当にひとりが好きな性格ってんなら、そりゃ私だってそうするけどさ……。

 でもなんかあの子の目って寂しそうに見えるんだよね。本当は友達が欲しいのに、なかなか素直になれないって感じ」

「だとしても、それは余計なお世話だよ。人にはそれぞれ歩み寄りのペースがあるんだ。

 向こうから心を開くのを待つしかないって」

「むー……」

 勇気の言葉に愛は少し納得がいかない様子だったが、これ以上言い争いをしても時間の無駄だと思ったのだろう。

 勇気、希望、可恋の3人に続き、愛も黙ってお弁当を持って屋上へ向かうことにした。


 一方で、正義は校舎裏の非常階段に陣取り弁当を食べ始めた。

「あいつ、妙な女だな」とひとりごちたが、周りには誰もおらずその声は宙を舞った。

 正義にとっていちいち休憩時間に絡まれるのは煩わしい。だが、それも転校初日だから仕方のないことだろう。

 どうせみんなすぐに俺のことなんか気にしなくなる。そのへんの小石と何ら変わらない存在になるはずだ。

 これまでだってそうだった。最初は好意的に接してくる相手でもいつしか素っ気ない態度をとるようになるのだ。

 それはもちろん正義が突き放すような物言いをするせいでもあるのだが、彼はそれだけではないと思っていた。

「兄貴が何か裏で工作してやがるんだろうな……」

 弁当箱の中身を口に運びながら正義は独り言を続ける。正義にとって兄は大切な肉親ではなく天敵と言ったほうがいい。

「まあいいさ。そのほうが俺にとっても気が楽だからな。

 それにいつか離れていく友達なら、最初からいないほうがいい」


 ……だが、あの女はどうだろうか。あの女はいくら俺が突き放そうとも、いくら兄貴が何か嫌がらせをしてこようとも、きっと俺への態度を変えないのではないか。そんなことを正義はふと考えていた。

 もちろん転校初日だから、佐藤愛という女子生徒について、正義は何も知らない。しかし、何故か彼女は自分のことを放っておかないだろうと直感していた。

 むしろ突き放せば突き放すほどに意地になって、しつこく絡んでくるようになる、――きっとそんなタイプだ。

 面倒くせえな……。俺なんかと絡んだっていいことなんかありゃしないってのによ。正義は溜息をつく。

 しかし、何故だか彼女のめげない態度そのものはあまり不愉快ではなかった。

「ふっ、おもしれー女」

 少女漫画のような台詞が正義の口から不意に漏れていたが、それを笑う者は誰もいなかった。

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