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超絶勇者ブレイブマン  作者: タチバナ
別に謎ではない転校生編
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15.猫と転校生

 その後、ふたりは2階への階段を上がり、話しながら廊下を歩いていった。愛が元気よく挨拶をしながら2年B組の教室の扉を開けて中に入ると、それについていきながら可恋が言った。

「それでね、いくつか猫の名前の候補は考えたんだけど、まだ悩んでて」

「ふーん、どんなので悩んでるの?」

 お互い自分の席に腰かけながら、愛が訊ねた。

「ふたつに絞るなら『ラブ』ちゃんか『シュガー』ちゃんがいいかなって」

「うーん、どっちもかわいいけど、『シュガー』ちゃんのほうが言いやすそ、………………?」

「え、何?」

「いや、可恋ちゃん。もしかして私のこと猫だと思ってる?」

「なんで?」

「……私の気のせいならいいんだ、うん」

「じゃあ、『シュガー』ちゃんにするね! ありがとう、愛ちゃん!」

「うん、よかったね……」

 『佐藤愛』としてはなんとなく納得がいかないが、無理矢理納得しようとする愛。佐藤……、砂糖……、シュガーかあ……。


「っていうか、名前決めたあとでなんだけど、あの子って男の子だっけ、女の子だっけ?」

「男の子だね」

「男の子で『シュガー』ちゃん……、いや可恋ちゃんがそれでいいならいいんだけど……」

 愛はまだ割り切れない様子であったが、可恋はふとあることを思い出して、両手を自分の顎の前で合わせて言った。

「あ、そう言えばさ、今日うちのクラスに転校生が来るらしいね。ずっと言いそびれてた」

「そうなの?」

「うん、この前日直だった日、日誌を職員室に持って行ったとき、松永先生がそんな話してるの聞いちゃったから」

 松永というのは2年B組の担任の先生だ。40代くらいの男性で、教科は古文を担当している。

 白髪が多く年齢よりも老けて見られることが多いが、あまり気にしていない様子で、どちらかと言えば変わり者という印象を受ける先生である。

「じゃあ、私たちのクラスに新しい仲間が増えるんだー! うわー、楽しみー!!

 どんな子なんだろ!? 男の子かな!? 女の子かな!?」

「ちょっと小耳に挟んだだけだからそこまでは分からないけど……」

「名前は『ソルト』くんにしようか!?」

「どういうこと!?」


 愛と可恋がそんな風にはしゃいでいると、そこに希望がやってきた。……と言うより特に愛の声が大きいのでクラス中の視線が集中していた。

 転校生? お前知ってた? どんな子だろうね? そんな感じでもう大騒ぎだ。思春期の少年少女たちにとっては、転校生の登場はクラスの一大イベントなのだ。

「お前ら一体なんの話してんだ?」

「あ、希望くん。あのね、うちのクラスに転校生が来るんだって!」と愛が答える。

「いや、そっちもだけどよぉ、猫に名前を付けるとかどうとかってなんの話だよ」

「あ、それはこの前の金曜日に捨て猫を拾ったから、可恋ちゃんに飼い主になってもらおうって話で」

「俺は何も聞いてないぞ! 俺には相談なしかよ!」

 希望は何も考えていないように見えて案外繊細な男だ。自分の知らないところで捨て猫が拾われ、すでに飼い主が決まっているという点が気に入らなかったらしい。

 そうなれば転校生の話は二の次だ。そこに武道場から戻ってきた勇気がやってくる。


「お前に相談したって仕方ないだろ。どうせ世話だってしないだろ」

「何言ってんだ、勇気! 猫の世話くらいそりゃ完璧にやってみせるぜ! ……俺の妹がな!」

「他人任せかよ! お前に相談しなくて正解だよ!」

「というか、希望くんって妹いたんだ」

 と勇気と愛がツッコミを入れたところで、予鈴が鳴ってそれぞれの生徒が席についた。しばらくしてそこに担任の松永先生がやってくる。

 普段よりほんの少し遅かったのは、転校生を迎える準備をしていたためかもしれない。

 まずは普段通り日直の号令に合わせて生徒たちが起立、礼、着席と挨拶をしたあと、松永先生が話し始めた。


「えー、それではね、えー、すでに知っている者もいるかもしれないが、このクラスに新しい仲間が増えます。

 ……えー、ということで、皆さんよろしく。えー、それでは入ってきてください」

 松永先生が教室の扉のほうを向きながら、外で待機していたらしい生徒を呼び寄せた。

 余談だが、この先生は「えー」と言うのが口癖らしく、愛は退屈なとき授業中何回「えー」と言ったか数えている。

 不真面目代表の希望はそもそもよく居眠りをしているので叩き起こされている。


 ――閑話休題。教室に入ってきた生徒は小さい男の子だった。顔立ちは年頃の男の子らしく整っているほうだろう。

 だが、勇気たちと同級生にしては背が低い。あまり体格のいいほうではない可恋ともそんなに変わらないくらいだ。

 気だるそうな男の子で制服のズボンポケットに手を突っ込みながら入ってきた。

 制服はまさに新しく買ったばかりという感じだったが、首元を開けシャツをズボンの外に出していたので、だらしなく見えた。

 普通は最初くらいは印象を良くしようとするものだ。あまり転校生らしくない。

 男の子が教卓の斜め後ろ、勇気たちから見ると松永先生の右隣に立って正面を向くと、松永先生が黒板に「花道正義」と名前を書いた。

「えー、今日からこのクラスに加わる花道正義はなみちまさよしくんです。正義くん、えー、それでは皆さんに簡単な自己紹介をしてください」

「花道です」

 男の子、――正義は短くそう言った。いくら簡単な自己紹介と言っても、「よろしく」とすら言わず、名字だけ名乗る人を愛は初めて見たかもしれない。

 だが、松永先生もあえてそれ以上は促さず「えー、それでは皆さん仲良くしてやってください」と言うと、正義をうしろのほうの空いている席に案内して座らせた。

 そのあとは普段通りの朝会を進めて、やがて別の先生と入れ替わって授業が始まった。もちろん授業のあとの休憩時間はみんなから転校生への質問タイムだ。

 何せみんなこの転校生のことが気になって仕方がないのだ。早く質問がしたくてうずうずしていた。

 ――しかし、このあとすぐに、その気持ちは急速に冷えていくことになるのであった。

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