12.告白と選択
それから望月祥雲と名乗った少年は、ゆっくりと語り始めた。自分が犯してしまった罪について、そしてそれに至るまでの経緯すべてを。
勇気も愛も、そして可恋も先を促すようなことはせず、ひとつずつ少年の罪の告白を受け入れていった。
彼が語り終えるまで誰も余計な口は挟まなかった。それがきっと彼にとって一番の贖罪になると、自然に感じられたからだ。
「――というわけなんです。全部全部俺が悪かったです。ごめんなさい……」
それが最後の言葉だった。話を終えた少年の肩はもう震えてはいなかった。
目には涙を浮かべていたが、まるで背負っていた重い荷物を降ろしたかのように清々しい顔をしていた。
「祥雲くん。この動画を見てもらってもいいかな?」
勇気はスマホの画面を再び祥雲に見せる。今度は画像ではなく動画を再生して見せているようだ。
「これ、俺が怪我させた猫の動画……?」
「そうだよ、君が怪我させてしまった小さい命だよ。幸い怪我は大したことはなかったらしい。
今は俺が預かっているけれど、こっちの髪の長いお姉ちゃんが飼い主になってくれることになってる。
それで問題ないかな……?」
「はい、ありがとうございます……」
祥雲は可恋のほうに頭を下げてお礼を言った。可恋はどう返事すればいいか分からず、あたふたするばかりだった。
「えっと、どういたしまして……? でいいのかな、この場合……」
勇気と愛は笑いながら、続けて言う。
「いいと思うよ、可恋ちゃん」
「まあ安心してよ、祥雲くん。この可恋ってお姉ちゃんはすごく優しいからこの猫のことも大切に育ててくれるよ」
祥雲は言われた通り安心した表情を浮かべている。猫が無事だったことも、いい人に拾われていたことも嬉しかった。
だけど、勇気はほんの少しだけ表情を引き締め直して、祥雲に告げた。
「でもね、祥雲くん。君の罪はこれで終わりじゃないよ。俺たちに謝ったって仕方ないんだ。
君が本当に反省しているなら一緒にお巡りさんのところに謝りに行こう。
多分おうちや学校にも連絡がいくことになる。それでもいいかい……?
あるいは俺たちは別に今回のことはなかったことにしたっていい。これは君が選択すべきことだよ、祥雲くん」
「……ちゃんと謝りに行きます。そうじゃないと多分一生後悔するから」
そう言った祥雲の目はほんの少しだけ少年から大人にと変わったかのように輝いていた。
「うん、いい子だね。……そういうわけだから、愛ちゃんと可恋ちゃんは今日は帰っていいよ。
本当は今日も家まで送っていきたいけど、そういうわけにはいかなくなったからさ。まだ日も登ってるし、大丈夫だよね?」
「任せといてよ、勇気くん。可恋ちゃんは私が守るから大丈夫だって」
「可恋ちゃんは明日また、――時間はいつでもいいから俺の家に来てもらってもいいかな? 猫を渡すのはそのときにするよ」
「分かった」
そこまで会話をして勇気は3人組に別れを告げようと振り返った。だが、勇気が言葉を発する前に大地が大声で叫んだ。
「ちょっと待った! さっきから黙って話を聞いてたけどよ、そいつをこのまま帰すわけにはいかねえぜ!」
「大地くん……?」
勇気たちは困惑する。無論、祥雲自身も。この期に及んで大地が一体何を言い出すのか見当もつかなかったからだ。
だが、大地の言い分は言われてみれば至極当然で、必要な話だった。
「お前な! 俺たちと一緒に遊びたいんだったら、最初からそう言えよ!
それならいつだって仲間に入れてやったのによ! はっきり言われないと分からねえよ!」
「あ……」
祥雲は小さく呻く。そうだ、はっきりと「一緒に遊びたい」「仲間に入れて欲しい」と言う勇気があったなら、きっとこんなことにはなっていなかったのだ。
一緒に遊べる仲間がいるなら、勉強ばかりで憂鬱な日々について相談することだってできた。
それなら鬱憤晴らしにエアガンを持ち歩いて、気まぐれに通りかかった猫に銃口を向けて引き金を引くなんてことをする必要はなかったかもしれない。
それを改めて自覚して、祥雲の目からは涙が溢れ出した。
「……今からでも俺を仲間に入れてくれるか? ……ううん、こんな言い方じゃ駄目だ。
これからは俺とも一緒に遊んで欲しいです。俺を仲間に入れて欲しいです。どうかよければ、お願いします……」
「おう、当たり前だぜ! お前らもいいよな!?」
「「もちろん!」」
大地の問いかけに海広も空也も快く返事をした。本当はこんなにも簡単なことだったのだ。ほんの少し一歩を踏み出す勇気さえあれば……。
そのとき、そんな空気を一切読まない笑い声が響き渡った。
「ふっふっふ……、にゃーはっはっは! 話は聞かせてもらったニャ。それなら私も仲間に入れてもらうニャー!
私は地獄のミャーコ! 獣人の国からやってきた悪の女幹部ニャ!
言うことを聞かなきゃ酷いことをしてやるのニャー!」
愛はいつの間にかいつもの猫耳カチューシャと尻尾を身につけて、地獄のミャーコになりきっていた。
勇気や可恋にとっては見慣れた光景だが、小学生4人は突然のキャラ変に唖然としている。
「な、なんだ、いきなりコスプレか……? いや、ヒーローごっこがしたいのか?
まあいいや、姉ちゃんももう俺たちの仲間だもんな! あっちに行ってみんなで一緒に遊ぼうぜ!」
大地がそう言うと、他の小学生3人もそのあとに続いて公園の奥へと駆けて行った。
愛、――いや地獄のミャーコも勇気に向かって「ちょっとくらいなら遊んでもいいでしょ?」という意味でウインクをすると、それに続いていった。
勇気はそれを見て、やれやれ仕方ないなと肩をすくめた。そして、こうなったら勇気もヒーローごっこモードに切り替えて思いっ切り遊ぼうと思った。
「待て、地獄のミャーコ! 子供たちに悪さをするつもりだろう!
この俺が来たからにはそうはさせないぞ!」
「むむむ……、貴様は超絶勇者ブレイブマン! どうして私がこの子供たちをくすぐって遊ぼうとしていることが分かったニャ!?
しかーし、そんな邪魔はさせないのニャ! さあ、どこからでもかかってくるニャ、ブレイブマン!!」
そこからはもういつもの馬鹿騒ぎだ。勇気も愛もただはしゃいでじゃれ合うばかりだった。
可恋はそれを羨ましそうに見つめていたが、そんなとき勇気がこちらに目線を送っていた。
それは「可恋ちゃんもこっちに来て一緒に遊ぼう」という意味だ。可恋は戸惑いながらも駆け寄った。
「わ、私も混ざっていいの……?」
「もちろんだよ」と勇気は可恋の耳元で囁く。
「……ありがとう、勇気くん」
可恋は少し恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだった。そのあとはエアガンでの的当てゲームや追いかけっこなどをして遊んだ。
それはもう大変賑やかで本当に楽しいひと時だった。そして結局そのまま日が暮れ始めるまで遊び続けた。
そして最後にはカレン姫も満足そうな笑顔を浮かべていたのだった。




