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遠回り

「実咲はいつもあの公園で一人でごはんを食べてるの?」



「……うん、……ほとんどあそこかな……」



「お昼にさ、実咲が一人でベンチに座ってるの見たらさ、色々考えてしまった。 一人が幸せだと感じる人もいるけど、実咲は結婚して幸せを感じる人だと思うよ。 結婚して子供がいて、そんな状況に実咲もなってて欲しかった、なってるはずだって思ってた。 でも、二十年後出会った実咲は一人だった……。 俺のせいだって思った。 俺と出会わなければ、実咲は誰かと恋愛をして結婚をして家族を持って……っていう事になってたはずなのに。 でもさ、自分を責めるのに実咲の事を今でも好きなんだよね。 実咲を好きでいる権利なんて俺にはないのにさ……、今でも実咲なんだよね……」


「実咲は今、幸せ? もし、幸せと言うなら俺はもっと幸せになれると思う。 どうしたらもっと幸せになれると思う?」


 実咲は黙ったまま俺の話を聞いていた。


「言わないだけで実咲もわかってるでしょ?」



「【言えない】んだよ……。 言いたくても言えない」



「何にひっかかってるの? 歳? 子供?」



「……さっきも言ったけど、私は司にはお父さんになって欲しい。 司がお父さんなら子供は絶対幸せだもの……」



「実咲、忘れてない? 俺、もう父親だよ。 俺、あの子の父親でしょ? 実咲はあの子のお母さんでしょ? あの子が俺たちを親にしてくれたんでしょ?」


 実咲はポロポロと涙を流しながら何も言わずに話を聞いてくれた。


「俺はそれで充分。 実咲がいてくれたからあの子ができたんでしょ? 俺の一番大切な人が俺の子供を身ごもってくれたんでしょ? 確かに実咲のお腹の中で存在したんでしょ? 実咲も全力でその子を守ろうとしてくれたんでしょ? その時点で実咲ももう母親だったでしょ?」


「俺はそれでいいんだよ。 俺がさ、実咲を今でも好きなのは実咲もわかってくれてるよね?」


 実咲は泣きながら頷いた。


「俺のうちで話してさ、付き合えないって言ったよね? あの後、家帰って泣いてなかった? 三郷ちゃんから聞いたけど……たぶん、そうだよね? 何でそんなに泣いてたの……? 実咲も本当は俺と同じ気持ちだったんじゃないの……? お互いさ、こんなに好きなのに離れる事はないよね……。 そう思わない?」


 しばらく黙った後、実咲は口を開いた。


「……私、おばちゃんになっちゃったよ……」



「俺もおじさんになっちゃったよ……」



「もう子供、産めないよ……」



「俺たちにはあの子がいるでしょ?」



「しばらく京都から離れられないよ……」



「何の問題もないよ」



「…………」



「他にご質問は……?」


 泣いている実咲の横に俺は座り直した。


「もう一人でいるのはやめな……。 俺が一緒にいるから。 実咲、結婚しよう」


「実咲、覚えてる? プロポーズはちゃんとするからって言ってたの。 ほんとに凄い待たせたけど……ごめん……。 俺は実咲がいいんだ。 もう離れたりしない。 ずっと一緒にいて欲しい。 俺と結婚して下さい」


「今までいい人がいなかったから結婚しなかったんだよね? 俺以外にいい人なんている?」


 実咲は笑いながら泣いていた。



「ほんとに私でいいの……?」



「実咲は俺がいいんでしょ? それは俺も一緒だから。 俺も実咲がいい」



「……ありがとう……」



 二十年ぶりに抱きしめた実咲の感触は全く変わっていなかった。 二十年も前なのに当時の感触を体が覚えている。

 やっと、やっと実咲と一緒にいられる。

 遠回りしたけれど、やっと傍にいられる。

 毎日実咲と笑って過ごせるんだ……。


 実咲を抱きしめたまま実咲が落ち着くのを待った。


「実咲、こっち見て。 俺、【ありがとう】しか聞いてない。 ちゃんと返事聞いてないよ。 もう帰らなきゃいけないけどこのままじゃ帰れないよ」



「私も司が大好きです……。 私を司の奥さんにして下さい……」


 ポロポロ落ちる大粒の涙を拭いながら実咲はそう言った。

 繋いだ手をもう離す事はない。

 実咲と一緒の人生がやっと始まった。






 年末。


 夜勤前の実咲から電話がかかった。


「実咲、今から夜勤でしょ?」



「うん。 年明けは仕事中になるかなーー。 結婚して初めての年末、一緒にいられないねーー。 ごめん、仕事で……」



「仕方ないよ。 で、もう慣れた? 【曽根さん】」


 実咲は結婚と同時に仕事で旧姓を使うのをやめた。

 どちらでもいいと言われたけれど、残りの人生は俺と同じ名前で呼ばれたいからと、使い慣れた旧姓から曽根に変えたのだ。



「正直、まだ慣れない……! けど、呼ばれるの嬉しい。 あーー、ほんとに結婚したんだーーって思う」



「結婚したよ。 でもまだ実感ないかなぁ。 一緒に住んでないし……」


 俺たちは今、別々に暮らしている。

 実咲の仕事がひと段落するまでは週末婚みたいな感じでお互いの休みに合わせてどちらかの家へ行く。

 最短であと三年……。



「ほんとだねーー。 でもね、そっちと京都、行ったり来たりで楽しいよね」



「そうだねーー」


 ……と、その時、チャイムが鳴った。


「あ、誰か来たみたい。 ちょっと待ってて」


 実咲にそう言って玄関を開けた。




「ただいま」




 今から夜勤の実咲がいた。


「え……どうしたの? 仕事は?」



「みんながシフト変えてくれた。 新婚なんだからって……。 司、びっくりさせようと思って黙ってた!」


 びっくりした俺の顔を見て笑って満足そうだった。



「おかえり!」


 実咲を引き寄せ抱きしめた。

 会えないと思っていた実咲がいて嬉しかった。



 今は、リビングの窓の前に椅子が二脚置いてある。

 その椅子に座り今日はビールを飲みながら夜の街を眺める。

 もう一人で眺めなくていい。

 隣には実咲がいる。


 母さん、ムロカワさんが奥さんになったよ……。

 偶然にも大好きだった人なんだ。


 そんな事を夜の街を眺めながら思った。




「少しおせち作ろうか? お正月っぽい事した方がいいよね」



「じゃあ、俺も手伝う」



 幸せがやって来た。

 それもとてつもない……。

 ずっとこうしたかった事が現実になった。

 諦めかけた人生だったのに、大好きな人が隣にいる人生になった。



 ゆっくりだけど確実に幸せな二人の時間が動き出した……。


 実咲、待っててくれてありがとう。

最後までお読み頂きありがとうございました。


この作品にお時間を頂いた事、感謝しかありません。


また、お会いできたらいいなと思います。


ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 良い物語でした。 素晴らしい作品を、ありがとうございます。
[良い点] 完結おめでとうございます
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