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最後のデート

 実咲と話さなきゃ……と思いながらもなかなか言い出せずにいた。

 メールや電話で伝える事じゃない。


 どうしよう……と思いながら1週間が過ぎた。


 いつもの金曜日。

 浮かない表情の俺に実咲も気がついていた。


「司、どうしたの?」



「……ん? ……いや……」

 


「そう? 司、明日どうするの? 朝、病院行くんでしょ?」



「あ、うん……。 実咲さ、明日水族館行く?」


 俺は急に思い立った。



「え? 水族館? どうして? ……行く時間あるの?」


 実咲も突然の提案にびっくりしている。



「大丈夫だよ。 夕方までにこっちに帰ればいいし……」



「……じゃあ、そうする……?」



 明日話してみよう……。

 そう決めた。



 翌日は俺の気持ちを代弁するかの様な雨だった。

 近くの水族館。

 実咲と来たのは2回目。

 土曜日という事もあってか人は多い。


 順路に沿って見て回る。

 こんなデート、ずいぶんしてないな……。

 当たり前だと思っていた実咲との時間。

 もう終わりそうなこの時間を俺はどんな顔をして過ごしてるんだろう……。

 目の前の水槽を見るより、実咲を目に焼き付けていると言っても間違いじゃなかった。


 雨の中見たイルカショー。

 その先に見える鈍い色の海と曇り色の空。

 イルカショーを見ながらこんなにも悲しい気持ちになるなんて、後にも先にも今日だけだ。



 実咲とまた来たかったな……。



 そんな事が頭の中を占領する。


 イルカショーも終わり、まだ回ってなかったところを見て回った。

 最後に見たクラゲの水槽。

 実咲はその青白くライトアップされ中でゆっくり泳ぐクラゲをじっと見ていた。

 このコーナーが終われば実咲との時間の終わりを告げられる。

 向かいたくない明るくなった出口。

 でも進むしかなかった。



 明るくなった出口の先にはお土産やさんがあったが、実咲はあまり見ず外に出ようとした。


「実咲、お土産見ないの?」


 俺はそう声を掛けたが、



「ん? あーー、いいよ! また来れるから」


 そう言って外を目指した。

 美咲の言葉が胸に刺さる。



「……実咲、横の公園、ちょっと行かない……?」


 覚悟を決めるしかなかった。


 水族館隣にある臨海公園。

 遊具もあって家族連れでたくさんの人が来ていた。

 鬼ごっこをしたり、ブランコの高さを競走したり、まだまだ小さい子が危なっかしそうに滑り台の上まで登るのを横で不安げに見ているお父さんがいたり、各々が楽しそうにそこでの時間を過ごしていた。


 そんな横を通り過ぎ、奥の芝生の広場へと向かった。

 どちらともなく手を繋ぎ、周りから見たら普通のカップルなんだろう。

 これから別れる話なんてするとは誰も思ってないだろうな……。


 芝生に座り、一つ大きく深呼吸した。


 俺はしばらく何も喋れずにいた。

 自分から終わりにしてしまおうとしている事に最後まで躊躇していた。

 大切で失いたくなくてずっと傍にいて欲しい大好きな人を手放す勇気をここに来てもまだ持てずにいた。

 そんな俺を見て不安になったのか握った実咲の手に力が入る。


 俺は少しずつ話始めた。



「実咲、よく聞いて……。 俺たち、別れよう……」



「え?」



「俺たち、別れよう……」



「どうして? 何の為に別れるの?」



「実咲……、別れよう……」



 握ったままの実咲の手の力がふっと抜けた。

 けれど、俺の手を離そうとはしなかった。


 まっすぐ見つめる俺への視線、不安で悲しそうな顔をしているのはわかったけれど、俺は下をうつむいたままそんな実咲を感じるしかできなかった。

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