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2.神憑り的遭遇と契約

そうか、君はレオって言うんだね。

僕はルクス、君の墓を暴きにきたコソ泥だよ。


君はどうして自分の墓の前に?

……そうか、存在として強すぎて完全に天に召されるまで時間がかかるんだね。

ぼうっとその時を待っていたはいいものの途中で身体を盗まれて、霊体の自分は何も干渉出来なかったと。

僕が言うのもなんだけど災難だったね……。


え?


コソ泥の件を不問にする代わりに身体を貸せ?

自分の身体を墓に戻すのを手伝え?


いやいやいや、何ですか身体を貸すって。そのままの意味?よく分かりませんよ。

それに、勇者の遺体が盗まれていることを疑いはしないけど、そんなものを手に入れた割にそれらしいことをしている奴なんて今の世の中にはいないハズなんだけど……。


うるさい、ごちゃごちゃ言うな……って、確かに僕は泥棒だから何も言えないんですけどね。

ちょっと横暴な気も……いや、なんでもありません!!


とにかく、身体を貸すことにはメリットもあるだろうし一々許可なんか取らんでも乗っ取れる?もう取り憑いた?


え?







目が覚めるといつものボロ宿屋に僕は横たわっていた。最後に覚えているのは僕が雷に打たれたということだが、何故か傷一つ負っていない。手を握ったり開いたり、頬を抓ってみたりしても僕の体はピンピンしたままだ。むしろ墓荒らしに行く前より調子が良いような気さえしてくる。


「全部夢……ってこともないだろうしなあ」


『その通りだぜ、ネクロマンサー』


「っ!?!?」


零した独り言に返事が返ってきた、それも誰もいないはずのこの部屋の中から。いや、この声は知っている。記憶は曖昧だが確かに僕は雷に打たれた後に会話をしたはずだ、勇者レオと。


『それもその通りだぜ』


そう言えば、身体を乗っ取るだとか取り憑いただとかを言ってたような気がする。ということはこの声は僕自身の中から勇者レオが語りかけてきていて、更には僕の考えも読まれてるってことなのか……?


『またまたその通りだぜ』


今のところは、その通りだぜを繰り返すだけの悪霊だが勇者本人である事は取り憑かれているからこそ何となくわかってしまう。きっと僕の体の調子が良いのもそんな凄い存在が取り憑いていることに影響されているのだろう。


『まぁ俺は雷鳴の勇者だからな、電気マッサージもお手の物だ。あの仏頂面の魔法使いの表情を崩すくらいには腕を磨いたんだ、根源を倒した後はマッサージで食っていくことも考えてたくらいなんだぜ?』


「……」


数え切れないほどの敵を薙ぎ倒してきたあの勇者の雷も使い方次第ではマッサージ用にもなれるという、なんだか知ったところで少し複雑になるだけの知識を得てしまった。


『そう言うなよ、殺すだけのチカラってのも面白くないだろうが。それに女の子にマッサージ出来るなんてこんなありがたいことあるか?』


「なんだろう、勇者のイメージが急激に変化しすぎている気がするよ……」


今だけは、あの憧れを返して欲しいと思ってしまった僕をどうか許して欲しい。


『で、だ。さっきまでの夢の続きなんだが』


「ああ、身体を貸せ云々の話か……でも乗っ取れるんなら一々話し合う必要も無いんじゃないのかな?僕が霊体とはいえ勇者に勝てるわけないんだし」


『それがそうでも無いらしい、俺はもちろんそのつもりでお前に取り憑いたワケなんだがなぁ……。どうも俺が好き放題出来るって感じじゃないんだよな、勝手に乗っ取ってもせいぜい5分も操れないらしい』


最早諦めて投げやりに言葉を返したが、僕が僕として生きられる希望は僅かばかり残っているらしかった。


『なーんでこんなことになってるかって言うとだな、多分お前の師匠の仕業だろうな。あの時お前が俺の記憶を覗き見してたように俺もまたお前の記憶を覗き見してたんだが、ありゃ相当腕の立つ魔女だろう?お前の魂付近に魔術式で変な鍵かけてやがる』


「ま、まったく知らなかった……」


僕の預かり知らぬところで記憶を見られていたり、魂に術をかけられていたりしたらしい。師匠はこのことを予見していたんだろうか……。あの師匠なら有り得なくもないのが怖いところで尊敬出来るところでもある。


『そんで俺は取り憑き損になったと思いきや、割とそうでも無いっぽいのが現状で、ここを出ていくリスクも高い。

なんでかって言うとまず一つ、お前の身体と俺の魂は相性が良いらしい。お前の調子が良いのは電気マッサージだけじゃなくてこれの恩恵かもな。

んで二つ目は俺がこの身体から抜け出して単独行動出来る保証はないってことだ。俺は墓標を通してお前に流れ込んだんだが、つまりそれは俺が単体で霊体として存在できる確証は無いってことにもなる。次のアテも無い状態で賭けはあんまり良くない。

三つ目は俺とお前で取引が出来るかもしれないってことだ』


「取引……?」


『ああ、お前は強くなりたいから墓荒らしなんかやろうとしたんだろう?じゃあ俺が鍛えてやるよ。その代わりに俺の身体の場所を探れってことだ』


勇者直々の修行、降って湧いたその取引は僕にとってあまりに魅力的なものだった。

しかし勇者の遺体を追いかけるだなんて、あの景色を見た限りでは大きな陰謀すら渦巻いていそうな感じがしたのに僕一人でどうにかなるものなのだろうか。

勇者に鍛えてもらえるとはいえ、僕自身の才能の限界もあるだろうし、勇者の遺体の行方を追っても10年や20年かかるかもしれない、もしかすると一生見つからないままかもしれない。本当に僕に務まるのだろうか。


『大丈夫に決まってんだろ、やる前から弱気になんじゃねえ。勇者サマがついてんだから間違いない。それに犯人の目星もいくつかつけてあるんだぜ?』


「なっ……」


そうだったのか。


『この国の騎士団が関わってることは確定だろうな。コソ泥の声には聞き覚えがあった。ありゃあ騎士団長だぜ』


「き、騎士団長がどうして!?」


『さぁな、ただ騎士団長がそんなコソ泥に手を染めるってことはもっと大きな存在の命令とかなんじゃねえかって事だな。それこそこの国の王が命令した結果かもしれんしな』


「いや、でもそんな……」


言葉が出ない代わりに冷や汗が出てくる。

王国がどうしてそんなことをする必要があるのか。ただ勇者がそんな変な嘘をつく訳もない。

証拠こそないが、どうやら真実らしい。


『王国の誰が元凶かは知らんが、騎士団を動かせる地位にいるやつは結構絞られてくる。そいつらに会って真実を確かめればいい』


「随分簡単に言うけど僕みたいな一般人は王城に入れないよ」


『侵入するか、何かしら実績をあげて招待されるかだな』


価値観の違いと言うやつだろうか、どちらも厳しいどころの話ではないのにそんな「軽くやれる」感じを出されても。

提示された契約内容の無理やり加減に思わず頭を抱える。


『今すぐにってわけじゃないぜ、身体を取り返すのにも力は間違いなく必要になってくるだろうし何にせよ修行が先だ。俺の身体はその後だ』


「それでもだよ、何十年修行したって国を相手取るのは無理だ」


『じゃあ修行は無しで俺はここからすぐにでもでていくぜ、リスキーだが何もしないよりはマシだ。お前はどうだ?』


痛いところを突かれた。確かに、このままの僕で一生を終えるなんて想像しただけで震えてしまう。それはどんなに大きな敵よりも恐ろしいことだった。


『俺はお前が取引に乗ってくれる方が嬉しいぜ、頼むよ』


「……そうだね、その取引に乗るよ」


冷や汗が止まらないし、指先も震えているけれど、それでも僕は僕自身の意思で、取引に応じた。


『決まりだな、これからよろしく頼むぜルクス』


「うん、よろしくね師匠」


『いや、師匠はヤメろ。むず痒い』


その時、彼が初めて笑った気がした。

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