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1.雷鳴の勇者と底辺のネクロマンサー

初投稿なんです。

「今月も厳しいなあ……」


財布をひっくり返してみても僅かばかりの硬貨がちらりと顔を見せるだけ。駆け出しのネクロマンサーことルクス、つまり僕は今日もまた王都グリースベイの端の端のボロ宿屋の一室で貧困に喘いでいた。


貧民街に生まれた僕は早々に顔も覚えていない両親に捨てられ、その後は現在の僕の師匠でもある悪趣味な魔女に拾われ15歳まで生き延びることが出来たが、15の誕生日の翌日に「修行でもしてこい」となんとも雑な理由でいきなり師匠の家から追い出されてしまったのだった。

それからは必死に色んな仕事をして日銭を稼いだが、所詮は日雇いの仕事なので長期的な安定は見込めず、こうしてボロ宿屋の薄汚れた床に伏して絶望することしか出来ていない。


冒険者として名を馳せ富と名声も欲しいままにしてこい、なんて師匠は言っていたけれど僕にそんな力は無いし、嫌われ者のネクロマンサーが人気者になれるわけが無い。

師匠の教えてくれた技をバカにしたい訳では無いがグリースベイでは貧民街での人攫いなどの犯罪が多く、それが世間ではネクロマンサーの仕業だと囁かれている。詳しいことは分からないがネクロマンサーが人間を掻き集めて怪しげな術を行使し、更には死体を操って帝都に反旗を翻そうとしている、などという陰謀論じみた噂までもが広まっている。

そんな訳もあって冒険者組合、通称ギルドにも顔が出し辛く低級冒険者たる僕の受けられる依頼なんて日雇いの仕事とそう変わらない。


「完全に詰んでる、ってワケか……せめて師匠みたいにドラゴンゾンビでも使役出来ればなあ」


ネクロマンサーの実力は使役する屍の強さでわかると言っても過言ではない。

だが僕にはネズミのような小動物の死体を従えるのが精一杯で、とても人の死体など操る技量はない。師匠にも「才能0だな」と、そこはお墨付きを貰った。

この部屋で時たま見つかるネズミの死体で軍団を築き上げたって大した役には立ちやしないのだ。


詰んでいる、先程の自分の言葉がリフレインする。


強い死体なんて手に入るはずもない、師匠に泣きつくこともしたくはなかったし、それを受け入れてくれるほどあの魔女はマトモじゃないのはわかっている。


そんな時、天啓の如く思い出したのは今は『先代勇者』の墓が庶民に向けて一般公開されている時期だったという事だった。







こうして僕は今、フード付きのローブを身にまとい大きめのシャベルを携えて酷い嵐の夜に勇者の墓の前に立っていた。


「僕がここから挽回するにはもうこれしかない……!!」


きっと師匠の家にいた頃の僕が見たら青ざめて止めるだろうし、師匠は引くくらい笑うだろう。

これがバレたらただの斬首刑では絶対に済まないだろう。英雄の墓暴きなんて、マトモな精神の持ち主ならまずやろうとも思わない。狂気の沙汰だ。

だが、やるしかない。

このまま小さな自分で潰れて終わる事への焦りだけが僕をつき動かしている。

警備の目を掻い潜るため作戦を一人寝る間も惜しんで練りに練ったおかげで見つかっているような感じも全くと言って良いほどにしない。

まあこんなことするやつがいるとは思えないのもそうだし、こんな酷い天気の夜は警備をする兵士も億劫だろう。


「ごめんなさい、でも僕にはもう後がない……!!」


濡れて冷たい手でシャベルを振るう。

ぬかるんだ地面は貧弱な僕でも掘りやすく、どんどん掘れてしまう。

大きな力を持つ勇者の遺体、それを掘り当てられればきっと何かやりようはあるはずなんだ。きっと。

魔力の籠ったアイテムや武具防具でも構わない、今の何も無い僕からすればそれは大きな助けになる。


「だから、頼むよ……!!」


シャベルを振るう力もいっそう大きくなる。

が、掘れども掘れども宝は出ず、焦りの気持ちが大きくなる。

出ろ、頼む、出てくれ。

汗か涙か雨かもわからない液体が僕の頬を伝う。


しかしどれほど掘り進めようが骨の一本すら出てこなかった。


「ダメ、か……また何も、変わらないのかよ……!」


絶望と共にシャベルを手放し、墓標に手をかけ、空を見上げたその瞬間、稲妻が僕を貫いた。







声が聞こえた。

ありとあらゆる喝采の声が僕を、いや違う。僕の目の前の人物を包んでいる。どこかトゲトゲしいその金髪に良く似合う赤いマントをたなびかせ立派な輝く剣を携えたその青年の、まるで僕とは正反対のその後ろ姿を僕はただ、憧れて見ていた。


景色が切り替わった。

青年は荒野に立ち、無数の魔物の前で剣を前に構えている。その立ち姿は騎士のような高潔さを感じさせ、それでいて獣のような荒々しさをも併せ持つ不思議な姿。青年が剣を一度震えば幾万もの雷が矢のように敵の軍勢に浴びせられ、僕が暫くその光景を眺めている間に魔物の数はその数を大きく減らしていた。まるで御伽噺のような強さだった。


また景色が変わる。

青年が酒場で出会った無精髭を生やしたガタイのいい男と酒を酌み交わし、意気投合し、仲間になった。

その男性の振るう大剣は常人では持ち上げられない程の大きさで、まるで大木だった。


それからどんどん見える景色は切り替わってゆき、青年は更に氷の魔法使い、教会を束ねる聖女を仲間に加えて快進撃を起こし、魔物の蔓延る前人未到の禁域を踏破し、遂には全ての魔物を生み出す根源の魔物すらも斬り伏せてみせた。


ここまで見れば何となく僕にもわかる。

これはきっと勇者の記憶だ。でも、どうしてこんなものが見えるんだろう。僕を貫いた稲妻が見せた走馬灯に近い何かなのだろうか。それにしたって勇者の軌跡を走馬灯にするなんてまったくおかしな話だけれど。


また、景色が変わった。

今度は今までの様な明るい雰囲気は何故か感じられない。勇者やその仲間たちの姿も見られない。見えているのは僕がさっきまでいた勇者の墓か。そこに近付く複数人の顔を隠した者達。そいつらは僕と同じように墓を暴き、ちょうど人一人分くらいの大きさの何かを運び出していた。

まさか、勇者の遺体は既に持ち去られた後だったのか。

最初から墓には何も埋まっておらず、一般公開向けの形だけの墓の可能性も考えたがそれも違うらしい。僕と同じことを考えた奴がいただなんて、でも確かに納得出来る。力あるものの屍は、ネクロマンサーにとって強大な価値がある。

そうだったのか、と一人納得していると、頭の奥に何かが響くような感覚を覚えた。


『俺の身体を……』


声が聞こえる。薄らと、しかし怒りを帯びているような……。


『絶対に取り戻す!!』


真っ直ぐなその声を聴いたと同時に、僕は今まで背中しか見えなかった勇者と初めて、目が合った気がした。

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