転生令嬢の断罪されないための提案書 ~なのにあっさり破棄されてしまいましたわ!~
※誤字報告をいただきその点修正しておりますが、内容には変更ございません。
「皆様にはお集まりいただきましたこと厚く御礼申し上げますわ」
我がサールグレーン公爵家のサロンにお集まりくださった皆様に、まずはわたくしオリーヴィアから軽くご挨拶いたします。
学園で集えればお手間を取らせることもなかったのでしょうけど、どうにも警戒されているようで、わたくしがカルロッテ・ベルマン子爵令嬢をお呼び出ししようものならもれなく婚約者である王太子殿下が乗り込んできてしまいます。
ですので、王太子殿下の側近候補として侍らせていただいている弟の伝手を使い公爵家にお越しいただいたのです。
その弟ヨアキムも王太子殿下に傾倒しておりますので説得にはなかなか骨が折れましたのですけど。
「姉上、シリノ先輩までお呼びして一体何を企んでいるのですか?」
「失礼ね、企んでなんていませんわ」
お集まりいただいたのは、カルロッテ様、弟であるヨアキム、側近候補のおひとりヴィンバリ伯爵家次男シリノ卿のお三方です。
カルロッテ様とお二人になるのは経緯から申しまして愚の骨頂、弟にお手伝いしてもらったのですから参加は当然、サールグレーンの者だけではご不安でしょうから側近候補四名の方の中でも冷静で、お話を聞いていただきたいヴィンバリ卿にもご参加いただきました。
お茶の用意だけをさせ、侍女にも下がらせましたので今は四人だけ。
内緒のお話をするのにぴったりな状況ですわ。
「さて、本日は皆様にご提案がございますの」
少々きつい顔立ちをしているのは自覚しておりますので、なるべく柔らかく見えるよう笑みを浮かべますと、カルロッテ様はびくりと肩を震わせられました。
その反応、ちょっぴり傷つきますわ……。
◇◇
わたくしがこの世界が前世ではやって自身も何度も読み返すほどにお気に入りだった恋愛小説『恋は紅茶にはちみつを添えて』にとても良く似ていると気付いたのは王太子殿下にいたずらを仕掛けられて王城の池にぽちゃっとした時でした。
登城のときの装いでしたので残念ながら泳ぎには適さず、七歳のわたくしが落ち着いて立てば首から上は出るくらいの深さの池で危うく溺れかけましたの。
藻掻いているわたくしに慌てて手を伸ばしてくださる、その時はまだ第一王子であらせられたイェルハルド殿下の焦るお顔に「ティハニ二推し尊い……」と馴染みのある大人のわたくしの声が頭に浮かんでまいりました。
そこからは溢れんばかりの前世の記憶に、なんということでしょう、わたくしは池の中で意識を失ってしまいました。せめて救出されてからでしたらまだしも、力が抜けたわたくしがそのまま沈んでいく様子を殿下にお見せしてしまうとはなんたる失態。
その後高熱が出て寝込んでしまったのは池に落ちたせいでしょうか、それとも前世の記憶のせいでしょうか。
人格こそ今世のわたくしのままでありましたが、その溢れすぎて却ってぼんやりとしてしまった記憶からわたくしがティハニの悪役令嬢オリーヴィア・サールグレーンであることを知ったのです。
もちろん、気付いてからは破滅を回避するべくいろいろなことを試しましたわ。
それでも努力実らずイェルハルド殿下が子爵家の庶子として引き取られ学園に編入してきたカルロッテ様を見初められた時。
ティハニがゲームではなく小説であったことを改めて思い出しました。
ゲームでしたらヒロインさんがどのルートに進むのか、それによってお話が変わってまいります。どんなにわたくしが足掻こうともすべてのフラグ立ての現場を網羅することは不可能。
ですが小説ならば一本道です。逆ハーの物語ではありませんので、ヒロインさんは周りの殿方の皆様に揺れ動こうと最終的に王太子殿下と結ばれるのです。
ヒロインさんの恋の成就には障害がつきもので、それは身分の差であり婚約者の存在だとするなら、その障害を取り払う方向に動けば良いのではとわたくしは気付いたのでした。
◇◇
「先にお伺いいたしますが、ベルマン様は『ティハニ』をご存じないということでよろしくて?」
「ご、ごめんなさい。知りません……」
「姉上!そんな単語を知らないことに難癖をつけてどうしようと」
「ヨアキム、わたくしは事実の確認をしただけ。貴方もヴィンバリ卿もご存じないのでしょう?たまたまわたくしが知っていた単語をご存じか伺っただけで難癖になるのなら、国中の誰もが誰かに難癖を付けることになるわ。全員が同じことを知っているわけありませんもの。全てを悪い方に取ろうとするのはおやめなさいな」
まったく、こんなに短絡的な弟でしたでしょうか。
ヴィンバリ卿はどうだろうと見やれば、わたくしの真意を見定めようとしているのか無表情のままじっとわたくしを見ておられます。
わたくしはそっとヴィンバリ卿から視線を外し、カルロッテ様に微笑みかけました。
「お気になさらないで、ご存じなくても支障ないものですのよ。……驚かせましたわね、お詫び申し上げますわ。尋ね方がよろしくないのでしょうか。えぇと、わたくし……わたし?わたしは、ベルマン様とちゃんとお話しがしたいのですわ……お話がしたいの」
いつもの令嬢言葉をはずそうとしますが、なかなか難しいですわね……。
「ここは学園では……ありませんし、プライヴェートですもの、少し砕けてもよろ……いいかしら」
カルロッテ様はきょとんと眼を丸めました。あら、可愛らしいこと。
ヨアキムは驚愕の表情です。失礼ですわね。
ヴィンバリ卿はというと。
「ふっ……はははっ、サールグレーン嬢。貴女には無理があるのではありませんか?」
珍しくもお声を出して笑われ、わたくしの頬がさっと朱に染まります。
「お笑いにならないでくださいまし!使い慣れないのですもの、たどたどしくなるのは当然ではございませんか!」
「さっそく元に戻っていますよ」
「え、と。……わたしは歩み寄りたいのです。ベルマン様方に誤解をしてほしくないのです。だったら、わたしから変わるのは当たり前です。ベルマン様これでしたらどうかしら?」
わたくしも町言葉を話せておりますでしょうか。
審判を待つかのように両手を胸前に組んでカルロッテ様に尋ねると、カルロッテ様は眉尻を下げて笑ってくださいました。
「『これならどうかな?』でいいと思います、サールグレーン様」
「この場だけでもわたしのことはオリーヴィアと呼んでください。こ、これならどうかな?」
「……私のこともカルロッテと呼んでいただけますか?」
「もちろんですわ!カルロッテ様」
ヴィンバリ卿は肩を震わせたままですし、ヨアキムは呆れ顔ですが苦笑しています。
それでもお話を聞いていただける空気になったとわたくしは満足して、火照ったままの頬をぱたぱたと叩くのでした。
◇◇
「……オリーヴィア様、皆さんと同じようにしゃべれない私を馬鹿にしていたんじゃないんですね」
緊張と怯えがなくなり、少し温くなってしまった紅茶をそのままでいいからと飲みながらカルロッテ様はしみじみとおっしゃいました。
「そう聞こえていたのならごめんなさい。わたしはあの話し方しかしたことがなかったのですの」
「はい、今ならわかります。こっちこそごめんなさい」
「わかってくれまして嬉しいですわ」
「私が皆さんのようにしゃべれないように、皆さんも私のようにしゃべれないって全然気づきませんでした。てっきりわざとだと思ってました」
「そうですね、カルロッテ様が令嬢言葉をお勉強されているのでしたら、覚える前の言葉があると思っても仕方がないですものね」
「カルロッテ嬢、誤解が解けたのならオリーヴィア嬢の言葉を戻してもよいのではないか?」
「そうですね、姉に代わって僕からもお願いします。入り混じった話し方に違和感がひどく……」
まぁ、シリノ様……この場では皆様とお名前で呼ぼうと決まりましたの、はともかくもヨアキムは本当に失礼ですわね。
ですが思い付きで始めた町言葉でこれからの提案をするのは大変ですので甘んじますわ。
カルロッテ様は「歩み寄ろうとしてくれてありがとうございます」と頷きながらにっこり笑ってくださいました。
その優し気なお顔、さすがはティハニのヒロインさんですわ!
「礼を言われるまでもございませんわ。次はもう少し練習してまいりますわね」
「え、次……?」
「あ……失礼いたしました。わたくしからこの場限りと申しましたのに次のことなど……お恥ずかしいばかりです。お忘れになって」
残念ですが約束を違えてはなりません。
意気消沈を表に見せないように微笑むと、カルロッテ様は俯いて両手で顔を覆い、ぷるぷると震え始めました。
どうしましょう、また怖がらせてしまいましたの!?
「カルロッテ様。どうなさいましたの?やはり言葉でしょうか?え、えーと嘘は言わないです。次はなくても誰も怒りませんですわ。ど、どうかな?」
せっかく提案を聞いていただけるかと思いましたのにこれはいけませんわ。
わたくしは殿方お二人に確認を促しました。
するとお返事より前にカルロッテ様がぱっとお顔を上げ、ヨアキムにきらきらと輝いた目を向けられます。
「どうしよう、ヨアキム君オリーヴィア様ってこんなに可愛かったっけ!?」
「可愛いかはともかくこんな姉上は初めて見ました」
「殿下やヨアキムから聞いていたのと違って随分と愛らしい。我々は本当に誤解をしていたのだな」
これってからかわれているのかしら!?
いえ、思い込みはよくありませんわね。わたくしとてどの言葉も身勝手に決めつけられ、敵視されていたのですもの。
わたくしはまたも熱くなる頬を落ち着けるようソファに腰掛ける位置を直し、小瓶から少しだけ甘さを足した紅茶で少し渇いた喉を潤します。
「ま、まぁ怯えたのでないのならよろしいのですわ」
「姉上も普段からそんな態度でいれば学園でももっと過ごしやすくなったでしょうに」
「この場はともかく人前でこのような姿をお見せしていたら鞭で打たれてしまいますわ」
「「「え?」」」
あら?淑女教育の講師の流派が違うのでしょうか。
わたくしの先生は跡を付けずに乗馬鞭を振るうのがお得意だと評判でしたのに。
「わたくしの先生の流派は意識せずとも淑女の振る舞いが出来るよう身を痛めて覚える方針なのですわ。この国では多い流派ですので、他家の令嬢も同じ教えを受けた方が多いのではないかしら」
前世のふわっとした記憶からすると体罰反対なのですけど、だからこそ流派と聞いてこの世界ではこれが常識なのだと納得いたしました。令嬢のお友達とは「鞭がやってまいりますわよ」が鉄板の冗談なのです。
「そんな……」
「わたくしは特に王族教育も含まれておりますので、今も月に一度王城でマナーの講義がございますでしょ?学園や屋敷でのことも報告が上げられますの」
ここ数年は鞭が出てくることはありませんでしたが、本日のことが知られようものなら何回くらい打たれるでしょうか。
かつての痛みを思い出して、わたくしは左の一の腕をさすります。
侍女を下げていてようございました。
「ヨアキム、知らなかったのか?」
「シリノ先輩……それは」
シリノ様のお声が心なしかお固いような?
返事に窮するヨアキムに代わりわたくしがお答えいたします。
「淑女教育は使用人を除いて殿方禁制ですもの。ヨアキムが知らなくても当然ですわ」
それにヨアキムは六の歳まで少し肺が弱く、お母君と空気の良い領の療養地にいることが多かったので、わたくしがよく打たれて泣いていた頃はあまり顔を合わせていませんでしたしね。
自身のことですのにそれを忘れてしまっているのか、ヨアキムの表情が強張っているように見えます。
「私のマナーの先生はそんなことしませんよ……?」
「ベルマン子爵家は革新派の筋ですし、流派はいくつかございますからお抱えが違うのかもしれませんわね」
「イェルハルド殿下はご存じなのですか?オリーヴィア嬢」
「王城での講師は受講者の流派に合わせていただけますの。人選は王妃殿下の承認が必要ですので、あるいは」
「いえ、そうではなく」
どうしたことでしょう。せっかくの和やかな雰囲気は消え去り重苦しくわたくしに伸し掛かってまいりました。
シリノ様は剣呑とした面持ちでお尋ねになります。
「四六時中、貴女が見張られているということをです」
「見張られているなんてそんな」
「事実そうでしょう」
「必要なことでございましょう?もちろん王太子殿下にも報告は届いているはずですわ」
まだ婚約者として心通わせていた頃の定期的な交流の席では、ご一緒ではなかった事項についての労いのお言葉をいただいたことは幾度もありましたもの。
わたくしの応えを受けたシリノ様は深くため息をつかれました。
一方ヨアキムは血の気の引いた様子でわたくしをじっと見つめてまいります。
「申し訳ありません、姉上。家族として打ち解けることもない姉上に僕は嫌われているとばかり」
「まぁ、わたくしはこの公爵家の跡継ぎとして立派に努めているヨアキムを誇りと思っておりますのに」
ここにも誤解がありましたのね。
……この場でなら言い方を変えてもよいでしょうか。
「内緒ですわよ。ヨアキム、貴方はわたくしの可愛い自慢の弟なの。きっとこのまま素敵な紳士になるのだと楽しみにしているのよ?」
「姉上……」
少し顔色がよくなりましたでしょうか?
照れているのか眉を下げ口元をもにょもにょしているのが可愛らしいです。
「あ、あの、オリーヴィア様、私!」
唐突に、カルロッテ様が席を立たれました。
つかつかとわたくしに歩み寄り膝をつくとわたくしの手を取ってぎゅっと握ります。
「本当にごめんなさい。皆さんがそんなに大変な思いをして令嬢をしているなんて知りもしないで、学園なんだからもっと自由にすればいいのにって呑気に思ってました」
「カルロッテ様」
「きっと私なんてオリーヴィア様のマナーの先生だったら何回も叩かれちゃうんですよね?」
「そうですわね……。子爵家のマナー講師はなんと生ぬるいのかと思う程には。わたくしの師事する講師の流派でしたら一日に十や二十では足りないかと思いますわ」
「ひぇ……っ」
カルロッテ様の手がカタカタと震えます。
わたくしはもう一方の手をそっと重ね落ち着くようにとゆっくりと撫でました。
お母様も幼い頃泣くわたくしによくしてくださいましたわ。
「じゃあ、あの、この際だから聞いちゃいますが、よく『貴族令嬢としてわきまえろ』と言われていたのはどういう意味ですか?下位貴族の庶子の分際で無礼者がって捉えていたんですが」
「まぁ!そのようなことありえませんわ!」
言葉の弊害はこのようなところにまで及ぶのですね。
これはきちんとご説明しなくては。
「下位であっても庶子であっても関係ございません。貴族の子女となるのならそれ相応の流儀がありますもの、学園のうちに身につけなければ社交界に出てご苦労されるのはカルロッテ様ですわ。貴族令嬢として認めているからこそ嗜みを心得るようお伝えしているつもりでしたの」
このご説明でご理解いただけるか心配ですわ。
わたくしはもう一押しと続けます。
「下位貴族で言うのでしたらわたくしのお友達のサンドラ様も子爵家ですし、公然のことですので申しますが伯爵家のヨハンナ様は第二夫人のお子、ご母堂が伯に娶られる前は庶子の扱いでしたのよ」
「あーそのお二人にはよく呼び出されて『子爵家ならばこそわきまえるものがある』とか『庶子だからと甘えるんじゃない』とか言われてました……」
なんと素晴らしいことです。
わたくしが知らぬ間にお友達はどのように殿下のお目を掻い潜られたのでしょう。
「まぁ、そうでしたの。似た境遇のお二方ですしカルロッテ様を心配なさってましたから……。衆目の中ですとどうしてもどちらかが悪く見られてしまいますものね。カルロッテ様が公に非難される前にと思われたのでしょう」
「えぇぇ、私思い切り反発しちゃいました」
「ふふ、きっとそう予測していたからこそのお呼び出しですわね。反発もお二方の中に留めておけばカルロッテ様を咎める方はおりませんもの。現にわたくしはお呼び出しをなさったことも知りませんでしたわ」
「いい人たちだった……!」
がっくりと肩を落とすカルロッテ様にわたくしはぽんっと軽く手の甲をたたきます。
「わたくしのお友達の誤解も解けたようでようございましたわ。さぁさ、そろそろお席にお座りなさいな」
「はいぃぃ……」
しずしずとシリノ様の横のソファに戻られるカルロッテ様。
少し落ち込まれているようですがそれでもお可愛らしいお姿はヒロインさんの特権ですわね。
ほほえましく見守って、ふとシリノ様に目をやりましたら難しいお顔でわたくしを見ておられます。
「シリノ様もわたくしにお聞きになりたいことがございまして?」
「そうですね……。今この機会にはっきりさせるのもよいかもしれません」
ヨアキムもわたくしの隣でこくりと頷いています。
それを受けてシリノ様はお話を続けました。
「オリーヴィア嬢、貴女にはカルロッテ嬢に対する行為でいくつかの疑惑がもたれています」
ティハニであったカルロッテ様への嫌がらせでしょうか?
もちろんわたくしは胸を張って潔白を訴えることが出来ます。
「はい、殿下にも漠然とではございますがカルロッテ様への嫌がらせをやめるよう責められたことがございますわ。どれも身に覚えのないことばかりでしたが殿下はお聞き入れくださいませんでした。本日のように誤解もございましょうから、すべからくご説明いたしますわ」
わたくしも気を引き締めて誠実にお答えすることにいたします。
「ではひとつずつ」
シリノ様のお言葉で質疑応答が始まりました。
◇◇
疑惑1:仲間外れ
「カルロッテ嬢を茶会に招かない理由は?」
「わたくしやそのお友達のお茶会は保守派と中立派までお声をかけております。カルロッテ様をお呼びしないのではなく、革新派の皆様にはお声を掛けられないのですわ。学内ならまだしも、邸に招くには当主の許しが必要なのです。学園の内庭でのティーパーティのお誘いはお送りしているはずですわ」
「あ、はい。いただいてます。殿下に断れと言われて欠席しちゃいましたけど……」
シリノ様はカルロッテ様のお答えを受けてどこか呆れたように息をつかれました。
疑惑2:悪評を流す
「クラス内でカルロッテ嬢が悪い噂で孤立しているのは姉上もご存じですよね」
「えぇ、お隣は革新派のクラスですのに何をなさっているのでしょうとわたくしも心配しておりますの」
「え?」
「革新派筆頭のビョルリン侯爵のご息女ドリス様がいらっしゃいますので、一度お話をされるとよろしいですわ。本当は止められているのですけど、ドリス様とはひそかに文を交わす間柄ですのでわたくしの方からもよくしていただけるようお願いしておきますわね」
「クラスはそのような分け方をされていると?」
「王太子殿下がいらっしゃる学年ですもの、派閥まで考慮するのは当然のことですわよ?」
王家は保守派寄り、学園の意図に気付いていなかったヨアキムはどこか愕然としています。
疑惑3:盗難
「えーと、なんかもう違うって気がするんですけど、私の教科書や私物がよくなくなるんですが……」
「まぁ、先生にはお話をされて?盗難は先生を通して学園自治隊が対処してくださいますわ。頻繁と言うことでしたら思い出せる限りの日にちと保管場所を控えておいた方がよろしいわね。自治隊には過去視の権限がございますから、きっとその控えが役に立ちますわ」
「過去視?ってなんですか?」
「物や場所の記憶を読み解けると申しましょうか。おいそれと使うことの出来ない魔術なのですけど、自治隊で必要と判断されますと内務省と学園長の許可の元使用できる魔術陣をお持ちですの」
「ひえっ大ごと……!」
カルロッテ様はぶるりと身を震わせました。
疑惑4:危害を加える
「カルロッテ嬢が池に落とされそうになった件についてはいかがですか?」
「池だと侮ってはなりませんわ!わたくしも殿下のお戯れで王城の御池で溺れ沈んだことがあるのです。お恥ずかしい話でございますが小さい頃でしたのでドレスを纏ったまま泳ぐことも難しく……。あんなに苦しくて辛いこと……カルロッテ様があのような目に遭わずなによりですわ。あれよりわたくし池には近寄ることがかないませんので……どのような状況でそのようなことになったのか確認が出来ておりませんの。お役に立てず申し訳ございません」
「……いえ、辛いことを思い出させたようですね。申し訳ない」
シリノ様が我が事のように苦し気に眉をひそめてくださいました。
疑惑5:拉致未遂
「姉上、市中でカルロッテ嬢が荒くれ者に攫われそうになったのはご存じだと思います」
「伺いましたわ。カルロッテ様に何事もなくようございました。ですが殿下の目の前で行われたとのこと、こちらについては皆様に苦言を申し上げようと思っておりましたの。市中に出るのは譲ったとして、何故護衛を撒こうなどと考えたのです。それも撒くために方々に散らばったという……。嘆かわしい、殿下に万一の事があったらどうするおつもりでしたの?殿下が良しとしてもそれを諫めるのが忠臣と言うものでしょう。お仲間の皆様がいたからとてまだ学生の身、護衛の方々に勝るわけもなし。この身に代えてもと勇むならまだしも護衛なく殿下を市中で御一人にするなど言語道断ですわ。尊い御身はご無事だったとはいえ、拉致しようとした無頼者を取り逃す失態を犯しておりますのよ?重々反省なさいませ」
「は、はい。すみません……」
「ごめんなさい!」
「申し訳ない……」
◇◇
お三方は納得されたように唸っています。
ティハニであった出来事を本当にカルロッテ様が見舞われているようで心が痛みます。
あと物語の中で残っている大きな出来事は階段から落とされる、でしょうか。
お気を付けになるようご忠告をしたいのですが、何故知っているのかと問われるとお答えのしようがありませんのよね。
殿下はお嫌でしょうが、わたくしから奏上申し上げて学内の護衛を強化していただきましょうか。
カルロッテ様には極力殿下の御傍を離れぬようお伝えすれば凌げるやもしれませんわ。
「それにしてもシリノ様、わたくしから伺ってもよろしくて?」
「なんでしょう、オリーヴィア嬢」
「シリノ様とあろう方が調査もなく放っておかれているのにはどのような理由がございまますの?」
そうなのですわ。
カルロッテ様にはお気の毒なことですが、わたくしが即答出来る程度のことです。
拉致未遂はともかく他の事案でしたら、わたくしに嫌われていると誤解していたヨアキムには難しくとも冷静で思慮深いシリノ様が気付かぬはずもないのです。
ティハニでは数々の嫌がらせに憤る皆様を御慰めしながら、ひそやかに調査を行い断罪の時は悪役令嬢へ証拠を突き付けるお役柄でした。
此度の世ではわたくしは全く関与しておりませんので、シリノ様が調査されれば疑惑自体が疑惑になりえないはずなのです。
「正直に申し上げますが」
やはりシリノ様は難しいお顔のまま。
「イェルハルド殿下に厳重に止められています。いずれもオリーヴィア嬢の嫌がらせと犯行に間違いないので調査をするだけ時間の無駄だと」
「えぇ!?ハルド様が!?」
カルロッテ様の驚きの声に、殿下に愛称を呼ぶ許しを得る程仲が深まっていることを確信いたします。
「わ、私、ハルド様にオリーヴィア様の名前を出したこと一回もないんです。でもハルド様はことあるごとにオリーヴィア様が悪いと私に言ってくるので本当のことだと思いこんじゃって……」
「まぁ……」
戸惑うカルロッテ様にヨアキムもそういえばと言い出しました。
「僕も殿下に何度も姉上について家ではどのような様子か尋ねられ、あのような女が姉で大変だろうと……あ、殿下の御言葉ですよ、労いの御言葉をいただいているうちにそのような気分に」
……なんと申しましょうか。
王太子殿下に疎まれているのは承知しておりましたが、ここまでわたくしを悪役に仕立て上げなくてもよいではありませんか。
このままでは前世の悪役令嬢の物語にあるあるの冤罪に巻き込まれる可能性が出てまいりますわ。
そうならないためにも、わたくしはようやく本題を皆様にお伝えします。
「わたくし、本日は皆様に婚約の白紙を視野に入れたご提案をするつもりでしたの」
「「「え?」」」
お声を揃えて驚かれる皆様に、用意しておいた提案書をお渡しいたします。
「殿下がカルロッテ様に心惹かれていらっしゃるのは明白ですわ。ですのでカルロッテ様が殿下に添い遂げるご覚悟があるのでしたら、わたくしは喜んで身を引き、その御膳立てに尽力しようと思っていましたのよ」
「これは……」
シリノ様がわたくしの提案書を読み唸り声を上げられました。
提案1、サールグレーン公爵家への養子。公爵家はそのまま外戚となるため反対は少ないが実家の子爵家は保守派への鞍替えが必要。ベルマン子爵への説得が鍵。
提案2、子爵家寄り親への養子。公爵家はヨアキムが側近になることで王家に近しい位置を押さえる。伯爵家のため格に懸念がある。また革新派であるため王家側の見解を要確認。
提案3、革新派筆頭ビョルリン侯爵家への養子。公爵家は提案2と変わらず。爵位は申し分ないが革新派の懸念も変わらず。同じ年頃の令嬢がいるため、殿下にお力添えをいただく方法を追加提案。
提案4、寄り親への養子とともに側妃への配属。正妃は変わらないが白い婚姻の契約を行う。保守派、革新派の令嬢が配されるため、中立派の令嬢の側妃召し上げも検討のこと。
「なんということを考えているんですか姉上」
名前を挙げているのが不満なのか、ヨアキムも渋い顔をしています。
「怖い顔をなさらないの。公爵家を納得させるためにはヨアキムの働きが重要なのよ」
側近候補なのですからしっかりと殿下の信頼を得てもらいたいのですわ。
「私と殿下って養子が前提なんですね……」
悲しそうに呟かれたカルロッテ様にわたくしは痛む心を抑えて説明を付け加えます。
「えぇ……申し上げにくいのですが子爵家ですと愛妾がせいぜい。わたくしが身を引いても次のお相手が組まれ、カルロッテ様にお子が生まれたとしても継承権はございませんの。愛を育まれているのはカルロッテ様ですのにそのようなお立場では哀しいではございませんか。養子と言っても婚姻のための後ろ盾と縁繋ぎなのは諸侯方々はご理解されるでしょうから、ご実家と全く縁を切る必要はございませんわ」
哀しいですがこれが現実の貴族社会というものですわ……。
「オリーヴィア嬢、これでは貴女に何一つ利点はないでしょう!」
シリノ様が珍しくお声を荒げられました。
わたくしを憂慮してくださるとはやっぱりお優しい方ですわ。
「そうでもありませんわ。殿下に疎まれたまま婚姻まで進むのは良いことではございませんし、さすがの殿下でも少しの恩を感じてくださるのではないかしら?そうしたらたとえ修道院に入るとしても融通を利かせていただけるのではないかと下心もありますの」
「修道院……ですか」
お伝えすることは出来ませんが、ティハニではわたくしの断罪後、難のある女性が入れられる厳しい修道院に送られました。
出来ればもう少し戒律の優しいところでのんびりさせていただくという利点がありましてよ。
「貴女は本当に……」
そう、シリノ様がお声を上げた時でした。
急に窓の外が騒がしくなり、何事かと全員が口を閉ざします。
程なくして、人払いをしているうちは相応の緊急でなければ破ろうとしない優秀な使用人が幾分激し目にノックをしてまいりました。
「お嬢様、ご歓談中申し訳ございません。王太子殿下がお越しに……!」
さっとわたくしの顔から血の気が引きました。
「ヨアキム、シリノ様、お隠れになって!カルロッテ様はそのままこちらに。わたくしは殿下を御出迎えに参ります」
わたくしが階下に行き時間を作っている間に部屋を移してもらえればヨアキムがおりますので隠れることに不都合はありませんわよね。
そう思っていましたが、扉の向こうから騒がしさが近づいてきています。
それに殿下の御声が混じっていることにシリノ様がお気づきになって、室内の死角となる書棚の陰にヨアキムの腕を引き隠れられました。
わたくしはテーブルの茶器をお二人分その下に置きます。
緊急事態ですから多少の無作法は目をつぶっていただきましょう。
かがんだ姿勢から起き上がってすぐ、激しく扉が開かれました。
「ロッテ、ここにいたのか!」
「ハルド様」
殿下のあまりの勢いにカルロッテ様は少し怯えた表情をしています。
わたくしは殿下に向かい最上級の淑女の礼をいたしました。
「王太子殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう」
「はっ、これが機嫌よく見えるとは余程の馬鹿と見える」
礼を取ったまま殿下に肩を押されわたくしは状態を崩しソファに頽れました。
「きゃあ!」
慌てて立ち上がりわたくしに手を伸ばそうとするカルロッテ様を、殿下はいささか強引に引き寄せます。
「ロッテ、怖かっただろう。私が来たからには安心するといい。オリーヴィア、公爵家からの呼び出しを断ることが出来ない優しいロッテに何をするつもりだ。腹黒いお前のことだ、大方ねちねちと言葉で甚振り疲弊させ、あわよくば害そうとでもしていたのだろうがな!」
「待ってください、ハルド様!」
殿下を御止めしようとするカルロッテ様に、わたくしは微かに首を振って制止しました。
起き上がり装いを整えると現婚約者として微笑みを浮かべます。
「わたくしはベルマン様とお話がしたかっただけですわ」
「何が話だ。暴言と雑言ばかりだろうが」
「そのようなことは決して」
「黙れ!無駄な口を叩くな!」
殿下が声を荒げるたびにカルロッテ様がびくりと肩を震わせます。
「あぁ可哀想に、こんなに怯えて……まさかこの震え!すぐに治療師のところに行くぞ!」
「え、何でですか!」
「ロッテ、ここで茶の一杯でも飲んでいないだろうな?何が含まれているかわからぬぞ」
「何ってなんですか!きゃっ!」
カルロッテ様を横抱きにした殿下は「いよいよ許しがたい」とわたくしを睨め付け、わたくしの横にあったソファを蹴りつけました。
「やっ!ハルド様!おろしてください!」
「照れるロッテも愛らしいが途中倒れでもしたら事だ。私に身を委ねていろ」
「そうじゃなくって!」
いわゆるお姫様抱っこですわよね。
カルロッテ様がじたばたするのが愛らしいのは同意いたしますが、お伝えしたら火に油を注ぐようなものです。
「今日の非道な行いよくよく覚えておくがいい」
殿下はそう吐き捨てて、カルロッテ様をお抱えのまま部屋を出ていかれました。
書棚の隅でシリノ様に抑えられじたばたしているヨアキムはそこまで愛らしくはありませんわね。
もう少しお静かにしていただくよう手で制し、王室の紋が入った馬車が屋敷を離れるのを確認いたします。
殿下がずらされたソファを直している使用人に新しいお茶を頼み、わたくし付の侍女が傍にいないことを確認してテーブルの下からお二人分のティーセットを引っ張り出します。
使用人はあえて苦笑を浮かべてそれを受け取ると一礼をして退出していきました。
「お待たせいたしました。ご協力痛み入りますわ」
「なんっ……なんなのですか!姉上、殿下はご乱心ですか!?それにたとえ殿下とは言え先祖には王家の系譜もある公爵家で毒をなどなんという侮辱!」
シリノ様から解き放たれたヨアキムは怒り心頭とばかりに喚き立てます。
殿下を真似てかソファに足を上げようとして、直していた使用人を思い出したのかそおっとソファの背を撫でて息をつきました。それはちょっと可愛らしいですわね。
「オリーヴィア嬢、もしや殿下はいつもあのような?」
「このまま進めるのは良いことはございませんでしょう?」
少し顔色のよろしくないシリノ様に先ほどの説明を繰り返し、わたくしは着席を勧めます。
シリノ様はそのまま、ヨアキムはカルロッテ様が座られていた場所に腰掛け、今度はお二方と向かい合う形となりました。
その折で使用人が新しいお茶を興じ、引き続き人払いをお願いして三人に戻ります。
「いつもあのようなご態度ですわ。カルロッテ様を見初められてからは特に。余程わたくしがお気に召さないようですわね」
ティハニの殿下はあそこまでではなかったようが気がいたしますが、思い出補正が入っているのでしょうか。疎まれるのは変わりないので心構えは出来ておりましたけれども。
「殿下の御幸せを慮るのならあの提案書は悪くないと思うのですけど、カルロッテ様さえよろしければご賛同いただけますわよね?」
「姉上、僕は反対です」
「同じく」
あら?
困りましたわ。
部屋を離れるようお伝えしましたが殿下が思いのほか部屋にお早く着かれましたので、殿下のご不興を買うわたくしをお見せして手っ取り早くお話を進めるつもりでしたのに。
このままですと冤罪コースまっしぐらになってしまいますわ。
「よくお考えになって?あのご様子ですと提案4は難しそうですが、殿下もカルロッテ様もわたくしもはっぴーになりますのよ?」
「「駄目です」」
お二方に即答で否定され、わたくしは思わず頬を膨らませました。
じっと睨むとふいっと目をそらされてしまいます。
お見苦しいものをお見せいたしました。この場は遠慮なくと申しましたが令嬢として見逃せぬ立ち振る舞いだったかもしれません。
「さて、ではどうするか……。こうなると疑わしいことが増えてくるな」
シリノ様が独り言のように呟かれました。
そこにヨアキムが応えます。
「シリノ先輩、僕が調査いたしましょう。先輩は殿下に動かぬよう命じられたと思われますが、僕にはそれがありません。シリノ先輩は動かずお知恵をお貸しください」
「そうだな。後の二人にも現状を説明しよう」
「はい、僕ら二人が目にしたものです。きっとあのお二人も理解をしてくれるはず」
「ではわたくしはあの提案書を持って事前にお父様に確認をしてまいりますわ」
お手伝いいただけないのは残念ですが、もともとはわたくしが動くのを見逃していただくつもりの提案でしたもの。今度はカルロッテ様もわたくしのお呼び出しに応じてくださいますでしょうし、殿下に見つからぬよう慎重に事を進めますわ。サンドラ様とヨハンナ様にお呼び出しのコツを伝授していただくのもいい手ですわね。
「オリーヴィア嬢、提案は破棄です」
「姉上は大人しくしていてください。弟の僕にお任せを」
「ですがそれでは」
「オリーヴィア」
言い募るわたくしの名を、シリノ様が低く呼ばれました。
「貴女を疑い、貶めようとしたこと心より謝罪します。贖罪にもなりませんが貴女の不名誉はきっと私達が晴らしましょう。貴女は私を信じ待っていてください」
「は、はい……」
シリノ様の真剣な面持ちに、わたくしは是とお返事することしかできませんでした。
◇◇
そして卒業式典。
「オリーヴィア・サールグレーン!極悪非道なお前との婚約を破棄する!お前の罪を衆目に晒し、そして私は最愛カルロッテ・ベルマン嬢と……」
「イェルハルド殿下!私たちは貴方様を断罪いたします!」
物語の山場である断罪の場に呼ばれたわたくしの前には、ふわふわとしたミルクティー色の髪の毛が揺れています。
わたくしの隣には鈍色の髪を持つ弟と、反対側にレッドブラウンの髪のシリノ様。
背後では後の側近候補の騎士団長令息のダン様と魔術師団長令息のケネト様のお二方が殿下に沿わず立たれています。
「ロッテ、どうした?そんな女を庇う必要などない。私の元に来るといい」
ハニーブロンドを儀礼用に固めた殿下が優しく微笑まれてカルロッテ様に手を差し伸べていらっしゃいます。
結局一度たりとわたくしにその笑みを御向けにはなりませんでしたわね。
「殿下、聞いてください。私は、私たちは貴方様を断罪すると言っているんです」
「ロッテ。脅されているのか?オリーヴィア!なんと卑劣な悪女だ!可憐なロッテを脅迫など許しがたき所業!」
殿下が声を張り上げれば上げる程、周囲は静けさに包まれます。
あれから宣言通り、シリノ様は頭を、ヨアキムは実働でよく動いてくださいました。
カルロッテ様とわたくしがお話しできる機会をよく作ってくださり、学内の調査や自治隊の手配、側近候補のお二方も説得し騎士団長のご令息であるダン様を通じての拉致実行犯の市中再捜索。ケネト様の御父君である魔術師団長の手をお借りし精神汚染を視野に入れた鑑定などなど。
サールグレーン公爵家、ベルマン子爵家にもご協力いただく手筈を整え、さらには国王陛下にも奏上しこの日のために備えてまいりました。
慎重を重ね導き出された結論に、皆様とそしてわたくしは大きく息をつく他ございませんでした。
「恐れながらイェルハルド王太子殿下」
王族に立ち向かう恐ろしさに細かく震えるカルロッテ様の肩をそっと慰め、わたくしが先頭に立ちます。
わたくしがしようとしたことは決して間違いではなかったと今でも思いますわ。
それでも、殿下をここまで追い詰めたのはわたくしかもしれません。
もっと早くに婚約を白紙にして差し上げられたなら、提案書などなくともカルロッテ様と幸せに歩まれたのかもしれません。
これは、わたくしのけじめです。
「万一にも衆人環視の中殿下がわたくしを断罪するようなことがありましたら真実を詳らかにすること、国王陛下よりお許しを得ておりますわ」
「黙れ!ロッテを惑わすな!シリノ、ヨアキム、ダンにケネトも何故お前たちがそこに立つ!」
「殿下、それは貴方様が黒幕だからです!」
あ、わたくしのけじめが……。
仲間外れは当然派閥の水面下の抗争をご存じでした殿下がさもわたくしがカルロッテ様のみを除け者にしていると情報を操作されました。
悪評と言うよりは革新派の貴族に重用を仄めかし娘を使ってカルロッテ様を孤立させ、殿下に依存するよう仕向けられました。
盗難は陛下の命を受けた王宮のメイドが殿下の私室からカルロッテ様の記憶にあるすべてを見つけております。
危害を加えるふりをさせるため、また革新派の貴族を使い背後を走り抜けさせたところを殿下が背を押し、その後殿下が抱き抑えたのが自治隊の過去視で明らかとなりました。貴族令息の走るだけで良いと命じられたという証言もとれております。
拉致未遂は護衛を撒くためお御一人になったその時に無頼者に金品を渡し、カルロッテ様と合流する時を狙って攫うふりをさせたとのことです。無頼者はお忍びの殿下を殿下とは知らず、恋人にいい格好を見せたいという若者の願いを聞いただけだと牢屋で叫んでいると騎士団から報告が上がってまいりました。
階段落ちだけは防ぐことができましたわ。
護衛を強化していただき、ティハニの中で描かれていた時期を見計らい殿下とカルロッテ様がご一緒のところで敢えてわたくしが後ろを通り過ぎました。殿下がカルロッテ様の背を押そうとしたのを護衛の方にさり気なく遮っていただきましたの。
先に挙げた疑惑が判明したのち殿下が階段をそのような用途で使われるかもしれないとお話しした時は皆様は半信半疑でしたが、本当に殿下が手を伸ばされたと報告を受け、国王陛下の悄然とされている御姿が痛ましく思い出されます。
「イェルハルド殿下、これら全て証言・証拠は提出済みです」
「シリノ!お前は動くなと命じたはずだ!命令無視とはいい度胸だ!」
「いいえ殿下、ご命令通り私は動いておりませんよ」
シリノ様は冷徹な表情のまま殿下に相対します。
そうなのです。シリノ様はどの事案の調査でひとつたりとご自分で動くことはございませんでした。
証言も聞けず、現場を見て回ることも出来ないまま、全て机上で片を付けられたのです。
「殿下に申し上げます。姉は早々に殿下との婚約を白紙にすることを僕たちに提案してくれました。せめてその時少しでもお聞き入れいただけたならこのようなことにはならなかったはずです」
「黙れ!所詮はその女狐の弟か!目を掛けてやった恩も忘れていい気なものだ!」
ヨアキムは未来の義兄であり敬愛していた殿下の変わりように辛そうにしています。
「ハルド様……なんでこんなことになっちゃったんですか?平民とあなどられていた私にもハルド様はあんなに優しかったじゃないですか。私、本当に嬉しくて、ハルド様が大好きで、なのにどんどん黒幕の証拠が出てきて、どうして、どうしてって、ずっと悩んでたんです。私のせいですか?私が平民上がりの庶子だから?下位貴族の娘だから?なんでなんですか、ハルド様!」
カルロッテ様の目がどんどん涙に暮れていきます。
聞くだけでももらい泣きしそうな悲鳴のような声に、わたくしはその背を撫ぜようとした時。
思いがけないお言葉が耳に飛び込んでまいりました。
「ティハニのヒロインなんだから当然だろ!何したってお前は俺の女なんだよ!」
わたくしははしたなくも目を見開いて顔を向けます。
殿下は物語のタイトルの由来にもなった整えられたハニーブロンドを掻き毟りながら叫び続けました。
「なんだよ!ここはティハニの世界だろうがよ!なんで俺が断罪されてんだよ!!ロッテは俺の嫁!!それが叶う世界に転生したってのになんだよこれ!それもこれも悪役令嬢が働かないからだろ!オリーヴィア、てめぇサボってねぇで仕事しろよ!何言ってもへらへら笑ってるわヒロインいじめないわ挙句に断罪ってか!?こんなんだったら仏心出さねぇであのまま池で溺れさせときゃ良かったぜ!今からでもいいからさっさと死んじま……っっ!!」
パァンっっ──
誰よりも早く殿下を平手でひっぱたいたのは、これもまたタイトルの由来であったミルクティーの髪を揺らしたカルロッテ様でした。
「殿下、最低です!なんでこんな人好きになっちゃったんだろ!」
今度こそわっと泣き出したカルロッテ様を慰めることも出来ず、わたくしは呆然としておりました。
なんと……まさかの殿下が転生者でいらっしゃったとは。
てっきりカルロッテ様溺愛による暴走かと思っておりましたわ。
婚約を取り交わした頃からお冷たい殿下ではございましたが今ほどではございませんでしたし。
なるほど、それはそれはわたくしが目障りですわよね。
殿下は物語通りに障害ゆえの燃え上がる恋を楽しみたく、わたくしは物語を避けるべく画策をしてまいりましたもの。
相容れないのも当然ですわ。
池に落とされて死にそうになって、それから十年近く。
どんな努力も実らないはずですわ。
ふっと力が抜けて深く深く嘆息するわたくしを労しくご覧になるシリノ様がお声を発しようと口を動かした時。
「そこまで」
重厚な威厳ある御声が響き、会場の皆々様が一斉に拝礼し膝を折りました。
わたくしも深々と淑女の礼を取り、カルロッテ様は令嬢の嗜みを思い出すどころではなかったのか深くお辞儀をしています。
「一同楽にせよ」
舞台の上手から御身を現した国王陛下は、厳格な面持ちでこちらに向かっていらっしゃいます。
頭を抱えたままの殿下の前に立ち止まられると、国王の証である王笏を掲げられました。
「国王の名を以て宣言する。第一子イェルハルドを今この時を以て廃嫡とし王太子の任を解くものとする。そのほかについては然るべき場で言い渡すゆえ覚悟することだ」
「何故です、父上!まさかあの女に唆されたのですか!?」
「お前の言うあの女……オリーヴィア・サールグレーン嬢とお前の最愛というカルロッテ・ベルマン嬢は最後までお前に更生の機会を与えるよう奏上していたよ。一方は長年お前に虐げられ、一方はお前に陥れられそうになっていたにも関わらずだ」
もし殿下が、いえイェルハルド様が物語のように卒業式典の場ではなく、人目のつかない別所で事を起こそうとしたのでしたら、王家の醜聞にもなることを理由に廃嫡はせず再教育と出来ないかわたくしはお願い申し上げておりました。
わたくしへの態度はともかくとして、カルロッテ様に関わる事項でない限りは聡明であった殿下でしたので、「オリーヴィア様がよいなら私はそんなに実害はありませんでしたから!」とカルロッテ様も国王陛下という天上の御方へ震えながらも必死に訴えておられました。
国王陛下も可愛らしいカルロッテ様の訴えに根負けされたのか、衆人環視の元でなければ卒業後場を設けることをお約束してくださいましたのです。
「謹慎の間、そのことをよくよく考えるのだな。……イェルハルドを連れていけ」
騎士が誘導しようを肩に手を掛けられたそのままで、ぽかんと口を開け、まるで憑りつかれた何かが抜けたようなお顔でイェルハルド様はわたくしに目を向けられました。
「オリーヴィア、お前、悪役令嬢じゃなかったのか?」
「違いますわ」
わたくしはその問に否定いたします。
「わたくしは長らく御傍に侍る名誉をいただきながら、殿下の御心に沿うことも御諫めすることかなわなかった、愚かな臣下でございましたわ」
一言でもティハニのお話が出来たのなら、前世を同じくする二人ですもの、もっと違った結末を辿れたかもしれません。
遠くなってしまった前の故郷を思い出して懐かしみ、俺の嫁ってそのままではないですかと笑い、悪役令嬢の物語の大逆転劇をしっかりお伝えして怯えさせ、双方納得のいく未来をつかみ取れたのかもしれません。
今それを思ってももう遅いのはわかっておりましたが、肩を落とし無抵抗で去られるイェルハルド様といつかお話する機会が持てるよう、わたくしは目を閉じお祈りいたしました。
◇◇
その後は、わたくしたち断罪の立役者は好奇と感嘆と少しの非難の目を向けられながらも示し合わせたようにしっかりを顔を上げ式に臨みました。
ヨアキムも参列者の席で貴族諸侯に囲まれながらも胸を張っています。
非難の目は仕方ありませんわよね。
主である元殿下を断罪したことには間違いございませんもの。
それに気付いた国王陛下から、式典のご祝辞の中で直々に労いの御言葉をいただくことで正義が立役者たちにあることを表明してくださいました。
恙なく済んだ式典後は、それぞれの御父君がよく真を貫き通したとお褒めくださっています。
お父様もわたくしとヨアキムを呼び寄せ、わたくしには長らく苦労をさせたと、ヨアキムにはよくぞ姉を守ったと頭を撫ぜてくださいました。
カルロッテ様は御父君と抱き合っておいおいとお二方ともに泣いていらっしゃいます。
そして式典から続くダンスパーティ。
こちらでは参列者の立ち入りはなく卒業する学生のみの参加となります。
方々からお声を掛けられ、お友達のヨハンナ様とサンドラ様にはわたくしと、すっかり仲良くなったカルロッテ様とに心配したと泣きつかれ、落ち着かぬまま時間をすごしていました。
楽師団が音楽を奏で始めた隙を見て、わたくしはまだ人気のないテラスへと足を進めます。
ファーストダンスの時分からテラスに来る方はいらっしゃらないでしょう。
わたくしは大きく息をつきました。
ここで殿下との楽しかった思い出を浮かべられないのはわたくしが薄情者だからでしょうか。
ただただ星空を見上げておりますと、カタリと小さく音が聞こえてまいりました。
「オリーヴィア嬢」
「まぁ、シリノ様。いえ、もう”この場”は終わりましたのでヴィンバリ卿でございますわね」
振り向いて微笑むわたくしは室内の光を背負うシリノ様にはよく見えていますでしょうか。
シリノ様の表情は逆光でよく見えませんが、レッドブラウンの髪が照らされています。
「まだ終わってはいない。ようやく命が解け動くことが出来るようになった私には重大な仕事が残っているんだ」
「あら、わたくし伺っておりませんわ。お手伝いできることはあって?」
長かったこの場限りの砕けたお言葉のまま、シリノ様はわたくしのところまで寄ってきてくださいます。
「オリーヴィア」
見上げ、見下ろされ、視線を交わしたシリノ様がそっとわたくしの頭を抱えご自身の肩に押し付けてくださいました。
「もう泣いていい。貴女には泣く権利がある」
「そんな、泣きませんわ」
「貴女が一番つらい立場だった」
「わたくしが始めたのですわ。あの提案書を思いついた時からわたくしが」
「そうだ。あの勇気ある提案書があったから、ここまで来れた」
結った髪がほどけるのも構わず、シリノ様はわたくしの頭を何度も撫でてくださいます。
「即行で破棄なさったくせに」
「そこに後悔はないな」
「ひどいですわ。それはもう真剣に考えましたのよ?殿下とカルロッテ様にはお幸せになっていただきたくて」
「だがあそこには貴女の幸せがなかった」
もう一度、強く肩口に頭を押し付けられます。
「泣いて、終わりにしよう」
「……泣きませんわよ」
そう言われましたら意地でも泣きたくありませんわ。
「大丈夫だ、私が隠しているから鞭はやってこない」
「そのようなことを心配しているわけじゃ」
「いいから、かしこくも愚かだった殿下のために、忠実な臣下だった貴女が泣いてくれ」
「っ……ぅ……」
もう、なんてことをおっしゃいますの。
わたくしは池に落ちたあの日に思い出したティハニの物語がとても好きでした。
ヒーローとヒロインが幸せになるあのお話が可愛らしくて甘酸っぱくて微笑ましくて大好きでした。
前世を思い出した一番最初の記憶がティハニの全容だったくらい、それ以外がぼんやりとしか思い出せないくらい、私はティハニが大好きだった。
あれ以来、紅茶には必ずはちみつを入れるくらいずっとずっと浸ってた。
私の手で、私の行動でヒーローとヒロインを幸せに出来ると思えば、推しと結ばれず修道院に行くことだってやぶさかではないくらいに。
私は、前世の名も知らない私は前世の最大の思い出である『恋は紅茶にはちみつを添えて』が好きで好きで。
「……っうっ……あぁぁ……っあぁ……!」
破滅なんかに怯えてティハニの世界を崩してしまったわたくしが、私は憎かった。
◇◇
どのくらい泣いていたのでしょうか。
声を張り上げて泣いていたのが私だったからでしょうか?
何度か窓を開ける音と、その良心でそっと閉める音をわたくしの耳は拾っておりまして。
なんと申しましょうか。
とてつもなく恥ずかしいのですわよ!
それでもこのままシリノ様にしがみついているわけにもまいりません。
ゆっくりと何度か深呼吸を繰り返し、ドレスに仕込んでいたハンカチで目元とお鼻をしっかりと拭います。
薄くはあれどしてあった化粧はぐずぐずかもしれませんが、これはもう仕方ありませんわよね。
なんとなくではありますが、ようやくわたくしと私がしっかりと融合したような気がしております。
ちょっと痛々しい乙女の思考で泣きわめいてしまったわたくしは、どうにも気恥ずかしく俯いたままシリノ様から距離を置きます。
「これでもうすっかりおしまいですわね、ヴィンバリ卿」
シリノ様のお願いで泣いたのですもの。礼は言いませんわ!
「……そうですね、サールグレーン嬢。我が主のためありがとうございます」
あら、そう言えば正確にはイェルハルド様のためではなくティハニのヒーローのためでしたわね。
まぁよろしいですわ。どちらもわたくしの思いは変わりませんことよ。
ポジティブな考え方は私のおかげでしょうか?
きっと私はティハニが好きな能天気な女子高生だったのかもしれませんわね。
「わたくし髪とお化粧を直してまいりますわ」
「その前にもうひとつ」
「あら、何かしら?」
もう仕舞いだと言ったではありませんか、あまり長くこの醜い顔を晒したくはないのですけど。
何か月かに渡る気安さが表に出そうになり、わたくしは涙の名残をすすって誤魔化そうといたしますが。
なんとシリノ様はわたくしのハンカチを握りしめていない手を取り、跪くではありませんか。
見上げないでくださいまし!顔が、目が、鼻がきっと真っ赤でお見せできるような代物では!
先ほどとは逆に見下ろす位置となり、シリノ様の相変わらず光を背負った髪が紅茶のようななほの赤さで輝きます。
わたくしのすっかり崩れてしまった、王家の先祖返りと言われるはちみつ色の髪がシリノ様に向かって降り注ぎます。
「オリーヴィア、私にそう呼ばせていただける権利を頂戴したい。気安く対等に話す権利をいただきたい。その場限りではなく死が分かつまで永遠に隣に立ち笑いあえる権利を」
わたくしの手を恭しく持ち上げ、手の甲に唇を寄せられます。
「”この場限り”のあの時からお慕いしております。サールグレーン嬢」
あ、あ、あ、あの。
決して泣いたせいではない頬の火照りがとんでもないことになっておりますわ。
だって、だって、私の、わたくしの一推しがわたくしの前に膝をついて!
そうですのよ。
前世を思い出すきっかけとなったイェルハルド様に思い入れはございますが、私にとっては二推し。
一推しは婚約者の側近候補でしたし、破滅するも回避するも結ばれることはないと記憶の混乱に乗じて丁寧に心の奥にしまい込んでましたのに。
「今すぐにお返事を、といかないことは重々承知の上です。ただ私が切に願っていることをお心の中央に留めておいていただきたい」
中央ですか!主張が激しいですわね!
声も出せずに動揺しているわたくしは、紅茶色にはちみつ色が添えられた視界にくらくらと見惚れるばかりでした。
もしかしたらティハニは続編が出ていたのかもしれませんわね。
End
「ですわ」と「わよ」の練習と、短編が欲しくて書き出したところ徹夜の勢いで思いがけない長さになった作品ですわ。
3000~5000を想定して書いてたのは内緒ですの。
最初の想定では殿下もまともで提案のどれかを選んで大団円!だったはずなのですがどうしてこうなった。
詰め込みすぎてこっそり設定が紛れ込んでしまったので軽く人物紹介でも。
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・オリーヴィア 17歳
先祖返りの王家に多いハニーブロンド。
7歳で前世の記憶を思い出しているが、ティハニ以外の情報はかなりまだら。
前世は想像している女子高生よりもうちょっと上のお歳のお姉さま。
小説派でアニメなどの派生メディアはノータッチ。
本作でははじめからちらちらとシリノへの好意がにじみ出るようにしたつもりですわ!
・カルロッテ 17歳
ティハニのヒロイン。ミルクティー色のふわっふわの髪の毛で小動物系。
前世はまったく関係なく、平民出身ゆえの人懐っこい性格。
提案お茶会の後、殿下を振り切ってヨハンナとサンドラに即行謝りに行った。
殿下ひっぱたいた後は不敬罪じゃ…?とちょっとがくぶるしてた。
本作後は実はちょっぴりヨアキムといい感じ。
・シリノ 18歳
レッドブラウンだが光を通すと赤味が強くなる紅茶色の髪。
ティハニでは宰相の次男。冷たいと言われがちな自分にもなついてくるカルロッテに気安くなるがお友達どまり。カルロッテに軽く好意を寄せられ、殿下に睨まれる不憫な人。
その設定があるせいで本作の世界では殿下の当たりが他より厳しく、距離を置かれていた。
・ヨアキム 16歳
オリーヴィアの1学年下。母親譲りの鈍色の髪。
実はオリーヴィアとは異母姉弟。本人は知らない。
ヨアキムのお母さんが第二夫人で、6歳まで療養という形で離れて暮らしていた。
オリーヴィアが鞭で叩かれて泣いていた頃お母さんが慰めてくれているのにヨアキムはお母さんと一緒に療養してるでしょ?
オリーヴィアのお母さんとは会ったことがなく、自分のお母さんには姉がいることを常々聞いていたため、第一夫人が亡くなって繰り上げ正妻になった母と本宅に入る時に「お母さんを独占していてごめんなさい」とオリーヴィアに謝ったという、オリーヴィアがちょっと冷たくなった原因を作っている。
本当は殿下が暴露する予定だったが余計なエピソードが多い話でこれほど余計はないと判断してばっさり削除ー。
・イェルハルド 18歳
ティハニのヒーロー。きらっきらのハニーブロンド。
前世はオタ寄りの一般人。パリピは敵。ロッテちゃんは俺の嫁。聡明とかかしこいとは言われていてもその素振りをまったく出せていない残念さん。
コミカライズとアニメでティハニを知ってカルロッテに一目ぼれ。
自分がティハニのイェルハルドと気付いた時は両手を高く突き上げ雄たけびを上げた。そのあと治療師を呼ばれた。解せぬ。
婚約当初オリーヴィアをそれほど嫌っていたわけではなかったが、どうせ断罪するんだから期待は持たせないようにしようと親切のつもりで塩対応。
ティハニ本編が始まってからも動こうとしないオリーヴィアにイライラした結果、思わず自分が悪役令嬢役をやっちゃううっかりさん。
ティハニのいじめの動機が嫉妬だとわかっていたはずなのに嫉妬させるまで仲良くならなかったという自業自得の男。
・ダン 17歳
ほぼお名前のみ登場の騎士団長の三男坊。侯爵家。
ティハニでも本作世界でもカルロッテにあからさまに好き好きアピールをしていたが、イェルハルドからはまったく脅威と思われなかった模様。
本作では巻き込まれた後、息巻くヨアキムをいい感じに誘導しながら陣頭指揮の一部を執っていた。
本作終了後、今度こそカルロッテにアピールを!と意気込んでいたが、ヨアキムといい感じになっていることに気づいて撃沈。
・ケネト 16歳
実は1学年年下。ほぼお名前のみ登場の魔術師団長の一人息子。伯爵家。
ティハニではこっそりカルロッテを姉と慕い、本作では殿下の婚約者なのにそんな、そう、僕はお姉さまが欲しかっただけだもん!と正当化しながらオリーヴィアに冷たい殿下はちょっぴり苦手で、ワンワン噛み付くヨアキムはけしからん!と嫌っていた。でも仲は良い。
本作はシリノとオリーヴィアの結末を知って涙にくれ、提案書の話をヨアキムから聞いて僕も養子にしてくれないかな…と夢を抱いている。
・サンドラ 18歳
ほぼお名前のみ。自分は子爵家で相応、でも甘えませんよ!と胸を張って公爵家のオリーヴィアとお友達をしていたのに、同じ子爵令嬢のカルロッテのふわっふわ感に一緒にされたら困る!いやこれはカルロッテに私の位置まで登ってきてもらうべきか?とおせっかいを焼いていた。
・ヨハンナ 17歳
ほぼお名前のみ。伯爵家の庶子からの令嬢入り。カルロッテともそうだが実はヨアキムも同じ立場だと知っていて気にかけている。
ヨアキムとはよーよーずを組めるんじゃ?新しく来る同じ立場の子はヨはあるかしら??とドキドキしていたが、1文字もかすりもしなかったためちょっとしょんぼりしていた。
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以上、長い話に長いあとがきにお付き合いいただきありがとうございました!
もし少しでも気に入っていただけるエピソードなどありましたら、広告下の☆をぽちっとしていただけるととても嬉しいです。
(評価に憧れることを隠さない姿勢)




