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 帝都に工房を作ってから早2週間。

 まばらだった客足も最近はそれなりに増えてきた。


 貧民街でウワサが広がり、客も冒険者が中心だったのが付近の住民たちも来るようになった。

 売れ行きも順調で特にケガとか身体の不調に効くポーションが大人気で在庫切れになることもしばしば。


 そろそろ工房の設備やら場所やらを移転したいのだが、やはり資金が足りない。

 売れているといっても薄利多売な商売で素材を集めるだけでも手一杯な状況だ。


 唯一、助かっているのはシアとレアの給料だ。

 シアと話し合った結果。余ったポーションを分けてくれるだけで良いということになり、金銭面でも多いに助かっている。


 姉妹に関することで驚きなのはレアだ。

 はじめはポーションなんて……みたいな表情だったのが最近は軟化している。

 俺が試作品のポーションを試してほしいというと率先的に飲んでくれるようになった。

 まぁ、それもこれも俺の努力の結果だろう。


 レアの味覚を研究し、試作品はレア好みの味となるようにアレンジしているのだ。

 甘いものが好きなのかと思っていたが案外、酸っぱめの味の方が大好物みたいで最近はそればかり作っている。


 シアに関しても新たな一面を知ることが多い。

 素材の仕入れはシアに任せているのだが、それがもう天才的な方法で仕入れを行っている。

 冒険者同士のネットワークに入り込んで余った素材を一手に引き受けているのだ。


 薬草はともかく魔物の素材は普通の店では売れないものが多いため、冒険者たちは捨てることが多かったそうだ。

 シアもまさか、スライムやゴブリンの死体からポーションが作れるとは思ってもみなかったようで最近は冒険者たちの間を奔走している。


 そんなシアにはいつも元気になる栄養ポーションを差し入れしている。

 疲労回復の効果があり、どんなに疲れた日でもこれを飲めば一晩のうちに回復してしまう優れもの。

 これにはシアも喜んでいたが元の素材にゴブリンの内臓が含まれていることを知ると嫌な顔をされた。


 ポーションだから素材そのものを提供しているわけではないのだが……。



 ってなわけでポーションショップは順調だった。

 懸念があるとすれば、ショップが貧民街でも奥にあるためこれ以上売り上げを上げようにも上げられないといったところだろう。

 それに関してはおいおいどうにかするにしよう。




「え? 病気に効くポーション?」


 その話をレアから聞いたのは新しいポーションを研究しているときだった。

 ヘルハウンドの毛が大量に余っているので何かに使えないかと模索していたのだ。


 ヘルハウンドの毛は魔力も含んでおり一見、素材として有能そうに見えるのだが全然そうでもない。

 精霊との相性も悪く薬草のようになんらかの効果をもっているわけでもない。

 つまり、今のままではただのゴミか衣類の材料程度だ。


 しかし、俺はそれでも研究をやめない。

 ポーションは組み合わせによって未知の効果を生み出すことがあるのだ。

 回復ポーションに混ぜたオオコウモリの羽のように特定の材料を特定の魔法式で掛け合わせることによって考えもよらない効果を生み出すのだ。


「そうなの。孤児院の子が流行り病にかかったの」


 ふむふむ。

 どうやら、依頼は孤児院のシスターからのようだ。

 帝都から少し離れた農場からなけなしの銀貨を握りしめてここまでやってきたらしい。


「難しいな……」

「え?」


 俺の反応にレアは意外な表情を浮かべた。

 そんなにおかしいだろうか。

 特定の病気に効くポーションなんてこの世に存在しないことが。


「レア。病気ってのはいろんな原因がある。それこそ単純に身体の中が壊れてしまって病気になることもあれば、小さな魔物が身体の中に入って悪さをしていることもあるんだ。俺は医者じゃない。身体を元気にするみたいなポーションは作れても病気を治すポーションなんて作れないんだ」


 俺は医者じゃない。

 難しいと言ったのはそれが一番の理由だろう。

 回復魔法だって病気を治すことはできない。神聖級と呼ばれる超高度な魔法を使えば治るかもしれないがそんな魔法扱えるのなんてこの帝都でさえ1人しかいない。


「……エルロットならどうにかできないの?」


 心なしかレアの顔が暗い。

 それにいつもよりトゲトゲしていない。

 もしかして、孤児院の子供のことが気になっているのだろうか。


「医者には診てもらったのか」

「うん。そうみたい」


 そうなのか。

 俺だって子供が気になる。

 できるなら助けになってやりたいと思っている。

 だけど、できることとできないことをはき違えることはできない。

 下手に手を出して最悪な状況になるくらいなら、俺以外の適役を探してほしい。

 そんな気持ちだ。


「エルロット。試してみるだけでいいの……お願い」

「……」


 初めてだ。

 レアからお願いなんて言葉を聞いたのは。出会って2週間弱の浅い関係だけど、レアは俺に対してお願いなんて言葉を言う奴ではないってことは十分にわかっている。

 そんな彼女のお願いに俺は小さく頷いた。


 とにかくやってみよう。

 なんだかんだ言いつつも俺は天才でポーションに関しては誰にも負けない自負がある。だから、ちょっと無茶なお願いくらい叶えてやるのが情けというものだろう。

 それにシアにもレアにもたくさん世話になっているからな。これくらいやってやろうじゃないか。

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