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貧民街のポーションショップ

 帝都の西側は治安が悪い。

 汚れた格好をした浮浪者に街ゆく人を眺める親のない子供たち。


 住民の大半が今日食う飯すらもおぼつかない帝都の闇ともいえる貧民街。

 そんな街を二人の冒険者がぶらついていた。


 一人はサイモン。帝都の冒険者ギルドに所属するいわゆる一般冒険者である。

 もう一人はジャック。サイモンの相棒にして悪友。こちらも一般的な冒険者である。


「はぁあ。またクエスト失敗しちまったぜ……」

「サイモンさん失敗するの何回目でしたっけ。そろそろギルドカード危なくないっすか」


 サイモンのランクはD。

 冒険者としては低ランクであるが、長く帝都に在籍し数多くのクエストをこなしているベテランである。

 ベテランといえども人族の一般冒険者。加齢とともに能力は衰え魔物を討伐するようなクエストは困難になっていた。

 かつてはランクCまで上り詰めそこそこの稼ぎがあったものの今ではもう日銭を稼ぐのでやっとだった。


「そうかもな。いっそ、冒険者やめちまうか」

「サイモンさん、そりゃあねぇっすよ。俺が冒険者やれてんのもサイモンさんのおかげなんですから。もうちょっと頑張ってくれませんっすか」


 ジャックはサイモンよりも若い冒険者である。ランクは同じくD。これからが全盛期な青年である。

 といってもジャックはサイモンと異なり人族ではない。灰色の毛を持つ人狼族だ。


「いやなに。最近、腰がもうダメでな。剣振るうのも億劫になってしまってだな」


 サイモンは数年前のクエストで魔物にやられてから腰を患っていた。

 最初はベテランの知恵とテクニックでどうにかやってこれたがもうそれもおしまいだろう。


「そうですか……そういえば、あのウワサはご存じっすか?」

「あのウワサ?」

「なんでもこの近くにポーションショップができたらしいっすよ。腰とか効くポーションもあるらしいっすから行ってみませんか」

「ポーションショップ? しかし、ポーションなんてほとんどが高級品じゃないか? 安い物は大体粗悪品だしな」

「それがそうでもないっすよ。俺でも買えるぐらい格安なのに効果は高級品にも負けてないらしいっす。それに巷で人気になってる魔道治療具よりも安いのに効果は段違いって話らしいっすよ」


 魔道治療具とは帝国工房が量産している治療具のことだ。

 使うのに魔力を必要とするがケガをした仲間も一瞬で治せると評判だ。

 値段も高級ポーションを買うよりも安く冒険者たちの中でも常備し始める奴が増えてきている品物だ。


 それよりも安くて効果が高い?

 そんなポーション眉唾物だろう。


 そうはいいつつもサイモンも冒険者の端くれ。

 Cランクとしてバリバリ活躍していた当時は何度もポーションのお世話になったものだ。

 特に帝国工房製の最高級ポーションは美味かった。人生に一度しか味わったことがない高級品だったが今でもサイモンの喉にはあの時の爽快感が残っている。


 評判の良いポーションならあのポーションには及ばずとも味が良いのだろう。


 二人はポーションショップへと向かった。



 店内は一言でいえば物置のような場所だった。

 貧民街の中でも特に人気のない一画に建っているせいか店内にはサイモンたち以外の客はいなかった。


 だが、そこは紛れもなくポーションショップだった。

 店内のあちこちにポーションが入った瓶が置かれ効能とランクと値段が乱雑に書きなぐられていた。


「サイモンさん。あったっすよ。これっす。これが腰痛のポーションらしいっす」

「腰痛のポーション?」


 はてそんなポーションこの世に存在していたのだろうか。

 ポーションにも種類があることは知っていたがこんなピンポイントに腰痛に効くポーションなんて存在するのだろうか。


 はなはだ疑問に思った。


「店員さん。これいくらですか」


 さっそくジャックが店員に値段を聞いていた。

 店員は不愛想な少女だった。背は小さいが歩き方はしっかりしており、ベテラン冒険者の目からみてもそれなりの実力者であることは見て取れた。


「銅貨20枚」

「ど、銅貨20枚!?」


 銅貨20枚と言えばサイモンとジャックが間借りしている部屋の一日の料金である。

 一般冒険者であっても1日で稼ぐのがやっとな金額だ。

 と言っても1金貨1回復ポーションと呼ばれるほどに高価な回復ポーションよりも安い。


 一体、どうやってこんな金額でポーションを販売しているんだ?

 粗悪品でも銀貨数十枚は必要だぞ。


「足りなければ素材と交換でも構いません」


 サイモンたちの反応が鈍いとみてか店員はそういった提案をする。


「素材? 素材ならなんと交換なんだ?」

「……このポーションですとスライムの粘液1瓶かゴブリンの骨500gなの」


 スライムの粘液にゴブリンの骨?

 どちらも低ランク冒険者でも簡単に狩れる魔物の素材だ。

 そんな素材と交換だなんてやっぱり、この店信用できるのだろうか。


 サイモンはそう疑ったがジャックはそうでもなかった。

 懐から銅貨を取り出すと腰痛のポーションを購入した。


「サイモンさん。こいつは俺からのおごりっす。これからも冒険者続けてください」

「お、おう」


 ジャックの心遣いはありがたい。

 がしかし、こんな怪しげなポーションほんとに飲んで大丈夫だろうか。

 ポーションの色は透き通るようなエメラルドグリーン。

 まずくはなさそうだが、不気味に感じる。

 サイモンの頬を汗が伝う。


「店員さん。ここで飲んでも構いませんよね」

「(コクリ)」

「よし、ささっとやっちゃってください」

「あ、ああ。そうだな」


 ためらいはあるもののウワサになるくらいの品なら安全なはず……そう思ってサイモンはポーションをゆっくりと飲み始めた。


「どうっすかサイモンさん」

「う」

「う?」

「うっまーーい!!」

「うわっ!? なんすかいきなり」

「うぉお、なんだこれは。活力がみなぎる。まるで20代の頃のように身体がギンギンにほてってやがる! しかも腰がまったく痛くねぇ。さっきまでの激痛が一気に晴れやがった。味もまるで最高級ポーションのように美味い。なんだこのポーション!?」

「サ、サイモンさん……」


 あまりの変容っぷりにジャックが引いていた。

 いくらウワサになっているポーションだとしても銅貨20枚程度のポーションでこんなに変わるはずがない。


「嬢ちゃん。元気になるポーションみたいなのねぇか。こいつに飲ませたい」

「エナジーポーションがあるの……眠気が吹き飛ぶけど」

「よし、そいつをくれ。いくらだ」

「銅貨15枚」


 サイモンは店員からエナジーポーションを受け取るとジャックへ渡した。


「ほら、お前も一杯飲め。グイっとな」

「あ、ありがとうございます」


 サイモンに促されジャックもグイッとポーションをあおる。


「ん? んん″~~~~ぷはぁ! なんすかこれ!!? 身体がいきなり元気に!」

「よし、ジャック。これからCランククエストでも行くか!」

「いいっすね! 今からでもやれる気がします! うぉおおおおお!」


 そう言って二人は店を後にした。

 この後、サイモンが再びCランク冒険者として復活するのだがそれはまた別のお話。



 ***



 二人の騒がしい客が帰ったところで俺は売れ上げを確認しに工房から店頭へとやってきた。


「売れたよ。エルロット」

「ああ、工房まで聞こえてきたよ。まさか、エナジーポーションがここまでの効果があるとはな……まだまだ研究の予知があるってことか」


 回復のポーションを売り払い得た資金で始めたポーションショップだが、徐々に街中でも認知されてきていた。

 資金が足りなくて貧民街の端っこにあるオンボロ倉庫くらいしか借りられなかったけど無理やり店を開いたのがはほんの1週間前。

 たった1週間で売り上げが入ってきだしたのは幸いだ。世間もやっとポーションの素晴らしさに気づいてきたのであろう。


 この調子でいけば店兼工房ももっと良い場所に変えて帝国一のポーション工房になるのもそう先の話ではない。

 ひそかながらも俺の野望は進行しているといってよいだろう。


「お姉さまの様子はどうなの?」

「ああ、首尾よく薬草とか集めてきてくれてるよ」


 シアとレア、二人の姉妹には店番と素材集めを担当してもらっている。

 理由はわからないが無愛想なレアが店番に愛想のよいシアが素材集めをやっている。

 レアもきちんと仕事をこなしてくれているようだから文句は言わない。

 けど、シアが店番をやってくれたらもっと繁盛しそうなものなのだが……。


「そう」


 レアは素気ない。

 初めて会った時からそうだったが誰に対してもつんけんしているみたいだ。

 店主としてはもう少し愛想よく接客していただきたいものだ。


「あ、そうだ。そろそろレアやシアにも給料を渡そうと思っているんだけど、どうかな」

「別にいらないの。お姉さまも私もお金に困っているわけじゃないもの」


 うーん。

 だからといって無報酬ってわけにもいかんだろう。

 そこはまぁ、シアと相談しよう。


 とにかく今はうちのポーションを売って帝都の住民たちに本当のポーションを知ってもらうんだ。

 そして、皇帝やいけすかないグリムに目に物みせてやるんだからな。

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