発狂するトイレ
百物語十七話になります
一一二九の怪談百物語↓
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うちの学校の寮には、とても嫌な噂があった。
高校時代。当時野球部だった俺は、学校の中にある学生寮に住んでいた。寮に住んでいた生徒は、40人くらいだったかな。楽しい寮生活を満喫していたんだが、先輩から嫌な噂を聞いてね…
寮の2階、1番奥にある共同トイレは絶対に使ってはいけない。
「2階の共同トイレ?あぁ…あの封鎖されたトイレね…ウチの野球部の寮なんだけどさ、10年ちょっと前まで女子テニス部が使っていた女子寮だったらしい。男子寮になったことには、色々と理由があってな…」
先輩は俺に顔を近づけると、小さな声で語り始めた。
「いじめられていた女子テニス部の生徒が、あのトイレで首吊り自殺をしてしまったらしい…死体がえらく惨くてなぁ…女子生徒は自分の長い髪を引きちぎり、顔面を爪でズタズタに引き裂いてから自殺したんだと…」
当時は先輩たちが後輩をからかうための冗談だと思っていた。しかし、あの夜の出来事を体験してから、すべてが変わってしまったんだ…
夏休み初日、時間は夜8時。寮に住んでいる男子野球部のメンバーで、かくれんぼ大会をやることにしたんだ。隠れるのは3年生、探すのは1年生と2年生。制限時間は15分、場所は寮の中だけ。
「全員見つけたら、明日飯をおごってやるよ!」
俺たちは3年生が隠れるのを待つため、寮の入口で10分程待機していた。しばらくすると、俺の携帯電話に3年生から電話がかかってきた。
「もういいぞ」
俺たちは飯をおごってもらうため、必死になって3年生を探したよ。更衣室のロッカー、食堂のテーブルの下、今は使われていない部屋…先輩たちはすぐに見つかった。しかし…
「おい、武田はまだ頑張ってるみたいだなぁ!」
ほとんどの3年生は見つかったのだが、武田先輩だけがどうしても見つからない。時間は15分を過ぎてしまい、3年生の勝利が決定した。
「おーい、武田!もう出てきていいぞぉ!?」
「あいつどこに隠れてんだ?携帯にも出ないし…」
不思議なことに、武田先輩は15分経ってもまったく出てくる気配がない。先輩たちが携帯電話に連絡しても、武田先輩へ電話が通じることはなかった。
「あいつまさか外へ…」
先輩たちがざわつき始めたその時…
「2階のトイレに隠れているんじゃない?」
先輩の1人がそう呟いた。2階のトイレは鍵で封鎖されており、寮の生徒たちは使えないようになっているのだが、トイレの鍵は食堂の前にあるキーボックスの中へ保存されていることを先輩たちは知っていた。
「やっぱり鍵がない。あいつ、2階のトイレに隠れているんだ。みんなで迎えにいこうぜ」
俺たちは武田先輩を迎えにいくため、2階のトイレへ向かった。
「おーい、武田!かくれんぼ終わったぞっ!早く出て来いよっ!」
トイレの入口に立つと、先輩たちが武田先輩に向かって声をかける。しかし、中から返事はない。
「武田先輩、寝ちゃったのかなぁ…」
武田先輩がかくれんぼ中に眠ってしまったと考えた俺たちは、トイレの中へ入ってみることにした。
「おーい、何やってんだよ!もう出てこいよ、武田!」
トイレの中は薄暗く、電灯もつかない状況であった。俺たちは携帯電話の明かりを頼りに、トイレの奥へ進んでいく。
「武田…いるのか…?」
先輩たちは個室のドアを開けながら、どんどん前へ進んでいく。そして1番奥のドアを開けようとした瞬間…
「うぅ…あぁ…」
1番奥にある個室の中から声が聞こえてきた。
「んんっ?武田か…?」
先輩たちが個室のドアを開けると、便器の中に顔を突っ込んだ状態の武田先輩がいた。
「くっ!はははははっ!何やってんだよお前っ!」
「晩御飯食いすぎてゲロったのかよ?情けねぇなぁ!」
「もう早く帰ろうぜ…」
何があったのかわからないが、武田先輩は便器に向かって、口から何かを吐き出してた。
「大丈夫かよ…おい…武田…?」
先輩の1人が武田先輩の肩を後ろから叩いた瞬間、武田先輩がいきなりこちらを振り向いた。次の瞬間…
「「うわぁああああああああああああああああああっ!?」」
その場にいた全員が悲鳴をあげた。
武田先輩の顔はズタズタに引き裂かれており、口から大量の「髪の毛」を吐き出していたのだ。
「うぉあ゛ああああああああああああああああああああああああっ!!?」
武田先輩は奇声をあげると、俺たちの目の前で長い髪の毛をドボドボと吐き出した。
「おい、1年は先生と寮母さん呼んで来い!2年は俺たちと一緒に武田を保健室へ連れていくぞ!」
俺たちは狂ったように髪の毛を吐き散らかす武田先輩を半泣きになって押さえつけていた。
「あ゛ぁあああああああああああああっ!くるぅうううううっ!くる、くる…くるぅうううううううううううううううううううううううううっ!!」
吐き出された髪の毛が手に絡んでくる。とても長い髪の毛で、男の髪の毛じゃない!
「どうした武田!一体何があったんだよ!?」
先輩たちの問いかけに答えることなく、武田先輩は暴れながら自分が入っていた個室をギラギラした目で見つめている。
「あぞごぉおおおおおおおおおおおっ!いるぅううううっ!く、くるぅうううううううううううううううううううううっ!!?」
武田先輩が個室の便器を指さした。すると…
「えっ?」
便器の中から、女が顔の上半分を覗かせていた。女はしばらく俺たちを見つめていたが、すぐに便器の中へ消えていった。その場にいた全員が、その女の顔を見てしまったのだ。
しばらくすると、学校に残っていた先生と寮母さんが慌てた様子でトイレの中へ入ってきた。武田先輩はトイレから運び出されると、すぐに救急車で病院へ向かった。
その日の事件があってから、武田先輩は学校に来なくなった。後で聞いてみたら、退学してしまったらしい。先輩たちが入院先の病院へお見舞いに行ったらしいけど…
「ふひ…ふひひ…ふひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっっ♪」
武田先輩は、ずっと笑っていたそうだ。
あの女は、武田先輩に何をしたのだろうか。真相は闇の中に消えていった。
俺は卒業する時、寮に住んでいる後輩たちに向かってある言葉を言い残した。
「寮の2階、1番奥にある共同トイレは絶対に使ってはいけない」