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1月7日

 真っ白な光に目が覚めた。

カーテンの隙間から覗くそれはまだ午前の色を孕んでいた。柔らかい布団の中で一つ寝返りを打つ。身体が重くて、それ以上の運動は叶わなかった。

 ドアの向こうに、夢の中に見た人の気配はなかった。もしこれが夢の続きなら、あの人はドアの向こうからマグカップに入った甘ったるいカフェオレを持ってくる。いくら待っても匂いさえしないのだから、ここは現実の世界なのだ。

 曜日感覚が久しぶりに狂っている。学生の頃はよく長期休みの度に味わったものだが、記憶のある限りここ数年はなかったはず。

 どうしてこうなったのか、一度考えてみれば心当たりしか見つからなかった。外に出ることすらかなわなくなった体力の減少、人間そのものへのストレス、食欲の喪失、記憶力と思考力の低下、それに伴う人間としての務めへの不真面目、自分の醜さと怠惰へのどうしようもない怒り、自分でつけた傷の痛み、日に日に増していく不健康、そもそもの根本の性格の歪み、その原因。

 流石にここまで来たら何かしらの病気だと、この空間の惨状を見れば誰でも思うだろう。ここで過ごしている自分でさえそう思い始めてもう何か月か経った。この部屋を出なくなったのはつい最近、記憶が確かなら数週間前。誰にも会いたくなくて、自分を壊すだけの情報を目にしたくなくて、生活に必要なものを買い込んで閉じこもった。自分の精神が落ち着いたら出るつもりでいるので、誰にも文句なんて言われる筋合いはない。最も誰も文句なんて垂れてこないし、心配さえしてこない。我ながら完璧な準備をしてみせた。

 誰かが、おそらく複数人が、「休んだ方がいい」と自分にしつこく言ってきたのが悪かった。そいつらの言うことを聞いて、自分にとってストレスになりうるものをすべて遮断した。それなのに、何もないはずの部屋でも自分は壊れていくのを感じている。それでも誰かの声で「休みなよ」と響く。部屋に自分以外の人間がいるはずはなかった。それでも誰かの声、足音がこの部屋には常に響いて、視界の端には得体のしれないものが動いている。それらが現実のものでないと頭ではわかっていて、その上で放っておいた。より自分がこの空間で「ひとり」なのだと、思い知らされた。

 ああ、わたしはひとりだ。

 今のところ未成年の学生をしているからか親からの経済的援助もある、そこそこの大学に行けば友達もいる、連絡をすれば嬉しい目をして会いに来てくれそうな元恋人たちだって、いる。

 それでもひとりだった。

 そう考えてしまうほど疲弊しきっていて、それ以外を考えても考えなくても、壊れてしまいそうだった。


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