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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第五章:学会発表編
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第百四十六話:魔法による決闘

 正直、無力化するだけだったら簡単にできる。

 魔法なんて使わずとも、ちょっと神力を解放してあげるだけでも、ビビッて逃げ出すことだろう。

 でも、あんまり事を大きくしたくないというのはある。

 一応、これから先に学会発表があるわけだし、そこで万が一にも報復に来られたら困るし、できれば穏便に解決したいところだ。

 でも、それはそれで暴行を受けた少年が可哀そうではあるし、何らかの罰は与えてあげたい。

 んー、どこら辺までなら軽く済ませられるだろうか。


「まあ、私はよそ者ですし、この町のルールに深く突っ込む気はありませんよ」


「そう。ならさっさと帰ることね」


「でも、目の前でいじめられている人がいるのに、見て見ぬふりをするほど落ちぶれてもいません」


「だからこれはいじめじゃ……と言うより、あなたもしかして戦うつもりなの? いや、戦うのはそっちの人でしょうけど……」


 少女はちらちらとエルの方を見ている。

 魔法って言うのは、大人になるにつれて徐々に使えるようになるものだ。

 子供の内は、自分の持っている魔力に慣れる段階であり、仮に魔力を多く持っていたとしても、そこまで強力な魔法は使えない。

 だから、私が戦力外と見て、エルを見ているんだろう。

 エルは見た目だけなら一応成人しているし、戦うならこっちだって考えるのは自然なことだ。

 しかし、この様子を見る限り、少なくともエルにも勝てるとは思っている様子である。

 確かに、見た感じみんな魔力は多いように感じる。少女はもちろん、いじめている少年二人も、何ならいじめられている少年だって平均よりは高いだろう。

 ある程度魔力を操ることに長けているのなら、相手の魔力を感じ取って、大体の実力を測ることができる。それで、エルのことを測ったのかもしれない。

 まあ、その測った量はめちゃくちゃ抑え込んだものなんだけども。


「争いは好みません。ですが、その人も見捨てられません。どうか、私に免じてここは退いてくれませんか?」


「はあ? そんな要求が通るとでも……」


「何なら決闘してもいいですよ。確か、この町だとそういう文化があるんですよね?」


 ルシエルさんからちらっと聞いただけだが、この町には魔法による決闘が行われているのだという。

 本来の決闘は、お互いに譲れない主張がある際に、白黒つけるために行われるものである。その内容は様々で、基本的には戦闘によって決めるが、場合によっては技術の比べあいなんかもあるようだ。

 で、この町では魔法が発達しているからか、魔法による決闘が行われているらしい。

 簡単に言うと、西部劇とかである、早撃ち勝負みたいな感じ。

 お互いに背を向けて三歩歩き、振り返ってお互いの杖を落とす。実にシンプルである。

 場合によっては、杖でなく、本人を狙う場合もあるようだけど、まあそれはもっと本格的な決闘なので、ここでは多分関係ない。


「へぇ、面白いじゃない。いいわ、その話乗った」


「いいんですか? 別に無視しても……」


「誇りあるグラム家の息女として、挑まれた決闘を無視はできないわ。あんた達は見届け人をしなさい、いいわね?」


「まあ、そういうことなら」


 他の少年二人は少し不服そうだったが、少女が乗り気なのを見て、しぶしぶ了承したようだ。

 まあ、相手にとっては、子供の癇癪みたいなものだと考えているんだろう。

 相手がエルだろうが私だろうが、絶対に負けない自信がある、そんな感じがする。

 まあ、それはこちらも同じことなんだけど。


「私はフラン。フラン・フォン・グラムよ。あなたは?」


「私はハクと言います。よろしくお願いしますね、フランさん」


「いや、あなたに言ったんじゃないんだけど……」


 調子が狂うと言わんばかりに、困惑した目を向けられる。

 でも、決闘するんだから、決闘する者同士が挨拶すべきだよね?


「相手は私なんですから、間違っていないのでは?」


「は? 本気で言ってるの? そっちの人はともかく、流石にあなたには負けない、と言うか弱い者いじめになるからやりたくないんだけど」


「今まさに弱い者いじめしてた人が言いますか?」


「むっ……ふん、まあいいわ。そっちがそう決めるなら問題ない。後で文句言わないでよね」


 納得いかなそうな顔はしていたけど、ここでエルに出てもらう必要はないだろう。

 まあ、そっちでも構わないっちゃ構わないけど、エルはいざと言う時のために見張りをしていてほしい。

 いざと言う時が来るかは知らないけど。


「決闘のルールは知っているわね? お互いに背中合わせになり、合図とともに三歩歩いて、三歩目の瞬間に振り向いて相手の武器を魔法で落とす。配慮するなら、使う属性は水とか風が好ましいけど、あなたはどっちか使える?」


「どちらも使えますよ」


「む、ダブルか。なら、私も水魔法で狙うわ。そう言えば、あなた杖はあるの?」


「あ、そう言えば」


 いつもは杖なんて使わずに魔法使ってたから、すっかり使うのを忘れていた。

 一応、杖自体は持っている。

 以前に王様から貰った、世界樹の杖も未だに健在だし、その後にもいろんなお礼とか、興味本位で作ったものが何本かある。

 いずれも両手杖だから決闘で使うのは不利だけど、まあ、問題はないだろう。


「これですね」


「へぇ、両手杖ね。私はこれよ」


 そう言ってフランさんが見せてきたのは、片手で持てる、短めの杖だった。

 いわゆるロッドと呼ばれるものよりもさらに短く、本当に狙いを定めるためだけに使われるような杖である。

 恐らく、こんな杖を使うのはこの国くらいじゃないだろうか。他の国とかでは、最低でもロッドを使うのが普通だと思う。


「アンティーを決めましょう。そっちの要求は、こいつへの説教をやめろってことでいい?」


「はい。できれば今後一切やめて欲しいですね」


「ならこっちは、こっちの言うことに口を出すな、でいいわ。それでいい?」


「はい、大丈夫ですよ」


「決まりね。じゃあ、始めましょうか」


 そう言って、フランさんはこちらに背を向ける。

 この場所は、細い通路のようになっているので、三歩歩く程度の距離はしっかりと保たれている。

 見届け人として、相手の少年二人とこちらはエルがつき、準備は万端。

 一歩、二歩と歩を進める間に、私は頭の中で魔法陣を思い描いておく。

 振り返ってから魔法を放つ場合、瞬時に状況を理解できる能力が求められると思うけど、普通の魔法の場合、大抵は詠唱が必要になる。

 それならば、早撃ち勝負とはいってもゆっくり狙う時間はあるし、いかに噛まずに詠唱できるかって勝負になるだろう。

 しかし、この町では恐らく無詠唱が基本だと思う。そうでなければ、早撃ち勝負なんて文化が始まるとも思えないし。

 だから、詠唱なんて抜きで、速攻で仕留める。

 万が一にも負けたくないから、ここは大人げなく行くよ。


「さん! ウォ……」


「ウォーターボール」


「きゃっ!?」


 振り向いた瞬間、水の玉が高速で杖に直撃し、フランさんの杖を落とした。

 見た限り、相手は詠唱破棄はしていたけど、撃ちだすところまでいけなかった様子。

 まあ、流石に行けるよね。カッコつけて、失敗しなくてよかった。

 私はほっと息を吐きつつ、フランさんの下に向かっていくのだった。

 感想ありがとうございます。

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