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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第四章:師匠の行方編
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幕間:変わらぬ森

 フェアリーサークルの妖精、クロシュの視点です。

 妖精は精霊の子供とされているが、厳密に言えば別物な気がする。

 と言うのも、精霊は主にその場所や概念のエネルギーを得た、言うなれば自然の存在なのに対し、妖精は自然から発生したものではあるけど、どちらかと言うと人に近しい。

 精霊がほとんど会話による意思疎通を行わないのに対し、妖精が積極的に言葉を操るのはそういう理由もあると思う。

 ま、これはあくまで俺の考えなだけで、実際のところどうかは知らねぇけどな。

 まあ、それは置いておいて、精霊と違って、妖精は積極的に動き回ることが多い。

 精霊も、魔力の多い場所に集まる性質はあるが、よほど気に入った人間でもいなければ、ある一定の地域をさまよっているだけで、広い地域を渡り歩いたりはしない。

 必然的に、妖精の方がいろんな地域を見て回ることになり、その結果、空間のゆがみを見つけることもあるわけだ。

 その場所は、世界とは隔絶された、言うなればデッドスペースであり、人間達で言うところの、屋根裏部屋とか、そんな感じの場所だ。

 大仰な言い方をしているが、誰からも邪魔されない、秘密の場所ってだけで、別に大したことはないんだけどな。

 だが、自分だけの場所と言うのは誰であっても心躍るものだと思う。

 人だって、自分の家の中に、自分だけの部屋を持つだろう。

 だから、これを見つけた時は、おもわず「よっしゃ!」と叫んでしまったものだ。

 まあ、ちょっとばかし自慢しすぎたせいで自分だけの場所と呼ぶにはちょっと多すぎるくらいになっちまったけど、それでも管理者として、俺の好みを優先できるのは素晴らしい。

 このフェアリーサークルのコンセプトは、変わらない森だ。

 俺が誕生したのは、どこにでもあるような森の中だった。

 別に綺麗な泉があるわけでもなく、森を見渡せる高台があるわけでもなく、いたって普通の小さな森。

 特段資源もなく、魔物だって少ない平和な森だったが、森として存続するには規模が小さすぎた。

 俺が森から離れる際には、近くに村ができ、人々が森から木々を切り倒していくようになってから、嫌な予感はしていたが、ほんの十数年空けただけで森は跡形もなくなっていた。

 別に、故郷に思い入れがあったわけではない。人々の近くで生まれた妖精にとっては、こんなこと日常茶飯事だし、そのことで人々を恨むようなこともない。

 けれど、その光景を見て、なんとなく、寂しいなと思ってしまった。

 だから、俺はフェアリーサークルにその景色を作り上げることにした。

 あの時の故郷そのままと言うわけではなくてもいい。誰にとっての故郷でもあれるような、いつまでも変わらない森。そんな場所を作りたかった。

 その結果、出来上がったのが今のこの空間と言うわけである。


「ま、秘密基地としちゃ上々だろう」


 ここ最近は、シノノメと言う人間が迷い込んできたという事件もあったが、フェアリーサークルとしては何の問題もない。

 問題があるとすれば、ここに住まう妖精共だよな。

 あいつら、みんなして刀なんか持って、すっかり剣士気分だ。

 シノノメがいた頃は、あんなに修行を嫌がっていたくせに、今じゃ自主的に訓練するほどのはまりっぷりである。

 妖精が剣術を使う必要なんてほとんどない。

 大抵の妖精は魔法を扱えるし、仮に剣の妖精とかがいたとしても、人に勝てるほど強いわけでもない。

 妖精の剣術が通用するとしたら、それは妖精同士の戦いになるんだろうが、それこそ魔法の方が早くて威力もあって強いのだから、ますます使う意味がない。

 一体なんであんなにはまってんだか。まあ、別に俺はどうでもいいんだけど。


「クロシュー、一緒に修行しようよー」


「やなこった。そもそも、俺は教わってねぇよ」


「一人だけ逃げてずるいぞー」


「知るか。やりたいならお前らだけでやっとけ」


 ここにいる妖精達は、皆俺と同じくらいには年を経ているが、どうにも子供っぽいところがある。

 いや、妖精なんてみんなそんなもんかもしれないけど、こいつらは特にそう感じる。

 ま、ここにいる間は時間も止まってるんだし、やりたいだけやればいいと思うがな。その分、精霊になるのが遅れるとは思うが。


「せっかく興味を持ってあげたんだから、少しくらいは手伝って上げたら?」


「うぉ、びっくりした。なんだよメールド、来てたのか?」


 振り返ると、そこには知り合いの妖精の姿があった。

 メールドとは、昔からの知り合いである。ただ、その生まれには天と地ほどの差があった。

 と言うのも、俺はさっきも言った通り、ちょっと人の手が入ったら潰れてしまうような小さな森の出身である。

 対して、メールドは竜の谷にあるリュミナリア様が住まう森で生まれた。

 人間の中には、貴族みたいな区分けがあるらしいが、メールドはまさにそれだろう。超お嬢様って感じだ。

 生まれてすぐにリュミナリア様とも会ったらしいし、本当に羨ましい限りである。

 会った経緯は、そんな大したことはない。世界を回るために森を出たメールドが、たまたま俺のフェアリーサークルを見つけ、入ってきたのがきっかけだ。

 フェアリーサークルには、そのフェアリーサークルにいる妖精の許可がなければ入れないが、メールドはそんなの関係なく、ぶち破ってきた。

 その時俺は、環境を整えるので忙しかったから、反応しなかったんだけど、入り口壊された時はびっくりしたよな。

 いくら俺がありふれた普通の妖精だとしても、フェアリーサークルの入り口を破壊するのはそんな簡単なことじゃないし、仮にできたとしても、そんなことやる奴はいない。

 最初の出会いは、本当に険悪なものだったと言えるだろう。

 それでも、話を聞いているうちに、なんだかんだ意気投合し、知り合いと呼べるくらいまでは関係が回復したので、根は悪い奴じゃないんだろうとは思う。


「何よ、来ちゃ悪い?」


「別に悪かねぇけど、お前いつも唐突だよな」


「その方がサプライズっぽくていいでしょ」


「そういうのは人間にやれよ。俺じゃそんなに驚かないだろ」


「そこは空気を呼んで驚いてほしいんだけどね」


 その後は、集まってきた妖精達と、たまにメールドの手も借りながら調整を進めていき、今の状態になった。

 この森は今や完成系であり、たとえ壊されたとしても、次元のゆがみの影響ですぐに元に戻る。

 ま、ちょっと手を加えなきゃいけなかったのが面倒だったが、俺の故郷、いや、皆の故郷を再現することはできたと言っていいだろう。


「にしても、なんでお前ってここに来るんだ? お前はこういうとこそんなに好きじゃないと思ってたんだが」


「まあね。私はこの森の数百倍は美しい森を知っているし、お姉様方やリュミナリア様もいるから、寂しいわけでもない」


「だったらなんで」


「ここまで言ってもわからないなら一生わからなくていいわ」


「なんでだよ!」


 俺の言葉には答えず、メールドはふよふよとどこかへ飛んで行ってしまった。

 一体何なんだよあいつ。別に来るのは構わないけど、だったら少しくらい褒めてくれたっていいじゃん。

 俺は若干のイライラを抱えながらも、特に気にすることなく遊んでいる妖精達を見る。

 さて、いつ飽きてくれることかね。

 感想ありがとうございます。

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