表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
968/1714

第百十九話:鬼才

「今日はどうしたの?」


「指南役候補の紹介だね。こちら、シノノメさんです」


「シノノメじゃよ。おぬし、だいぶ剣術に長けとるようじゃの」


「あら、わかるの?」


「これでも弟子を取るくらいには剣の道を極めておったからな。動きで分かる」


「へぇ。シノノメさんも強そうね」


「自信はある。まあ、この道場の指南役になれるかどうかは別じゃがの」


 話しながら、壁際に移動する。

 サクさんは他の先生達に話しを通し、型を一通り見せてくれるように頼んでいた。

 模擬戦形式でもいいが、ただ技を見せるだけだったらそこまでする必要はない。

 もちろん、実際に戦った方がどのように使うのがわかっていいとは思うが、これはただの確認だしね。

 シノノメさん、と言うより、私が来たことによって門下生達が若干ざわついているが、それを制し、何人かの先生と共に庭で技を披露することになった。


「一通り見せます。ただ、特段名前が決まっているわけではありません。一の型、二の型、のように覚えてくだされば」


「うむ、承知した。では、頼む」


「では、行きます」


 そう言って、サクさんは他の先生達に手伝ってもらいながら、技を披露していく。

 確かに、これはこの技、って言う名前は決まっていなかったような気がする。

 一応、アーシェントさんが道場を運営していた時も同じような状況だったらしいので、それに倣ってと言うことなんだろうけど、名前がないと教える際には若干不便かもしれない。

 と言っても、基本的には相手の動きを見切って、返す。ただそれだけである。

 技の種類があるとすれば、どのように避けるか、だ。

 完全に回避するのか、剣で受けるのか、距離を取るのか、相手の死角に潜り込むのか、相手の動きによって変わるので、その避け方は千差万別である。

 それを完璧に行うためには、相手をより理解することが必要になってくる。この人物ならどう動くのか、ここはこう攻めてくるだろう。そう言ったことを、瞬時に見抜かなくてはならない。

 サクさんの場合は、それに加えて動体視力も半端ないと思うけど。

 伊達に神速のサフィの剣を数度耐えた人ではない。お姉ちゃんの速度が異次元でなければ、大抵の相手には勝てると思う。


「……こんな感じです。いかがでしょうか?」


「なるほどなるほど。これは、とんでもない鬼才がいたもんじゃな」


 技を見ていたシノノメさんは、うむうむと頷きながらサクさんに称賛の声を贈る。

 正直に言うと、サクさんの剣って相当難しいと思うんだよね。

 やってることは、確かにカウンター狙いだけって言う単純さがある。

 だけど、カウンターって本来は相手の裏をかく行為だ。相手が認知していない場所から一撃を食らわせる、言うなれば初見殺しの技である。

 それ故に、一度見切られてしまったら、次からは警戒されて通用しなくなってしまう可能性もある。

 それを防ぐためには、相手を一撃で葬らなければならない。

 三流の剣士とかが相手なら十分効果的な技だろう。ただ、相手が達人になればなるほど、見切られ、戦闘が長引く。そうなると、初見殺しは使えなくなり、不利になる。

 しかし、サクさんの場合はそれがない。相手にどれだけ見切られようが、それよりも早く剣を繰り出すことができる。

 ゲームで言うところのハメ技のような感じだろうか? わかっていても避けられない、それがサクさんの剣である。

 この境地に達することができている人は少ないだろう。アリシアとかはもしかしたら行けているのかもしれないけど、他の先生達だって、全員が全員そこまで辿り着けているわけではない。

 サクさんでなければ教えられない技も多数ある。だからこそ、サクさんが教えなければいけない時間が増えるのだ。

 この負担を減らすには、せめてマニュアルのようなものが必要になってくるだろう。

 こう動いたらこう、みたいなものが全部書いてある本があれば、多少は楽になるかもしれない。

 果たして、一冊に収まる量になるかは知らないが。


「わかっていても対処しにくいというのは、相手にとってはとても嫌なことよ。騎士道では、正々堂々と言うのが基本のようじゃが、わしは生きてこそだと思っておるし、格式を重んじて命を落とすような輩は馬鹿じゃと思っとる。じゃから、相手を倒すことに特化したその剣は、とてもいいものだと思う」


「あ、ありがとうございます」


「じゃが、ちと使いにくいな。いや、使いにくいというよりは、教えにくい。それを使いこなすには相応の才能が必要になる。素人がいくら修業したところで、辿り着けぬ境地じゃ」


 そう言って、シノノメさんはちらりと道場の方を見る。

 門下生達は、残った先生達の指示の下、模擬戦を続けているが、順番を待っている門下生達は、こちらの方をチラチラと観察していた。

 皆初々しく、将来を感じさせるいい子達であるが、シノノメさんはそれを一刀両断する。


「恐らくじゃが、ここにいる弟子達は、来る者拒まずと言った感じで受け入れたのじゃろう」


「ど、どうしてそれを?」


「おぬしの性格と、弟子達の動きを見れば何となくわかる。動ける者は筋がいい者もおるが、そうでない者はてんでダメじゃな。あれでは、いくら教えようが、大成することはない」


「そ、そんなことはないですよ! 丁寧に教えて行けば、いつかは……」


「まあ、志があれば、まあまあの位置には着けるじゃろう。並の剣士相手なら、一つ二つの技だけでも勝てる時は勝てる。じゃが、それ以上は無理じゃな」


「どうして、そんなこと言うんですか……」


 サクさんは俯きながら低い声でそう言った。

 サクさんは、門下生達を大切にしている。それこそ、自分の都合よりも、門下生達の都合を優先するような人だ。

 そこに手抜きなんてないし、誰もが立派な剣士となって卒業していくことを夢見ている。

 そんな人に、お前の弟子は大成できないなんて言われたら、怒りもするだろう。

 ただ、そう思っているのは、他の先生達も同じようで、わずかに視線をそらしていた。


「怒ったのならすまぬ。じゃが、それほどの鬼才を前にして、それが潰れていく様を見たくないのじゃ」


「俺では、師範として不足だと?」


「そうは言っておらんよ。ただ、一つ言わせてもらうとすれば、弟子は選べと言うことじゃな」


「……」


 サクさんは、道場に入門するに際して、特に制限は設けていない。

 年齢も、性別も、経歴も、地位も問わない。すべて同じものとして扱って、門戸を叩いた人には等しく技を教え、懇切丁寧に指導していくのだ。

 その方針は素晴らしいと思うし、サクさんの教えは多くの門下生達を引っ張って行っていると思う。

 けれど、人を選ばないからこそ、トラブルも起きやすい。

 例えば、とある貴族の子息が入門した時があった。その子は貴族らしい貴族であり、平民のことを見下すような人物であった。

 それ故に、他の平民出身の門下生達はその態度に嫌気がさし、多くの人達が道場を去っていったのである。

 それだけならまだよかったが、模擬戦でその子に一撃を入れた平民の門下生が、手打ちにされそうになるという事件まで発生した。

 もちろん、実際にそんなことはさせなかったし、それを機にその貴族の子はこんな道場潰してやると息巻いてやめてしまったから、それ以上門下生達に被害が及ぶことはなかったけど、そういう輩もいるっちゃいるのである。

 ちなみに、道場が潰れることはほぼない。今や王都一の道場と言うのもあるが、そもそも道場の門下生は皆平等に扱うという説明を聞いて入ってきた相手が、勝手に勘違いして暴れただけの話である。

 後ろ盾にはミーシャさんなどを始めとした高ランク冒険者が数多く存在するし、何なら私経由でアルトにも話が伝わっている。

 もし、この道場を潰すような真似をすれば、よほど道場が不正でもしてない限り、潰されるのはそちらの方だ。

 だから、その点で心配することはないけれど、他にも、あの人には丁寧に教えたのに自分には全然教えてくれなかった、などと言う文句とか、道場の道具のちょろまかし、故意的な破壊活動など、この道場は今までにも多くのトラブルを抱えてきた。

 結果的に、今ではサクさんに理解を示す優しい人達だけが残ったけれど、その人達が全員才能があるかと言われたらそんなことはない。

 志はあっても、仮に一流にはなれても達人にはなれない、そんな感じ。

 弟子を選べと言うのは、見込みがある人だけを教えた方が負担も減るし、いいのではないかと言うことだと思う。

 それはその通りかもしれないけど、サクさんにその言葉は重いだろうな。

 俯くサクさんを見て、心配になる。

 やけを起こさなきゃいいのだけど……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] どうするのかねぇ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ