第百十四話:感動の再会?
とりあえず、シノノメさんが目覚めない理由はわかった。
つまり、シノノメさんはここにいる妖精達が気がかりで、自ら残っていたわけで、目覚めないのは単純に魂がないからと言うことだ。
いや、でも呪いっぽい反応は出ていたし、もしかしたらシノノメさんが自分自身に何かしらの呪いをかけて、それで魂を置いていった可能性もあるかな?
どちらにしろ、呪いをかけた本人がシノノメさん自身なら、後は自分で呪いを解けばいいだけの話である。
ヤンデレの妖精に囲われているとかでなくてよかった。
「クロシュさんは修行しなくても怒られないんですか?」
「俺はそもそも弟子じゃねぇし、そもそもこのフェアリーサークルの管理人だからな。そっちで忙しいって言ったら普通に許してくれたぞ」
「なるほど」
ここにいる妖精達ですべてかはわからないけど、クロシュさんだけが修行を免れていると考えると、妖精達が泣きついてくるのもよくわかる。
しかし、剣の修業をした妖精か。一体どれくらいの腕前なんだろう?
妖精は基本的に飛んで移動するし、間合いとかも全然違うと思うんだけど、どうやって教えたのかも気になる。
後で型とか見せてもらえないかな。
「むっ、客人か?」
「おう、あんたに用みたいだぜ」
「わしに? なぜわしがここにいることがわかって……」
そう言ってから、お姉ちゃんの存在に気が付いたらしい。
一瞬の沈黙の後、ガタガタと震えながら歓喜の声を上げた。
「おお! おぬしサフィじゃな? 大きくなりおって、外ではもうそんなに時間が経っておるのか?」
「師匠、なんですよね?」
「いかにも、わしはおぬしの師匠、シノノメじゃよ。うむうむ、あの時はどうなるかと思っておったが、無事に生き延びてくれていたようで何よりじゃ!」
恐らく、シノノメさんの記憶にあるお姉ちゃんよりはかなり成長した姿ではあると思うが、すぐにお姉ちゃんだと理解したらしい。
その場から動きだすことはないが、全身で喜びを表現しているように見える。
見た目があれだからちょっと滑稽に見えるけど、一応師匠と弟子の感動の再会なのかな。
「師匠、一ついいですか?」
「なんじゃ? 感動の再会を祝してハグしてくれてもよいのじゃぞ?」
「……こんなところで油売ってないでさっさと戻ってきなさいよ!」
「のわーっ!?」
そう言って、お姉ちゃんは木彫りの像に瞬時に近づき、飛び蹴りを食らわせた。
結構な威力があったらしく、像は吹き飛ばされ、近くの木に激突して止まる。
うん、まあ、当然っちゃ当然だよね。
お姉ちゃんは、生き延びた後も、しばらくはシノノメさんを探していたようだ。
そりゃ、師匠なんだから当たり前だよね。
でも、見つかることはなく、師匠は死んでしまったんだと後悔しながら日々を過ごしていたのだ、
それが、こんなところでずっと引きこもってたなんてわかったら、怒るのは当然である。
まあ、弟子が心配だったというのはあるだろうけど、それだったらお姉ちゃんだって弟子のはずである。
一番弟子、かどうかはわからないけど、姉弟子を放っておいて、妹弟子ばっかり構って、しかもその期間は15年以上とかなりの長さ。
お姉ちゃんとしては、捨てられたと感じてもおかしくはないはずだ。
「ほんっとに心配してたんですからね! 自分のせいで死んじゃったかもしれないって、ずっと後悔してたんですからね!」
「い、いたっ、や、やめるのじゃ! 痛いのじゃ!」
げしげしと蹴りを食らわせるお姉ちゃん。
これは擁護のしようがないし、私はお姉ちゃんを応援するよ。
しばらくの間、その空間にはシノノメさんの悲鳴が響いていた。
「弁明は?」
「も、申し訳なかったのじゃ……」
しばらくして、お姉ちゃんも落ち着き、話ができるようになった。
シノノメさんは完膚なきまでに叩きのめされ、表情が変わらない像でも何となく泣いているような気さえする。
周りにいた妖精達は、今まで恐怖の対象だったシノノメさんを叩きのめしたお姉ちゃんに尊敬のまなざしを向けており、なんだかんだで気に入られている様子。
いや、どちらかと言うと、窮地を救ってくれた救世主って感じなのかな。どちらでもいいけど。
「じゃ、じゃが、よく考えてくれ。妖精に会うなんぞ、人生を通して一度あるかないかじゃ。その上、その妖精達は自分を慕い、さらに自ら剣を学びたいと志願するような良い子達なんじゃぞ? これで絆されるなと言う方が無理がないかの?」
「それじゃあ、それよりも先に弟子だった私のことはどうでもよかったんですか?」
「い、いや、そういうわけではない! じゃが、その、ほら、ここでは時間は経たぬと聞いていたし、こ奴らが一人前になってからでも遅くはないかなと……」
「ほー」
「うっ……」
シノノメさんは完全にお姉ちゃんに言い負かされている。
まあ、言いたいことはわかるけどね。
普通の人間が、妖精と会うことなんてそうそうないし、しかもその妖精が自分に好意を示していると考えれば、舞い上がる気持ちもわからなくはない。
時間が経たないというのは、この空間内で年を取らないというだけであって、外ではがっつり時間は経過しているわけだけど、当時のお姉ちゃんの年齢を考えれば、一年二年放置しても十分巻き返しができると考えるのも何となくわかる。
まあ、15年以上経っているわけだけど。
「す、すまなかったのじゃ! この通り、謝るから!」
「謝っても私の時間は帰ってこないんですよ」
「こ、これからはつきっきりで教えるから!」
「私、多分今なら師匠より強いですよ? あれから何年経ってると思ってるんですか」
「ぐぬぬ……」
シノノメさんの実力はよく知らないけど、まあ、海の魔物を倒しに行けるほど強かったのは間違いない。
けれど、今のお姉ちゃんはそもそもの次元が違う。なにせ、光より速く動けるんだから。
仮にお姉ちゃんの剣術がシノノメさんより未熟だったとしても、単純な勝負をしたらお姉ちゃんが必ず勝つ。
「……でもまあ、これからも一緒にいてくれるのはありがたいです」
「そ、そうか? なら、許してくれるか?」
「そうですね。ちゃんと元の体に戻って、私のこと褒めてくれるなら許してあげます」
「も、もちろんじゃ! すぐ戻るとしよう!」
もしかしたら、ここに残ると駄々をこねられるかとも思ったが、お姉ちゃんの威圧もあって、素直に言うことを聞いてくれそうだ。
妖精達は、これでようやく解放されると涙を流しながら喜び、お姉ちゃんに向かって頭を下げている。
これ、多分加護も飛ばしているな。お姉ちゃんが一気に妖精に愛される形に。
元々、私の近くにいることが多いから、私の近くにいる精霊達が加護を落としていたことはあったけど、これはこれでどうなんだろうか。
まあ、悪い効果じゃないと思うので、特に指摘はしないけど。
とりあえず、これで一件落着かな?
私は大事にならなくてよかったと、ほっと胸を撫でおろした。
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