第百八話:海の捜索
一応、あらかじめ実験はしていたんだけど、ちゃんと魔法は効力を発揮しているようで、潜っても水に濡れることもないし、圧迫感を感じることもない。
視界も良好なので、これなら十分に探索することができるだろう。
「……凄い、ほんとに息ができる」
「だから言ったでしょ?」
お姉ちゃんはしばらく目をぎゅっとつぶって息を止めていたようだけど、やがて耐えられなくなって息を吐きだし、そこでようやく息ができることに気づいたようだ。
まあ、気持ちはわかるけどね。私も、最初はちょっと怖かったし。
でも、だからこそ、安全性には自信がある。仮に何かアクシデントが起こったら、即座に転移できる準備はしておいた方がいいかもしれないけど。
「ハクってやっぱり何でもできるわよね」
「何でもと言うか、うまく形にできたものだけだけどね」
確かに、私は何百、何千と言う魔法を作ってきたけど、中にはなかなか形にできず四苦八苦したものもいくつかある。
理論上は、魔法陣に描き込めさえすればどんな魔法も作ることはできるけど、単純に電池と電球を繋げて電気がついたり消えたりするだけの回路と、スイッチによって様々な光り方をするようにした複雑な回路では難易度が全然違うのはわかるだろう。
要は、単純な魔法ほど簡単で、複雑な効果がある魔法ほど難しいってことだ。
当たり前のことかもしれないけど、魔法のことを何も知らない人からすると、同じように映ることもよくあるらしい。
魔法は何でもできるかもしれないが、それを作れるかどうかは別物なのにね。
まあ、それはともかく、それでうまく形にできなかったものはたくさんあるわけだ。
その気になれば、九重魔法陣とかにすればできるのかもしれないけど、そんなの実用性に欠けるし、作る意味がない。私だけ使える魔法造っても面白くないしね。
「それでも凄いわよ。私にはさっぱりだわ」
「何なら教えてあげようか?」
「あー……考えておくわね」
露骨に目をそらしたお姉ちゃん。
まあ、私の使う魔法の方式は結構難しいからね。
一応、私の使っている、いわゆる魔法陣を直接頭に思い浮かべることによって発動する魔法は、ルシエルさんに権利を提供してある。
学会で発表することになるかもしれないと言っていたけど、結局したんだろうか。最近は全然話を聞いてないけど。
この方式の魔法は、従来の詠唱式の魔法と比べると早く、正確にできることが利点であるけど、その分覚えることが多すぎる。
下級魔法のファイアボール一つとっても、何十通りと言うパターンが存在するからね。
それに、戦闘になった際、とっさに魔法陣を思い浮かべられるのかという問題点もあるし、護身用の魔法として考えるとかなり微妙な評価になると思う。
一応、エンチャント系とか、戦闘ではなく、十分に時間が取れる場面でなら、デメリットはほぼないし、使いやすいと思うけどね。
まあ、発表することになったとしても、これを使うかどうかはみんなに任せるけどね。一応、私の魔法を詠唱式に直すことも可能だし、そこらへんは臨機応変にやって欲しいところだ。
「さて、まずは船を見つけたいところだけど」
露骨にやりたくなさそうなお姉ちゃんは置いておいて、昔お姉ちゃんが乗っていたと思われる船を探すことにする。
まあ、当時はその魔物によって多くの船が沈められていたらしいから、多分船の墓場みたいなところがあるんじゃないだろうか?
あ、でも、海流の関係で沈んだ場所とは違う場所にある可能性もあるのか。
うーん、まあ、その時はその時かな。
海流によって流されているなら、シノノメさんも同じように流された可能性が高いし、むしろそれを見つけられれば発見に近づくかもしれない。
お姉ちゃんの記憶がどれほどあてになるかはわからないけど、ひとまずこの辺りを中心に捜索を続けて行こう。
「この辺り、だいぶ海流が入り組んでるみたいだね」
「確かに」
探し始めてすぐにわかったことだけど、この辺は色々な海流が入り組んでいる場所らしい。
私の水中呼吸魔法は海の中でも問題なく活動できるようにできる魔法ではあるけど、海流を無効化できるわけじゃない。だから、知らずのうちに流されていることが多くて、思った場所を捜索できないことが多かった。
一応、その気になれば海流なんて無視して移動できないことはないけど、それだとお姉ちゃんやアリアがついてこれない可能性があるし、下手に抗うこともできない。
その結果、同じ場所をぐるぐる回るような、妙な海流にしばらく拘束されることになった。
「なんか、ロータリーみたいな感じ」
「ろーたりー?」
「あ、いや、こっちの話」
多分だけど、ここから少しずれたら、それぞれの海流に向かって進んでいくんじゃないだろうか。
海流が直接目で見えるわけではないので、周りのごみとかが流れていくのを追って判断するしかできないけど、大きく分けて、陸の方向に進む海流と、さらに沖の方に進む海流があるように見える。
もし、お姉ちゃんがここで沈んだなら、陸の方向に進む海流にうまく捕まったってことなんだろうね。
「可能性があるとしたら、やっぱり沖の方かなぁ」
同じ海流に捕まっていたなら、シノノメさんもお姉ちゃんの近くで発見されていることだろう。
そうでなかったってことは、多分さらに沖の方に流されて、そこでフェアリーサークルに捕まったってところじゃないだろうか。
まあ、もしかしたら陸の方角にもフェアリーサークルがあるかもしれないけど、とりあえず、船もまだ見つかってないし、沖の方に向かって進んでみるとしようか。
「お姉ちゃん、あっち行くよ」
「え、ええ、わかったわ」
私は海流のタイミングを読んで、沖の方へと流されていく。
このまま出られないなんてことはなく、普通に抜け出すことができた。
「これは、今日中には終わらなそうだね」
できることなら、今日中にでも決着をつけたかったけど、流石にお姉ちゃんの記憶だけでフェアリーサークルを見つけるのは難しそうだ。
そもそも、お姉ちゃんが知っているのは、船が沈没した大まかな場所だけであって、本当にそこにフェアリーサークルがあるかわからない。
もしかしたら、どこかの無人島とかに流れ着いて、そこでフェアリーサークルを発見したのかもしれないし、あるかはわからないけど、魔物の中にフェアリーサークルがあるとかかもしれない。
フェアリーサークルがあると言う前情報を貰っているだけましなのかもしれないけど、流石にそれだけで見つけるのは難しいってことだ。
まあ、時間がかかっても、多分大丈夫だとは思う。
シノノメさんの様子を見る限り、何か苦しんでいるというわけでもなさそうだったし、がりがりと寿命が削られて行っているというわけでもなさそうだった。
目覚めさせる方法さえ見つかれば、ちゃんと問題は解決するはずである。
心情的には、早めに解決してあげたいけど、あまり焦りすぎてうまく事が運ばなくても困るし、ここは地道に行くことも視野に入れておいた方がいいかもしれない。
そんなことを考えながら、海の捜索を続けるのだった。
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