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捨てられたと思ったら異世界に転生していた話  作者: ウィン
第二部 第三章:地球移住計画編
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幕間:憂いを晴らす

 天使のルーシーの視点です。

 いつものようにハク様を観察していると、どうやら地球に行くということがわかった。

 地球と言えば、ハク様の魂が元々いた世界である。以前は、転移魔法陣を用いて交易も行われていた世界であり、この世界とはそれなりに繋がりがあった。

 今では、世界を移動するような転移魔法陣は皆時間の流れで風化してしまっているけれど、偶然にも古代の遺跡がダンジョン化しており、そこに偶然地球への転移魔法陣が残っていたらしい。

 なんだか意図的な何かを感じるが、まさか創造神様の仕業だろうか?

 いや、いくら創造神様でも、流石にダンジョンの生成までは操作できない。となると、本当に偶然か。

 以前暮らしていた世界に転移できるなら、ハク様としても嬉しいことだろう。実際、あちらの世界にいる時のハク様はとても嬉しそうで、表情は変わらなくとも、喜んでいるのは容易に理解できた。

 ただ、帰ってくると寂しいのか、顔を曇らせていたのが印象的であった。

 楽しい時間と言うのは思いのほか早く過ぎるものである。だから、それがいざ終わった時、悲しいと思うのは人間らしいと言えばらしい。

 まあ、ハク様は神なのだが。

 ただ、話を聞いているとどうもそういうわけではないようで、時間差というものに困っているようだった。

 時間差と言うと、世界間を移動する際に生じる誤差のことだろうか。

 確かに、あの魔法陣は世界を移動する関係上、到着地点で体を再構成するために魔力を運ぼうとすると割と時間がかかってしまい、結果的にずれが発生することはよくある。

 そのおかげで、以前の人々は会話に齟齬が生じていたと言っていたような気がするし、人にとっては結構な誤差なのだろう。

 ただ、ハク様はそれを解決する術をすでにお持ちのはずなのだが。


「あれは魔法陣の性質の問題であって、自分で転移すれば誤差は生じないはずなんですが……」


 転移と一口に言っても色々あって、あの魔法陣に使われている転移は、体を魔力に分解し、到着地点で再構築することによって転移する、魔力分解式転移法だ。

 起動に使われているのは神力ではあるが、人々にも簡単に扱えるように調整した代物であり、私達が使う、直接距離を消し飛ばす転移法とは少し違う。

 ハク様はすでに神の領域へ足を踏み入れた存在であり、当然ながらその転移法も取得しているはず。なのに、なぜそれを使わないんだろうか?


「確かに、他にもたくさん人を連れていくならば多少神力はかかりますが、行きはともかく、帰りは七人程度ですし、余裕ですよね?」


 もちろん、行きの十七人でも余裕ではあると思うが、人が増えると転移のコントロールに問題が出てくる可能性があるから、慣れていないのなら控えたという可能性もなくはないけれど、七人程度なら余裕のはず。


「……もしかして、ご存知ない?」


 確か、ハク様は元々は竜の血を受け継ぐ精霊だったはず。

 竜は元々神の配下であり、神が地上から去った後、地上の統治を任された存在である。

 そのために必要な技術として、転移魔法を教えはしたが、それは確か魔法陣に使われているものと同じ、魔力分解式転移法だったはず。

 ハク様は最初こそ転移魔法は使えませんでしたが、竜の子だということに気づき、封印を解かれたことでその力を思い出した。

 その時の転移法を未だに引きずっているのだとしたら、今回の結果にも納得できるかもしれない。


「これは、教えた方がいいんでしょうかね?」


 本来、私達天使は神の僕である。

 神のお世話をすることが仕事であり、神の言うことは絶対である。

 たとえ、その行いが間違っているとしてもそれを正そうとは思わないし、気づいていないことをわざわざ指摘することもしない。

 だから、そういう意味では別に教える必要は全くないのだけど、ハク様が曇り顔をすることはあまり好ましくない。

 他の神ならともかく、ハク様は元が精霊であり、現時点でも神の力を持ってはいるものの、神そのものではない。

 私は創造神様の命もあるし、一時的とはいえ神の座に至った人だから敬うけれど、だからと言って絶対的に仕えるべき相手かと言われたらそうではない。

 簡単に言えば、話しやすいのだ。

 気軽に話しかけられて、冗談も言えたりして、本音を話すことができる。

 もちろん、度が過ぎれば粛正対象だろうが、ハク様はその辺の感覚を曖昧にさせる。

 だからこそ、ちょっと指摘をするくらいいいんじゃないかと思えてしまうのだ。

 何も、ミスを突こうというわけではない。むしろ、困っていることを解決しようという話だ。ここで話しかけたところで文句を言う人はいないと思われる。


「……でも、一応創造神様にお伺いを立てましょうか」


 まあ、無視してもいいのだけど、やっぱり気になることだ。

 私は創造神様の命を完遂する必要がある。報告は義務だし、その過程でちょっとお伺いを立てることくらいは許されるだろう。

 創造神様自身も、ハク様のことはとても気にかけておられるようだし。

 そういうわけで、さっそく聞いてみたのだけど、簡単にお許しが出た。

 創造神様としても、そんなくだらないことで時間を無駄にするくらいだったら、ちょっと指摘するくらい問題ないと思っているらしい。

 確かに、ハク様があちらの世界に行っている間、こちらの世界では人にとってはそれなりに長い時間が経過することになる。

 私達の視点ならともかく、そのせいでハク様の周りにいる大切な人達との交流を妨げるのは望むところではないし、何よりハク様が不快な思いをすることは許しがたいことである。

 そういうわけで、私は早速ハク様の下に現れ、転移の旨を伝えることにした。


「そ、そんな手があったんですか……?」


 ハク様はとても驚いた様子であったけれど、実際に試してみて、できることを確認したようだ。

 失敗したら嫌だからと、再び転移魔法陣に乗ることはしなかったが、そもそもその転移魔法陣すら必要ないことを告げると、再び驚いておられた。

 表情が変わらないのに驚いているのがまた面白い。その仕草を見られただけでも、教えてよかったと思えるところである。

 これで、今後は時間の誤差を気にすることなく行き来することが可能だろう。

 まあ、そもそもの話、この世界とあちらの世界では元々時間の流れが違う部分はあるけれど、少なくともあちらの世界で長居することによってこちらの世界で時間が経ちすぎる、と行ったことはなくなるはずである。

 ハク様はしきりに礼を言っておられたが、そんな褒められることでもない。私は当然のことを言ったまでであって、むしろ、ハク様の気づきを奪ってしまったという見方もできる。

 たまに迂闊な天使がそんな理由でしっ責されたりすることもあるから、こうやって許してくれるだけで十分なのだ。

 私はそんなハク様の様子にほっこりとしながら、これからも精一杯観察を続けて行こうと心に誓った。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ちゃんと上に伺いも立てるし、弁えつつもしっかりアドバイスは入れてくるしごできさん良き。
[一言] ナイス天使!
[良い点] おぉ~このような方法で時差がなくなる方法が分かるとは 流石天使、ナイスアシストです [一言] ハクちゃんの配信が増える? 他にもやりたいことはあるだろうし、何はともあれ時差がなくなって良か…
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