第八十九話:リスナーの意見
とりあえず、実際にやるかどうかはリスナーさんにも聞いてみてからということで、保留になった。
まあ、もしやるとしたら、しばらくはそのゲーム一本になりそうだから話題性という意味で大丈夫か気になるところだけど、他のヴァーチャライバーも新作ゲームの初見実況とか普通にやることがあるらしいので、そういう意味では問題ないようだ。
ちょっと気になって動画を漁ってみたのだけど、確かに凄い。通常プレイではまず見ないような動きだったり、そんなルートがあったのかという発見だったり、それらが詳しく解説されながらするすると進んでいっていた。
単純にうまいプレイを見せるって言うのもいいかもしれないけど、確かにこういうのもスーパープレイとしてはありかもしれないね。
「皆さん、こんハクです。月夜ハクだよ」
(コメント)
・きたー!
・きちゃー!
・待ってた
・復帰一発目は何をするのか
・待ってたよー
途中、そう言えばお兄ちゃん達に夕食を作らなきゃと思い出し、マンションに出向いたら、ユーリが冷蔵庫に入っていた食材でちゃちゃっと作っていた、という事件もあったが、その後準備を整えて配信をスタートさせる。
一応告知はしていたが、以前とは比べ物にならないくらいの数が来ていてびっくりだ。
チャンネル登録者もかなり増えていて、5万人を超えようとしている。
一気に上がりすぎじゃないかな? 今もまだ伸びているし、それほど復帰配信が衝撃的だったのかな。
「今日はいただいた質問を返しながら、雑談していこうと思うよ」
(コメント)
・質問送った
・ハクちゃん今までどこ行ってたの?
・また異世界の話聞けるかな
私は、質問箱に届いていた質問を返していく。
基本的には、やはり私の復帰の経緯だ。
なぜいなくなったのか、なぜ今になって復帰したのか、そのあたりを気にしている人はたくさんいるらしく、多くの質問がそれ関係だった。
一応、昨日の復帰配信であらかた説明したが、この配信でも軽くおさらいしていくことにした。
「……ということがあって、戻ってくることができたんだよ」
(コメント)
・相変わらずしっかりしてる
・神力ってそんな簡単に手に入れられるものなの?
・話聞いてなかったのか? ハクちゃんはいっぱい努力したんだよ
・俺も神力取得したら魔法使えるようになるのかな
・お前じゃ無理だ
反応は色々。神力を取得したことで、魔法陣を動かすための魔力を供給しやすくなったのは事実だし、実際それを手に入れるために時間もかかった。
まあ、最後はちょっとした偶然で手に入れることになったけど、この発言に嘘はない。
もちろん、この世界からしたら、これこそが設定のように聞こえるだろう。だから、ちゃんとこちらの世界での設定である、親が海外に行ってー、って言うくだりもちゃんと話している。
それに触れる人も多いけど、基本的には異世界の方に合わせてくれる辺り、やっぱり空気が読める人が多いのかもしれないね。
「戻ってこれたとは言っても、まだ完全にフリーになったわけじゃなくて、色々忙しいから、配信は不定期になると思う。申し訳ないけど」
(コメント)
・ええんやで
・配信してくれるだけで神
・個人的にお兄さんとお姉さんがいるって言うのが気になる
・お兄ちゃん達は配信に出ますか?
「ああ、お兄ちゃんとお姉ちゃんね。配信にはでないかな。まだ日本語は勉強中だから、私ほど流暢に話せないしね」
(コメント)
・むしろハクちゃんが喋れすぎな気はする
・ハクちゃんは日本育ちなはずだから喋れるのは普通では?
・ってことはお兄さん達とは今まで離れて暮らしてたってことか?
・そうなるんじゃないか
・あれ、それだとハクちゃんの親って、ハクちゃんを一人で放って海外に帰っていったってことじゃ……
「あ、いや、そういうわけではないよ? 私が日本に残ったのは私の我儘だから、親は悪くないから」
一応、練った設定ではあったが、やっぱり穴はあるようで、一部の鋭いリスナーさん達からは疑問の声も上がっている。
まあ、嘘なんだから完璧な設定を作り上げるのは難しいし、仕方ないことだけどね。
私はこほんと一つ咳ばらいをし、聞こうと思っていたことを話すことにした。
「え、えっと、妖精の皆さんに聞きたいことがあるんだけど、今後どういう活動をしようかって話をお姉ちゃんとしてたんだけど、その中にRTAをやったらどうかって話が上がったんだよね」
(コメント)
・RTAとな
・ヴァーチャライバーで走ってる人は珍しいような
・ハクちゃんそんなのできるの?
「私も初めて知ったんだけど、お姉ちゃんは私のゲームスキルならいけるって言うんだよ。だから、もしできるんだったら手を出してみたいなと思ったんだけど、どう思う?」
(コメント)
・悪くはない
・ハクちゃんスマッシュなゲームではつよつよだけど、他のゲームではどうかなぁ
・RTAやるんだったらそれこそ年単位の時間が必要になるような
・極めてる人は人間やめてる精度してるしな
・たまに見るけど、難易度は高そうだよね
・俺はハクちゃんがやるものなら何でも見たい
・逆に考えろ、他の走者になかなか勝てなくて涙目になるハクちゃんが見れるかもしれないと
・ハクちゃんが無表情から変わるのを想像できないが
意見としては、肯定も否定も半々くらいだろうか。
私がやるものなら何でもいいって言う人もいるし、私のゲームスキルならRTAでも通用するのではないかと言ってくれている人もいる。
逆に、RTAはそんな甘い世界じゃないとか、極めるんだったら莫大な時間がかかるからやめた方がいいとか、慎重な意見もある。
まあ、確かにいくら動体視力が強化されるとは言っても、流石に始めて数時間程度じゃたかが知れているだろう。
完璧な操作や、ルートの把握ができていたとしても、それでもミスはあるだろうし、そういう時にリカバリーできる力がないとタイムは出せない。
もちろん、私はそこまで極めるつもりはない。配信のネタとして面白いのではないかと思っているだけであって、何も世界一位を目指そうだなんて考えてない。
でも、やっぱり見る人からしたら高みを目指して行って欲しいだろうし、中途半端は許されないだろうか。
もし仮に、一つのゲームでそこそこの順位が取れたとしよう。その順位に至るまでに数か月を要して、配信ではずっとその配信ばかりだったとする。
その時に、その結果に満足して別のゲームをやるのか、それとももっと上を目指してそのゲームを極めるのか、どうするべきか悩みそうというのもある。
恐らくだけど、リスナーさんの意見としては、どちらもありそうだ。そのゲームが好きならいいだろうけど、長く同じゲームをやっているだけじゃ飽きてくるかもしれないし、適度な遊びは必要になってくると思う。
そう考えると、ちょっと難しいのだろうか。私は無謀なことに挑戦しようとしている?
(コメント)
・とりあえず、一回やってみて考えたら?
「なるほど……うまく行くかもわからないし、試しに一つやってみるのも手かもね」
やりもせずに無理だと決めつけるのは良くない。何も100パーセント絶対に無理だというわけではないのだし、とりあえずやってみて、好評なら続ける、そうでないなら別のことを考えるでもいい気がする。
私はまだ始まったばかりのヴァーチャライバーだ。後に違う路線で行くことになったとしても、そう痛い遠回りにはならないだろう。
とりあえず、私は前向きに考えることにした。
感想ありがとうございます。




