第七十二話:服を買いに行く
その後、お昼を食べ、せっかくだからとお兄ちゃん達の服を買いに行くことにした。
本当は一夜だけついてくる予定だったのだけど、三人も一緒に行きたいと言うので、せっかくだから選んでもらうことに。
まあ、私は服のセンスはマジでないからね。若い三人に選んでもらえるならそれはそれでありなのかもしれない。
と言っても、お兄ちゃんもお姉ちゃんもすでに30歳を超えているし、若い人の服の趣味が合うかは知らないけど。
いや、大丈夫か。二人ともイケメン&美女だし。
「ねぇ、二人とも異世界の人ってことは、その服ってやっぱり冒険者みたいな感じなの?」
「そうですね。二人とも立派な冒険者です」
「あ、やっぱりそうなんだ。へぇ、これがリアル冒険者の格好かぁ……」
柳瀬さんはそう言ってまじまじとお兄ちゃんの方を見ている。
今は武器の類は全く身に着けていないとはいえ、ライトプレートは流石に珍しすぎるだろう。
この世界にも鎧はあるだろうが、日本で日常で目にすることなんで絶対ないだろうし、あるとしても、せいぜいコスプレの範囲だろう。
しかし、これはそんなコスプレとは違い、間違いなく本物で作られている。
しかも、質感や傷のつき方、年季の入り方などを見れば、より冒険者らしさを感じることもできる。ファンタジー好きな人からしたら、結構ありがたがられるものなのかもしれないね。
「こうしてみると、僕の勇者装備もまだまだなのかな?」
「そんなことはないと思いますが」
柳瀬さんは、ヴァーチャライバーとして登日アケミという勇者キャラを使っているが、その格好も冒険者と通じるものがある。
いや、あんな冒険者普通はいないだろうけど、創作の中の勇者っぽい格好と言えばわかるだろうか。ザ・勇者みたいなそんな恰好である。
まあ、格好はともかくとして、やはり極限的には絵だから、傷は全然ないし、服も新品のように綺麗に描かれている。
配信で喋るための立ち絵だから、汚い感じよりはやっぱり綺麗な方が受けはいいんだろう。
だけど、実際の冒険者はもっと泥臭く、汚れていることの方が多い。お兄ちゃんも、汚れてるって程じゃないけど、案外よく見るとボロボロなところは多いしね。
だから、その差を感じて、まだまだかなって思っているんだと思う。
別に、本当に戦っているわけではないのだし、あくまで設定上のものなんだから別にいいとは思うけどね。リスナーさん達も、それを望んでいるんだろうし。
「ハクちゃんから見て、アケミって強そうに見える?」
「うーん、強いというか、元気ですよね。戦いの動きを見たわけではないので何とも言えませんが、ぱっと見の印象だけなら、そんなに強くは見えないです」
「そっかぁ……まあ、そりゃそうか」
強く見せたいんだったら、もうちょっと年齢を高くした方がいいと思う。今の設定は現実と同じく18歳みたいだけど、いくらあちらの世界の成人は超えているとはいえ、威厳を感じさせるほどではない。
「でも、見た目は当てにしちゃだめですよ。可愛い見た目をして、実は強いなんて人たくさんいますからね」
「ハクちゃんみたいに?」
「……まあ、私も魔法は結構使えますし、いざとなれば竜の力もありますからね。侮っていると痛い目見るかもしれません」
「ふふ、かわい」
あんまり自分のことを強いと言わせないでほしい。
そりゃ確かに、私はそこら辺の人よりは強いだろう。魔法を全属性使える上に、普通の人には使えない空間魔法まで使えて、おまけに竜の力まで扱える。これで負けるならよっぽど戦闘のセンスがないだろう。
でも、それが事実だとしても、あんまり自分を強いとは言いたくない。フラグって、こういうところから立つ気がするしね。
少し頬を赤らめているのが面白かったのか、柳瀬さんどころか、他の二人も微笑ましいものを見るような目でこちらを見ている。
私は愛玩動物ではないんだけどな……まあ、拒絶されるよりはよっぽどましだけど。
「あ、着きましたね。どうします? 言ってもらえたら、それっぽい服選んできますけど」
「なるべく普通でお願いします」
「普通でいいのー? こんなイケメンなのに」
「普通でお願いしますっ!」
服屋に着いて、要望を聞かれたが、普通以外に答えようがない。
というか、今のお兄ちゃん達に普通じゃない服を着せてどうするのか。ただでさえ、存在が普通じゃないのに。
確かに、今は冒険者装備ということもあって浮いているっちゃ浮いている。でも、別に冒険者装備でなく、私のようにあちらの世界の私服で来たとしても、浮いていたのは確かだろう。
なにせ、二人とも顔がいい。老けるどころか、どちらかというと威厳が増して余計にかっこよく見えてきている気がする。
身長も高く、日本人からしたらそれだけでも多少浮く気がするのに、さらに顔がいいとくれば、注目されないはずがない。さらに言うなら、それが外国人で、見た目に似合わず辺りを見てはしゃいでいるとなればなおさら。
今だって、店員さんらしき人が小声でひそひそ話している。
内容を聞く限り、「あの人の相手してくる?」、「いや、私なんかが行ったら失礼じゃない?」、「そんなこと言ったら私だって失礼よ」、みたいな会話が繰り広げられているのがわかった。
顔がよすぎて、自分じゃ釣り合わないとか思ってるんだろうか。服屋の店員なんだから、そこは臆さず攻めてきてほしい。
まあ、今回は柳瀬さん達がいるから、服選びには困らないけども。
「まあ、注目されまくっても困りますしね。手遅れかもしれませんが」
「だろうね。ほら、これ見てよ」
そう言って、柳瀬さんはスマホを見せてくる。
どうやらSNSのページのようだが、そこには写真付きで、お兄ちゃんとお姉ちゃんのことが書かれていた。
コスプレしたイケメンとすれ違った、とか、クールビューティーがコスプレしてる、とか。
一応顔はモザイクされてるけど、こういう、他人の姿をSNSに上げるのは普通にマナー違反だと思うけど、これだけ目立ってたらそりゃ上げたくもなるかと思う。
この世界では探知魔法が使えないから尾行がいるかどうかはわからないけど、とっさに気配を探ってみれば、それっぽい人を感じ取れたので、尾行している人はいそうである。
これは、帰る時はちゃんと撒かないと住所を特定されかねないな。
「もしかしたら変装とかした方がいいかもね」
「サングラスにマスクって奴ですか?」
「それは不審者すぎるけど、まあどっちかくらいはつけてもいいんじゃないかな。それか帽子被るとか」
いずれにしても、顔はあまり見せない方がいいのかもしれない。
やれやれ、思った以上に大変である。
お兄ちゃん達を連れてきたことに後悔はないけど、今後は対策も考えて行かないとだね。
「じゃ、そこら辺を考慮して選んでこようか」
「任せてください。ばっちり選んできますから」
「ハクちゃんは先輩と待っててください」
「あ、はい」
そう言って、三人で服を選びに行ってしまった。
まあ、動き回って余計に注目を集めるよりはいいかもしれない。
私は一夜の方に目線を向けると、一夜は通路にあるベンチを指さした。
大人しく待っているとしようか。
私は、大量に置いてある服に興奮する二人を宥めつつ、ベンチに座って三人のことを待った。
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